表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/71

雪原に散った夢

ある冬の日……


一人の剣士は国の南の森へ魔物を狩りに行きました

真っ赤な長髪を頭の後ろで結び、刀を二本下げた男は

依頼されたケルベロスを狩り終え

森から出ようとしていました


「あぁ、くそっ。足場が悪いなんてもんじゃねぇな」


男は雪に足を取られながら歩きました


すると——


ガツッと音を立て、足が何かを蹴飛ばしました


「いってーな、なんだよ……木か?」


雪を払うと、真っ白な着物に身を包んだ銀髪の男が倒れていました


「ちょ、おい!大丈夫か!?」


グ、グゥウウウウウウウ


「は?」


「お……お腹が空きました……」


「えー……」


男は銀髪の男を担いで家まで戻りました


「ただいまー」


「おかえり!兄様」

可愛らしい赤髪を肩まで伸ばした少女が出迎えました


「それは……?」


「拾った。何か食わしてやってくれねぇか?」


「わかった。ちょっと待ってね!」


男を布団に寝かせると


兄は妹と共にご飯を作りました


決して裕福な家庭ではありませんでした


両親は気が付けばいなくなり


兄が冒険者として妹を養っていました


「う、う~ん」

男が目を覚ますと、妹が口元にご飯を運ぶ

「ほら、食べて?」


「え……いいんですか?」


「腹が減ってんだろ?粥しかねぇが食え」

隣の部屋から兄の声が聞こえた


「かたじけない」

男は泣きながら口元に運ばれる粥を貪った


翌朝、兄が目を覚ますと

外で剣を振る音が聞こえた


窓を開けると

妹が男に剣を教わっている


「あ、兄様ー。おはようございます」

「庭先お借りしてます」


「あぁ、お前剣振れるのか?」

「えぇ、多少ですが」

男は爽やかな笑顔を向ける


「どれ、朝稽古の相手をしてもらおうか」

「えぇ、喜んで」


二人は一糸乱れぬ立ち振る舞いを見せる


「お前やるなー」

「ありがたいお言葉です」

「よかったら暫くうちに住んで冒険者やらないか?」

「冒険者……ですか?」

「あぁ、行く当てもないだろ?」

「えぇ……そうですね、そうします」

「ありがたい!丁度組む相手を探してたんだ。俺の名はシュラだ、宜しくな」

「私はユミルです。宜しくお願いします」


二人は固く握手を交わした


それから二人は毎朝稽古をし

冒険者ギルドで依頼を受け

依頼をこなし

妹の待つ家へ帰ると

楽しく夕食を食べ

ワイワイと風呂に入り

死んだように眠る


たまの休日には妹も一緒に

三人で買い物に出かけたりもした


そんな他愛もない毎日を繰り返した


ある日


「お前を見ていると妹を思い出すよ」

「ユミルさん妹いるんですかー?」

「あぁ、丁度お前と同じくらいの歳だよ」

「えー、じゃあ友達になりたい」

「そうだね、いつか友達になってくれ」

「うんー!」

妹は満面の笑顔を見せる


「珍しいな、ユミルが自分の話をするなんて」

「あぁ、ちょっと昔のことを思い出してね」

ユミルは遠くを見つめる

「なぁ、シュラ……もし、私に何かあった時は妹のことをお願いできるかな?」

「はぁ?ユミルに何かあるものか。下手したら俺より強いんだぞ?」

シュラは笑う

「そうだね……気にしないでくれ」

「ちょっとは否定しろよ」

「え?事実じゃないか?」

「言ってくれるじゃねーか!表出ろ、稽古つけてやる」

「いいね、やろう」

二人は笑いながら出てゆく


翌週


「兄様ー。マーモが遊びに来たいって!」

「あぁ、姫様か。いいぞ?暫く泊めてやればいい」

「うん、ありがとー!」

「姫?」

「あぁ、うちの妹がなたまたま街で知り合ったんだ。リオス公国の姫様なんだってよ」

「へぇ……リオスの」

「どうかしたか?」

「いや、なんでもない」


翌週


「暫くお世話になりますのー」

「おぉ、姫さん久しぶりだな。ま、ゆっくりしていってくれ」

「あら、お屋敷が豪華になってませんか?」

「あぁ、相棒が出来てな。二人で稼いでたら、一気に暮らしやすくなったんだ」

「ユミル兄様は凄く強いんだよー!」

「こらこら、あまり言いすぎないでくれよ?」


ユミルが顔を出す

「あ!貴方はあの時の森で!」

「いやいや、お恥ずかしい。やはり覚えていましたか」

「なんだよ。知ってたのか?」

「はいですの。森で魔物に襲われた時に、助けてくれましたの。約束も覚えてますわよ?いつか妹と友達になってくれ。でしたわね?」

