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神無き世界勇者征く  作者: 香木
7/9

第四話 意外な因縁

随分、間が空きました。すいません。

 「おかぁさーん…」

 「あらっ、どうしたの」

 「お父さんに聞いたよ。赤ちゃんできたって」

 「うふふっそうよ。ここにあなたの弟か妹がいるの」

 母は自分のお腹を撫でながら言った。

 「慎太郎(しんたろう)は弟と妹、どちらがいい」

 優しい声音(こわね)心地(ここち)いい。僕は即座に答えた。

 「妹!」

 「そう…弟なら慎吾、女の子なら可奈って名前になるのよ」

 父と一緒に一生懸命に名前を決めていたのを知っている。

 「可奈…かぁ。早く産まれるといいな」

 僕は無邪気に妹の誕生を楽しみにしていた。でも…6ヵ月後…


 「ねぇ、お父さん。お母さんは?」

 夕方になっても、買い物に行ったまま帰らない母について父に尋ねた。

 「母さんは母さんはな…」

 涙を流しながら僕を抱きすくめる、父の姿に僕は不安を覚えた。


 あれから15年。

 ようやく、亡くなった母への想いに別れを告げ、父は親族のすすめで見合いをし、再婚した。

 それを機に僕は家を出、高校に程近いアパートに移り住んだ。

 義理の母は気を使うな、とは言ってくれたけど、少しくらいは新婚気分を味わってもらいたい。

 貯金をはたいて、半年間一人住まいをすることにした。


 僕の部屋の隣の大学生が美人で、毎朝の挨拶からの会話に充実感を感じていた僕は、いきなり殺された。


 ダイス神様から転生について説明を受けた僕は、この世界のミレニア王国の王子、アルフレッドとして生を受けた。

 両親と兄のガリウス、妹のシスティーナに囲まれ、王族としての義務を果たしながら、(すこ)やかに育った。

 変化があったといえば、僕が4歳の頃に許婚(いいなずけ)が決まったことかな。

 いささか早すぎるような気もするけど、王族や貴族の子弟は次代に引き継ぐ為に、幼い頃から許婚が決まることは良くあることらしい。

 ただ相手は【魔国】の魔王の直系で、封印された魔王を解き放つ能力を持つ姫君だった。

 当初は兄上に、との縁談が(すす)められた。

 しかし、国内の反魔族主義者と保守層の反対は根強かった。

 だが、魔国と事を構える気概(きがい)も当時の王国首脳陣にはなかった。

 困り果てた彼らは王位継承権第三位であった僕に白羽の矢を当てた。

 両国間で魔王復活阻止の為の人身御供として、姫君がミレイアに差し出された。

 兄上から聞いた裏話経由で知った。

 僕は大臣達から渡されたポートレートに描かれた肖像画を見て、陶然(とうぜん)となってしまった。

 だって、天使のような綺麗な子だったから。

 成人の儀式は満15歳を迎えると行うそうだが、10歳を迎えた時……兄上がクーデターを起(おこ

)した。

 僕は難を逃れる為、姉上の嫁ぎ先の公国へと身を寄せた。

 ミレニアを出て4年が過ぎた。ダムズさんのパーティーで冒険者としてすごす毎日。

 僕の許婚の姫君は今頃どうしているだろう?

 正式に婚約関係の継続や断りの返事も書かないまま、時間だけが過ぎた。


 そして、前世を思い出した。僕はアルフレッド。

 前世の名前は慎太郎、ダイス神によって転生させられた最後の【勇者】。


………………………………………………………………………………



 頭の後ろに柔らかい温もりを覚えながら、僕は眼を覚ました。

 視線の先には、僕を見下ろす女神様………じゃなかった詩織姫がいて、ええええええっ????


