第二軍『宝具』
アスティア帝国執務室——
「しかし、簡単に宝具の行方を探すことはできませんわね」
マーモは本を読み漁る
「作られた宝具が誰に渡されて、何に使われ、何処へ向かったか……知る者はいない」
レヴィアは棒状の飴を、マーモに向けて言い放つ
「はいはい、わかりましたから探してくださいますか?」
「むぅ~、付き合い悪い~」
レヴィアは扉へ向かい歩き出す
「何処へ行きますの?」
「図書館~」
扉が閉まる
「何か手がかりがあれば……」
マーモは椅子にもたれかかり、宙を仰いだ
——
「図書館~図書館~」
レヴィアは軽快に図書館のドアを開く
ここは帝国図書館
大陸中の古い文献や重要な魔導書
叡智の全てを注ぎ込んだ施設である
魔の道を進むなら
帝国図書館と冒険者ギルドの資料を全て読め
さすれば、永劫の刻印が授けられるだろう
大昔の魔導士が残した言葉だ
レヴィアは受付に進む
「ねぇねぇ、宝具関係の本はどこ~?」
「これは聖王様。7-18の棚にございます」
「ありがと~」
レヴィアは奥に進み、4列目を左へ曲がる
奥へ進み、18個目の本棚の前で立ち止まる
「おおいな~」
レヴィアは聳え立つ大樹を見るかのように
見上げると——
ゴンッ
「あぅっ」
本が一冊落ちてきて
レヴィアの頭を強打した
「申し訳ない、大丈夫ですか?」
一人の男が声をかけてくる
「いたぃよぉ~」
レヴィアは涙目になりながら、動きを止める
あれ?この声……
走りだし、8の列に向かうと
『あ』
レヴィアとクロノスが顔を見合わせる
「レヴィア~」
「クロちゃ~ん」
二人はがっちり抱き合う
「丁度お前に会うか考えてたとこなんだ」
「同じく~、助けがほしくて~」
「冥府の」「宝具の」
『ことなんだけど……』
『はい?』
——
二人は図書館の外に設置された休憩所に腰かけ
紅茶を嗜む
「さっきは悪かった、ここは奢るから許してくれ」
「なら許す~」
レヴィアは脚をぶらぶらさせ、ご機嫌のようだ
「で、宝具の何が知りたいんだ?」
「各聖王の弱点を補えるようなものの在りか」
「難しいな……例えば?」
「ベルフェは近接戦闘が出来ない~」
「ならアイギスの盾みたいな防御だな」
「マーモは火力不足~」
「デュランダルのような能力の底上げ」
「ベルゼは単体向きの攻撃しかない~」
「ミストルティンみたいな範囲攻撃」
「ルシフは防御が下手~」
「んー、それなら楯無かなー」
「楯無~?」
「あぁ、防御特化の宝具だ」
「何処にあるの~?」
クロノスは街の北東に位置するここから
南西を指さす
「四神の森の玄武だ」
「おぉ~、その手があった~」
レヴィアは手をポンッと叩く
「ん?」
「三匹狩れば三つ手に入る~」
満面の笑みだ
「おいおい、簡単に言うな……」
クロノスは苦笑いする
「他に目ぼしいものは~?」
「そうだな……パンドラの箱、アルテミスの弓、フレイヤの羽衣、八咫鏡、オルフェウスの竪琴、ガラハッドの盾、グラム……ここら辺は欲しいと思っている」
「やっぱりマニアは違う~」
「あと、伝説上だがエクスカリバーと聖杯も欲しいな」
「聖杯って伝説上なんだ……」
レヴィアはカタカタ震えだす
「どうした?」
「なんでもないの……それより、竪琴と弓は聖王がもってるよ~」
「先越されてたのか……」
クロノスは肩を落とす
「それで~?冥府を司る者について何が知りたいの~?」
「あぁ、名称、特徴、強さかな……強さは想像でいいよ、どうせ伝説上の生き物だ」
「強さは騎士が1000人いても勝てないかな~。さっき見たけど~」
「やっぱり出くわしてたか」
「うん~。気づいてたの~?」
「あぁ、こっちも出くわした」
レヴィアの顔が真剣になる
「急がないと不味いね……」
「あぁ、世界が壊れるかもな」
「レヴィたちが遭遇したのは大気を司る者バハムート……クロちゃんは?」
「八つの光る瞳……裏側で暴れていた」
「次元を食む者ファフニールだね。他には、遡る者ウロボロス、光を編む者セラフィム、施す者ティターニア、死を操る者ファラク……そして、一同に身を捧げ真なる王が目覚める」
「伝説の一部だな」
「その名はヨルムンガンド」
「!?」
クロノスは固まる
「クロちゃんの名前、皆が引っかかってた理由がこれだろうね」
「え、じゃあ俺が強くなるの?目覚めるの?」
