幕間1 少年Rの憂鬱
第三話でシャルが意識を失った後のお話です。
「へぇ~~おっさん達………いいスキル持ってるねぇ………俺にくれない?」
俺がそこに駆けつけた時、既に女の子達は剥かれてはいた。
ココ最近のいつもの風景で慣れたせいか、最悪一歩手前であられもない姿の少女達を見ても何とも思わない。
俺の持つ【乙女の危機一髪】ってスキル……最初、獲得したときは正直微妙なもんだと思った。
しかし、毎回こういう場面にギリギリ駆けつけられて、人助けとお礼を貰えてウハウハ、と中々いいスキルだ。
ただし、あの副作用がなければ言うことないんだが………
このスキルは乙女限定で危機一髪な場面に行ける、っていうものだ……まぁ未婚で生娘で、という制約はある
この国へ魔道特急で向かう途中、強烈な危機意識と共に【乙女の危機一髪】スキルが自動で発動した。
で、同行者が止めるのも聞かずに窓から飛び降り、飛行魔術と【縮地】スキルで目の前に浮かぶ、矢印を目印に向かってきたわけだ。
しかし………どういう状況だ?【敵性探査】スキルとマップ表示を信じるなら、計2万体ものオークの軍団じゃねぇか。
ユニーク……キング、クィーン、ビショップ、サモナー、ウィッチ。ノーマル多数、ゾンビ100余りとより取り見取りだな。
マップ上の黄点は6。目の前でオークに組み敷かれている二人と、ありゃ……けっこう離されてやがるな。
とても、6人で挑むクエストじゃねぇーよ。とりあえず、おっさん達のスキルもーらい!
俺は懐から取り出した糸玉に魔力を循環させ、【鋼糸使い】スキルで周囲のオーク共へ糸を張り巡らせる。
その一方で土系範囲攻撃【アース・ポットン】で、娘達を捕らえているオーク以外の足元に、直径200セチ深さ150セチの穴を即座に造った。
急激な視界の移り変わりについていけず、穴から奴らの混乱する叫びがこだまする。
それはそうだろう、必死に穴から這い出ようにも、其々(それぞれ)の首に巻きついた糸に締め付けられ、酸欠状態にされようとしているのだから。
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オーク×245 オーク長×26 オークゾンビ(フレッシュ)×38
【頑健】Lv.4 【絶倫】Lv.6 【毒の爪】Lv.4
【スタミナ】Lv.3 【統率】Lv.3 【病原菌】Lv.2
【悪食】Lv.4 【咆哮】Lv.3 【病気蔓延】Lv.3
【絶倫】Lv.3 【突撃】Lv.3 【痺れの視線】Lv.3
【槍術】Lv.2 【剣術】Lv.5
【頑健】…表皮の硬度が上がる【スタミナ】…疲れにくくなる【悪食】…生ものなら何でも消化
【絶倫】…繁殖活動に関わる回復力倍増【統率】…群れを指揮しやすくなる
【咆哮】…自分よりレベルが低い相手に状態異常効果(混乱・戦意喪失・弱体・気絶)
【毒の爪】…自分よりレベルが低い相手の生命力(HP)に毎分、-10Pの毒ダメージ。
【病原菌】…爪攻撃時、ウイルス塗布。
【病気蔓延】…スキル【病原菌】の範囲拡大版。一定範囲の相手にウイルス塗布。
【痺れの視線】…視線を合わせた相手を麻痺させる。
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300体のオーク達のスキルレベルの平均値である。
俺が伸ばした【鋼蜘蛛の糸】にのった魔力が、俺に奴らの情報を与えてくれる。
【鋼蜘蛛の糸】は文字通り、鋼蜘蛛という魔物の腹から取れる糸だ。
しなやかでよく曲がり、魔力を通せば思い通りに操ることができる。
まぁ、もっとも【魔力操作】と【鋼糸使い】のスキル持ちでないと、使えないんだけどね。
【糸】っていってるけど、太さは2ミリセチ(2ミリセンチ)ある。
【鋼蜘蛛】自体が体高250セチ・体長400セチ長の大きな蜘蛛だから、糸もそれなりに太い。
いやぁ、この世界の魔物っていうか動物もだけど、元世界の【地球】の生物と比べて大きさが半端なくデカイ。
倒すのも一苦労だ。まぁ、詩織とミヨ、リリ姉の3人が手伝ってくれたんで簡単に倒せたんだけども。
今はまだ、こちらに来ていない仲間達のことを思いながら、糸を操る。