「あっ、目が覚めましたか。良かった…」

 詩織姫が安堵の息をつく。僕は今、姫の膝枕を堪能しているわけで………………幸せだ。

 っと、そうじゃない!僕は気恥ずかしさもあり、惜しみつつも体を起した。

 どうも、アイツに蹴り飛ばされ、当たり所が悪くて意識を失った僕を詩織姫が看病してくれたらしい。

 まさに女神!再度、惚れ直した~~~


「本当に…リョウ君ったら、私に男の人が近づくたびに『俺の嫁』って言うから、恥ずかしいです」

 詩織姫が手間のかかる困った弟を見る目で横を見る。

 彼女の視線を辿ると、たくさんの少女達に囲まれている少年がいる。

 あいつがリョウだな…蹴られたときに靴の裏を舐めさてくれた礼を、かえしてやりたいが、今は詩織姫との会話が最優先事項だ。

 それに………僕たちが楽しそうに(僕視点で)会話してるのをチラチラ見る様子が滑稽(こっけい)だ。

 僕は蹴られた腹いせに詩織姫と楽しく会話することで、ヤキモキさせてることにした。一石二鳥だ。

 でも、あいつと詩織姫ってどういう関係なんだろうか…今の僕よりは近しい関係であるとは分かる。

 何とももどかしい。あっ…もう2人加わった。

 今度は黒髪・黒目の日本人じゃなくて………

 そう、たくさんの女の子達は、今の僕から見たら日本人だと思えた。

 僕のスキルに【鑑定】が無いのが悔やまれる。

 ステータス確認が容易にできないなら、後で聞いてみるかな。

 懐かしくもある少女達を見て思った。

 合流したのは、翠髪でスタイル抜群なチャイナ服?

 美女と斥候職らしい身軽な服装をした美少女。

 何やらリョウに詰め寄り、日本人少女達を指差して()めているようだ。


「あの………あちらは揉めているようですけど…?」

「…まぁ、いつものことです。リリスさんに言わせると、お父上に浮気性なところが良く似ているそうで………」

 淡々とした物言いに僕は知らず知らず悪寒を感じていた。

 これが嫉妬故なのか親しい友人の性根(しょうね)が気に入らないか、のどちらかは僕では分かりかねた。

 僕が入る余地が有ることを神に祈るばかりだ。

 アルの頭の上でサイコロが1個回る、結果は1


「えっと…リリスさんていうのは?」

「あちらの長身の(かた)が、リリスさん。リョウのお姉さんです。

 もう一人は私の親友のミョニュニエル、私はミヨちゃんって呼んでます」

 ふ~~ん、あいつの姉貴に姫の御友人かぁ…あとでご挨拶しないとな。

 これから長い付き合いになるかも知れず、僕はそう思った。

 しかし、2人ともリョウって奴と距離感がゼロに近く、親密感がにじみ出るようだった。

 3人の様子には特に姫も反応しない、いつものことなんだろう。


 僕はいつもの(くせ)で、【気配察知】スキルでアチラ側を見てみた。

 かすかな抵抗感を感じた後は、スキル失敗のログが流れる。

 抵抗されるなんて冒険に出て初めての経験だった。

 当然のことながら【冒険者の証】のマップには、僕と仲間達の青点以外表示されない……

 アレ?詩織姫も表示されていないな。

 僕の様子に合点がいったのか、先に疑問に答えてくれた。


「アル様?不躾(ぶしつけ)ですけど、私達を何かのスキルで探られましたね?」

 不確かなことを(いぶか)しげに聞く詩織姫。

 その言葉尻から確信はもっているのだろう。僕は正直に()びた。

 彼女には誠実でいたいし、会って間もない他人をなんの断りもなく、スキルで探った僕が悪い。


「いえ、アル様は冒険者ですもの。会って間もない他人を警戒なされるのは当然な事。

                   ましてリョウ君にあんなことされた後では…」

 詩織姫は僕の侘びを良い方に解釈してくれたみたいだ。

 リョウとミヨさん(ミュニイ…舌噛()みそうだったんで頭の中では、こう変換しておく)が、僕の方を意味ありげに視線を向けてきていた。

 さっきまでと少し様子が違う。

 でも敵対心は感じられない、なんだろう?観察されているようで妙な気分だ。


 あちらは話が済んだのか、日本人少女達を残して3人がこちらにやってきた。

 そういえば、僕の仲間達はどこだ?周囲を見回してみると少し離れた所にいた。

 ダムズさんが頭を抱え、ザックがリリスさんに熱い視線を向けている。

 シャルに(すが)ろうとするエルが、足蹴りされていた。

 何、コレ?僕の仲間も混沌とした雰囲気だ。

 足蹴にされたエルが確実に喜んでいる気色の悪い笑顔を浮かべていた……

 これだからM男って奴は………

 僕はエルの醜態に呆れながら、シスを探すが仲間達の方にはいない。


 どこだろうと探すと、僕達に近づく人数が1人増えていた。

 リョウの後ろにシスがいて、彼の服の(すそ)を掴んで寄り()っていた。

 これぞ”恋する乙女”というような表情を浮かべ、リョウを見つめている。

 僕が気絶してる間に何があった?…………奴が何かしたのか?

