第一軍『ルシフ隊結成!?』
夜の明かりに照らされながら
船上でルシフは海を見つめる
……キィ
「姉様、ここにいましたか」
ジンが隣に並ぶ
「あぁ、ロキの話を……な」
ルシフは遠い目をしている
「わかります……ユミル兄様の仇といえど、同情はします」
「だよ……な」
ルシフは海に背を向け、船にもたれかかる
「生まれ方を間違えた?環境を間違えた?時代を間違えた?そんなのは只の言い訳にしか過ぎないし……自分の責任で歩いている……」
「でも、クロノス様のように与える心を持ち合わせていなかった」
カコンッ
ルシフは煙を上げるキセルを鳴らす
「あぁ……奪う心しかなかったんだ……どうだ?聖王に会ってクロノスは変わったか?」
「えぇ、欲張らず、奢らず、怠けず……まともになっていきますね」
「カッカッ、どんだけ駄目なやつだったんだ?」
ルシフはキセルを吹かし、笑う
「優しすぎる方でした……全ての罪を赦した後に記憶を戻し、王となるころにはきっと……」
ジンは遠い目をする
「あぁ、楽しみだな……その為にはロキを止めないとな」
「はい……あぁ」
ジンは微笑む
海から日が昇る
大陸を照らす朝日は
これから起こる悲劇の幕開けを現していたのかもしれない
——
……ぇちゃん
……ってば!
お姉ちゃん!
ベルフェは目を開ける
「よかったぁ……」
ベルゼは涙を流し微笑む
「ここは……?」
「剣の国のルシフの宿だよ?」
あぁ……僕は……生きている
起き上がると胸元から杖が転げ落ちる
傷が一つもない……
ベルゼの服をめくる
「ちょっ」
傷がない……
「夢?」
「夢じゃないよ!お姉ちゃん?」
「ん?」
「守ってくれてありがとう」
満面の笑みだ
あぁ、その笑顔を守るためなら
命など惜しくないさ……
「いや、待て。何故守ったと知っている?」
ベルはずっと眠っていたはずだ
「夢の様な……きっと現実なんだけど、クロノスさんがお姉ちゃんに礼を言えって」
「あぁ……彼には助けられてばかりだな……」
「惚れ直した?」
「あぁ……って何を言わせるんだい!?」
「大丈夫!ベルも惚れ直した!」
二人は顔を赤くして笑う
「で、彼は何処へ向かったのだろう」
「セレネじゃないかな?」
「そうだったな……では、僕たちも——」
ベルフェはふらつく
「わかってる。言っても聞かないもんね?お姉ちゃん」
ベルゼはベルフェを受け止めると
しゃがみ、背を向ける
「なっ、まさか……」
「マナが回復するまでの間……ね?」
「むぅ……」
ベルフェはむくれながら背に乗る
「お姉ちゃん軽いね~」
「女性は軽いほうがいい」
「背中がごつごつ痛いよ?」
「うるさい……」
肩を掴む手が力む
「痛いよ~」
「ベルだってないくせに……」
「姉妹ってことだね~」
ベルゼは笑う
そして街の南へ向かっていった
——
「で、本気で言ってますか?」
ジンは苦笑いをする
目の前にはアスティア山脈が聳え立つ
「あぁ、何のために軍を国に返したと思っているんだ?」
「急ぐためですね……わかりました」
「じゃあ、いくか——」
二人は山をめがけ駆けあがる
ジンは岩から岩を飛び
ルシフは地面を素早く駆ける
あっという間に山頂まで登りつめた
「坑道を通ったほうが速い様な……」
「いや、そうでもないぞ?見ろ」
遥か西で……国が
燃えている?
