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鬼の子

時は遡る


——


「ジンちゃ~ん」

レヴィアはゲートから手を振りながら出てくる


「レヴィアちゃん!」

ジンはレヴィアに抱き着くと可愛がる


「なんだ~?そのちっこいの」

ヘファイストスが近寄ると


「おぉ!セレネの聖王か、久しぶりだな」

「ヘファイストス~、クロちゃんから頼まれたもの~」

「おぉ、ありがとう」

レヴィアからフェンリルの牙を受け取る


「これであと……お、それって……」

ヘファイストスはレヴィアの持つ布を見る

「これ~?聖衣だよ~?」

「おぉ!それも探してたんだよ!」

「そういうことね~……」

「どうかしたか?」

「なんでも~」


ジンは作業に戻っている


「ヘファイストス~」

「ん?どうした?」

「ジンちゃんをルシフに近づけないで~」

「ん?なんでだ?」

「ちょっと厄介だから~」


「んー……一応気を付けるわ」

ヘファイストスはニッコリ笑った


——


「なるほど……そういうことか」

ヘファイストスは失った左目に触れる


「どういうことだい?」

「セレネの聖王ちゃんから注意されてたんだよ。ルシフに姉ちゃんを近づけんなって」

「あぁ、その話か。ルシフとの約束通りマーモは全てを話していないようだね」


「さぁ、私が憎いなら殺せっ!」

ルシフは炎が渦巻く剣、レーヴァティンを構える


「言われなくても……安心してくりゃれ?主の欠片も残さず土に返そう」

ジンは白梅に手を添える


「ジンッ!」

クロノスが叫ぶ

「主様……許してくりゃれ……?」

悲しそうに微笑んだ


ジンは地面を蹴る

ルシフに正面からの重い一撃——


ルシフは剣で受け止める

すぐさま剣を支点にし、背後へくるりと飛び越える

振り向きざまルシフの脇腹へ一撃

すぐさま剣を盾に防ぐ


が——


誰もいない正面から一撃を浴び

ルシフの胸元から血が噴き出すと思いきや

嫌な予感がし、咄嗟に右腕で防いだ為

腕から血が噴き出していた


「なんなんだい……?あれは」

「白梅……宝剣『子狐丸』に天狐が霊力を注いで作ったものだ。初撃の後に斬撃がその空間に残り切りつける。つまり、防いでも同じ場所に延々と攻撃が続くわけだ」

「わかっていれば防げなくもない……か」

「天狐の舞と合わされば?」

「っ——防ぎようがない」

「始まる」


ジンが舞を踊るように刀を回し

身を翻し、時折刀が姿を消す


ルシフは長年の勘だろう

攻撃の予測地点に剣を構え

二撃目には、先程クロノスと戦った刀で防ぐ


正面ではジンが華麗に舞い

左右、後方、前方、時に上空から

延々と斬撃が降り注ぐ


「っ——」

「中々耐えるのぅ。じゃが、これはどうじゃ?」


舞の流れで右手の白梅で剣戟を繰り出しながら

左手で赤椿を鳴らす


その刹那——


袋に入った水が破裂した様な音を出し

ルシフの全身から血が噴き出る


「っぁあああああ」

ルシフが大声を上げ

膝をつき、後ろに倒れる

瞳に光はない……


「ルシ——」

ヘファイストスが飛び出そうとするが

クロノスが止める


「無様じゃなぁ……よくもまぁ、このような腕で兄上に勝てたものよのぅ……」

刀を大きく広げた右腕に突き刺す

——ァアアアアアッ

ガクガクと震えながらルシフが奇声をあげる

刀をゆっくりと抜く


「よく鳴きおる……もっとわっちに苦しみを聞かせて……くりゃれっ」

左腕にも突き差す

——ッガッガァアア


もうルシフから聞こえるのは声ではない

只の歪んだ音だ


「つまらん……実につまらんっ!もうよいっ、無残に散ってみせなんしっ!」

刀を首元に振り下ろす


が——


何かに気づき、横へ飛び退く


背後から凄まじいマナを放ちながら、ゆっくりとクロノスが歩いてきた


「ベルフェ……手当を」

「わ、わかった」

ベルフェはルシフに駆けよる


「どうだ?治せそうか?」

「時間はかかる……あと、次はない。無茶はするな」

「あぁ、恩に着る」


ジンはクロノスに刀を向ける

「いくら主様でも……この無礼は許されんぞ?」


「なんとでも言えよ……自分の大事な友が馬鹿やってんだ、止めないでどうすんだよっ!」


クロノスはデュランダルで斬りかかる

ジンは刀で受け止めると左手で赤椿を鳴らす


刹那——

クロノスは身を翻し空間座標をずらすと

後方に右回りに体を翻す

翻した反動で左手に逆手に持った鞘で

背を向けたまま横から殴りかかる

ジンはそれを右足で蹴り落とすと

刀を左から抜刀の様に振る


クロノスは体を屈めて交わすと

ジンの右足が蹴りあげてくる

左腕を広げる要領で外へ足を弾くと

右回りに一回転し、足払いをする


が、

ジンは空中へ飛び上がりクルッと縦に回る

勢いをつけて刀を振り下ろす

クロノスは剣を逆手に持ち替えて外へ斬撃を受け流す

そのまま左手で外から鞘で殴りかかる


ジンは身を右回りに翻し赤椿の鞘で受け止めると

クロノスは右から斬撃で追撃をかける

ジンは刀で防ぐが態勢が悪く、吹き飛ぶ


「なんなんだい……?この戦いは……」

ベルフェが冷や汗を流す


「今の流れ10秒位か……?化け物なんてもんじゃねぇぞ、神の領域だ」

