補填2
第二話から蛇足部分移動しました。
第二話はもともと主人公【慎太郎】の転生から現状までの流れ、的な進行がやりたかたのですが、蛇足過ぎました。
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【魔族】について
魔族の人族領域への侵攻は、1万2千年前まで遡る。
人族より膂力に勝る魔族は瞬く間に大陸全土を席巻し、その脅威を遺憾なく周知させた。
幾度かの【邪神ダイス】による【試練】が、魔族の支配領域拡大阻止の遠因であった事は、邪神の邪神たる行いが人族を救うという皮肉だろうか。
この脅威に対して人族に限らず、獣人族・エルフ・ドワーフ等の亜人種族はそれぞれ結束し稚拙ながら国家を形成した。
人族が古代魔術文明国家【エンフィート】他数十国を形成し、エルフはハイエルフ族を王族とした【エルネラスト】を。
ドワーフ族は【石の王国】を首長国として、各地の鉱脈傍にある鉱山町を城塞都市として造り替え、魔族に対しての橋頭堡とした。
熾烈な攻防戦は以後、数千年にわたり繰り返された。
【エンフィート】が行った【召喚魔術】によって、異界より魔獣を召喚し使役、または勇者を召喚して対抗し魔族を大陸北へと押し戻した。
今では魔族について、あやふやな伝説が残るのみ。各王家で伝わる口伝や街中で流れる【吟遊詩人】が奏でる唄にしかいない。
伝説上の未知の種族だったが、最近は街中でたまにその末裔の【新魔族】の方々は見かけるけどね。
魔族を束ね統率する存在が【魔王】。
その【魔王】を打ち倒し魔族を支配下に置き、新たな【魔王】として君臨し【魔国】を建国したのが、【皇魔帝】。
件の【魔王の壁】は彼が、【神】から盗み出した秘術【神術】により、《無詠唱で一瞬のうちに創り上げた》という。
魔族の一般的な種族的特徴は、身の丈は3メドと人族の身長(普通の成人男性が160セチから200セチの間ぐらい)をゆうに超す。
青黒く筋骨隆々の肉体を有し剣や斧・鈍器等あらゆる武器に精通し、その膂力は岩をも砕き肉体は頑強で、【聖剣】や【魔剣】などの魔力を帯びた武器しか傷を付けられなかったらしい。
攻撃は武器攻撃+肉体の膂力による物理攻撃に特化したのが【戦士タイプ】で、魔法攻撃は余りしない。
次に滅多にいないのが【魔術師タイプ】。伝説では前【魔王】に常に付き従い、参謀として手腕を振るっていたいた一体が有名だ。
その魔術は、山を砕き河を干上がらせ、荒地を凍土にしたという。身長は人族成人並。
ローブ姿で顔は窺い知れず、魔法を行使するための魔杖を握る手は、以外にも浅黒い肌の人族のそれであった。
そして、魔族を率いる魔族の頂点たる、前【魔王】は、身の丈6メドの戦士タイプ。
身の丈の倍を超える両刃の斧を振り回し、一度に数百人をその魔力を帯びた両刃斧から伸びる斬撃で殲滅したという。
魔族の配下には魔物が多数付き従っていた。
矮小なる小人140メド前後の【ゴブリン】をはじめ、特に女性の天敵で人間大の二足歩行する猪系魔物【オーク】。
驚異的な膂力を誇る腕力自慢の巨体3メドの【オーガ】、一つ目の単眼の巨人で4メドの【サイクロプス】他様々な魔物達。
それらが数十万の大軍で押し寄せる様は、想像するだけで恐ろしい侵攻だとわかるだろう。
そして後方に控えるは、全身を漆黒の煌く鱗で覆われた、地上最大最強の生物種【ドラゴン】。
人族の背丈を越える牙が剣山のごとく口角、100メドを越える巨体と小振り(こぶり)ながら、鋭利な刃物を思わせる鉤爪備えた腕。
その鉤爪は、オリハルコンの鎧さえ切り裂いたという。それが10匹以上。
人族はよくも今まで絶滅しなかったものだ。これらを相手に数千年戦い続ける………気が遠くなる話だ。
【ドラゴン】種は【大崩壊】以後、壁よりこちら側では1頭も発見されていない。今は絶滅したと思われている。
そう、これらの伝説は、魔王封印のずっと昔…魔術文明国家【エンフィート】の栄華の忘れ形見、遺跡で時々見つかる壁画に、まるで見てきたかのように事細かに刻まれている。
