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再会

「これが私を励ます為のデートとやらですか?」


「そのつもりだったんだが……」

クロノスに少女が抱き着いている


「初めまして……?エコーです」

ジンに少女は満面の笑顔を見せる


時は遡る


——


「おはよう」


「おはようございます」


クロノスが広間に行くと

ジンがお茶を飲んでいた


「皆は?」


「姉様と兄様は鍛冶に、ベルゼとベルフェ様は買い物、マーモは仕事に、レヴィアちゃんはマーモの手伝いに」


「へぇ、そういうことね」


「なにがですか?」


クロノスはジンの正面に座る


「俺が好んで読む物語では若い男女が出かけることを『デート』という」

「はい、知っています」

「ジン」

「はい?」

「デートしよう」

「!?」


ジンはお茶を吹き出し、せき込む

「おい、大丈夫か?」

「え、えぇ。まさかクロノス様から、そのようなお誘いがあるとは」

「嫌か?」

「いえ、喜んで!でも、気遣いですよね?」

「それは俺達を二人きりにした皆の気持ちだ。俺は心から」

ジンが少し照れる


「でわ、どちらに?」


「街の西側に大きな湖があるらしい。そこへ行こう」


「はい」

ジンは機嫌が良さそうだ


二人は支度をして館を出ると

街の西へ向かう


「そういえば昨日、あれからどうしたんだ?」


宴は散々なものだった

騒いで、泣いて、喜んだヘファイストスは広間の床で眠り

ベルフェも酔っ払いずっとベルゼに絡みついている

レヴィアも酒を飲んでいるが、あまり変わっていない

相変わらず迫ってくる

マーモとルシフは昔話をジンに聞かせている


俺も飲み過ぎたようで……部屋に戻り寝た


「ベルフェ様はベルゼに抱えられて部屋に行きました」

「予想通りだ」

「兄様は朝まで床で。一応布はかけておきました」

「うん。予想通り」

「私はマーモと姉様と三人で部屋に行き眠りました」

「うんうん」

クロノスは微笑ましく頷く

「夜中にクロノス様の様子を見に行ったところ、レヴィアちゃんが裸で添い寝してました」

「え」

「クロノス様も上半身が裸でしたので、お二人に布をかけて部屋に戻りました」

「はい?」

「初めての夜伽を私に任せていただけなかったのはショックでしたが……」

「いや、あのー……え?」

「ですから、レヴィアちゃんを部屋に招いたのでは」


クロノスは冷や汗を流しながらカタカタ震えだす

「なにそれー……いや、寝た。寝た……よな?確かに一人だった……」

その時クロノスの脳裏に何かがよぎる


楽しく話す皆を見る視界の片隅で


レヴィアが


レヴィアが……


レヴィアが俺の酒に液体を注いでいる!


「おおおおおおお、なんでつっこまなかった俺!よく考えれば気づくよな!あぁ、気づくとも。もっとも警戒するべき相手に警戒を怠った……」


「ク、クロノス様……?」

頭を抱え呻くクロノスを不思議そうに見る


「レヴィア……超こえー……」

「何かありました?」


クロノスは頭を左右に振り、我にかえる

「それは、あれだ。夜中にレヴィアが勝手に忍び込んできたんだ」

「でも裸でしたよ?」

「あいついつもダボダボな服を着てるだろ?きっと脱げたんだ」

「クロノス様は——」

「暑かったよなー。昨日」

「そういうことですか」

ジンは胸を撫で下ろした


「まったくー、レヴィアはしょうがないなー」

「そうですね」

ジンは微笑むが


クロノスは笑えなかった


「お、見えてきたぞ!」


視界一杯に広がる山を背にした湖は

空の青を映し、あたかも眼前に空が広がるように見えて

自分が今まさに羽ばたこうとする鳥とさえ錯覚するほど

一言で言えば


圧巻——


山々の向こうには大きな大樹が見える

向こうはエルフの国オルフェだ

かの有名な神樹があれなのだろう


「凄いな」

「えぇ」


見惚れていると、湖畔で寝転がる少女に気づく


「女の子が一人で来るなんて、ここは安全なんだな」

「えぇ、魔物の気配はしません」


クロノスは少女に歩み寄っていく

「何処か寛げそうな木陰は……すいませーん、この辺で最適な木陰知りませんかー」

「あ、またクロノス様は——」


少女は起き上がると首を傾げ

勢いよく振り返ると走ってきた


乱れる銀糸のような髪、透き通るような白い肌

慎ましやかな双丘はほんのり頬を染めて

え——あの服……透けてませんか?