さくっとスキル戴いてっと。おおっお良くね、コレ。うわぁ~~【絶倫】とか、まじハンパねぇわ。
糸を通じてスキルが、俺の仲に流れ込んでくる。
体内でっていうか俺の中で奪ったスキルが統合されて、レベルがどんどん上がる。
ログの『〇〇スキルのレベルが上がりました』が次々と流れていく。
20や30できかず、50台までレベルが上がった。300体近い魔物から奪っただけに上昇率が高い。
通常スキルは多く使う事でレベルを上げる。
俺はそんな努力無しに成果だけを吸い取る。
スキルを奪われた奴は、生物としての強みを失い弱体化する。
【頑健】スキルを失った今のオークは、初心者冒険者の剣技でも刃が通るだろう。
俺のいくつかの称号の一つ、【簒奪者】。こいつに含まれるチートスキル【スキル奪取】でとり放題だ。
このスキルは本来、自分の頭を相手の頭部に接触させて、相手のスキルを探り選択して奪う。
その過程でこちらが無防備になり、最初のうちは敵に攻撃されて、よく怪我をした。
詩織達がいなければ、俺はこの世にいないだろうね。
でも今は、【鋼蜘蛛の糸】で離れたところから攻撃できる。
先月、倒したキメラ・ゴーレムから奪った【並列思考】×3のスキルで、隙を作ることなくスキルを奪い放題。
魔力を乗せた【鋼蜘蛛の糸】を対象に伸ばし、直接触れることなくスキルを奪える。
正直、便利すぎて楽しすぎてしまう。
更にこう糸を引き寄せれば、おのずと魔物の命を刈れる。
俺が糸を引き戻すのに合わせて、オーク達の首が飛ぶ。
一気に300体程のオークの経験値が手に入りレベルが3つ上がった。
最近は、レベルが30台を越えた影響か、中々レベルが上がりにくくなっいただけに、何気においしいイベだった。
呆気にとられ足元がお留守になっている、おっさん達から娘達を回収し、手元に抱き寄せた。
(うわ~~柔らかくて温けー………猫娘は気絶しているが、少女は物怖じもせずに俺を見ていた。
正直、意外だ。助ける前の涙と失禁で恐怖に震えていた少女は見る影もなく、ただ俺を見上げている。
「もう、大丈夫だ。お兄さんが悪い奴を始末してやるから、おとなしく待ってるんだ」
俺はアイテムBOXにオーク達の死体を回収した。
【探知範囲】スキルのレベルが上がるにつれて、範囲がどんどん広がり、今では5キロ先まで把握できている。
俺が探知できた物体は、距離に関係なくアイテムBOXに収納可能になった。
どうも俺が持っている【神の胃袋】という神具が、アイテムBOXを取り込んだ影響らしく、仲間のアイテムBOXには無い機能らしい。
マップ上から大半の赤点が消えたが、ゾンビ化した奴は首を失っても動いているので消えない。地味にメンドイ。
俺は光魔法で【聖槍】を数十本つくり、【首無しゾンビオーク】に投擲。
【聖槍】が体に吸い込まれるように当たった奴は、ただの死体になり回収可能になる。
浄化できた順から回収し、戻ってきた糸を残りのオークに伸ばしスキルを奪う。
さっき【神美眼】スキルで、この300体の統率者らしいオークのおっさんのステータス見て気付いたんだけど、【邪眼】スキルのレベルが高い。
相当悪事を重ねてきたんだろう。【麻痺の邪眼】Lv.48は俺の中で眼系スキル最上位の【神美眼】に統合された。
レベルの経験値が高かったので【神美眼】Lv.23はLv.25になった。
このスキルで殆どの生物、物体、事象は説明付きで分かるようになるので便利だ。
ただ、神級スキルは中々レベルが上げれないんで今回の収穫には大満足だ。
スキルのレベルUPにホクホク笑顔の俺は、助け出した娘達に視線を落とす。
へぇ~システィーナちゃんが【司祭長】で【転生者】かぁ。
シャルちゃん………いや【シャルさん】は、【巫女戦士】でまたもや【転生者】だ。
この世界は【転生者】は多いみたいだけど、残りの4人も転生者だったりすののかね?
〇〇戦士っていうと、『私は悪を許さない!〇〇にかわってお仕置きよ!』っていうアニメを思い出した。
最終回見ずにコッチの世界に連れてこられたんだよなぁ………毎週欠かさず見てたのに…
システィーナちゃんは年下か。シャルさんは、俺より随分年上だ。
獣人でこの年齢って人間換算でどれくらいかな?