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【召喚魔法】のリスク
【召喚魔術】は【神】が管理する時空間に、無理やり穴を開け異界との道を作り出し、その世界の生物を半ば強引に意思の了承も無く引きずり込む術式だ。
【邪神ダイス】が自身とともに【魔王】封印中にも関わらず、【召喚魔術】が実行可能だったことから推察すると、時空を管理する【神】と【邪神ダイス】は別存在であると思われる。
成功を成した国には【勇者】称号が付与された若者たちが召喚され、失敗した国には恐ろしい存在が降臨した。
【時空管理代行者】で【チックタック】と名乗る【超越者】。
自身を主である【神】から時空管理を任された管理者である、と宣言した。
その巨大な威圧感は召喚場所にいた、全ての者を跪かせ、顔を上げることをゆるさなかった。
かの存在は【神】に断りも無く無断で時空に穴を穿った責任を取らせる為に、召喚者とそれを命じた王族に命を差し出すよう命じた。
これを拒絶した者達は等しく、破壊魔術によって王城もろとも壊滅された。
ただ一人自らの命を差し出した【アステカ王】は慈悲を与えられた。
大国からの威圧に屈っして生贄にした【アステカ王】は、奴隷100人とともに【蘇生魔術】により蘇らせられた。
命を取り戻した【アステカ王】は自身の行為を猛省し、100人の奴隷を即時解放のうえ自国の兵として採用した。
以後、自国の繁栄に奔走したという。その治世で善政を布いた【アステカ王】を人々は【知王】【賢王】と讃えた、という伝承を基にした唄である。
この唄にあるように、下手を打つと【チックタック】なる超越者がでてきてしまう危険性が、【召喚魔法】にあること。
【創造神】が、【チックタック】の従う【主神】であり、所詮ダイスは【邪神】で格下の存在であった、と思われる。
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【魔道鉄道】について
半永久的に周囲のマナを吸収し、【状態固定】の魔法が永続付与されている【軌道】を走る無人運行の【魔道鉄道】。
この【魔道鉄道】の線路上を走る【弾丸特急】は、【エンフィート】が無くなった今でも大陸全土を繋ぐ、交通の要である。
長さ20メド高さ4メド幅3メドの【機関車】という、勇者達の故郷にある牽引車に似た車両がひく高さと幅が3メドで長さが40メドある客車20両を擁する【特急列車】。
同様の牽引車にひかれた高さ幅ともに4メド長さ50メドの箱型貨物車を擁した【貨物列車】の2種が確認され、それぞれ1日20便が大陸各地で運行されている。
各国は【魔道鉄道】の直近500メドを不可侵領域と定め、自国の経済再建に大いに活用してきた。
自然災害などで倒木や土砂崩れ等で【軌道】が、通行不能になると無人で運行されている【弾丸特急】は、どういう判断システムなのか事故地域を避け、安全に運行できるルートを選び走る仕様だ。
その為、各国は自国の総力を挙げ【軌道】上の障害を取り除いて利用していた。
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【連合国軍の誤算】と勇者達の戦い
勇者達は数人単位でパーティーを組み、【魔王の壁】攻略に挑んだ。
しかし、彼等の内女性だけが未帰還となる。
ボロボロになり命からがら帰還した、生き残りの男勇者達の供述を総合すると、彼らは30キロメド侵攻したところで【魔王の影】という魔族に遭遇した。
ユニークスキルを駆使して、勇者達はこの魔族に対抗した。しかし、一方的に蹂躙され女勇者達はことごとく異空間へ幽閉された。
女勇者達の存在が消えるとすぐ【魔王の影】も姿を消し、生き残った勇者達は戦力激減で作戦続行不可能と判断し撤退した。
この事実は連合国軍参謀陣が、緘口令を布いたにも関わらず、全軍兵に伝播してしまった。
戦意高揚どころか戦線離脱する国が、出始めたのは仕方の無い事態である。