 あの感情を表すことが苦手だった妹が変われば変わるものだ。

 兄として喜べばいいのか、それを(もたら)したアイツに礼を………いや礼はしない。

 決して、詩織姫に気にかけられている奴に嫉妬したわけじゃない…断じて…いや、多少はあるかな。



「君がアルフレッド君だね?私はこのリョウの姉でリリスという。

             愚弟(ぐてい)がすまないことをした。」

 リリスさんがリョウの頭を押さえつけて下げさせながら謝罪してきた。


「いえ、こちらのアルの不注意な行動にも原因があったのです。

       リリス殿下が謝罪するべき事案ではありません。」

 僕がリリスさんに応対しようとすると、横からザックがいつもの”ござる”発言もなしにリリスさんに話しかけていた。

 なんだ?その熱い視線は………

 地面に片膝を付け、姫君を仰ぎ見るようにリリスさんを見る態度は、いつもの彼らしくはない。


「しかし、ザック殿……リョウは私の弟。

 その行動には私が責任を持たなくてはならない。リョウの不始末は自分が………」

「リリス殿下に言葉をかけられるだけでアルには、過ぎたること。

 それに…当のアルも詩織殿の膝枕を堪能したようなので、謝罪などもったいない…」

 なんだろう、僕の頭越しにされる会話に、ザックのリリスさんへの好意が透けて見える。

 いかに紳士的行動にでるかで評価が決まる、とでもいうのだろうか?

 僕をほっといてザックが一方的にリリスさんを褒めちぎっりぱなしだ。


「………まぁ、なんだ。さっきはすまなかったあやまる。

 詩織に変な虫をつけない為にもいつも【俺の嫁】宣言してるんだ」

 二人が僕達をおいて会話を弾ませている間に、殊勝にもリョウ自身が頭を下げてきた。

 【俺の嫁】宣言もフリだけらしい。少し安心した。詩織姫は少し驚いた顔をしていた。


「謝罪がわりって意味もあるが…これをやる」

 リョウが差し出したのはICチップのようなもの、としかいえないものだった。

 この世界になんでこんなものがあるんだろう?


「これなに?」

 1セチ角のチップの表面には細かい漢字が彫り込まれ、かすかに魔力も感じる。

 魔道具の一種なのだろうか…


「気付いていないのか?…お前のステータスの【邪神の加護】を隠すパッチだ。

   【冒険者の証】に貼って隠したい項目をステータス上で選択すればいい」

 !?………【邪神の加護】?そんなものあったけ。

 僕は急ぎ自分のステータスを立上げ確認する。

 あった…【ダイス神の加護】か。


 確かにこの世界の歴史を紐解(ひもと)けば、ダイス神による天変地異でいくつもの文明が滅ぼされた。

 それを(もたら)したダイス神は邪神認定されている。

 僕にとってダイス神は、この世界に転生させてくれた恩神(おんじん)であるんだけど………

 皆から聞かされた人物像とじかに本人に接した僕からすると、違和感しかなんだよね。

 だから、どこかで(ねじ)れて(ゆが)んだ情報として伝わっただけ、だと信じたいんだけど、現状は邪神認定されている存在だ。

 その邪神の加護持ちっていうのはいささか不都合だろう………

 ってなんでこいつ、僕のステータス知ってるんだ?

 普通、【鑑定】スキルで見れるのは、名前、年齢、種族、Lv、スキルだけらしい。

 鍛冶師でもあるダムズさんは、鍛冶材料の目利きの過程で獲得していて、僕にそう教えてくれた。


「お前が先に俺達を探ったろ?お相子(あいこ)さ。

 それに………俺の役目もここで終わりなんでな…最後のフォローみたいなもんだ」

 【気配察知】スキルを使ったお返しに僕を【鑑定】した、ということらしい。

 彼のスキルレベルは高いのかもしれない。

 スキルレベルはあがると様々な副次効果を(もたら)す。

 だいたい10レベルごとに。


「リョウ君、アル様に”お前”って、少し失礼でしょう?