【神美眼】で二人のステータスを確認して名前や諸々の情報を得た。
発展途上の二人の体を見ても、俺の食指は反応を示さない。
少女は愛でるものであり、無闇に蹂躙すべきじゃないのだ。
その点でオーク達の所業は俺の癇に障る。
遠慮無しにスキルを奪える。まぁ魔物からは問答無用でスキル奪いますけどね。
この【スキル奪取】で無闇に相手のスキルを奪う行為を詩織とリリ姉が嫌うのだ。
ミヨ(仲間の斥候職の少女)はそれも実力のうち、って肯定してくれてるんだけど。
二人は『研鑽してレベルを上げてきた、その成果だけを努力も無しに奪う』という行為が、お気に召さないようだ。
だから相手が人族や獣人族などの亜人なら悪人はかまわないけど、普通の人からは『決闘』で相手に了承の上で奪う。
この時に相手に示す褒賞は、俺の仲間のうちから好みの相手を選ばせている。
一番人気はリリ姉。二番人気が意外にもロリ属性のミヨ。三番手が俺の嫁、詩織。
だって奴らはいつも仲間の少女達目当てで近づいてくるし、そのほうが相手も決闘に乗り気になりやすい。
そもそも俺が負けそうな相手は、リリ姉が決闘自体を許可しない。
………俺自身、詩織達を他人に好きなようにさせる気はサラサラない。
詩織は俺の嫁確定だし、ミヨとリリ姉は恋人候補だかんな。
俺の仲間はめちゃめちゃ美人揃いだ。
旅の間はよく注目されるので俺は気が気じゃない。
自分に自信が持てない。
俺の中の【奴】が潜む限り、俺は気が気じゃない。
いつ【奴】が俺を消して俺に成り代わるのか………って、あれ【奴】って誰だ?
いつの間にか具にもつかない妄想に囚われている。
そうそう、俺が3人の相手に相応しいのか?……って命題だったよな。
まぁ俺自身が3人に対してそう想っているだけで、了承されていないってのが、前提なんだがなぁ…
その三人で日々目の保養をしている俺が断言する!…
システィーナちゃんとシャルさんは将来、超美人になる。今でも美少女度が高い。
そんな二人のあられもない姿を鑑賞し、その温もりを感じられる今に俺は神に感謝した。
神様ありがとう!!
さ~て冗談はこれくらいにして、いい加減服を着せよう。何かあったかなぁ?
アイテムBOXがある空間に手を突っ込み、適当な布を引っ張り出す。
俺の頭の上では静かにサイコロが振られているだろう。
前に詩織に指摘されたんだが、天に身を任せようと考えているときに、俺には見えないんだが、サイコロが転がっているそうだ。
リョウの上のサイコロの目は、5と2で7。更に数字が足され13。
二人分の下着と衣装を思い浮かべながら、手に触れたものを引っ張り出す。
ペンダントが2個に魔血晶が散りばめられた、いかにも高級感ただよう魔術師用のローブと丈の長い着物だった。
「おーー何だか分からないけど、いいもん出たなぁ。どれどれ」
【神美眼】スキルで鑑定する。
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【魅惑のビスチェ】…首にかけ、魔血晶部分に魔力を籠めると魅力的なビスチェが、装着できる。
ビスチェを目にした異性に【魅了】Lv.5攻撃。
【宵闇のヴィヴロス】…装着者のMP+2000、DEF+1000、MATK+3000、MDEF+3000
6元素(光、闇、火、風、水、土)魔法吸収及び時々MP変換。
取得魔術に【詠唱破棄】【無詠唱】スキルを適用。
【疾風迅雷の衣】…装着者のHP+2000、ATK+3000、DEF1000、AGI+2000、DEX+2000
【盾装着不可】
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俺のくじ運ハンパネー………これ、いいもんすぎて逆に怖くなる。
こんなアイテムあげていいんだろうか………
逡巡するも、背に腹はかえられないし…
今後同じような状況になったとき、この娘達に必要な力になるだろう。
俺はリリ姉の着替えを手伝わされた経験を生かして、二人に衣装を着せた。
意識のあるシスティーナが嫌がるかな?と危惧した。
でも、【宵闇のヴィヴロス】を着せてやると微笑んでくれた。
可愛らしいは可愛らしいんだが、作られた笑みのようで気にかかった。
意識が無いシャルさんに【疾風迅雷の衣】を着せるのは苦労したもののミッションクリア。
二人に服を着せ終えると、ようやく状況を飲み込めただろうオークの残党が動き出した。
「て…て、て前は何モンだ?………お、お、俺の部下の首を一瞬で刈る、だと。何だお前は」
確か元邪眼持ちのオークだったけ。今は少しだけレベルが高いオーク・長とその他5体。
「どうせ死ぬ奴に名前聞かせても意味ないが、冥土の土産に聞かせてやろう!!」
俺は【威圧】と【咆哮】スキルを意識して使い名乗りを上げる。
「…俺の名は東雲・涼平………皇魔帝を継承する者だ!!」
俺の声を聞いたオーク達が、元邪眼持ち以外の5体が麻痺状態に陥る。
威圧に後ずさりして脂汗を垂れ流し、混乱状態になった元邪眼持ちオークの懐に【縮地】スキルで飛び込み、思いっ切り右足を奴の股間目掛けて振りぬいた。
足先に柔らかいものを潰す感触と、めり込む感触を最後に足が頭上に振り上げられた。
オークの前面は股間から頭部までの肉をこそぎ落とされ、赤身の肉から遅ればせに血が噴出す。
体の中央を消滅させられたオークが、前のめりに倒れ掛かるのを視界の外に、残りのオークに向け無詠唱の重力魔法を放つ。
5体のオークは頭上から押しつぶされ、大地に作られたクレータの底で血肉のミンチに姿を変えた。
「さすがにオーバー・キルすぎて…面白くねーな」
考えたとおりの展開に多少の落胆を覚え、システィーナとシャルに、振り返ろうと首をめぐらせた、俺の頭上に影が射した………
またか……つくづくお前は女難に好かれてるな?
