二人の旅
浜辺に着くと対岸を見渡す。最短で50kmといったところだ
「それじゃあ、いこうか」
そう言ってクロノスは水面に手をかざす
最上位氷魔法『ヒュプノス』範囲魔法であり潜在魔力依存で目標を凍らせることが出来る。
海に氷の橋が出来上がった。
「なぁジン、リオス公国ってどんなところだ?」
「作物が豊かで騒がしい国と聞いております」
「じゃあ美味いもの食べれそうだなー」
二人は話しながら氷の橋を踏みしめて歩く
「美味いもの食べてー、面白い本読んでー、あとは何が楽しい?」
「そうですね、国を滅ぼすのはいかがですか?」
「それもう飽きた」
「ではクロノス様もよいお年頃ですので、おなごと契るのは如何でしょう」
「それはちょっと興味あるよね。本を読んでて面白そうだと思った!それとさ、様ってやめない?二人しかいないんだし」
「そのようなことは出来ません!私はクロノス様の僕ですので」
「その僕ってのも今一わかんないんだよね。奴隷ってやつ?」
「そうですね。そのようなものです」
「ふーん、じゃあジンは俺の性奴隷だ!」
「」
ジンは白い顔を真っ赤に染める
「どうしたの?何か変なこと言った?」
「いえ、私にとっては有難いお言葉なのですが、その……意味はわかっておいでで?」
「異性の奴隷?」
ジンは少し肩を落とす
「いえ、性奴隷というのは快楽を貪るために契る為の奴隷でございます」
「へぇー、じゃあジンは違うね。あ、あれだよ!仲間!ジンは俺にとって仲間!」
「仲間とは同位に属する間柄でございますよ!?」
「いいじゃん、そのほうがいい」
「ですが——」
「ジン」
「は、はい」
「お前と俺どっちが強い?」
「それはクロノス様でございます」
「ならいいじゃん!強いのは俺で、俺に敬意を払え!でも仲間!」
「クロノス様がそこまで言うなら……」
「友情!あはっ」
また少しジンは肩を落とす
「ところでさ、ジンはさっき有難いとか言ってたけど性奴隷になりたかったのー?」
「いいえっ!いや、はいっ!クロノス様の寵愛を受けられるのであらばっ!」
「ふーん、寵愛とかわかんないけど……ジンが喜ぶならそのうち契ろうね」
クロノスは屈託のない笑顔で言った。
ジンは耳まで真っ赤にして俯いた。このとき小さく「はぃ」と言ったのは彼には聞こえてないだろう。
他愛のない話を続けているうちに対岸へと辿り着いた
「案外早かったね」
「クロノス様の魔法のおかげでございます」
「ほら、俺さっき滑って転びかけたでしょ?その時に思いついたんだよね」
クロノスは風の下位魔法『ウインドエッジ』を二人の踵に叩き続けた
風の刃を最低限の力で叩くことによって氷の上を滑り続けたのだ。
「私が魔法を使えれば負担をかけずに——」
「そんな心配するなよ!元魔王なめんな」
「ありがとうございます」
ジンは腰の前で手を結び丁寧に頭を下げた
「8点」
「え?」
「あぁ、勿論100点満点ね」
「いえ、あの」
「そういう時はありがとうといって笑えばいいんだよ」
ジンは戸惑いながら恥ずかしそうな笑顔で
「あ、ありがとう……ございます」
「うーん、50点!でも笑顔が可愛いから80点あげる」
そう言ってクロノスは彼女の頭をわしゃわしゃ撫でた
「さ、いくよ」
ジンは頭をおさえながら俯いたまま歩き出した
「なぁ、いつまでそうやってるの?」
かれこれ30分、ジンの姿勢は変わらない
「あまりにも嬉しくて余韻に……」
「頭を撫でると嬉しいのか……よし、ジンが功績をあげたら褒美に頭を撫でてやろう」
ジンはピーンッと背筋を張り裏返りそうな声で
「本当れごじゃいますかっ!?」
「あはっ、本当にジンはおもしろいね」
「からかわないでください……」
「ごめんごめん、ジンといると退屈しないからいいよね」
「うぅ……」
「ジンっ!まて」
「はい、気づいております」
他愛のない話をしていても殺気に触れると空気が変わる
「……俺の感知だと9人だが、どうだ?」
「そうですね、殺気を放つのは9人。殺気のない者が2人です」
「うーん、人間すべてある程度のマナ持っていてくれないと面倒だな」
『マナ』とは魔力の事であり、一定量のマナは生きる上で万物の生物が保有しているが、魔力と呼べるマナを保有している一般人は少ない
「どうしようか……ジン、ちょっと弱そうなフリして行ってきて!あ、『赤椿』と『白梅』も没収ね」
「え、せめて刀は……」
「命令」
「……はい」
渋々2本の刀を差し出すと50m先程に見える崩れた城壁に向かい歩き出した。
城壁に辿り着くか着かないかの辺りで立ち止まり
「すいませーん、出てきてくださーい!私弱いでーす」
