第一話 始まりの間、誰が為に鐘は鳴る。
人生二度目の投稿です。前作は二次創作モノで別の投稿ネームです。楽しんでもらえたら幸いです。
10月12日修正…設定長すぎました。補填作品として除きます。
主は言われた。
《お前達に永久なる平穏の地と、安らかなる御霊の器を与えよう。
さすれば契約の証として……汝らの宝を差し出せ》
と、我らは戸惑い混乱の局地へと落とされた。
いつ終るとも知れない旅路の果て、疲れ果てた同胞達は藁をも掴む思いで希望に縋りついたというのに………
長きに渡る放浪生活が同胞達を疲弊させ、僅かな希望が見えただけでも縋らずにいられなかった。
それ故に皆の気持ちを慮るばかりに、我が王が親心を殺した。
自らの宝玉であり我ら皆の至宝である【姫】を躊躇わずに主の許へ向かわせるのを誰も止められなかった。
………姫を贄として差出し平穏を得たことに慙愧の思いが色濃い。
咽び泣く者達が多い中、【姫】が最後に我らに向けられた笑顔が今でも頭から離れず、【姫】の分まで生きようと決意を新たにする者達もまたいた。
我らは無力だ。種族の滅びを回避する術を自分たちの力で為し得なかったばかりか、年端もいかぬ幼き【姫】を偉大なる方とはいえ、主の【玩具】として生贄にした。
だが失意の底にあった我らに救いの手が再び差し出された。
《契約は成された。………ただ、お前達の献身的な行いに報うのも吝かではない》
主は我らに【課題】を科し、その成果によって我らの【姫】を御戻しいただける、と約束された。
我らは歓喜し、主の与えたもう課題に日夜取り込み、成果を示し続けた。
あれから、十数万年が経過した。
安住の地を得た我らは世代を重ね、それに伴い主から与えられた【課題】の実現の難解さから投げ出す者が続出した。
【課題】に取り組むものは我を含め少数に留まり、主からの応えも2万年前を境として途絶えた……
…………………………………………………………………………………………
(ここ、どこだろう?)
慎太郎が意識を取り戻すと、周囲は白い空間で自身がそこに浮かんでいる、と感じた。
何もかもが曖昧でソレでいて意識だけが鋭敏。
でも身体と神経が接続していない矛盾。
ただ不安がつのる…焦燥感も加速度的に増す。
足元は写真でしか見たことが無い雲海に似ていて、思わず踏みしめてみたいと思った。
モコモコした白い塊が、視界いっぱいに広がっている。
雲の切れ目のようなところから、更に下があることが分かり尚更不安感が増す。
自身の視力はぼやけていて曖昧で不確かなものなのに、なぜかそう感じた。
遠近感が狂う高さだ。本当に雲海の上にいる。いや雲海だと【意識】している。
『ふぉっふぉっふお……よくぞ参った。いい眺めじゃろ?ここは』
自分の背後から【声】が聞こえた。振り返ると……場当たり的だが【これぞ神様】というコスプレをした老人がいた。
床である雲海の上に浮かび、ギリシア彫刻でお馴染みのトーガを華奢な、見るからに不健康そうで貧相な肉体に巻きつけている。
老人特有の脱色しきった白髪をぞんざいに胸元まで垂らし、足先に触れるほど長い白い顎鬚を撫で付け、佇む老人。
直接頭の中に届く【声】に違わず、温和な表情を浮かべ僕を見つめている。
今更ながら自分がどういう状態なのか気になった。視線を下げると雲海には影すらなく。
雲海の元の雲自体が相当離れているのは明白で、自身の影自体認識できる高さではない。
更に………うすうす気付いてはいた。でも極力そのことを考えるのを放棄していた。
自分が影すら存在しない意識だけの【精神体】や【魂】だとすれば影などそもそも無い、現実を。
『ふむ……今の自分がどんな状態か認識できたようじゃな』
(僕はどうしたんでしょうか?それにここはどこであなたは誰ですか?)
