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七聖の王と悪戯好きな魔王  作者: 秋野 紅葉
壊れゆく世界で溺れる姫
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死を操る者ファラク

時同じくして——。


セレネ領黄泉の洞窟


一切の兵を連れず、少女はそこに立つ


「さて……今日のレヴィは甘くないけど……それでもかかってくるのかな?」


洞窟の奥からは水の流れる音と風の音だけが響いてくる


「ふぅ~ん、答えは『はい』ってことだね」


レヴィアは右腕を空間にねじ込み、エリュシオンを取り出し


斬りかかる——。


グンッと音を鳴らし鎌が振り下ろされると、空間が歪む


「死……即ち、全てが帰る場所……それは無に等しく、存在さえも確認できない」


横に鎌を振り抜く


「死とは相対する生が無ければ視認出来ず、意味さえも失う」


左腕を伸ばすと指で円を描く


「そう……死とは生のすぐ傍に在り続けるものっ!」


描いた円を指で弾くと、ゆっくりと大きくなりながら空間を飲み込み


巨大な空間が完成し、扉が現れる


レヴィアは大きく深呼吸をし、扉を開き中に入る


真っ白な部屋——。


中心にとても大きな四足歩行の犬の様な生き物


顔はあるが、目や口は無い


体中に紋様と文字がびっしり敷き詰められた帯を巻き付けている


「やぁ、やっと顔を合わせられたね」


レヴィアが使用した魔法は『グラウンドゼロ』


無系統の最上位魔法である


空間に何もない新たな世界を作り出す魔法であり、巨大化、分身、隠蔽等の視認性のステータスを無効化する効果を持つ


「お前だと思ったよ。久しぶりだね」


巨大な獣は微動だにしない


「死を司るとはよく言ったものだね……文献に残るはずがない存在だし」


レヴィアはエリュシオンを獣に向ける


「ファラク……いや、冥王プルート」


獣の帯がするすると音もなく落ち、獣は人へと姿を変える


黒いローブに身を包み、顔は黒い霧に覆われている


「お母様から話は聞いてる。前回の戦争時に唯一倒せなかった魔物がいたと」


ファラクは宙に浮き、ゆらゆらと揺れる


「プルートと呼ばれていた男は忽然と姿を消した……1万の兵と共に」


ファラクは体に黒い霧状の帯を漂わせ浮かぶ


「お母様はお前を信じていたらしいけど……レヴィにとっては知らない人だから」


レヴィアは斬りかかり、霧を杖に変えてファラクが受け止める


「だから死んで?お父様」


バチッと音を立て二人は飛び退く


ファラクは黒く、炭の様な腕で杖をくるりと回しカカンッと地面を叩くと


レヴィアを赤、青、黄色の魔法陣が囲む


それぞれの魔法陣から色に応じた炎が、水が、雷が放たれる


爆発が起こり、煙が立ち込める


エリュシオンを一振り、煙を払うと


レヴィアが再び斬りかかる


小さな体で鎌を振り回しながら、時折蹴りも繰り出す


「世界で一番の魔導士……でもお母様のアンチマジックは超えられなかった」


黒い霧が大きな手となり、掴みかかる


「そして、冥界の門を開く儀式を行い、悪魔に魂を売った」


左手で光の刃を出すと、巨大な手を振り払う


「そうまでして手に入れた力は……この程度?」


レヴィアがファラクの右腕を切り落とす


が——。


無くなった腕の代わりに霧が腕となる


「死なないが最強?クロちゃんが聞いたら笑うよ?」


振り下ろした鎌を翻し、斬り上げ、腰元から肩を切り裂いた


しかし、これも霧が繋ぎ止める


ファラクが右手をクイッと上に上げると、右腕と共に落ちた杖が戻る


レヴィアは距離をとる


ファラクが杖を天に翳すと


頭上に大きな穴が開き、異様な冷気と共に黒い霧が流れ出す


「まぁ、そんなダメなお父様でもクロちゃんは救おうとするんだろうね……だから来る前に終わらせる」


霧と共に大きな異形の顔が落ちてくる


ぽっかりと空いた目でレヴィアを見つけると一瞬で飲み込んだ


フッと音もなくレヴィアはエリュシオンでかき消した


「お父様?レヴィのアンチマジックはアンチマジックじゃないよ?」


刹那——。


レヴィアがファラクの傍に移動すると、耳元で囁く


「魔法無効……皆には内緒だよ?」


バラバラにファラクを切り裂くと、繋がろうとする体を後ろ目に


詠唱を始める


「じゃあ、正真正銘の奥の手を出すよ?」


レヴィアを中心に10色の魔法陣が展開され、1つに重なると


白と黒の織り交ぜられた魔法陣となる


ファラクは地面に黒い霧を撒き、数多の黒い人を召喚する


「これも秘密ね?『カロン』」


————







————


ドアを開き、レヴィアが外に出ると


クロノスが立っていた


「ん?まさかもう終わったのか?」


レヴィアは満面の笑みを見せる


「もち~、ファラクってただのケルベロスだったよ~?」


「へぇ~、前回の大戦時には聞かなかった名前だから、てっきり強いのかと思ったよ」


「ん~、マーちゃんよりかは強いと思う~」


「おいおい、あまりいじめてやるなよ?」


「はぁ~い」


レヴィアはクロノスの手を握る


「さ~、アルスの援護にしゅっぱ~つ」


「あぁ、そうしよう」


この時、気づいておけばよかった


レヴィアが纏う影に


抱えている闇に


そして魔王は後悔に溺れる

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