第二軍「邂逅」
延々と続くレンガの道
青白い街燈
ほうほうと明かりの灯る家屋
クロノスはあてもなく歩く
ここは常世の国セレネ
「何処へ行こうか……タイミング的にそろそろレヴィアが……」
「は~い」
レヴィアが背後から抱き着く
「お待たせ~」
「いや、こっちも今来たところだ」
「ベルフェとベルゼは?」
「あぁ、負傷してな……剣の国で療養してるはずだ」
「いつから女性を守れないほど弱くなりましたの?」
マーモが建物から出てくる
「すまない、単独行動をしている間に……」
「あれほど言いましたのに……無事ですの?」
「あぁ、精神的ダメージがでかいだけだ。直に動ける」
「なら許しますが、次はありませんわよ?」
「あぁ、そいつは?」
マーモの後ろで少女は眠そうに欠伸をする
「あぁ、挨拶しなさいな。サーシャ」
少女はクロノスの前に立つと
首筋に這いより匂いを嗅ぐ
「は?」
「ちょ」
「うん……私は……好きかも。この匂い」
少女は離れると無表情のまま話す
「サーシャ……ドラコニル。オルフェの聖王です」
ペコりと頭を下げる
「あぁ、俺はクロノス・ヨルムンガンド。元魔王の旅人だ」
笑顔で手を差し伸べる
?
サーシャは不思議そうに手を見て
舐め始めた
「ちょ、何やってますの!?」
「え……?違うの?」
「ごめ~ん、クロちゃん。サーシャ変わってるの~」
レヴィアはサーシャの首を掴むと引っ張り戻す
「あぁ、確かに……マナの雰囲気がこう、青と白が混じり合うような」
「私……ハーフエルフ」
引っ張られたまま話す
「ほー、伝説上の人種だと思ってた」
「いがみ合う人種だしね~」
「伝説上の人種が二人もいるとありがたみもありませんけど」
マーモは苦笑いする
「さぁ、宿をとってありますわ。そちらで話しましょう。ここだと……」
あたりを見渡すと
ヴァンパイア、魔導士、ウェアウルフ、ラミア——
人と魔物が入り乱れている
「あぁ、そうだな」
——コトン
マーモはグラスを机に置いた
「でわ、報告から……冥府を司る者ですが、バハムート、ファフニール、ティターニアを確認。ティターニアはレヴィちゃんが深手を追わせましたわ」
「いぇい」
レヴィアは誇らしげだ
「おぉ!やるじゃないか」
クロノスがレヴィアを撫でると
サーシャも頭を差し出す
「私も……貢献した」
「あ、あぁ、そうか。えらいな」
クロノスが撫でるが
無表情のままだ
そしてレヴィアがむくれている
「話を戻しますわよー」
「あぁ、すまない」
「サーシャも加わって、戦力も大幅に増強されましたので、全員揃い次第ロキ軍の本拠地に攻めますわ」
「サーシャってそんなに強いのか?」
「聖王の中では単独で二番目ですわね」
「へー、こんなに華奢で可愛らしいのにな」
サーシャがクロノスの袖を掴む
「ありがとう……」
「何がだ?」
「褒めてくれて……」
「あぁ、事実を言ったまでだ」
「結婚……?」
「するか?」
「私は……いいよ……?」
『スパーンッ』
マーモはサーシャの頭を書類で
レヴィアはクロノスの頭を本で
殴った
「痛い……」「何をするんだ」
「なんかむかつきましたの」「クロちゃん……浮気はダメ……」
「腑に落ちないが……」
クロノスは不機嫌そうに椅子にもたれかかる
「サーシャ?クロノスの何処がいいんですの?」
サーシャは下唇に人差し指をあてる
「匂い……優しそう……かっこいい」
「直球ですわね……」
苦笑いをする
「クロちゃんは~、サーシャみたいなのが好みなの~?」
「う~ん、華奢で、儚くて、綺麗なピンクの髪、艶やかな唇、甘い森の香り……好みと言えば好み——」
首元に鎌の刃先が置かれる
「だまろ……っか?」
レヴィアが背後から声をかける
「自分が聞いたのに理不尽だ!」
鎌を納め、後ろから手を回す
「レヴィは……?」
「あぁ、好きだぞ?可愛くて、素直で、妙に色気があって……何よりもレヴィアの口づけは——」
手を回したまま前に跨り、口づける
熱く、濃厚で、お互いの熱を——
「ん……ぅん……んあっ……あれ~?」
クロノスがぐったりしている
「レヴィちゃん……?」
「ごめん~、刺激が強かったかも~」
舌を出して笑う
するとサーシャの髪がざわつく
『あ』
「レヴィア……てめぇ……アタシが気に入ったっつってんのに、何をしてくれてんだ?あぁ!?」
クロノスはあまりの出来事に我にかえる
「え?サーシャ……?」
「あ?てめぇもてめぇで、ふぬけてんじゃねぇぞ!?」
「え」
「激昂の悪魔……サーシャは感情が高ぶるとキャラが変わりますの」
マーモは頭を押さえる
「ごめん~、やりすぎた~」
レヴィアは珍しく苦笑いする
「だいたいレヴィアはなぁ」
「サーシャ?竪琴貸して~?」
「あ!?まぁ、かまわねぇけど……」
サーシャは鞄から竪琴を取り出し、渡す
「はいは~い、ごめんね~」
レヴィアが竪琴を鳴らすと
「てめっ、なーにーをー」
サーシャが無表情に戻り
レヴィアから竪琴を取り上げると
抱えたまま窓辺に座った
「へ?」
「オルフェウスの竪琴……魔法の倍加が主ですが、あまりに綺麗な音色は感情も抑制されますわ」
「いや、それも驚きだけどさっきの……」
「戦闘中は心強いから心配な~し」
クロノスが頭に手をやると
窓辺にいたサーシャが
竪琴を鳴らし、歌いだす
——
「俺……歌とかまともに聴いたの初めてだけど……すごいんだよな?」
「えぇ、ここまで綺麗な歌はありませんわ」
「ずっと聴いててもいいよね~」
「あぁ、綺麗だった……」
サーシャは何かに気づいたように
竪琴をしまうと
タクトを出す
「フェアリールージュ」
タクトを振り、足に七色のカーテンを絡めると
外へ飛び出す
「どうしましたの!?」
マーモが窓に近づくと
クロノスが押しのけて
タラリアを使い飛び出す
「神樹が……燃えている!?」
「は!?」
驚くマーモを突き飛ばし
サーシャが戻ってくる
「レヴィア……ゲート」
「わかってる」
レヴィアがゲートを開くと
四人は駆け込む
街が……
燃えている……?
空には異形の天使が空を埋め尽くすほどに
森を、街を焼き払う
サーシャはその場に崩れ落ちる
「おい——」
「アルス……?どうして……」
サーシャの髪がざわつく
「どうしてアタシの国に手を出したーっ!アルスーっ!」
サーシャは天を貫くほどの声で叫んだ
声は届かず
ただ燃える森の中で
こだました
そして、罪と向かい合う