矢継ぎ早に質問だけを発し、周囲を見回した。
まず、足元の雲海に視線を下ろし徐々に遠くに視線をとばす。
すると自分の周り全てが雲海のモコモコで覆われた、球体の内側にいるようだ。
それにしても不思議だ…特に光源らしきものは見当たらないのに周囲は明るく、雲に様々な陰影が映し出されている。
『ここはわしが管理している世界【ハコニワ】の地上の者たちが【雲海宮殿】と呼んでるところじゃ。【神の領域】とでも考えとるんじゃろ』
【ハコニワ】と言われて思い浮かぶのは、模型なんかで作るミニチュアのジオラマの【箱庭】だった。ニュアンス的には間違っていないと思う。
爺さんが管理する世界【ハコニワ】かぁ………で、ただの爺さんじゃなくて【か】と【み】の付く方なんだろう。
『ふむ。君が思うようにワシは、神の端くれ、名はダイス。そして君は……ぶっちゃけ死んどるのう』
ダイス?…何だか遊戯で使われる玩具のサイコロみたいな名前だ。正六面体で1から6までの・が掘り込まれたアレだ。
それにしても僕…………死んじゃったんだね。
まだまだやりたいことあったのに………改めて考えると何が何でもやりたかったことってないなぁ………
それより、自殺する動機なんてこれっぽっちも無かったのに、なんで死んじゃったんだ?
う~んんんっ………確か今日は学校に行く為にアパートの自宅を出た。うん、間違いない。
そして、階段の踊り場で隣の田端さんに挨拶したんだよな?
田端美津子さんは先月となりに引っ越してきた、年頃の僕には目の毒で目の保養な魅惑的なボディを保持する、年上で美人な女子大生のお姉さんだ。
他愛無い会話をしながら一緒に階段を下りた。
目線が知らず知らずに豊満な胸部装甲にいっていたのは秘密だよ?
いやぁ朝からラッキー、とか考えてたけど最後のラッキーだったとは………
そんで…あれっ?この後、どうなったっけ?
なんか腹のあたりが熱くなって、焼かれるような痛みと鉄錆びのニオイがしたような…
僕は神様から死の真相を聞いたけど、しょうもない内容だった。
曲がりなりにも神様らしく、別次元の世界の情報集積回路のようなアカシックレコードにアクセスすることはできるそうだ。
ダイス神様…言いにくいな。神様は定期的に別次元の世界の情報を読み取っている。
通常、その世界で命を失った魂は循環し再び同じ世界に生まれ変わる。【輪廻転生】だね。
でも、何かの弾みでその輪廻の輪から弾き飛ばされたりする魂がある。
それら【こぼれ落ちた魂(精神体)】を拾い集め、自分の世界に変化を起こせる人材を選び出し、転生者として送り込んでいる。
つまり、僕は【転生者】として新たな生を授かる栄誉をいただけたわけだ。
『ある程度理解してくれたところで本題じゃ。君にいくつか選択肢を提示する。拒否するのも受け入れるのも君次第じゃ』
①転生者として前世の記憶を引き継いで、この世界に誕生する。
②前世の世界の記憶を抹消して誕生する。
③虚数空間に沈み、存在自体を消去される……って最後の何?
へぇー。僕たちのように世界にはじかれた彷徨う魂は、いずれ次元の底に漂う虚数空間に飲み込まれ消滅し、各世界を存続するためのエネルギー源となるそうだ。
さて、どうしようか。ちなみに元世界への転生は管轄外で上司へのゴマすりがどうとかで、できないと断られました。
②の記憶を抹消し転生する選択は、流石に悪人そのものの記憶持ちを転生させちゃうと、混乱を撒き散らすだけで大して意味が無いので、一度魂の洗濯をするのだとか。
基本、他世界の住人だった魂は前世の記憶抹消して、この世界の住人として一から出直しだそうだ。
一番多い知的生命体が人間で、その他に分類されるのが亜人(ファンタジー特有のエルフやドワーフ、獣人、龍人エトセトラ)がいる。
地球で言う中世のような世界感らしく、ちゃんと世界の悪役である【魔王】と愉快な魔物たちもいるらしい………愉快ってなんだよっ!
