光を編む者セラフィム
ディオーネ領、神殿跡地——。
瓦礫の中の玉座に鎮座する、神々しさを纏う女神の様な天使は
ただ、不気味に微笑んでいた
騎士達が魔法や銃撃を繰り返すが、玉座を包む光のカーテンが
全てを無に帰していた
「ふーん、光系統ね……反射、防護……鉄壁で全能力に長けた天使……」
アルスは弓を構える
「このアルテミスの弓から放たれる聖なる矢さえもかき消すのかしら?」
弓を一度引き放っただけで、10の光の矢が放たれる
球状の光のカーテンに突き刺さり、消えはしないが
貫通もしない
「これ……では?」
強く放たれた100の矢が天使を目がけ放たれる
が——。
光のカーテンに突き刺さり、止まる
「サボテンみたいね……」
天使は一向に動かない
「クロ……まだかしら……」
「へぶっ」
水面に顔を押し付けられた様な声をあげて
クロノスが地面に倒れこむ
「やぁ~、待たせた~?」
レヴィアがゆっくりと空間から現れる
「クロのことは待ってた」
「アルスは相変わらず素直じゃないなぁ~」
「待て待て、俺を後ろから蹴り飛ばしたのは何故だ」
「アルスの話ばかりするから」
「ほんと!?」
げしっ
「くあっ」
立ちあがったクロノスの足に蹴りが入る
「この話はもうやめよう」
「むぅー」
アルスはむくれ、レヴィアはそっぽを向いている
「で?状況は?」
アルスが天使を指さす
「セラフィムが防戦一方」
「あれぇ~?レヴィはもう終わらせたのに?」
「サーシャも終わったな」
アルスが俯き、プルプルと震えだす
「はいはい、終わらせればいいんでしょ?わかりましたよ、やりますよーだ」
アルスが足早に歩いていく
セラフィムを包む光のカーテンの前に立つと
弓を構え、詠唱を始める
「汝、闇より生まれし者ならば拒むだろう。汝、生を賭すなら受け入れるだろう。我は裁く者なり!」
アルスが光に包まれ、大きな翼が広がった
「おぉ!あれは?」
「アルスの戦闘モード?みたいなのぉ~」
青白い光を纏ったままアルスは弓を天へ撃つ
「さぁ、そのまま終わりを迎えるか、その防護壁を解いて動くか……楽しみね」
アルスは微笑み、金色の装飾の弓を防護壁に打ち付ける
防護壁に杯の紋様が浮かび、アルスは後ろへ飛ぶ
「杯を満たせっ!エンジェルフォール!」
杯の紋様から天に向かって光が放たれる
光の先に大きな光の矢が現れる
「光系統上位のマナだな」
「おぉ~、流石クロちゃん~」
「ジャッジメントと同じにしないで。こっちは……最大火力だから!」
山を一つ飲み込みそうな光の矢が天から杯目がけて放たれる
地響きと轟音の後に大きな穴を開けた場所に
セラフィムはいない
「終わったのか?」
「いいえ、まだよ」
セラフィムは六つの翼を広げ、美しい衣を靡かせながら
空に浮かぶ
「じゃあ、戦争を始めましょうか」
アルスが二つに括られた髪を靡かせ、空へと飛ぶ
腰元の短剣を抜くと、セラフィムの首元に斬りかかる
キィィィンと音を立て、セラフィムが青い剣で防ぐ
両者は宙を舞いながら、剣戟を交える
「アルスって遊撃じゃなかった?」
「近接戦闘も出来るから聖王最強なんじゃない~?」
「なるほどね……」
「厄介な技もあるし~」
「厄介?」
「見てればわかるよぉ~」
アルスが短剣を腰元に収め、弓を背から取り出すと
弦を切る
「悪いけど、クロが見てる前で無様な勝ち方は出来ないから……一気に決めるね」
弓がしなりを無くし、剣に変わる
「嘘を真に……痛みを加護に……アカシックレコード!」
アルスがアルテミスの剣を天へ翳すと
景色が逆転する
「うぉ、地面が空に」
「クロちゃんが右から左に~」
「ディナダンの技より凄いな」
「だよね~、転生してアルスが強化したんだろうね」
アルスが右から斬りかかると、セラフィムの左肩が切り裂かれる
アルスが光系統上位魔法のジャッジメントを詠唱し
光の十字架がセラフィムの上空に現れると
下から十字架が打ち付ける
「圧倒的だな」
「だよね~。あれはレヴィでも対処できないよ~」
だから——
ザシュッと音を立て、剣がセラフィムを貫く
「さ、眠りなさい。永遠に」
セラフィムが消滅し、天に向かって各地から
6の光の球が放たれると、空が裂け
大きな城が姿を現す
「クロー、これで——」
手を振るアルスの胸から大きな刃が姿を現す
隣にいたレヴィアの姿がない
「え……あ、あ、あぁ……」
アルスが息絶え絶えに何かを悟る
空から落ちるアルスをクロノスは受け止める
「どうして……どうしてなんだ!レヴィア!」
血の滴る鎌を手に
レヴィアはクロノスを見下ろす
深く……
深く根付いた影が……
今……花開く
そして魔王は悲しみを知る




