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七聖の王と悪戯好きな魔王  作者: 秋野 紅葉
壊れゆく世界で溺れる姫
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束の間の休息

「は~い、戦いもある程度落ち着いてきたのでぇ~……」


レヴィアは椅子に縛られた少女に鎌を向ける


「謝罪と贖罪の時間でぇ~す」


レヴィアはニタりと笑う


「まず~……言いたいことは~?」


少女は俯いたまま口を開く


「皆を……クロを裏切ったことは謝る。でも……そうするしかなかった」


チャキッ


鎌が喉元に当てられる


「ふぅ~ん……で?」


「マーリン」


「はぁ?」


「やっぱり記憶は受け継がれてないのね」


「何を言っているのかなぁ~?」


「今から500年ほど前……この世界はアヴァロンと呼ばれていた。今の世界とは大差はないが、人間以外に巨人族、妖精族、女神族、魔人族、魔物……多くの種が存在していた。その世界での初めての王、真王となった者がクロ……いや、アーサーよ」


「そんな話聞いたことないよぉ~?」


「そうね、長き戦いの末アーサーは神との取引でこの世界グリモワールを作り上げた」


「なんの為に?」


「争いをなくすため……かつて、アーサーと共に戦った従者がいたの。ランスロット、ガウェイン、トリスタン、パーシヴァル、ケイ、ディナダン、エレイン……そして、あなたのお母様マーリン」


「お母様の名前はヘクサだよぉ~?」


「それはこの世界での名前。私はかつてディナダンだった者……記憶が戻るのは早かった……そして、自分の役割を知ったの」


「役割?」


「王の記憶と力を取り戻すこと……クロの為に生きること。そして、架せられた罪は……色欲」


「言ってることがさっぱり……」


「罪とは一種の感情なの。感情を失くした王の器であるクロに感情を与える使命を神から授けられたの」


「で?」


「つまり、クロは自分を取り戻す旅をしているの。気づかぬ内にね」


「取り戻したら何があるの?」


「さぁ?私もその先は知らない。ロキが言うには儀式が待ってるらしいけど」


「儀式?」


「世界を作り変える儀式……話が逸れたね。クロの記憶を取り戻すためにウルスラグナが必要だったの。ロキの手伝いをすれば、私に渡される筈だった」


「それで裏切った……と?」


「口調に余裕がなくなってるよ?怒った」


「アルス……昔から最後の最後では信用できる仲間だと思ってたけど」


「だから戻ってきたでしょ?」


「お前のそういうとこ——」


「嫌い……でしょ?それでいい。私は嫌われるだけのことをしたから」


アルスは顔を上げると涙を流して笑う


「だから……いいよ?殺して……」


レヴィアは鎌を振り下ろす


スパッ


「え?」


縄が斬られ、アルスが呆気にとられる


「どうして?」


レヴィアは鎌をしまい、後ろを向く


「クロちゃんに……嫌われたくないだけだから」


レヴィアは机の上の本を手に取ると入口に向かい投げる


パシッ


「いつからだ?」


「アルスが話し始める前から~?」


クロノスが本を持ったまま部屋に入る


「え……クロ?」


「まったく、ほんと姫様達の中でもお前達が一番手がかかる」


クロノスはアルスの横に椅子を置き、腰かける


「で、レヴィアはもういいのか?」


「クロちゃんに免じて~」


手をヒラヒラさせながら部屋から出て行った


「私は許されたの?」


「さぁな、レヴィアは見ての通り根に持つからな」


「そう……」


アルスは膝に肘をつく


「あぁーあ、クロにカッコ悪い所見せちゃった」


「もう全てさらけ出した後だろ?」


「それもそうね」


アルスはクスりと笑う


「さ、お前も休め」


クロノスはゲートを開く


「うん、クロも早く来てね?」


「あぁ」


アルスはゲートの向こうに消えていった


「さて——」


クロノスは塔の階段を上っていく


屋上ではレヴィアが外壁に腰かけていた


「それで、感想は?」


「ん~、まだよくわかんない」


「だろうな」


クロノスは微笑む


「俺もまだ整理はついていない。自分の前世がどうであれ、こうやってレヴィアといること……姫様達と過ごしたことが今の俺、クロノス・ヨルムンガンドには重要な事だからな」


「ならいいんだけど~」


「不満か?」


「ん~ん、クロちゃんらしいよぉ~?」


「ならよかった」


「で、これからどうするの?」


レヴィアは真剣な顔で問う


「ロキをぶん殴る。そして……世界を——」


「作り変えるの?」


「いや、その時がくればわかるさ」


クロノスは少し寂しそうな顔で空を見上げた


赤い月も今日は悲し気に見えた


————


「で、状況は?」


ベルフェは眼鏡を外し首からかける


「セラフィム、ティターニア、ファラク共に動きがありませんわ」


マーモはベッドに腰かけたままスクロールを読み上げる


「僕達が戦場に戻れるまでこのままだとありがたいね」


「それは無理じゃねーか?」


ヘファイストスが部屋に入ってくる


「どういう意味だい?」


「そのままの意味だよ。うちの可愛い妹でさえあんなに疲弊しきってんのに、お前らみたいなか弱い娘はまだ時間がかかるだろ」


「正直おっしゃる通りですわ」


マーモは苦笑いを浮かべる


「残る戦力はベルとサーシャ、行方知れずのアルスとレヴィアだね」


「クロノスがいるだろ?」


「あれは戦いすぎているから何とも言えないね」


ベルフェが手をヒラヒラと振る


「そうですわね……せめてアルスとレヴィちゃんがいれば——」


「呼んだ?」


アルスが部屋に入ってくる


『アルス!』


「うるさい。明日からは私も参加するから大丈夫だよ」


「君は本当に神出鬼没だね」


ベルフェは頭に手をやる


「まったくですわ!遅すぎますわ」


「役目はこなすから問題ないでしょ?」


アルスはマーモの隣に腰かける


「で、布陣は?」


「ティターニアにサーシャを、君にはセラフィムを当てる」


「はーい」


「ファラクはどうしますの?」


「それはレヴィにおまかせ~」


レヴィアが大きな麻袋を引きずって入ってくる


「魔女の嬢ちゃん、それは?」


ヘファイストスが恐る恐る尋ねる


「ん~、抱き枕?」


レヴィアは軽く首をかしげる


「なんだが動いてますわね」


麻袋はジタバタと動き回っている


「あー、じゃあレヴィアはファラクを。クロノスはいないようだけど一応……遊撃を引き続き頼むとするよ」


バタンッと麻袋が大きく動く


「では、明朝仕掛けますわよ!」


『おー』


それぞれが眠りにつく


束の間の休息であり、日常の欠片


明日への不安を抱きながらも


それぞれの朝が来る


そして魔王はせん滅する

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