馬鹿を言え!お前が全ての元凶だろうに………
深い、深い、心の奥底から奴が目覚め………俺の意識が沈む………
………………………………………………………………………………
うっんんんんっ?あれっ、俺…いつの間に寝たんだっけ?
確か…オーク共から救い出した、システィーナちゃんとシャルさんに振り返ろう、としたとこまでは思い出せる。
あれ?思い出せない………まぁ、よくあることなんだコレ。
【乙女の危機一髪】スキルを使った後は、決まって意識を失い、記憶も欠落した状態になる。
俺はあのスキルの副作用だと思っている。
そんで今の状況はというと…俺の周りからいい匂いがして、柔らかで温かかった。
体を起こそうとすると両手両腕が動かない。いや、少し力を入れれば動かせるようだ。
目を開け周囲を見渡す。
「うぉっ!?………何じゃコリャ????」
自分の周囲は黒髪の女の子で囲まれていた。
いい匂いは彼女達からしていて、自分にしがみついている女の子の体は、柔らかで温かかった。
知らない、会ったことも無い女の子達のはずなのに…
それなのに………自分の右腕を枕に眠っているのが、雫でその隣が亜佐美。
左腕を枕にしているのが、穂香でその隣が時雨。
俺の腹に頭を乗せうつぶせになっているのが、由美香。
右足は蓉子、左足は柚子葉が其々(それぞれ)の腿を枕に眠っている。
それだけではない。ココからは見えないが、彼女達の周囲も別の女の子達がいて、それぞれの名前がわかる。
会った事の無いはずなのに彼女達の笑顔、怒り顔、泣き顔等を思い出すことができた。
毎回がそうだというわけではなく、以前スキルで駆けつけゴブリンから救い出した、村娘なんかのケースだと…
助け出した後からの記憶がごっそり消えていた。気付いたのは深夜でどこかの家の部屋のベッドの上。
当然、俺の隣には村娘が同じベッドに寝ていた。どうしてだかベッドのシーツがぐっしょり湿っていた。
俺は詩織達に合流すべく、その場を立ち去り近くの小川で体を洗って仲間達の下にたどり着いた。
色々詮索されたが、助けた以外の記憶が無いので答えようが無く、話せるトコまで正直に答えた。
最近では呆れられたのか詩織とミヨとリリ姉にジト目で見られる始末だ。
俺の親父が親父だけに言い訳が、自分で聞いていても白々しい。
【気配察知】スキルが捉えた反応は41。同行者を除くと割りと多い。
記憶の整理がつきかねている彼に、鈴を鳴らすようないい声音で、棒読みな言葉がかけられた。
「ようやく目が覚めましたか。よかったですね。
モテモテで。ハーレムは男の浪漫なんでしょう…リョウ君」
涼やかな微笑を浮かべた美姫が、俺を見つめていた。
だが…目は笑っていない。いっそジト目といっていいだろう。
自分が一途に想い、【俺の嫁】だと公言している少女が静かな怒りを湛えていた。
「や、やぁ、詩織。いや………これは違うんだ。誤解なんだ」
自分で言うのもなんだが、どこが誤解でどこが違うというのだ?
完璧な浮気現場を見られた夫とは、こんな気分なんだろうか?