              それに役目が終わりってのは何?」

 僕に対する態度に顔をしかめた詩織姫が、リョウに苦言を漏らす。


「まぁ、すぐにわかるさ。じゃあ、アルって呼ぶよ……これでいいだろ詩織姫?」

「もぅ…リョウ君まで…恥ずかしいから普段通りにして…」

 僕のまねをしておどけた調子で続けたリョウに、詩織姫は不満らしく、彼を小突(こづ)いていた。

 ミヨさんが僕達を眺めてニヤニヤしている。


「冗談だ詩織……話は変わるんだが、アル。お前に折り入って頼みがある。

            リリ(ねえ)と詩織を連れて城に行って欲しい」

 急にあらたまって…なんだ?唐突な話の振られ方に僕は若干戸惑う。

 昔からの友達のように馴れ馴れしい態度も気に触る。


「ザック殿、その話はまた後でゆっくり聞こう。

 アル殿すまない、少し話がそれた………私達を城に案内してくれまいか?」

「それは(かま)いませんが…城になんの御用が?」

 姉上がいらっしゃるから、公王城には顔パスだ。

 詩織姫を姉上に紹介する上でも、同行者のリリスさんに理由を聞いておきたい。


「なに、この国には元々商会の代表として(おもむ)かねばならなかったのだ。

   申し送れた。私は【越後のちりめん問屋】の大番頭リリス。以後良しなに」

 あの大商会の大番頭…支店長とかそんな役職かな?

「俺はどら息子で放蕩息子(ほうとうむすこ)東雲(しののめ)涼平(りょうへい)丁稚(でっち)だ」

 リョウの紹介は内容がヒドイ。

 はて?………《しののめ》という姓を以前どこかで聞いたような気がするな。


 彼らがあの有名な【越後のちりめん問屋】の関係者だったとは、驚きだ。

 あの商会は大陸各地に店を(かま)え、主に鉱物資源と食料品の販売の販路を独占している。

 その反面、本店が東方の果て【倭の国】にあることは知られているものの、経営者については商会の誰に聞いても答えてくれなかった。

 各国の王家と直接契約を結んでいるようで、各国の支店が一種の大使館のような役割をしている。

 治外法権っていうか、普通の商人でも護衛として冒険者を雇う事はあるけども、かの商会は私兵を(かか)えている。

 私兵の装備は、金にものをいわせたのか、公国の騎士より格段に質のいい装備だった。

 それだけでも異常なことだが、僕が産まれる前からそうだったので不思議には思わなかった。


 でも、前世の記憶が戻った今なら別の見方ができる。

 【越後のちりめん問屋】ってアレのパクリだろう。

 某御隠居一行の例でいくと、リリスさんが御隠居で護衛の二人が、リョウとミヨさん。

 詩織姫はゲスト出演の某国の姫って役どころか。

 そうすると…いくぶん態度や仕草(しぐさ)に、指揮することに慣れていそうなリリスさんは王族。

 騎士階級の出のリョウとミヨさん。

 旅の道連れ、隣国の姫が詩織姫という流れかな。

 まぁ穿(うが)ちすぎた考えだな。

 この世界はやたらと転生者や召喚された人が多いみたいなので、創業者がどちらかである可能性も捨てきれないし…


「お話は分かりました。喜んで御案内いたしますが、何故(なぜ)、私を選ばれたんでしょうか?」

 城へ行くだけなら、彼らだけで街へ行き城門で衛兵に用件を言えば、【越後のちりめん問屋】程の商会なら、無碍(むげ)にもすまいに。

 会ったばかりの僕に重要な用件を何の気概もなく任される、というのは何とも妙な話だ。


「私はこう見えて人を見る眼はある、と自負している。

 君が誠実で信用の置ける人物である、と私は見ている。もう一つの理由は…」

「リリ(ねえ)…その後は城についてからのサプライズだ」

 リリスさんが言いかけたもう一つの理由が気にかかるが、僕は評価が高かったことが素直に嬉しかった。

 やはりリリスさんは、人の上に立つ資質もある人物のようだ。人をノセルのもうまい。


「リョウ、お前はあの娘達(こたち)を連れ、ギルドで冒険者登録を行うこと。

              私達はアル君に王城に案内してもらう、いいな?」


 リョウは冒険者登録の為、別行動になるらしい。

 素直に頷いた彼は日本人少女達を連れて、公都へ続く街道へと去っていった。

 僕の妹のシスを除いた仲間達は、リョウと共に公都に戻るそうだ。

 というのも、ザックがリリスさんに気に入られようと、リョウと共にギルドに行くことを表明し、リリスさんが勢いにのまれて了承したのだ。

 シスは王城の姉上に話があるそうだ。

 一言二言リョウと会話を交わし、名残(なごり)ありげな表情のまま僕の傍にいる。

 詩織姫もリョウが立ち去った方向を何ともなしに視線を向けていた。

 その手の中には、別れ際リョウから渡された指輪が握られている。

 彼らは商用の為に来たのであって、王城での用事を済ませれば合流する予定だそうだが……

 それにしては、リョウの詩織姫に対する態度は今生の別れ、みたいな雰囲気だったのが印象的だった。



「では、参ろうか……出でませ!シルバリオン!!」

 

 ビキッ、ビシッ…ビシッバキ、バキ…ガッシャン


 リリスさんが、やおら上空に向けて叫ぶと空が割れた!?

