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七聖の王と悪戯好きな魔王  作者: 秋野 紅葉
壊れゆく世界で溺れる姫
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施す者ティターニア

オルフェ領北西、茨の森——。


日が昇ると共に騎士達の一斉攻撃が始まった


目標は茨に厳重に守られたティターニア


だが、木の精霊ドリアードが何体も立ちふさがり


戦況は動かない。


「で……どうする?」

「んー、ドリアードは騎士達に任せて正面突破するか」

「ん……わかった」


クロノスとサーシャは戦いを遥か後方から眺めていた


「じゃあ、俺がゲートでティターニアに飛んで、そのまま北の泉に飛ぶ」

「先に……行ってる」


サーシャはフェアリールージュで北へ飛び立っていった


「さて、始めますか」


クロノスはゲートを開き、くぐると

ティターニアの背後に顔を出す。


「お前は初めましてだな」

『貴様、どこから!』


クロノスはティターニアをゲートに引きずり込む


くぐった先は北の泉、サーシャが待ち構えていた。


「ここは任せな……さぁ、始めようか年増の妖精っ!」

『貴様あの時の小娘……よくもわらわの羽をっ!』


クロノスはそのままゲートをくぐり、茨の森に戻る。


「さて、あっちは余裕そうだし……こっちを引き受けるか」


クロノスはドリアードの群れに突進した。







北の泉——。


「ベルセルクーッ」


サーシャの背に浮かぶ竪琴から爪痕が飛び、ティターニアを切り裂く

が、すぐに傷が塞がる。


『無駄無駄。小娘の攻撃なぞ——』

「ディバインロアーッ」


タクトを天に掲げ、振り下ろすと

光の矢が流星の様に降り注ぎ、ティターニアを貫く


『小癪なっ』

「飛べない妖精は只の虫ケラと変わんねぇんだよっ!這いつくばりやがれっ!」


タクトの先に黒い球体を浮かべ、飛び上がると

上空から振り下ろす


「ディザスターロアッ!」


一筋の黒い大きな雷がティターニアを貫いた


が——


すぐに再生してゆく


『今のは痛かったぞ……そろそろわらわの番かぇ?』


ティターニアの右手が光に包まれると、細剣が姿を現す。

地面を蹴ると、ごうごうと音を立てながらサーシャめがけて突進する。


「はっ、そんなの当たるかよっ」


サーシャはひらりとかわす

すれ違いざまにティターニアがニタリと笑う


『貴様が使えてわらわが使えないとでも?』


雲の上から光の矢が流星の様に降り注ぐ


「ディバインロア!?」


サーシャはタクトで必死に弾き続けるが、体を矢が傷つけていく


『旋律魔法といったか?妖精の王であるわらわが使えぬとでも?』


羽を失ったティターニアは、上空からサーシャ目がけ落下する


『これで終わりじゃ!』


細剣の先に黒い雷を纏い、サーシャの右脇腹を貫いた


「がぁっ」


サーシャが脇腹を押さえながら落下していく


朦朧とする意識の中、サーシャの右腕に飾られた金色の腕輪が光る


トリス——。本当に行ってしまうのか?


——ナダン、私の槍では王を——







一体……アナタは誰?