「へぇ~~~~そうなんですか。じゃあ、その娘達は誰なんです?」
一応、こちらの弁解は聞いてくれそうだが、その目は何を言っても信じないだろうな、と思わせるように冷たかった。
「彼女達は………」
どう答えるべきか考える。こんな時こそ、この間手に入れたスキル【並列思考】×3ので出番だろう。
同時に違うことを並んで行い考えたり、と有効性が高いスキル。
それが何と3倍。同時に6人が行動をするのと同じわけだ。
悲しいかなこの身は一つきり精精できることといえば………
敵と片手剣で戦いながら、もう片方の手で魔術を行使。
仲間と会話しながら、今日の夕飯何かな?と期待に胸を膨らませながら………
と言う具合だろうか。
それとも、魔術を行使しながら後5つの魔術を思考に載せておき、時間差をおかずに連続で叩き込むとか?
そんなことを考えていたので事態は最悪へと転がり始めていた。
リョウの中で6人のリョウが詩織の疑念を逸らし、如何にして信用を回復させるか?について話し合われようとしたが、時既に遅し………
「…ふわぁあああぁ。久しぶりによく寝たなぁ。あれ…リョウ?…昨日は私途中で果てちゃってごめんね」
少し離れたところで寝ていた静流が、目を覚ましリョウを見て意味深な言葉を仰られた。
その声が起動スイッチであったかのように、周りの女の子達が次々に起きだした。
「うふんんんっ………あ~~昨日は疲れた。あっリョウ君、昨日の熱い夜…私忘れませんから…」
「………責任とるって言ってくれた………」「お前を一生離さない……なんて大胆すぎますぅ」
「わたしぃ……違う世界への扉を開けられました…」「…旦那様って言っていい?」
「……まだ、お腹の中が温かいです、主様の…」「私はリョウの下僕」
「責任とって………じゃないと死ぬ」「男の子がいいですか?それとも女の子?」
色々ぶっちゃけてくれました。思い出せない記憶がもどかしいです。俺はいったい………
「待ってくれ、詩織!これは所謂なんなんだ!」
てんぱった俺は、わけのわからないことを叫んでしまう。
腕や足に纏わり付く女の子達をやさしく振り払う。
詩織の元に行こうとしたが、少女達に回り込まれてしまった。こいつら割とできる!!
「どうしたんですぅ………あんなに激しく私を求めてくれたのに…飽きちゃったんですか?」
濡れた目で俺を見上げる小百合。
少しかがんだので豊満な胸が、深い谷間を覗かせている。
これで彼女達が、あられもない姿なら言い逃れでなかっただろう。
幸いにも皆が皆、お揃いのワンピースを着ている。
しかし………アウトな点が明らかになりました。
みんな…その下は何も身に着けていませんでした。オワタ………
「私には関係ないことです。リョウ君に恋人がいたなんて、それもたくさん」
詩織は絶対零度もかくや、という冷めた視線で俺の純情ハートを抉る。
「違うんだ………俺は本当にお前を好きなんだ………信じてくれ………」
ここまで築き上げてきた、二人の間の信頼が音を立てて崩れていく。
詩織は顔を俯かせて震えている。
呆れ果てて言葉も出なくなり、怒りを抑えているのだろう。
俺はどうすればよかったんだ………
途方にくれた俺はひざまずいて大地に手をついた。
「さようなら、リョウ君。今までありがとう」
詩織が俺に背を向けて歩き出す。俺は詩織を呼び止める余力も無かった。
「………なーーーんて。冗談です。皆さんもありがとうございます」
顔を上げると詩織は心底楽しそうに笑っていた。えっ何?何なのコレ。
「ぷぷぷぷっ、リョウ君必死すぎーー」「私は止めたのだが…」
「今更、いい子ぶらないでよ、さーちゃん」
「惨めな男って見てるの楽しいーーー」「こんなリョウ君もいい…」
「お姉さんが本当に教えてあげようか?」
詩織に声をかけられた女の子達が、一斉にお芝居だったことを告げる。
「なんで…なんでこんなことをしたんだ、詩織」
「最近………リョウ君が調子に乗り過ぎてるから、懲らしめる為に皆さんに協力してもらったの」
悪びれず舌をチョロッと出して、イタズラ成功を喜ぶ詩織。
そんな顔も素敵だ、なんて思う俺も大概な奴だな。
詩織に協力していた女の子達は、親父の会社の新人達だそうだ。
リリ姉の元で実地訓練を受ける為に来たそうだ。
では、何故俺は彼女達のことを知っているんだ?会ったのは今日が初めてのはずなのに…
「リョウ君………お父さんからのメール読んでて、目を廻したんだよ?みんなの名前と”顔を覚えるんだ!”なんて息巻いてたけど…」
俺の困惑した顔から聞きたいことを察したのか、先に答えてくれた。けど、俺そんなこと言ったっけ?