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【第1次魔法王国奪還作戦】顛末
勇者敗北から一週間が経ち、連合国軍内に不和の兆しが見え始めた頃、緩衝地帯半ばの森林上空に【立体映像】としか思えない女性像が映し出された。
これまで伝承や遺跡の壁画等で伝えられていた魔族の印象とは程遠く、一種の神が作り出した芸術品がそこにいた。
魔族の象徴たる雄牛や羊のような角は無く、背中に流した翠の髪と透けるように白い肌。
首元から足先まで隠す赤い生地に金や銀など様々な糸で、剣に絡む龍とドラゴンが刺繍された長衣に身を包み、スイカを入れているかのよう爆乳が胸元で主張している。
左腰に入った切れ目から健康的な太ももが覗き、ほのかな色気も感じられた。
儚さの中に憂いがある、少女から女性へと変化している途上にも、見える美女だった。
《私は【皇魔帝】直属【近衛軍】元帥及び【魔国】軍最高顧問、レイリア・ザウジャ・東雲。》
この時、召喚された残りの勇者の中にいた数人が、レイリアの名前の【ザウジャ】という単語に反応する。
アラビア語で【妻】をあらわす言葉で、そういう意味からすると【東雲の妻、レイリア】と読める。
《この度は遠路遥々(はるばる)【魔国】にお越しいただき、真にありがとうございます》
ほのかな笑みをたたえた美女に、皆息を忘れたように見惚れ、中には嘆息をつくものもいた。
《しかしながら、わが国に宣戦布告後、すぐに降伏させ併呑した【ミレニア魔法王国】の帰属に関しては、承るわけにもいけません。》
眦を上げ、毅然とした態度で挑むレイリア。
《併呑から300年は悠に経ち、世代交代をしたかの地の者達の総意は、帰属を求めておりません。》
《ましてや300年間も我が国の領土となっておりますので、占有権が発生し名実共にわが国領土です。》
《不当な申し出に屈し我が国民を放逐するなど、もってのほかです》
彼女から魔法王国領土の返還を蹴られた事に参謀本部に詰めた、各国代表の将軍達はぐうの音も出なかった。
彼らの所属国の国法や戦時協定にも『100年占有した土地は、返すにあたわず』と記述されている、からである。
《我が国首脳部より、私は此度の件を託されました。野蛮人のごとき行いを平然と正当化する、そちらにどう対処すべきか………》
それまで、【魔王の壁】に篭り、【魔王の影】という例外を除き、これといった対抗策をとってこなかった魔族側がどういう出方をするのか?
皆一葉に固唾を呑んで拝聴していた。
《貴方方が後方だと思っている、ロモス及びロモーク他小国本土を即時殲滅する事は、今の我々には容易いことです》
殊更、語彙を強めることなく淡々と述べるレイリアに、全軍兵は言い知れない恐怖を感じていた。
これをハッタリだ、強がりだと断言するには【魔王の壁】にすら到達できなかった。勇者の多くを失い戦力を激減させた自分達の現況はどうだ。
事実、【魔国】軍は姿も見せない。こちらがいたずらに消耗するばかりであった。
《しかしながら、我々【魔国民】は皆様を殺生する事を好みません。同じ【主】より産まれ出でた同胞ではないですか?》
《共に歩み存在することはできないでしょうか》
魔族側からの共存要請に各国首脳は動揺した。
そう、彼女の映像は戦場を遠く離れた、彼ら連合国軍兵の母国の王城は謁見の間に集う王族達及び家臣達の目の前にも出現していた。
《この提案を受け入れていただけるのなら、此度の件は何も無かったと水に流し、共に歩む道を模索していきましょう。しかし……》
録に戦端も開かぬうちからの講和条件の提示に、本国の軍閥は自分達を軽く見る魔族を軽蔑する者もいた。
彼らが魔族と直接対決をしていないが為の無知ととるべきか、虚栄心が為すことだろうか。
《素直に兵を退いていただけないようでしたら、こちらもそれなりの策を講じる用意があります。》
興が乗りすぎていたのか、彼女は失言を漏らし、調子を狂わせてしまった。
《今は亡き……じゃ無かった!ゴホン、うんんっ。失礼しました》