僕は内心、神様にツッコミながら①を選択した。
(前の世界に未練が無いって言ったら嘘になるけど、戻れないなら今の記憶を引き継いだ①でお願いします)
神様は僕の願いに快く応えてくれた。
WEB小説(生前の数少ない趣味だよ)でお馴染みのチート能力をくれるそうだ。
でも、ここからが少し他と違う。
神様は自分の懐に手を入れサイコロを二つ取り出し、おもむろに空中に振りだした。
何回か振り、出た目を僕の視線の先に表示させた青白い板【ステータス】に反映させていく。
基本数値にサイコロの出た目の数だけプラス表示されていく。
………………………………………
名前:【慎太郎〈前世〉】
種族:人族
年齢:0歳
Lv:0
職業:無
生命力(HP):12+6
魔力(MP):4+6
攻撃:(ATK):5+5
防御:(DEF):3+2
魔法攻撃:(MAT):7+4
魔法防御:(MDE):6+4
敏捷性:(AGI):8+2
命中率:(DEX):5+4
回避率:(EVA):8+2
装備:無
持ち物:無
固有スキル:【メニュー】【疲労軽減】【回復促進】Lv.2
技能スキル:無
魔術スキル:【光】【火】【水】【風】【土】
称号:【勇者】
賞罰:無
………………………………………
これが僕が転生時に得られるボーナス値らしい。
通常はサイコロ一つの目の数プラス種族それぞれの特性値を足した数が、それぞれのステータスに反映されている。
種族を選択できるそうなので【人族】にしておいた。
他の種族も魅力的ではあったもののゲームならいざ知らず、現実に生きていくのなら前世に近いほど順応性も高まる、というものだ。
けど、僕は【勇者】の称号持ちの転生なのでサイコロ二つの基本値+サイコロ×1の数のボーナスPがつく。
僕が向かわされる【ハコニワ】は神様をはじめ眷属神や従属神、上位精霊や古代竜・古龍が神格化され信奉されている。
それぞれの教会や神殿が各地の国々に多数建てられていて、人々から集めた信仰心が神様達の【権能】に力を注ぎ、神の序列が乱高下するんだとか。
地味にサラリーマンの成績争いみたいだ。
【権能】はそれぞれの神様達が有する能力や権限で、ダイス様なら転生者に対してのスキル付与や【ハコニワ】に対しての世界内設定能力等だ。
それらの施設(教会や神殿)におけるシスター職或いは巫女職は、神から他人の【ステータス】を表示させる【スキル】を授かっている。
一般的な慣習として、自分の【ステータス】確認する為に施設を月初めに参拝し、寄付金の名目で定額料金を払う……もとい奉納することで閲覧を許可される。
だけど、【勇者】の称号持ちで転生する僕は固定スキルで【メニュー】を持ち、ゲームでお馴染メニュー表を出現させてタップして、【ステータス】表をを選び確認できるんだとか。
も一つオマケとばかりにサイコロを一つ振り、出た目は2。ユニークスキル枠を二つ増やし、神様は手元のスキル表を見ながら再び振った2個のサイコロの出た目、1回目と2回目が共に7。2回目が同数だったので振り直して6。【疲労軽減】と【回復促進】が増えた。
【疲労軽減】は単純に疲れにくくなるって効果だ。【回復促進】は普通の人族の生命力が、10分で1Pなところを2分で1P回復するものだ。それが二度同じ目だったことでLv.2を特別にもらえた。だから1分間に1P回復することになり、ほぼ1時間休憩すれば大体の人のHPは全回復するそうだ。
【メニュー】は別にして、この二つのスキルはLvが上がれば効果も増えるらしいので、戦闘や遠征・ダンジョン探索などの長丁場で有効そうだ。
後、この世界における基本的な六元素中の五つ【光】【火】【水】【風】【土】を用いた魔法を扱える素養をくれた。