茨の森——。


「はーい、騎士の皆さん。一度防御態勢をとり、下がってくれるか?」


クロノスは500もの兵を下がらせると、目の前に群がる木で出来た女性の人形のようなもの、木の精霊ドリアードに右手を向ける。


「凍れ、ヒュプノス」


1000はいるだろうドリアードの群れが凍り付く

すかさず天に翳した右腕を振り下ろす。


「ケラウノス」


森の空を切り裂き、巨大な光の剣が顔を出すと

ドリアードの群れを貫き、粉々に砕いた。


が——


地面から次々に木の根が顔を出し、女性の姿を形どり

群れを成していく


「そう簡単にいかないよな……」


クロノスは苦笑いを浮かべる


「まぁでも、王が兵に無様な姿を見せるわけにもいかないよな」


クロノスはデュランダルを抜き、構えると

目を閉じる


——集中しろ、思い描け……壊し、再生する光を紡ぐ、紡ぐ、紡ぐ……

全てを覆い隠し……繰り返す命を……


「断ち切るっ!」


目を開くと、クロノスから青いマナが溢れだす

大地を強く蹴り、ドリアードの群れに向かって飛び込む


「ライトニングノヴァ!」


右手に構えた剣に左手で閃光を打ち込むと、剣が帯電する

すぐさまドリアードの群れを囲むように地面を切り裂くと

飛びあがり、中心に剣を突き立てる


「ヘカトン……ケイルッ!」


円状に大地が切り抜かれ、クロノスとドリアードはマグマへ向かい落下する

クロノスはドリアードを蹴り落としながら地上へ出る。


「さぁ、再生も追いつかなくなってきただろ?」


無数のドリアードは一体だけ、マグマの表面で再生と破壊を繰り返す。


「楽にしてやる」


クロノスは右手を伸ばすと、手のひらから黒い霧が溢れる


「タナトス」


黒い霧はドリヤードを包む

破壊される体を再生する事しか行ってなかった体が静かにマグマに焼かれていく


「もう繰り返さなくていい……静かに眠ってくれ」


クロノスは冷や汗を流しながら固まる兵の中を突き進む。

兵達はいつしか道をあけ、跪く


王は柔らかな笑顔のまま騎士団に振り向き、声をかける


「そう畏まるな、絶対的な力を持っていても同じ人間だ……とって食ったりせんよ」


兵達の顔が少し緩む


「俺はサーシャの援護に向かう。負傷兵は街へ、戦える者はディオーネへ向かってくれ」


『はっ』


騎士達は立ち上がり、行動を開始した。


「さ、いくか」


ゲートを開いたクロノスの視界に

空から落ちるサーシャが映る


クロノスはタラリアに触れ、飛び上がると

サーシャを抱え、抉られた脇腹を凍らせる


「大丈夫か?」

「ははっ……油断しちまった……」


そっと地面に降りると、優しくサーシャを寝かせる


『遅かったのぅ』


「黙れ」


クロノスがティターニアを睨むと、異形のような威圧感に固まる


「ごめんな……また傷つけてしまった」


「いや……お前は悪くないよ……」


サーシャは薄れゆく意識の中、逆光の中見える姿

自分を抱えるクロノスを『知っている』気がする……

そんな変な感覚に包まれた


願え——


誰……だ……?


今のお前には槍だけでなく……魔法がある……


は……?


守れるのだ……今度こそ……


誰……を……?


アーサーを……王を……


そんな知らない奴はどうでもいい……


なら、何が願いだ?


旧友を……新しく出来た友を守る力が欲しい!


はっきりと言葉を口にした瞬間、光に包まれた中で

鎧を身に纏った、淡いピンク色の髪の少女が


目の前で微笑んだ——。







「ははっ……そういうことか……よ」


「サーシャ!?大丈夫なのか!?」


クロノスにしがみつき、起き上がると

ティターニアを睨む


『小娘……まだ立ち向かう気か?』


「さっきの言葉……そのまま返すぜ?」


サーシャは力を振り絞り、くるりとその場で回ると

光に包まれ、黒に赤の装飾を施したドレスに包まれ姿を現す


「サーシャ、傷!」


「あぁ、治癒魔法だ!同じ妖精だ、使えるに決まってるだろ?」


『馬鹿なっ、わらわは王だぞ!?』


「ならこうしよう……これが王の力なら、たった今から私が妖精王だっ!」


サーシャは空へタクトをかざす

指揮者がタクトを振るように、ゆっくりと指揮を始めると

背に浮かぶ竪琴や森から音色が聞こえてくる


『な、なんだこれは!』


空中に光の球が浮かび始め、ティターニアを囲む

サーシャが左手をあげると、両手で指揮を始める


「さぁ、踊ってもらうよ?」


光の球が次々と、様々な色や形の槍となり

ティターニアを貫く


『な、なんだこの魔法は!?』


次第にサーシャは歌い出す

曲にアクセントをつけるように、槍が現れては貫き

ティターニアを数多の槍がその場に串刺しにする


「セレスティアルワルツ……年増の割にいい踊りだった……よ?」


曲が終わり、言い終わると共にタクトを振り上げると

数多の槍が引き抜かれ、光を放ち

ティターニアは消え去った


「はぁー、凄いな……初めて見る魔法だ」


「——タンが……教えてくれて……思いついた」


「ってあれ?いつものサーシャに戻ってる?」


「歌ってたら……心が穏やかに……なった」


「なるほどな。なぁ、今度治癒魔法教えてくれよ」


「うーん……」


サーシャはクロノスに近づくと、耳元で囁く


「そのうち……ね?」


頬に口づけると、満面の笑顔を見せた


そして、魔王は次の戦場へと向かう






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