 まるで空という絵が破れ剥がれ落ちるようにひび割れの音がコダマすると、空間の裂け目という他ないところから、一隻の飛行艇が現れた。

 距離感が良く(つか)めないが、雲の位置からすると全長300メルはあるだろう。

 銀色に輝くアーモンド型をした優美な船だった。


「ようこそ、我が父が座乗せし、空中戦艦シルバリオンへ、私は君を歓迎する!」

 足元に翠の軌跡を描き魔法陣が現れ、一際(ひときわ)目を開けていられないほどの光を放射された。

 僕が(まぶ)しさで閉じてしまった(まぶた)を開くと、いかにも宇宙戦艦の艦橋を思わせる室内へと転移していた。

 僕には意味不明ながら何か男の浪漫(ろまん)を感じさせる、(ほの)かに光を発する無数の計器類とゲージ類。

 

「いざ…サイリス王城へ!」

 驚く僕と詩織姫を乗せシルバリオンは、公王都へと飛び立った。



………………………………………………………………………………


 と、思う程時間はかからなかった。

 行きをオーク討伐を依頼してきた村を経由し、情報を聞き出してから目撃証言のあった森へと出発した。 そこまで、4時間を要した行程が(わず)か1分だった。

 乗船時と同じような魔法陣が、僕達4人を包み込むのを感じた時には王城の正門前に立っていた。

 突然現れた僕達を唖然(あぜん)とした顔で見て固まっていた門兵。

 だが、事態をようやく飲み込めたのか警戒もあらわに、今更ながら槍先を僕達に向け誰何(すいか)してきた。

 

「貴様達!何者か?………ここを王城と知って………

     って、うん?アルフレッド様ではありませんか」

「やぁ、コリンズ。今日は君が早番かい?」

 槍先を向けてきた門兵は、旧知の兵のコリンズだった。

 兵達は基本2交代制をとっていて、早朝から夕暮れまでの早番と夕暮れから早朝までの遅番(おそばん)に分かれている。


「ええ、アルフレッド様は最近冒険ばかりで私の元に顔を出さない!