指摘されたこともあるし、メニューを呼び出してメール着信を確かめる。
本当だ、親父からメールが来てやがる。
俺の親父は長らく放ったらかしにしていた息子を急に迎えに来た。
育児放棄を自覚して面倒見てくれるのか?という俺の淡い思いは打ち砕かれた。
自分に降りかかった厄災を俺に肩代わりさせて、トンズラしたのだ。
しかも自分は執事のシャドーを供にして、諸国漫遊の旅に出てしまった。
もう数ヶ月前になるだろうか?……俺は詩織と運命の出会いをした。あれが運命でなくて何なんだろう。
その後、親父の本妻のレイリアさんの養子に迎えられ、リリ姉の弟になった。
今は隠居した親父が立ち上げた、【越後のちりめん問屋】という会社がある。
そこの代表をレイリアさん。大番頭のリリ姉、秘書見習いの詩織と共に切り盛りしている。
この国へは元々、商用の為に立ち寄る予定だった。
俺はスキル【乙女の危機一髪】がビンビンに反応したので、飛行魔術や【縮地】スキルで駆けつけたのだ。
俺は親父の会社の【丁稚】として、詩織の護衛兼婚約者という立場にいる。
運命の出会いのあと、一方的な俺の想いにしぶしぶながら応えてくれた詩織。
そして、二人は旅の間に距離を縮めこれから………って息巻いていた時にこの始末だ。
俺は脇を締めて冷静に且つ速やかに判断できる男にならなければならない。
それなのに、綺麗な女の子達の色香に迷うなんて………
否、俺は正しい。
これだけの美少女達に囲まれておかしくならない、ってのは逆に彼女達に失礼だろう。
前向きな俺は、早くも立ち直った。
しかし、親父の奴…今まで姿眩ませていやがったのに何の用なんだか?………
《よう!息災か?我が愚息よ。俺も元気だ。このメールを読んでいるということは、無事娘さん達と合流できたのだろう。
彼女達の身の上は何とも可愛そうでなぁ………相談にのる傍ら色香に惑わされて、つい、な………さすがに、ヤリ逃げ
は外聞に悪い。で、だ、お前に次のミッションを与える。彼女達に力を貸すこと。レイリアやリリスに協力を仰ぐこと。
間違っても浮気をした、なんて正直に言うな!俺はいつも本気なんだ………》
その後は延々とレイリアさんに対する惚気が続く。
挙句には、自分は世界中の女性を救う為に旅をしているんだ…とか。
ふざけるのも大概にしろってんだ。
誰が愚息だ。自分の不始末をまた俺に押し付けやがって………
あんな綺麗なレイリアさんというものがいながら。
次から次と女性に手をつけ、隠し子ポコポコ量産………
これが浮気じゃあないっていうのだから、我が父ながら呆れる。
ま、まぁ俺の母さんとのことも本気だったんならいいんだけどな。
じゃなくて!!あの人を悲しませるのは本意じゃない。
本人の前では恥ずかしくて言えないけど、レイリアさんは俺の”お母さん”だからな。
「…今、メール確認した。あんた達のことは俺に任せろ。」
彼女達の顔写真に添えて簡単な経歴が書き込まれていた。
俺は資料の多さに目を廻し倒れたんだろう、そういうことだ。
全員が異世界からの召喚された人たちで、【勇者】称号持ち。
就職先を探していて俺の親父がレイリアさんの裁可を得ずに採用したそうだ。
まぁ、老舗とはいえ有用な人材は、のどから手が出るほど欲しいし。
そこは英断だったんだけどな。
手ー出しちゃうってどうよ?俺の立場、考えて欲しいよ。
ただでさえ親父のせいで俺、浮気性だと詩織達に思われてるようだし………
俺の苦悩をよそに、彼女達は詩織と供に俺が助けた2人の元で会話に花を咲かせていた。
俺と詩織のことをネタに盛り上がっているのか、近づけない雰囲気がプンプンしてくる。
さて、リリ姉とレイリアさんになんて話そうか………………
………………………………………………………………………………
俺がレイリアさんに親父からのメールの件を知らせると、彼女は突然泣き伏した。
俺達の仲間達の手首に魔術で直接埋め込んだ、最新式の【身分証明の証】という魔道具。まんまだな。
誰が名づけたか……『シャイターン』ともっぱら呼ばれている。
これは【魔国】の国民全てが出生時に義務として、施術されている魔道具だ。
埋め込まれた人物の特定や所在地、罪状、ステータス等の情報を常に政府が管理する為である。
もちろん、俺、リリ姉、詩織、ミヨ、レイリアさんも同じものを埋め込んでいるが、機能面では一般のものより優れている。
レイリアさんの特殊な出自と身分が、現【魔国】政府より上位の存在の為の優遇措置らしい。
自分達のステータスの隠蔽、遠い本国【魔国】との遠距離通話、財産(所持品)は今の政府は知ることはできない。
治外法権的な権力をレイリアさんは持っている。
その身内である自分達も同様だ。正直、助かる。
遠距離通話の機能は俺の元世界にもあった、WEBカメラ的な機能があって、どこにカメラ目線があるのか双方の上半身の姿を見ながら通信できるのだ。
現在の俺の姿、暗黒竜のハードレザーを着た姿がレイリアさんに送信されている。
反対にナイトドレスのような夜着を着た、リリ姉の姉のように若い色っぽいレイリアさんが画像がこちらに転送されてくる、って仕組みだ。
俺が親父のメール内容のレイリアさんを頼れ、って所のくだりを説明していると突然泣き伏した、ってわけだ。
「どうしたんだよ、レイリアさん。」
俺の不始末の報告には笑って応えてくれていた彼女も、さすがに親父の所業が悲しかったのだろうか?