残りの【闇】は魔族の固有魔法で、普通の人間は素養を持っているだけで監視対象にされるのだとか。
まぁいいか、五つも素養があれば色々できるだろう。それぞれの魔法はそれらの属性を持つ神、ダイス様の眷属(まぁ配下とか部下にあたるのかな)神が奉られている神殿や教会で洗礼を受け、信徒になり授かるのが一つの手。もう一つは多額の寄進…まぁ寄付金名目でお金を渡すと額に応じたLv魔法を教えてくれる。
この世界の魔法は基本は呪文を唱える方式で、魔王や配下の魔族・魔物の一部も魔法を使う。
僕は気分が高揚するのを感じた。うわぁ~~~魔法だよ。魔法。
ラノベ準拠の【剣と魔法の世界】なんだって。楽しみだなぁ…一度でもいいから魔法を使ってみたかったんだ。
神が実在している世界ならではのファンタジー設定だ。
この世界【ハコニワ】最大の大陸の名は【アースガルド】。流通している貨幣や物の規格、言語等の社会基盤の元は今は無き古代魔術文明国家【エンフィート】が発祥のルーツだそうだ。
言語は各国それぞれの言葉はあるものの共通語は【日本語】で、表記される文字は【ひらがな】と【カタカナ】。【漢字】が古代魔術文字という認識だ。もちろん漢字とは表記されず、【こじ】或いは【マナじ】と呼ばれている。
識字率は最大の大陸に存在する98%の国で概ね40%前後、共通語を話せれば大抵普通の生活ができるらしい。
神様がこれまでに投入した転生者や召喚された人々が、持ち込んだ社会通念や技術が【エンフィート】の中核を担った。
今日においても随所で日本人が残したであろう痕跡が残されている。
物質の長短、質量の基準となるものは、ほとんど日本人が起源となっている。
彼らが住みやすくわかり易くとけこみ易いように社会基盤を塗り替えたのは明白だ。
『君より以前に転生した者に賭博師がいてのぅ…余興がてら、サイコロについて教えてもらい気に入ったんじゃ』
それ以来何か決め事のたびに賽を振り、出た目の数を反映させた。
それならばと自身の名も親しみやすくする為、【ダイス】に改めて世界に宣言したんだって。
人々に恩恵として能力値をサイコロを振って出た目だけプラスすることをし始めた。
今では下界で【博打の神様】で通っているんだとか……って趣味丸出しすぎだ。でも実益を兼ねているのかぁ。
『趣味丸出し、けっこう。幾星霜の年月を過ごし、変化の乏しい世界をひたすら眺める…ひまつぶしの一環じゃあ』
僕の考えを読んだのか即座に返してくるとは…神もやるな(キラリ)っ! 僕の目元が一瞬光を放ったのには驚いた。神様を見ると【どや】顔をしていた。演出過多ですダイス様。
『どれ、こんなもんでよかろう』
今、僕の目の前には転生後の自身のパラメーターである、ステータス表が青白い光の板状になって浮かんでいる。
ゲームのステータス画面そのまんまだね。ところどころ表記されていないところがある。
(あのぅこの抜けている箇所は…)
『楽しみは最後まで取っておくのがワシの信条じゃ。君が転生し、前世の記憶を思い出す頃に【勇者】の称号と一緒に、今振り分けた数値が反映されるわい。じゃから楽しみに寝て待っておれ』
生誕場所及び両親不明の為名前が、職業欄は生誕時は無色だから無記名だそうだ。
生誕時からLv:0でこの数値かぁ。ぱっと見は敏捷性を生かせた【魔術師タイプ】だな。
HPに大してMP低さは魔術タイプとしては致命的だけど………覚醒すれば補えるみたいだ。
レベルUP前にとった行動によってスキル獲得や各能力値にポイントが割り振られる。基本が剣術なら攻撃力が、魔術攻撃メインなら魔術攻撃力が上がり、敵からの攻撃が物理攻撃を受けたなら防御値が、魔術攻撃を受けたなら魔術防御値が上がる、という仕組みだ。