「さすが姫様」

ニコリと笑う


「えー、マーモの方が先にユミル兄様に出会ってたなんてずるいー」

「仕方ないですわ!私の方が運命に選ばれましたの!」

「なんの運命だよ」

シュラは笑う


それから四人で楽しく過ごした

街に買い物に行き

稽古をし

勉強と言って

ギルドの依頼に二人を帯同させたり

何気ない日々を過ごした


そう何気ない


ささやかな幸せだった


5日後


雪が降りしきる夜のことだった


「マーモ、兄様たち遅いね」


「そうですわね……」


「お外、見にいこ?」


「私たちは外に出ては怒られる時間ですわ?」


「だって……」


マーモは妹の顔を覗き込み、ため息をつく

「仕方ありませんわ、すぐそこまでですわよ?」


「ありがとー!」


二人は館の裏手の森に行く


「兄様たちよくここで稽古してるんだよね」


「まさか、この雪の中ではしないでしょうに」


その時


——ァアアアアア


雄たけびの様なものが聞こえた


「魔物ですの!?」


「兄様!」

妹は走り出す


「ちょっと、待ちなさい」

マーモは後を追う


森の拓けたところに二人はいた


だが、様子がおかしい


木陰に隠れながら様子を窺うと


シュラが左目から血を流し


ユミルの刀の先からは血が滴り落ちている


「なぁ、ユミル……俺にはできねぇよ」


「時間が……ないんだっ。はや……くっ」


シュラが大剣で斬りかかりユミルの刀を弾き飛ばす


「ほら、これで大丈夫だ。帰ろう」


「無理だ……私にはもう……」


ッァアアアアア


雄たけびをあげてユミルはシュラに飛びかかる


大剣は弾かれ


倒れるシュラを足で押さえつけ、もう一本の刀を振りかざす


その時


——ィイイイイイン


振りかざした刀を、先程弾き飛ばされた刀で妹が弾いた


「ば、ばかっ!くるな」

ユミルが妹に向き直る

そこに優しい笑顔はなかった


「私を殺してくれ……今ならまだ……間に合う」

両手を広げて妹に近づく


「——ひっ」

妹は刀を前に突き出したまま、目を瞑った


ズブリッ


目を開けると


刀はユミルの胸元に刺さっている


あまりの出来事に妹は動けない


ユミルは刀を自分に刺しながらも進んでくる


そして、そのまま妹を抱きしめた


「ありがとう……ルシフ……私はもう人の様には生きられない……いつか、私の妹と友達になってくれるかい?」

「う、うん……なるから、なるからユミル兄様手を離して!血が、血がっ」

「これでいいんだ……このままで……ルシフ?妹に会えたら、私の事を話さないでくれるかい……?こんな最後は恥ずかしくてね……」

「え……?」

「兄は志半ばで魔物に殺されたとでも……言ってくれると嬉しいな……」

「ユミル兄様が……ま、魔物になんて、ま、負けるはずがないよ!」

ルシフは泣きじゃくる


「もう……泣かないで……?シュラ……聞こえるかい……?」

「あぁ」

シュラの右目からも涙が流れている

「おいおい、男が泣くもんじゃ……ないよ。左目……すまないね」

「こんな傷どうってことねーよ!だから、ユミル、死ぬな!」

「ごめん……それは無理そうだ……この袋と……私の刀を妹に……妹を……ジンをよろしく頼む」

「あぁ、わかった……」

「……」

ユミルは優しい笑顔のまま眠った


「ユミル兄様ー」

ルシフは大声を上げ泣いた


シュラは仰向けになり腕を顔に当てて泣く


マーモも木陰で泣いた


後日


ユミルは森に埋められ、小さな墓を建てられた

シュラは左目の怪我もあり、冒険者を辞めて鍛冶師になった

マーモは二人が落ち着いた頃に国に帰った


そして月日が過ぎ


墓に行ったときにガーゴイルを見かけた

きっとユミルの知り合いだろう


「その夜叉は私が殺した。これを持って行け」

折れた刀と袋を投げる


ガーゴイルは慌てて飛び立っていった


「これでいい。いつかユミルの妹が私を殺しに来てくれる筈……友になることは叶いそうにないが……彼女の憎しみの矛先位にはなれるかな?ユミル兄様……」


ルシフは墓に笑いかけ


遠い空を見上げた


まだ見ぬユミルの妹とユミル、シュラとルシフで

楽しそうに夕食を食べる光景を描いた


叶わぬ夢に涙を一筋流し


刀が刺さった墓を背に


戦場へ向かう道を歩き出した


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