    ってエリザ様はご機嫌斜(きげんなな)めですがね…

      じゃなくくてですね、今どうやってここへ来たんです?」

 実際のところ、体験した自分自身でもうまく説明できない。

 元世界の知識からすると、今の世界では忘れ去られた【転移魔法】によって、と言える。

 まぁ一般兵であるコリンズに古の魔法の構成や(なん)やかやを説明するのは難しい。

 【皇魔帝】封印後1000年経った今では、レベル4以上の魔法は使用できない考えられて久しい。

 それらが復活したことが知れれば、(いたずら)に民衆に不安を振りまく結果になりかねない。

 なぜなら、それは封印が解かれ【皇魔帝】と【邪神ダイス】が世に戻ったことに他ならない。

 その辺の事情をリリスさん達に聞かねばならないが、まずは………


「それはまたの機会にしたい。

 姉上にアルフレッドが登城し、公王様にご挨拶に上がりたい旨を伝えてくれ」

「はっ!ただいま伝えさせていただきます。」

 さすがは兵士生活が長いだけでなく、僕の表情から何かを読み取ったのか、詰め所から数名の兵を呼び出し僕達の護衛を頼むと迅速に王城へ駆けて行った。


「…あ、あのアルフレッド様はこの国の王族の方だったのですか?」

 僕と同じように転移魔術に驚き固まっていた詩織姫が再起動の後、兵達の僕に対する態度と【エリザ】姉上の名前から、ここの王族と考えたのだろう。

 リリスさんは?と見ると平然としたまま、【にやり】と人の悪い顔で微笑み返してきた。

 やはり、この人もリョウ同様高レベルの【鑑定】スキル持ちらしい。

 戸惑っているのは詩織姫だけらしい。

 ああっ…これが奴の言っていたサプライズ、すぐに分かるってことか。

 ならば正式に詩織姫に名乗らせてもらおう。お(ぜん)たてしてくれた奴の為にもな。


「いえ自分は居候です。正式に名乗らせていただきます。

  僕はアルフレッド・ノルディ・ミレニア。

   ミレニア王国、王位継承権第3位で今は亡命王子です」

 詩織姫に対して、称号の【亡命王子】を揶揄(やゆ)って微笑んで自己紹介する。

 最初は戸惑いの表情を浮かべていた彼女は、徐々に神妙な顔色に変えた。


「そうですか、貴方がミレニア王国のアルフレッド王子だったのですね。

    だからリョウはあんなことを…私の気持ちも知らないであいつ…」

 今までに無い詩織姫の豹変(ひょうへん)に僕は驚く。

 こんな表情も綺麗で新たな彼女を知れて嬉しかった。


……………………………………………………………………………… 

 私が言った後半の言葉は声が小さかったこともあり、アルフレッド様には聞こえていないようだ。

 それにしても、リョウが旅が終わりだ、と言ったことに納得した。

 旅の始めは戸惑いと不安だったこともあった。

 リリスさんとミヨちゃんという同行者を得て、心強かった。

 でも…一番はリョウが傍にいてくれたから、それらを忘れることができた。

 クゥィニス様に導かれ封印を解いた場所に【皇魔帝】の身代わりとしていたリョウ。

 私と2つしか変わらないのに、いつもお兄さん(つら)して、世話を焼きたがる。

 時々間抜けで…こと戦闘になると天才的な行動が取れる、私が一番心を許せる男の子。

 彼から見放された、と思って少し腹が立った………でも、そうだったんだ。


 私は旅に出た目的の一つを思い出した。

 最初はそう……婚約の資格の無い自分の婚約解消の為に、ミレニア王国に向かうはずだった。

 でも、引っ込み思案で父の命令を遵守しようと躍起になって、気を張るばかりだった私を変えていった。


 いつもは強気で『詩織は俺の嫁』発言してくるリョウに対して、恥ずかしさもあって拒否する態度をとって冗談だと取り合わない(てい)をとっていた。

 本当は………嬉しかった。人違いだったとはいえ、私の初めてのキスをした相手。

 私の呪いを解いて、イビルの種に侵蝕されておかしくなっていた、父を助けてくれた男の子。

 これまでの旅の間にあった楽しいこと、つらかったこと、腹立たしかったこと、悲しかったこと、嬉しかったこと………色々、思い出せる。

 その中でリョウの存在感は、私の中で大きく占めるようになっていた。

 リョウも私同様に想ってくれている、って勝手に思っていた。

 さっきのリョウの(つら)そうな、何かを振り切るような表情を思い出す。

 リョウ自身は口で強がってはいても、本当は臆病なところがあるのを知っている。

 レイリアさんに養子にしてもらった恩がある彼は、彼女だけでなく母国の【魔国】に迷惑がかかるかもしれない行為はできないのだろう。

 自分の気持ちを殺せる、のも彼なのだ。

 私はリョウの頑固な面を嬉しくも思いながら…歯がゆくもあった。

 何もかも壊して…いっそ奪い取ってくれたらいいのに………かの【皇魔帝】のように。

 秩序を壊し魔族を今の姿に書き換えた、【魔国の勇者】様のように。

 これは私の勝手な願望。

 リョウが彼の息子であって【皇魔帝】自身ではない。

 理想を押し付けるのは私の本意ではない………

 私自身、押し付けられた役割を演じるリョウを見るのは嫌だ。

 でも…そうか、ここで旅は終わるんだ。

 なら私もアルフレッド様に正式に名乗ろう。

 これから進むにも選択するのもその先にある。

 私は一つ息を吸い込み居住まいを正すと、アルフレッド様の瞳を見つめた。

 私の真剣な表情に顔を赤らめる彼は可愛らしく思い、手を口元に寄せて微笑みを(こら)えた。


………………………………………………………………………………


「初めまして、アルフレッド様。私は魔国の巫女姫。

 詩織・メディウム・クゥィニスと申します………貴方(あなた)の婚約者です」

 彼女を好きになった理由がようやくわかった。

 僕は昔日のポートレートに描かれいた、彼女の肖像に恋焦がれていたのだ。

 成長した彼女にそれらを感じ、投影していたのだろう。

 理想の相手そのものだった。


 僕は自然と(ひざまず)き、彼女の手の甲に2度目のキスをした。

それなりにネタはあるのですが、まとまりにかけますね。

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