レベルUPが無くても日々の研鑽がモノを云い、剣術や刀術等の技術スキルや魔術スキルのレベルが上がり、威力・精度も上がる。
神様はサイコロを三つふり、出た目は3,5,6で14。前世の記憶覚醒年齢だと教えてくれた。
WEB小説みたいに生まれながらにしての生産チートや魔術師即席コースルートに進みかったのに……
成人する15才までの自分が、修行してくれるのを目の前の神様を見ながら祈ろう。
『はじめから無双する……ワシの最も嫌いな展開じゃな。せっかく別世界に転生するのじゃ、その世界の住民として生を受け世界を楽しむのも乙じゃろ?』
まぁ確かに。神様が言われることは最もだと思う。
余り、前世の記憶に引きずられるのはいい事じゃないかもしれないし…
『これで終了じゃ。一応、勇者枠として時空ホルダーに入れとくでのぅ、召喚されるのを楽しみにするがいい』
神様のその言葉を聞き終えると、僕の意識は深い闇の底に沈むように、暗くあいまいに何も見えず…何も聞こえず…何も感じられず…そして途切れた。
……………………………………………………………
ピンポーン。世界のどこかで電子音が遠くまで響く。はて?自分が感知し得ない現象だ。
ダイスは自身の存在力を極限まで薄め、世界の隅々に行き渡らせるように意識の糸を伸ばし、電子音の発生源を探った。
この【ハコニワ】の管理を任されて数万年、自身が感知しない事態に内心不安がもたげる。
何故だろう?知れば後悔すると直感が示す。
だが以外にも電子音をもたらしたものは目と鼻の先にあった。
『灯台下暗し』とはこのことか。
目の前に展開表示された…半透明の板、ログ履歴表示板だった。
《おめでとうございます!! 勇者選別100人を達成されました。ミッションクリア報酬[記憶の封鎖]を解除します》
記憶の封鎖? どういうことじゃ、それは?
ズキリッ!!…頭が、頭の奥が痛む。ズキズキする痛みが始まり様々な情景が流れ込んでくる。
その中には自身が神として、地上の下等生物に対して……下等生物などではなく彼・彼女達は懸命に生き抜く可愛い我が子達ではないか。
断じて下等生物では……そう下等生物だ。神の玩具で十分………
ダイスの意識が不自然なほどに切り替わるも本人は気付かず、記憶の閲覧に戻ってしまう。
数々の天変地異を自らしておきながら救済として食料を与えていた。
何が悪いというのだ神として下等生物に施しを与えるのは神の使命である。
我欲を満たすために各地で女子供をさらい、個々人の意思に関わらず神の名の下に凌辱する。
そして、飽きれば殺戮を楽しむ………オゾマシイ過去。
当然ではないか。無駄に増えすぎた下等生物の駆除に神による制裁。
何もかもオカシイ行為ではない。
違う!違う、違う違う!何だこのおぞましい感情は?
俺は元々(・・)は神ではなかったのだ。そう俺は普通の人間だった。
今更だがなぜ『俺』はこんなことをしてきた? 何故?
ザッザザザー…ザッ…ザザザザー…自身の記憶の奥底からノイズ混じりに埋没した記憶が浮上する。
そう…あれは俺がこの世界に召喚されてきて、そう【召喚】されてきたのだ自分は。
そしてこの場で【神】に対面した。
ダイス神は俺に『第二の人生を歩まないか?』と、散歩にでも行くように持ち掛けられた。
あの時俺は、自身のこれまでの境遇を省みて一から出直すことを望んだ。
俺は二の句も告げさせずに転生を嘱望し、神も『新たな人生に幸アレ』と送り出してくれた………はずだ。
しかし、【神】は最後に口角を上げいやらしい目つきで『いい身代わりができた』と、呟いていたのを今思い出した。
【神】…いや奴で十分だ。俺は騙したうえ洗脳し、悪行の片棒担ぎとしての生贄にされたのだろう。
俺の意識は暗転し気がつくと人間だった頃の記憶は封印され、延々と神として【ハコニワ】の管理していた。奴の役目を代行ってわけさ…