「それはないよね~。これ以上強くなって何になりたいの?神にでもなるの?」
「神になれば本を読み続けられるなら」
クロノスは真剣な顔で答える
「も~、クロちゃんと話してると馬鹿らしくなる~」
レヴィアはいつもの笑顔に戻った
「失礼だなー」
クロノスもあっけらかんと笑う
「話戻すよ~?」
「あぁ、悪い」
「ウロボロスは尾を咥えた巨大な蛇、バハムートは黒い龍人、ファフニールは八つ目の蛇、セラフィムは天使、ティターニアは妖精、ファラクは闇のような者。伝承にはそうある」
「聖典には?」
「あんな使えない辞典には登録されてないよ~」
「そうか……ありがとう」
「これからどうするの~?」
レヴィアは立ち上がるクロノスに問う
「あぁ、まずはセレネに向かう」
「まだ向かってなかったんだね~」
「ちょっと野暮用でな」
「じゃあ、こっちも終わったらセレネに行くね~」
「あぁ、頼む」
クロノスが歩き出すとレヴィアが呼び止める
振り向くと、抱き寄せられ
口づける——
「すぐに会えるおまじない~。じゃあ……ね?」
呆然と立ち尽くすクロノスを置いて、レヴィアは走り去る
——
クロちゃんに会えたクロちゃんに会えた
クロちゃんに会えたクロちゃんに会えた
クロちゃんに会えた……
——ズダンッ
扉が勢いよく開かれる
「なんですの!?何かありましたの!?」
マーモは驚く
「今なら空も飛べる気がする!」
レヴィアはやる気に満ち溢れている
「いや、レヴィちゃんは元から飛べそうですけどねー」
マーモは苦笑いをする
「で、収穫はありましたの?」
レヴィアは椅子に腰かける
「聖王軍は厳戒態勢で駐留、神格を持つ者の捜索は放棄」
「はい!?それでは魔王がいた頃と同じではないですか?」
マーモの脳裏に鮮烈な記憶がよぎる
城壁からは出られず
毎日を怯えながら
辛辣な生活を送る
「うん、あの頃よりもひどくなるかも」
「そんな……」
「あくまで準備ね~。そうならないようにするのが、レヴィ達の役目~」
レヴィアは笑う
「そうですわね。私たちはどうしますの?」
「四神の森で宝具を手に入れ、サーシャと合流する」
「そうですわね。サーシャがいるだけで戦況は大きく変わりますわね」
「アルスは……」
レヴィアは俯く
「私たちが説得しますわ!今はやれることを、ひたすらやりますわよ!」
レヴィアは静かに笑う
「じゃあいこ~」
マーモは軍に指示を出し
支度を終わらせ、街の入口へ向かった
「おそいよ~」
レヴィアがむくれて、しゃがんでいた
「仕方ありませんわ。私はレヴィちゃんみたいに、空間移動の術はありませんので」
と、目の前でレヴィアが指で空を切る
「さ、いくよ~」
アストラルゲートに入って行く
「あー、それそれ、それですわ」
うなだれながらマーモもくぐる
森の開けた場所——
目の前には赤く炎に包まれた大きな鳥がいた
「お出迎え?」
レヴィアが首を傾げる
「いきなりですわね……」
『また人の子か……』
「頭に直接!?」
マーモは頭を押さえる
『ほぉ、そちらの魔女は驚かんか……』
「なれてるからねぇ~」
レヴィアは鎌を取り出し構える
『意気揚々としているところ悪いが……もうここには我しかおらん』
「どういうことですの!?」
『青龍も玄武もやられてしまってな……』
「誰に~?」
『銀色の髪の青年だ……我に興味を向けず帰っていったがな……』
「で、やるの~?やらないの~?」
レヴィアは鎌を向ける
『我はこの森を守らねばならない……見逃しては貰えぬか?』
レヴィアは鎌をしまう
「いいよ~?代わりに情報をくれる~?」
『なんの情報だ?』
「ウルスラグナ……」
『はて……何処かで聞いた名だな……よかろう、調べてやろう』
朱雀は羽を一つレヴィアに授ける
『これで我と会話が出来る……何か判れば伝えよう。感謝するぞ、魔女よ……』
朱雀は炎に包まれ、消えた
「何が起きたかさっぱりですわ」
マーモは立ち尽くす
「守護者がいなくなって森が無くなるのは困るからね~」
「レヴィアちゃん、狩ろうとしてましたわよね?」
「うん、青龍の宝具はいらないから、青龍以外をね~」
レヴィアはまた空を指でなぞる
「ほら~、オルフェに行くよ~?」
レヴィアはゲートに入って行った
「よくわかりませんけど、わかりましたわ」
マーモは頭に手をあて、後に続く
二人は再会を……
そして別の二人は窮地を迎えていた