「ありゃあオルフェだな……」
「急いだほうが良さそうですね」
「あぁ、そうしよう」
今度は山を滑るように降りる
ルシフは砂埃を上げながら
ジンは風を切りながら
あっという間に駆け降りると
「姉様!」
「あぁ、わかってる」
二人は岩陰に身を隠す
「ここは?」
「セレネへの洞窟だ……滅多に通る奴はいないから……魔物か?」
ジンは身構える
「お姉ちゃん……少し休んでいーい?」
「あぁ、入る前に休もう」
見覚えがある姉妹……
「おーい、ちびっ子姉妹ー」
ルシフが近寄る
「誰がちびっこだ!」
ベルフェは言い返す
ジンも後を追う
「クロノス様は?」
「ベルが失敗しちゃって……先に行っちゃった」
申し訳なさそうにする
「そういうことですか、直ぐに追いましょう」
「あぁ」
ジンはベルフェをおぶると
歩き出す
「ジン……すまない」
「いえいえ、ベルフェ様をここまでにするなんて……どんな魔物ですか?」
「確かに、マナが枯渇しているのは私でもわかるよ」
「んーとね、銀髪の優しそうな男の人」
『!?』
ルシフとジンは顔を見合わせる
「その顔は何か知っているようだね……」
「はい。ロキ……ですね」
「あれがか!?」
「恐らく……魔法は?」
「上位エレメンタルとアーカイブだね」
「あちゃー、間違いねーだろ。そんな人間クロノスぐらいしか見たことないからな」
「姉様」
「あぁ、すまない……」
ルシフはばつが悪そうな顔をする
「惨状は見ましたが……何があったんですか?」
「君たちも行ったのかい?」
「えぇ、まぁ」
「忘れ物をとりになー」
「なるほどな……僕が体調を崩してね……ベルゼがそこに居合わせたロキに水を頼んだらしいんだ。持ってきた時に短剣でベルを刺した」
「まぁベルフェ様なら罠にかかるマナの量ですからね……」
「いきなり刺すとは危ない奴だな」
「それから応戦したんだが……クロノスと戦った時の……いや、それ以上の実力差を感じたよ」
「そこまでですか」
「ところで……君はあそこに詳しいみたいだが?」
「まぁ住んでいましたので」
「あれは……その前に」
一同は立ち止まる
「ベルが様子を見てくる」
ベルゼが開けた所に出る
結晶が散らばっている
「大丈夫!誰かが戦ったあとみたい!」
「結晶を置いてけぼりとはいただけねぇな」
ルシフは拾い集め、腰に下げた袋に入れる
「クロノス様ですかね?」
「断定はできないな……これが全てゴブリンなら冒険者にも可能だ」
再び進み始める
「それで……あそこはなんなんだい?」
「王墓……と呼ばれる場所です」
「クロノスの父上の墓でも?」
「そんなとこです」
「じゃあロキはいったい……」
「そこなんだよなぁ。何をしていたのか……」
奥からうめき声が聞こえる
「気をつけろ、結構でかいぞ」
ルシフが背負っていた剣に手をあてる
「ベルゼ、戦えますか?」
「問題なーし」
「では、お二人でお願いします」
「すまない……」
「いいってことよ」
一行が近づくと
大きな壁があり
壁の上からは黒い煙が流れ出ていた
「ロックサークルにタナトス……?」
「どんな魔法だ?」
「岩で取り囲んでお互いを戦わせている」
「おいおい、むごいことをするなー」
「どうするー?」
「一思いにやってやるよ」
ルシフは剣を構える
「唸れ!レーヴァティン!」
大剣を渦巻く炎が包む
ふとジンを見る
「妹が出来て姉が出来ないのは恥だからな」
悪そうな顔で笑う
「え?」
「はぁあああああっ、炎月!」
斬り下ろし壁を割ると
斬り上げてサイクロプス二体を両断した
「姉様まで私の剣を使いますか」
「いやー、ジンほど上手くいかないわ」
結晶化するサイクロプスをしり目に笑う
「いえ、お見事です」
「ジン姉の技?」
「えぇ、エンチャント効果を作り出す技です」
「えー、なら今度ベルが手伝うよ」
「はい?」
「あぁ、言ってなかったね。ベルはエンチャンターなんだ」
「はぁ!?私ですら初耳だぞ!?」
「お姉ちゃんから使うなって言われてるから」
ベルゼは苦笑いする
「たまに暴走するからな」
「それなら……」
ジンはベルフェを降ろし、金色の腕輪を二人にはめた
「これは……?」
「能力が増加する腕輪です」
「おぉ、マナが湧き上がってくる」
「ベルもマナが感じられるよ?」
「ジン……?腕輪、増えてないか?」
「お気になさらず」
ジンは微笑んだ
一行は再び歩き出す
「外だー!」
青い光に向けてベルゼが走り出す
「こら、ベル!危ないぞ!」
キャァアアアッ
「ベル!?」
ベルフェは走り出す
ジン、ルシフも後を追う
外に出ると
両腕を失くしたミノタウロスが固まっている
「はぁ!?どういう状況なんだ!?」
「ベル!大丈夫か!?」
「う、うん。いきなりすぎてつい、叫んじゃっただけ……」
ジンはミノタウロスを刀で突く
が、膜の様なもので押し返される
「どうやらクロノス様は拗ねてらっしゃいますね」
「やはり彼なのか!?」
「はい、この魔法を使える者は他に知りませんので」
「何に拗ねてるんだろ……」
「ベルゼ達を救えなかったーとか考えてるんじゃないのか?」
「さすが姉様。そういったものかと思います」
「この魔法は……?」
「時系統最上位魔法……一番得意な魔法で、一番使いたがらない魔法です」
「馬鹿な!時系統に最上位は存在しない筈!時を止めるなど神の所業——」
ジンは唇に人差し指をあて、微笑む
空を見上げて赤い月に向けて言う
「その名を持つ者が使えないわけないですよ……時系統最上位魔法……クロノス。時さえも意のままにしてしまう方なんです」
三人は呆然と立ち尽くす
理解が及ばない話を聞いたから?
存在するはずのない存在がいると知ったから?
その存在が敵ではなく味方だったから?
真意は赤い月でさえ判らない
そして、悪魔と魔王は邂逅を果たす