胸糞悪い業を否応無しに押し付けられた。
『神の試練』と称した天変地異を下界の生物達へ、気紛れにに或いは、鬼母が我が子を甚振るように………
何度も何度も何度も何度も……こんな、こんな残虐な行為を、俺は、俺はぁぁぁぁぁぁーーー………
神の仕事だと洗脳され、何の罪の呵責も痛みも感じずに淡々と行ってきた。
うっくぅぅぅっ……吐き気がよみがえる。俺は何と言うおぞましい行為を悦にいって、嬉々(きき)として実行していた。
奴が許せない、純真な俺の思いを踏みにじり胸糞の悪い所業の片棒を担がせ、ノウノウと下界に遊びに行った奴を………
あれから何年?何十年、何百年、何千年、何万年経ったのか記憶はいまも曖昧でよくわからない。
神の肉体を持つ自身の時間的間隔が人間のものと違いすぎるが故に、つい昨日のようにも遠い遠い過去のようにも感じる。
どうだこの身体は?………奴の前に召喚されたときは40代だった。それが今は白髪の老人だ…
普通の人間では到底生きること適わぬ年月を過ごすために神の肉体へと変換された。
自身が備えた能力【権能】が伝えている情報が真実なら、俺は後数年で消滅する。
後数年?馬鹿な神の肉体を得た自身が後数年しか持たず、消滅する。
第二の人生たる大半を記憶封印の上、悪行の片棒に利用されてきた俺。
記憶を取り戻したときにはもう幾ばくも時を許されていない。
ふざけるな!奴は奴は何の痛痒も受けず、地上でのうのうと好き放題しているのに。許せない、断じて許すものか!
ダイスは自身が神の容姿を覚えておらず、時間の感覚も狂っていて自身の記憶に齟齬があることに気付かなかった。
まるで何者かに誘導されるように、自身を神に仕立て上げた者に対する憎悪だけを増幅され、疑問を感じさせないように隠蔽されていく。
ダイス自身は気付けない。身体の奥底で密かに【種】が芽吹き、肉体の隅々まで根を張り巡らし侵蝕していく。
憎悪を増し肉体に力が漲るとともに、顔面が手足が徐々にひび割れ崩れ形を失っていく。
割れた箇所から黒いガスか靄のようなものが漏れ出し肉体を覆っていく。
奴にはきっちりと復讐する権利が俺にはある。奴に思い知らせてやる。
自身が生み出した存在に裏切られの垂れ死ぬときの惨めさや絶望感を…味あわせてやる!!
ダイスだった男は自身に備わった権能をもって世界の隅々にまで意識を広げる。
憎き敵を探すように、或いは恋焦がれる恋人を探すように…熱く熱く熱意を復讐の種火に燃え上がらせながら。
数年かけて精査し寿命まで数週間というところで、それらしい存在を見つけた。
人間達が『魔国』と呼ぶ領域で王者として君臨している奴を。
奴だ、奴に違いない。奴しかいない。奴に間違いない。
神の権能を持つ自身がそうだと断言するのだから間違いない。
もうこのあたりから強者を探すことに固執する余り、その者の本質を精査することも経歴を探ることもしなくなっていた。
ただ自身を陥れたものが【神気】と呼ばれる、神に連ねられるものだけが持つ気配・威圧感を持ち強大な実力者、とだけとしか認識していない。
力を隠蔽し存在を紛らわして隠遁しているとは露とも思わない。
明らかに視野狭窄を起こし正常な状態ではなく………もう狂っていた。
………………………………………………………………………………
まがい物は所詮まがい物。故に崩壊も早い…
【種子】侵蝕率88% ………【神人】ベースではここまでが限界か。
【思考誘導プログラム】(良好)………視野狭窄の誘発と侵蝕率の増加が見込めたのは、いいサンプルだった。
何より新たなる【スキル】を獲得するとは、尚僥倖である。
【怒り】【憎しみ】などの負の感情は、【種】を発芽させやすい点は評価できるが、さて?