『…いえ、ごめんなさい。悲しかったのではなく、嬉しかったの。あの方が私を頼りにしてくれる。使ってくれる、ってことが私の存在意義だから』
涙をぬぐい微笑を浮かべる彼女は、とても綺麗で見惚れる程だった。
でも、どんだけ親父は愛されているんだ?
多数の浮気をしているかも知れない女の子達の救済の片棒を担ぐのが、自分の存在意義だとまで言わせるほどなのか?
一種異様な傾倒ぶりを見せるレイリアさんの愛情の深さに、俺は恐怖した。
『シルバリオンの反応を確認したから、移送の扉経由で彼女達を送りなさい。一切の面倒は私が見るわ』
朗らかな笑みを見せる彼女は、心底惚れ込んだ親父の為に働くことを良しとした。
もう俺の出番は無い。いや、彼女達をこの国の公都で冒険者登録して、討伐した魔物の素材を買い取ってもらう、のが残っている。
「ありがとうございます。ところで、シルバリオンってなんですか?」
俺はレイリアさんに頭を下げ、聞きなれない【シルバリオン】について聞いた。
『上空に見えないかしら?貴方のお父様が座乗していた、空中要塞シルバリオン。魔国最強の空飛ぶ戦艦よ』
俺は頭上を見上げたが、暗い夜空に浮かぶ細切れの雲しか見えなかった。
案外小さいのか、雲の上の更に高空に姿を隠しているのだろうか?
「見えません」
『ふ~ん………亜空間に航行もできるから隠蔽されているのね。場所が場所だから今は隠しているほうが無難ね』
亜空間航行なんてSFがこの世界に存在していいのか?どんだけ【魔国】の魔工学は進んでるんだ………
『リリスに権限委譲されているみたいだから、この娘達について弁明した後にでもシルバリオンのことを聞けばいいわ』
この世界にかって存在した古代王国を遙に越えた、オーバーテクノロジーの扱いとしては適当だった。
はい、遅れてたどり着いたリリ姉とミヨに問い詰められ、絞られました。ぎゅーっとね。
二人はまたいつものか~って顔してましたけどね。
……………………………………………………………………………
そして、次の朝日が昇る頃。アル達一行を連れた崋山のグループが合流した。
シスとシャルの無事に安堵し、詩織を見て硬直したアルが、王族としての性なのか………詩織が差し出した手の甲にキスをした。
俺は王子様面しやがったアルフレッドにむかついて、詩織を奴の手から奪い返し、意識を刈り取ってやった。
詩織に更にお小言を貰ったが、俺がコイツにしてやれることは残り少ないことを知っている。
アルフレッドは詩織の………だからだ。言葉にしたくない、最初から分かっていたことだ。
旅に出たそもそもの目的であり、旅はいつか終わりが来るのだ。
俺が詩織と共にいられる時間は残り少ない。こんな小言もいつか…いい思い出に変わるのかもな。
「…聞いているんですか!?リョウ君…私…怒ってるんですからね!!真面目に聞きなさいっ!」
ああっ、こうして抓られるのもいい思い出に………って、痛い、痛い、痛い痛ってーーーーて!