「え……」
クロノスは呆気にとられた
「え?何?馬鹿なの?死ぬの?あ……刀取られて拗ねてるのね」
クロノスはふと思い出す。昔、刀を取り上げて3日程遊んでいたら、その後1週間そっけなくあしらわれたことを
「まぁ、なるようになるか」
城壁の向こうからぞろぞろと小汚い服装の男達が出てくる
「俺たちに気づくなんて、お前ただものじゃねーな」
「いいえ、か弱いおなごです。たすけてー」
「え、あの、ちょっと?」
「こーろーさーれーるー」
「あのー、もしもし?」
「こーわー……ぷっ……ふふふっ、こーわーいーよー」
「お前なめんじゃねぇぞ!?俺たちは盗賊団をなめてやがるのか?」
「いえ、はい。ごめんなさい。なめてないです助けてください」
——ガタンッ
奥にある小屋の扉から手足を縛られた少女が出てきた
「助けてくださいっ!」
「てめぇ、でてくるんじゃねぇよ!」
男が一人少女を蹴とばす
「クロノス様ー、どうします?」
ガサッと音を立てて上空の木からクロノスが落ちてきた
「ふむ、あの女は俺に助けてくれと頼んだ。ならば、その望み聞いてやろう!ほいっ」
「えっ?」
クロノスは刀を放り投げた
「ジンさんよろしくー」
「はぁ……クロノス様のご命令ならば」
そう行って腰に2本の刀を戻す
「でわ、参ります。私も種族は違えど、おなごにこのような真似をする輩は好みませんので」
一閃
言葉の通り刹那の刃が男たちを襲った
「はっ、美人な上にそんだけカッコよく刀を抜ければ城下町の演芸場にでも……は?」
景色が高く見える……歩こうにも歩けない。何が起きた?
ふと下を見る……腰から下が……ない
「ひぎゃぁああああっ」
一人の男が出血もなく華麗に切られたのに気づき、男たちは武器を落として逃げようとした
「赤椿」
赤椿はチャキッと音を立てた。その瞬間男たちは血を全身から吹き出し倒れた
「おぉ、やはりいいなその刀。俺にくれないか?」
「うっ……ク、クロノス様がお望みとあらば……」
ジンはプルプルと震えながら刀を差し出す
「冗談だよ、ジンが大事にしている物を奪ったりしないよ」
そう言って頭を撫でた
「あぁ……」
ジンは嬉しそうに笑っている
ガタッ
奥の小屋の入り口で少女が震えている。
「何も心配はないよ、もう大丈夫。ジン」
「はい」
ジンが近づこうとすると少女は更に震えだした
「怖がられてるー、ジンさんこわーい」
「地味に傷つくのでやめてください」
クロノスは近づくと縄をほどいた
「ごめんな、あいつは不愛想だけどいいやつなんだ」
そう言ってニッコリ笑うと、少女は大きな声をあげ泣きながら抱き着いてきた
後ろでジンがバタバタしているのにクロノスは気づかなかった
「落ち着いた?」
「はい、本当にありがとうございます」
眠っている幼女を抱えながら少女は頭を下げた
「しかし、人間同士で争うのってバカらしいよな」
「え?」
「いや、同じ種族なんだから仲よくすればいいのになぁーって」
「魔王が倒されてから盗賊がこの近辺には出るようになって……昔は魔物の森だったそうなんですが」
「ふーん、魔王がいたら人間は皆仲良くなるのか?」
「そういうわけでは……でも、街から冒険者以外出れなかったので盗賊はいませんでした」
「ジン」
「は、はい」
「面白いこと思いついた。俺この国の人間が皆仲良く出来るようにする」
「え?えぇ?」
「友情!あはは」
「なぁ、どうしたら人間同士仲良くなれる?」
「さぁ……そのようなことが出来るのなら私も望みますが……あ、聖王様ならお話を聞いてくださるかもしれません」
「じゃあ、聖王に会いに行くか!ジン、行くぞ」
「はい」
「お前たちは大丈夫か?なんなら町まで送るが」
「いえ、まだ薬草を摘んでいませんので」
「手伝おうか?」
「いえ、そこまでは!本当にありがとうございました」
「あぁ、気をつけて」
「どうしてそのような事を?」
町へ向かう道の途中、ジンは顔を覗き込んで聞いてきた
「難しそうな問題って解くのが楽しいでしょ?あの少女が難しそうな顔してたからきっとそうなんだろうなって」
「一度滅ぼそうとした相手を?」
「うーん、あいつらが滅ぼしたいって言ったから了承したけど俺は望んでないよ?」
「え……」
ジンは頭を押さえ軽く首を横に振った
「どうした?」
「いいえ、なんでもないです」
「ふーん。あ、街には宿というものがあるのだろう?」
「はい、寝泊りするところですね」
「じゃあ、宿をとって契るか」
「は?え、あの、ちょっ」
「ほんとジンっておもしろーい」
ジンは顔を真っ赤に染めたまま震えている
「からかわないでくださいってばー!」
そして旅はまだまだ続く