………《アラート》《アラート》《対象内部、精神域に拒絶反応発生。生体強化過程で暴走しました。肉体の腐敗速度上昇、制御不能》
やはり、な………
主よ貴方の御技の再現には至りきれません。
あれから数十万の実践を行い、未だ成果を出せない役立たずに、どうか、どうか…新たなる指針をお示しください。
男は片膝を付き主に祈りを奉げる。
自らの主からの応えは途絶えて久しい。
合いも変わらず祈りを奉げる姿からは、彼が未だ主との約束に対する強い信念が感じられた。
いつか、成果を認められ姫をこの手に迎えられるのを夢見ているのだろうか………
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数刻後、ダイスの頭上にて【サイコロ】が二つ転がる。
【先見】のスキル持ちがいれば、ダイスのその後を暗示するかのごとき結果に恐れを抱いただろう。
何者かの掌で踊る哀れな道化。サイの出た目は1と6。
ダイスの意識が憎き敵に傾倒するたびに数が減少し、終には1だけになる。
ダイスの与り知れない所で、何者かが彼の末路を選択する。
ダイスは知らない。否、知りえない。他者にしか見えないサイコロ。
運を天に任せた者たちの頭上に現れる、《運命改変装置》たる【神の玩具】。
あの顔は忘れない、奴に違いない。奴ほどの魔力・神力・存在感を持つモノはこの世界広しといえ存在しない。
奴だ!!待っているがいい神よ! お前の絶望が今行くぞ!!
自身を留めおこうとする御使い(天使姿で少女タイプ)が纏わりつくが、振り払い跳ね飛ばす。
ふふふふっ…ああぁ…なんと甘美なことか。奴をこの手で八つ裂きにできることが何より楽しい…
振り払われた御使い達は形を保てなくなり粉みじんに霧散し、再構築され鐘楼のツリガネのような形態に変わり自身を振るわせる。
リン…ゴーーン……ゴーン……リンゴーン……ゴーーン…ゴーン
世界の隅々にまで響き渡る壮麗な鐘の音色だ。
だが、俺を祝福するこの音色が殊更良い。さぁ鳴り響け!神が亡き世界の始まりだ!!もっと盛大に鳴り響け!復讐の門出を祝ってくれ!
………………………………………………………………………………
後に【ダイスの霍乱】及び【大崩壊】と呼ばれる、邪神ダイスによる魔王襲撃と戦いによる、天変地異で大陸各地が混乱の坩堝と化した。
…………………………………………………………………
『この日戦勝祝いに沸く王都上空より舞い降りた邪神によって、我が国の王【皇魔帝】がいずこかへ連れ去られ封印された。邪神が巻き起こす天変地異で壁外の国々は壊滅的な被害に見舞われた。幸いにも我が国は皇魔帝の施した結界により軽微であった。世界のどこよりも復興を果たし、今日の栄華を築くこととなった。あぁぁ、陛下にこの素晴らしき我らが王都を御覧いただきたいものだ』
歴史書編纂著者ライオルネス・ラ・ネイサス。魔国の最古参の魔族の末裔にして皇魔暦最後の歴史学者がそう記している。
後に転生者達の故郷の【ことわざ】にちなんで『鬼の霍乱』ならぬ『ダイスの霍乱』と呼ばれる事象の顛末だ。
時に皇魔暦9998年、在位1万年まであと1年と僅かを残したまま、【魔国】最後の魔王【皇魔帝】は邪神ダイスによって封印された。
世界はこのときを境に変貌、或いは回帰され平常状態を保ちつつ推移していく。魔王封印の余波による混乱が収まり、大陸各地の国々が復興からの隆盛と興亡を繰り返し、神不在のまま1000年が過ぎた。
そして、唐突に巫女たちが神々より託宣を受ける。
《魔王、復活の兆しあり》、と。
一口に異世界っていっても地球を含めた太陽系、太陽系を含めた銀河。銀河を含めた宇宙…と空間だけは広いんですけど、異世界モノの話では一つの空間だけが多いですよね。
だから、異世界にある星のどこかってのが、ほんとのところなんでしょうけど、余り細かく言わないのは設定分ばかりになっちゃうからなんでしょう。
少し違う始まり方をと考えましたが、どうでしょうか?
主人公は一応【慎太郎】君メインかな?とは思うんですけど…彼、元々モブキャラで導入部のシステム説明だけの存在だったのですが………別の視点も入れていきたいと思います。
連載ではありますが、自分で納得がいくまで編集し直すので、連日投稿されている先輩方のようにはいけないので、悪しからず。