ジンは目を疑う


「クロー」

「エコー!?」


目も当てられないような薄い布を纏っただけの少女は

クロノスに抱き着く

少し濡れている?

それに……何処かで見たことある様な……


そして話は冒頭へ戻る


——


「なんですか?あれですか?貴女が痴女ってやつですか?」

「その響き嫌いじゃないけど……あんまり体に何かを纏いたくないのよね」

「うわー、危ない人だー」

ジンは苦虫を噛み潰したような顔をする


「久しぶりだな、今日は何をしてるんだ?」

「水浴びだよ?ここって神樹の影響で身を清める力が強いんだって」

「そうなのか」

「クロノス様?その女の格好にはつっこまないんですか?」

「いや、だって綺麗だし。本人がいいならいいんじゃないか?」

「さっすがクロ!私が愛する旅人さん」

「あぁ、俺も好きだぞ」

「は?」

ジンが固まる


「クロノス様……今、なんと?」

「いや、前に会った時に約束したんだ。次に会ったら好きって言うって」

「へ、へー……」

「クロ、そちらの方は?」

「あぁ、俺の大切な友人。ジンだ」

「へー、『友人』ねぇ」

エコーの顔が少し悪い顔になる


その顔を見てジンは気づく

「貴女……もしかして……デ——」

エコーはジンの口を塞ぐと、腕を引っ張って走って行った


「ん?どうしたんだ?」


クロノスから離れた木陰——


ジンは手を振り払う

「貴女はやはり——」

「黙ってくれるかな?」

光のない瞳で笑う


ジンは冷や汗をかく


するとエコーはいつもの儚い笑顔に戻り

「交渉しよ?」

「交渉ですか?」

「うん。神話を黙っておく代わりに、私の事をクロに話さないでくれるかな」

「しかし、目的は?」

「クロのことをよ~く、知りたいだけ。他意はないわ」

「ですが……」

「神話を今話されたら、困るのはアナタの方じゃないの?『右腕』さん?」

「貴女はどこまで——」

「私を一番敵に回したくなかったんでしょ?なら、仲良くしよ?私、アナタは嫌いじゃない。あの子にも好かれているみたいだし」

「敵じゃないのですか?」

「今はね」

ふふんと機嫌良さそうに答える


「わかりました……確認します。私は貴女の事を話さない。貴女は神話を語らない。これで間違いありませんか?」

「も~、堅いなー。あってるよ、ジンちゃん?」

エコーは満面の笑みだ


ジンはため息をつく


「さ、もどろ?」

「はい」


「お、やっと戻ってきた」

「ただいま、クロ」

「お待たせしました」


「あぁ、二人は知り合いなのか?」

「うん、リオスでね。ねー、ジンちゃん」

エコーは少し悪い顔をする

「は、はい。エコー……」

ジンは笑顔が引き攣る


「そうか、ならよかった。三人で寛ぐか」

「そうしよー」

「はぁ」


三人は湖畔でお茶を飲み、エコーが持ってきていた弁当を食べる

「ジンちゃーん、水浴びしよー」

「おいおい、ジンは恥を知っているぞ?」

「じ、実は」

ジンは背後で着物をするすると、音を立て脱ぐ

「は!?」

クロノスが振り返ると


胸元と腰元を薄い布で隠したジンが立っていた

「あまり……見ないでください」

「ごめん、凄く綺麗で……」

「水着というものらしいです」

ジンは頬を染めながら、髪をくくりながら言う


「へー、なんか裸より妖艶だな」

「クロがそう言うなら私も持ってくればよかったー」

エコーがむくれる


ジンとエコーが水辺で戯れる


「水の妖精っているとするなら、こんな感じなのかなー」

クロノスはぼーっと見つめる


何か違和感が……


湖の中心が震えている?