「ま、まさか!!………リリス皇女殿下ではありませんか?!」
奴の仲間の一人。左腰に刀を佩いた新魔族の青年が、リリ姉の前で跪き仰ぎ見る。
姫君に相対する騎士のような姿勢だ。さっきアルフレッドの奴も詩織にしていたやつだな。
まぁ、どっちにしろ二人とも立場的には姫様なんだけど。
「こんなところで、お会いできるとは我が生涯に悔い無し。感無量です。私はザックバラン・鈴木」
「ほう、その名は皇魔帝様の分け御霊の直系であろう。いかにも、私はリリス・イブナ・東雲。奇遇であるな」
滂沱の涙で喜びを表す青年の姿勢に、沈着冷静な仮面が剥がれそうなリリ姉。
俺の元世界に多い姓【鈴木】【田中】【山口】【山田】なんてのが、偶に【魔国】人にいる。
その昔、俺の親父?【皇魔帝】が自分の分身体に姓名を名づけた時の名残らしい。
特に【木】などの植物由来の姓名を持つ者達は、その分身体の直系らしく……長い目で見れば俺の親戚とも言えるのかな?
「つかぬ事をお聞きしますが………今現在、決まった相手や将来を約束された方はいらっしゃいますか?」
「いや、まだいないな………それがどうしたのだ?」
「ならば、一手お相手願いませんでしょうか?レイリア閣下から許しも得ておりますれば…」
いつも欲望まみれの相手には割りとそっけないリリ姉も、真摯な眼差しを向けてくる相手は容易に袖にはできないらしい。
困ったような顔を俺に向けてくる。仕方ない…ここは愚弟としての役目を果たすかな?
「…お兄さん、リリ姉に挑むってことはアレだろ?……」
「?…リョウ、アレとは何だ?」
あああっもう…言いだしっぺが天然で度忘れ、ってしょうがねーな、とにっ。
「『私より強い者の嫁になる』って、昔言ってたやつだよ、覚えてねーの?」
「………ああっあれか。あれはしかし、お前が…」
俺に言われて思い出したのか、急にモジモジしだしたリリ姉は、顔を赤らめ俺の顔をうかがう。
何を赤くなって………あっ、そういえば、出会った当初にリリ姉に襲い掛かられて咄嗟に叩きのめした、のを覚えているのかな?
あれは、今ではノーカウントだろうに。俺達は家族になって姉弟の関係になった今はね。
ただ、まぁ頼られて悪い気はしない。しゃーない、お美しい姉上の困り顔も拝めたことだし、見極めさせてもらおかな?
「ああ、もう分かったから俺が何とかするから」
「……御仁は何者でござるか?某と姫とに関わり無くば、引っ込んでいてもらえまいか?」
おおおぅ、おうおう。一丁前に殺気を叩き込んでくるでないの、こんないたいけな少年に対して。
俺が割り込みをかけたのが気に入らなかったのか………いや、違うな。リリスが俺を見ているのが気に入らないのだろう。
「俺の名はリョウ・アミール・東雲。姉上の相手にあんたが相応しいか、見極めさせてもらう」
ザックに相対して静かに呼吸を整える、俺を出せ、とささやく奴の声を押さえ込み腰をひねり、抜き打ちの構えをとる。
奴からこちらの間合いを計らせないように得物を自身の体に隠し、半身になる。
ザックも気が抜けない相手だと認めてくれたようだ。むき出しの殺気を引っ込め闘気を全身に漲らせ、まるで炎を背負ってるが如く背景が歪んで見える。
「いざ…参る!」
ザックが先に駆け出し、俺に迫る。ああ、こいつは【縮地】のスキルかな。まぁ速いことは速いんだが…粗がありすぎるな。
瞬時に接近したザックが振り下ろす刀に、後出しじゃんけんのように俺の刀の刃先を合わせる。
並みの刀なら砕かれただろうが、俺のは特別製でね……幻の刃先なんだなコレ。
振り下ろした刀に合わさるように刃先を当ててきたリョウの技量に若干驚きはしたものの、卓越した膂力をもって押し切ろうとしたザックは思わずタタラを踏んだ。
てっきり衝撃が手元に返ると思っていただけに、刀はすり抜けて地面を叩いてしまった。
リョウの姿は正面には既に無く、自身の後ろに気配が生まれ、振り返り様に刀を叩き込もうと、思ったときには意識を刈り取られていた。
ザックにとって久方ぶりの完全な敗北だった。
「ふむ………こんなもんか。まだまだ精進足りねー気がするけど、迷いの無い太刀筋とか気に入ったよ」
この年齢でここまで達したのであれば、挑戦権はあげてもいいと思う。
「まぁ、その心意気に免じて姉上との勝負は許可しましょう。って聞いてませんね?」
倒れ付したザックに駆け寄る仲間達の姿を背にして、リリスの元へ向かう。
俺にだけ向ける笑顔を拝めるのは至福の時だ。
今はただ詩織との別れが寂しくはあるが、もう少し騒がしい時間をすごせる予感を感じた。
当初の主人公キャラと考えていた、俺TUEEEEE君です。
アル君に対してライバル的なポジと考えています。