ヘファイストスは大きく目を見開いている


砂煙のあがる壁からジンが出てくる

「さすが主様……じゃが、魔法は使わないのかえ?」


クロノスは汗を拭う

「そんな余裕ねぇよ、接近戦ではなっ!」


クロノスが手を前にかざす

「凍れ、ヒュプノス」


刹那——

凄まじい速度で刀を振り回すと

ジンの体の外側に氷の外壁が張られ

割れる


「刀で空間切るとかありえないだろ……」

クロノスは苦笑いしながら手を空へかざす


「ケラウノス」

上空に大きな穴が空き、閃光の剣が落ちてくる


ジンは地面を強く蹴り、飛び上がると

身を翻す勢いで剣を縦に切り裂く


二つに割れた剣はそのまま地面に突き刺さる

ジンが着地すると

クロノスが地面に手をついている

「ヘカトンケイル」


大地が崩れ去りマグマへ全てが呑まれてゆく

クロノスはタラリアで宙へ浮かび上がる

ジンは崩れ去る瓦礫を飛び移りながら地上へ戻る


大きく開いた穴を背後に

ゆっくりとクロノスに向かい歩み寄る


「——なれ」

クロノスが何かを呟く


「主様……もう終わりかえ?次はわっちが仕掛ける番じゃ」

ジンは天狐の舞を舞い始める

クロノスを斬撃が絶え間なく襲う


「主様……?どうじゃ?わっちの舞は……気持ちよかろう」

屈んだクロノスの真っ白な外套が切り裂かれてゆく

違和感が……

ジンは赤椿を鳴らす


が——


血が一滴も流れない


ジンが外套を掴み捲りあげると

アイギスの盾がそこにあった


「まさか……先程呟いておったのは!」

「御名答」

振り返るとクロノスが、伸ばした右腕を左手で掴み

構えていた


「ユグドラシル」

大樹系統最上位魔法の樹木で成る大きな龍が

地面から大口を開け、ジンを飲み込み天へ向かう

そのまま大きな大樹となった


大樹の真ん中ほどに、ぽっかりと開いた穴には

両手両足を樹木に縛られたジンがいた


「まさか……わっちに気づかれぬように盾を出すとはのぅ」

「この魔法はジンの前でまともに使ったことなかったからね」


「僕も初めて見たよ……ユグドラシル……」

ベルフェが呟く


「こんなでたらめな魔法があるとはな……」

ヘファイストスは冷や汗を流す


クロノスは宙に浮いたままジンに近づき

刀を取り上げる


「殺すならさっさと殺せ……殺しそこなえば、わっちはこのような物に二度と引っかからんぞ?」


——パァンッ


クロノスがジンの頬を叩いた


「——っ、何をっ!」

「これで許してやる。それに、あと6通りほど勝つ道筋はあったからな」

「なっ——」

クロノスはジンの口を口で塞いだ


「んんっ、ん~……んっ、プハッ……何をするんですか!いきなり!」

ジンは元の黒髪に戻り、頬を染めている


「こうでもしないと話を聞かないからな」

「は、話!?」

「ちょっとまってろ」


クロノスがパチンッと指を鳴らすと

大樹が消え去り

ジンを抱え地面に降りる


ジンを離すと

地面に崩れ落ちた

「大丈夫か?」

「限界を超えていたようですね……」

「まぁいい。そこに座ってろ」

「はい……」


クロノスはルシフに歩み寄る

「大丈夫か?」

「なんとか……な」

傷はある程度塞がってきている


「お前さ、ジンの兄貴が死んだ時のこと……ジンに話せ」

「そんなもの……私が殺——」


ゴチンッと音を立て、クロノスはルシフの頭を殴った

「本当のことを話せ」

「嫌だ」


クロノスは大きく息を吸い込む

「お前がっ!お前が殺したことにして、ジンに自分を殺させて罪を償うつもりか!?笑わせんじゃねぇよ!」

「え……」

「傲り高ぶってジンを見下すなっ!本当のことを話せばジンは理解してくれる……ジンの兄貴との約束……?死者との約束で生者を疎かにするなんて傲慢な馬鹿がやることだ!」

「誰が傲慢な馬鹿だ!一度交わした約束は——」

「思いあがるな!約束を糧にして逃げてるだけだろうが」

「なら私はどうすれば……」

クロノスはルシフの胸元のさらしを掴み、起こす


「歯を食いしばれ」

「は?」

「いいから歯を食いしばれ」

ルシフは歯を食いしばり目をつむる


「この一撃でお前の欲を消し去ってやる」

クロノスは大きく振りかぶると

ルシフの頬を殴った


「——っ」

「どうだ?」

「ふっ、ふざけるなっ!お前は女の顔をなんだと——」

「そうだよ、お前は女だ。何を律儀に約束だ、罪だって大騒ぎしてんだよ」

「は……?」

「強がらずに本当のことを話して、ごめんなさいって謝れよ。お前は確かに強い。でもさ、目の前にもっと強い男がいるんだ。頼ったって誰も笑いはしないさ……それでも話さないなら……もう一発いっとく?」

「いや、いい……」

ルシフはゆっくりとジンに歩み寄る


目の前で膝をつき、頭を下げる

「申し訳ない……今から一部始終を話そうと思う。勿論、気に入らなければ殺してくれてかまわない……聞いてくれるか?」


ジンは先程までと違い

悲しそうな……それでも優しい目をして答える

「はい……お聞かせください」


夕日が二人を照らすころ


ルシフは昔話を語り始める


それは夜叉と剣士の


約束の物語……





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