「二人とも、湖から出るんだ!」


『え?』


揺れが激しくなり


二人は湖から出ると共に


雄たけびを上げ、大きな蛇が現れる


「えーと、こいつは俺でも知ってる……水の精霊ウンディーネの使い、リヴァイアサン……いきなり神格を持つ者かよ!」


クロノスは腰に下げたデュランダルを抜く


エコーはそれを見つめ、微笑む


「エコー、離れてろよ!」

「は、はい」


着替え終えたジンが並び立つ

「自分の身は自分で守ってほしいものですけどね」

「ん?なにか言ったか?」


背中にエコーの冷たい視線が突き刺さる

「いえ、何も……きますよ」


リヴァイアサンの口から冷気が放たれる

クロノスが左、ジンは右に飛ぶと

二人のいた場所が凍る


「なんつー冷気だよ」

クロノスに向かいリヴァイアサンの尾が放たれる

鞘で受け止めるが吹き飛ばされる


反対側ではジンが飛び上がっている

「赤椿」


刀の音と共にリヴァイアサンから血しぶきが上がる


「いける」

ジンが斬りかかると背後から数本の光の矢が飛んでくる


「——っ」

ジンは全て斬り落とすと

リヴァイアサンに蹴りをいれ

反動で後ろに飛び退く


「何を!」


振り向くとエコーがニコニコ笑っていた


ジンはエコーの元に駆ける

「何のつもりですか?」

「えー、なんのことー?」

エコーは笑っている

「手を出すなってことですね。わかりました」


「いっててて……ジーン、大丈夫かー?って……え?」


ジンはエコーと並んで座っている


「ちょ、えー」

クロノスに向かい血と水を飛ばしながら尾が飛んでくる


「くっそ、わかりましたよ。やればいいんでしょ」

クロノスはリヴァイアサンの尾に飛び乗り

剣をクルりと回すと尾が斬れ落ちる


雄たけびをあげてリヴァイアサンが蠢く


「凍れ、ヒュプノス」

湖が凍り付き

リヴァイアサンは上を向いたまま身動きが取れなくなる

冷気を空に向かって吐き続けている


「やっぱ、お前は凍らないか」

クロノスは手を空へ伸ばす

「喰らい尽くせ、インドラ」


見る見るうちに雷雲が立ち込め

数多の雷竜が顔を出す


刹那——


リヴァイアサンに向かい

体を焦がし喰い千切る


雷系統最上位魔法だ


リヴァイアサンは体中に穴を空け、焦がしながらも

聳え立つ


「やっぱしぶといな」

クロノスは笑うと飛び上がる


「これで終わりだっ」

剣を頭の先に向け、切り裂く


雄たけびと共に姿を消し

氷の上にマナの結晶が落ちてきた


「満足ですか?」

「ここまでとは思わなかったわ」

エコーは笑いながら冷や汗を流す


「ったくジンはひどいよな」

クロノスが戻ってくる


「申し訳ありません。エコーを守ろうかと」

「まぁ、仕方ないか」

クロノスの首筋を汗が流れる


「クロノス様、汗を」

手拭いを懐から出す


「あぁ、悪いな」

クロノスが受け取ろうとすると

エコーが抱き着く


そして、首筋に舌を這わせる

「お、おい——」

「んっ……うんっ——はぁ……っ」

「ちょ、やめっ」

エコーは恍惚の顔で舌を離す


「おい」

ジンは震えている


「あら、汗をかいていたもので」

「やっぱり……貴女は……」

「こういうのも悪くないでしょ?クロ」

「んー、悪くはないな」

「クロノス様までっ!」


「まぁまぁ、ジンちゃんも汗かいてるよ……?」

恍惚の表情を浮かべたままジンを押し倒す


「こ、こらっ……んっ、やぁっ……」

「んんっ……んー、んふぅ」


クロノスは腕を組み見つめる

「いや、これはこれで……」

「と、とめてくださいっ!」


ジンはがばっとエコーを突き放す

「やぁん……ジンちゃんの意地悪……」

エコーは目を潤ませている


「っ——」

ジンはその表情を見て顔を真っ赤に染めた


「ジン、じゃれあうのはいいけど。そろそろ戻らないと」

「なんでそこまで冷静なんですかっ!……そうですね、戻りますか」

ジンは立ち上がる


「えー、もう行っちゃうのー?」

「また会える、だろ?」

エコーは少し考え、笑う

「そうだね」


エコーは髪を耳にかけて目を瞑る

「はい」

「あぁ」

クロノスはおでこに口づけ、自分も髪をかき上げる

が、エコーはクロノスの口に口づける


「なっ」

「今度はすぐに会えるおまじない」

満面の笑顔を見せると、手を振りながら走って行った


「へー、クロノス様はああいうのが好みなんですねー」

ジンからは得体のしれない気配が溢れている


「あのー、ジンさん……?」

「別にー、もう慣れましたー」

「さ、さぁ帰ろう」


クロノスがジンをしり目に歩き出すと

後ろから走ってきたジンが腕を掴む


「え?」

「今日はデートなんですから、このぐらいはいいのでは?」

「あぁ、かまわないよ」


二人は笑顔を交わし


帰途につく


そして魔王は決断を迫られる


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