それまでクールビューティーだった仮面が、外れた素顔はある意味可愛らしい性格なのかもしれない、と一部の将兵は思った。
《あれっ、どこいったかなぁ……あったあったコレコレ。えっ、まだマイク入ってるって………あっあああああ、私ったらもう!!》
レイリアが巨乳を越え爆乳とさえいっていい胸を適度に揺らした。巨乳スキーな将兵の視線も揺れ動いた。
懐に手をいれ何かを探すそぶりを見せた後、後ろに振り返って誰かと会話したレイリアは、恥じ入ったのか顔をはじめ耳まで赤くした。
《もういっか……立場的には不味いんだけど、言い難いからやめるね。》
ひらきなおったのか、しゃべり方が少女を思わせるものに変わり、しぐさも年相応の10代に見える。
《こんな時の為に私の旦那様が残してくれた【非殺生儀式魔法】を使っちゃうね。名前は【日照り】っていいます。》
【日照り作戦】???????聞いたことも無い儀式魔法の名前だった。
【大崩壊】後はLv.4までの魔法しか発動しなくなっている。しかし、それ以下の魔法が果たして大国に通用するものか?人々は当惑した。
《皆さんよく協議して英断してくださいね?私の旦那様は【皇魔帝】っていいます。》
えっ!?いま何ったのあんた。
《性格悪いから死なないけど発動後の結果はヒドイと思うので、撤退をしてください、お願いします。提供は皇魔帝の妻の・レ・イ・リ・ア・でした》
ブッッッッッーーーーーーー将兵のほとんどが、思わず噴出してしまった。
可愛らしいしぐさにのほほんとしていた兵達は、【皇魔帝の妻】という単語に目を白黒させた。10代の容姿でウン千歳。
ほうぼうで彼女の見かけの年齢と実年齢について、熱い討論会が開かれたとか開かれていなかったとか………
彼女が可愛らしく皆に手を振って姿を消すと、各国首脳部及び連合本部の各将軍宛の手紙が、頭上より舞い落ちた。
期限は今から48時間後、それをあらわす様にレイリアの消えた場所に48:00:00と表示され、時を追うごとに減少していく。47:58:26………………
古代魔術文明時代に考案された【数字】を使った【時計】の表示板と同様のものだと、連合国軍兵士の少なくないものが気付き全軍に伝播されていく。
意思表明は期限切れ時の思考を上空にある、【えいせい】という【皇魔帝】が残した魔道具が集計を行う。
提案を拒否した勢力の属する国土に対して、【儀式魔法】を発動させる。
名目は【戦後賠償分の資源や資産を回収】すること、とも手紙に書いてあった。
各国首脳は冷静な判断と現状、伝説の【皇魔帝】の力を鑑みて協議をめぐらし、決断した。
最終的に彼女からの提案と言う名の降伏勧告を【ロブス帝国】と【ロモーク王国】の二国は蹴った。
各国の兵の足元に【強制転移魔法陣】が大量に出現し発動、緩衝地帯から連合国軍将兵を本国へと送り届けた。
この魔法発動技術が自分達に到底為しえないものだと感づいた者たちは、大いに自らの判断に安堵したものと、怯え戸惑い右往左往した者達に分かれた。
後者の二国がとった決断は、大国としての意地か、旗頭としての矜持か、今となってはわからない。
【非殺傷儀式魔法】は時をおかず発動された。二国を文字通り地図上から消滅した。
国境線を接していた各国が二国があったであろう場所にたどり着くと、そこには500メルドはあるだろう深い穴がぽっかりと空いていた。
その結果に恐怖し日和見で趨勢を見届けていた国々も悉く、【魔国】に対して講和の為の調印に使者を送り出した。
こうして、【第一次魔法王国奪還戦役】は、連合国側の被害多数で終了した。
余談ながら【魔国】と秘密裏に協定を結んだ各国は、【越後のちりめん問屋】経由で動植物の資材や資源を手に入れることができるようになり、資源枯渇問題はゆるやかに終結した。
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アルの故郷で何があったのかを伝えたかったのですが、1000年とんだ間の出来事も思いついて書いてみたら、意外と長かったので補填へまわしました。
まぁ、1000年の間に何かがあった話です。