『剣聖』ルシフ・ライオネル
用意された宿で一人寛ぐベルフェ
紅茶を片手に本を読んでいる
「で、確か今日じゃなかったか?」
ドアの所で赤髪、ポニーテール、豊満な双丘をさらしで縛りつけた女が立っていた
「後から行くさ」
ベルフェは落ち着きはらっている
「待ちきれないんだがな」
「しょうがないさ、彼は今ギルドの依頼をこなしている」
「魔王が国の為とはおもしろい」
「ヘファイストスに剣を打ってもらう為だってさ」
「ヘファイストスが……驚いたな」
「夜叉に手伝わせて作業をしているよ」
「ほぉ……夜叉……にか」
女は冷たく笑った
「あぁ、そろそろ帰ってくるだろう」
「ただいまー。あれ?誰だこいつ」
クロノスがドアの前で立ち止まる
「紹介しよう。ディーチェの聖王、ルシフ・ライオネルだ」
「おぅ、よろしくな」
クロノスが手を差し伸べる
「あぁ」
二人は握手を交わす
「では、道場へ行こう」
ルシフが歩き出す
「ベルフェ、お前は?」
「勿論、僕も行こう」
二人は後をついて行く
街の巨大な円
三つの内の一角
ルシフ邸
巨大な木製の門を開くと
風変わりな庭が広がっている
刈り取られ整った草原に、岩や泉を作った様だ
川が流れ、橋まである
「なんか落ち着くな」
「ルシフの趣味は変わっていてな。静かな中にも心地よい音があると落ち着くらしい」
「へぇ、いつか城にも作ろうかな」
「着いたぞ」
でかい道場に招き入れられた
「適当に座れ」
ルシフはお茶を出す
「あぁ」
「僕は床に座るのが好きじゃない」
ベルフェが言うと
「なら、俺の膝に座るといい」
胡坐をかいた膝をポンポンと叩く
「じゃ、じゃあそうしようじゃないか」
ベルフェは少し嬉しそうだ
「ふっ」
ルシフが笑う
「どうした?」
「端正な顔立ちの魔王の前では、黒閃の魔女も形なしだな」
「今は只の国王で、クロノス・ヨルムンガンドの旅仲間だ」
ニヤッと笑う
「ほー、あれか、お前らできているのか?」
ベルフェがお茶を吹き出す
「なっ——」
「昨日ギルドで接吻をしていたらしいじゃないか」
「あれはベルフェが勝手に」
「嫌だったのか?」
クロノスは一瞬ベルフェを見る
「とても柔らかくて心地よかった」
「くぅ~」
ベルフェは真っ赤になって俯いている
「かっか、よいことだ!励め、若者よ!」
ルシフは勇ましく笑う
「それで、ルシフ……さんは——」
「ルシフでよい」
「ルシフは俺に何の用だ?」
「少しばかし手合わせをしたくてな」
「なんだ、そんなことか。いいぞ?」
「なら、こっちへこい」
後をついて道場の裏手に周ると
大きな広場になっていた
「ここなら暴れても問題ないぞ?」
「そんな派手な戦闘はしないさ」
「派手どころかぶっ壊れているがな」
ベルフェは笑う
「ルールは?」
「相手に降参させれば勝ち、魔法は私は使えないから無しだとありがたい」
「あぁ、それでいい」
「なら、ベルフェ合図を」
「あぁ」
ベルフェは空に向かい魔法を打ち上げると、弾けた
ルシフが長い刀を抜き斬りかかると
クロノスがダーインスレイブで受け流す
右へ受け流した反動で身を翻し
背後から斬りかかると
ルシフは背を向けたまま
刀の柄で受け止める
お互いその瞬間に笑う
クロノスは後ろへ飛び退き
地面を蹴ると刺突する
ルシフは剣先に刃を当て滑らせると
柄の部分を突進してきた胸元に
置いてくる
が、クロノスは左手で受け止めた
「お前やるなー」
「お前もな」
お互いが笑うと距離をとる
「なぁ、ベルフェ。怪我させたら治してもらってもいいか?」
「あぁ、かまわないよ」
「それなら」
ロックジュエルを宙に放り投げると、真っ赤な長剣が地面に刺さる
「それは?」
「宝剣『アスカロン』重さを感じない剣だ」
「ほう、威力もなさそうだがな」
「それはどうかな?」
クロノスは左手でアスカロンを抜き
正面から斬りかかる
「なっ!?二刀流か!」
アスカロンを刀で受け止める
「つっ……重い……」
すかさず左側からダーインスレイブの剣戟が襲い掛かる
刀身を左足で蹴りあげ
刀を滑らせて斬りかかる
クロノスが身を翻し
背を向けたまま右側からダーインスレイブで斬りかかる
ルシフは地面に伏せかわすと
足払いをする
それを飛び上がりかわすと
空中から連撃を繰り出す
「彼にあんな剣の腕があったとはね……まるで、踊っているようじゃないか」
ベルフェは感心している
「あれがクロノス様の本来の剣の腕です」
後ろからジンがヘファイストスと歩いてきた
「なんだ、君たちも来たのか」
「可愛い妹の戦いぶりを見に来たんだ」
ヘファイストスは長い袋を肩に担いでいる
「それは?」
「あぁ、御依頼の品だよ。クロノスー」
ヘファイストスが袋を投げると
距離をとったクロノスが受け取る
「おぉ、なんだこれ」
「兄上!?」
「え、お前がヘファイストスの妹!?」
「あぁ、そうだ」
「ただのおてんば娘じゃないかよ」
クロノスは苦笑いをする
袋の中身を確認すると
剣を二本とも宝石に戻した
「なんだ?もう諦めたか?」
「いいや」
クロノスが袋から綺麗な宝飾があしらわれた剣を取り出す
「まさか、兄上の剣か!?」
「らしいな……不思議だ。俺はこの剣を知っている気がする……」
クロノスが剣を抜くと光り輝く刀身が姿を現す
「へー、これは……宝剣と言ってもいいな」
「兄上が宝剣を私じゃなくお前に……なぁ」
ルシフが斬りかかると
クロノスは鞘で受け止めた
「何っ!?」
「やっぱりか、この剣と鞘で二刀流ってわけだ」
言い終わるとクロノスが消え
ルシフの背後から鞘で背中を打ち付ける
「ぐっ——」
今までの5倍はあるかのような速度で連撃を放つ
「あれは……なんだ?」
「宝剣『デュランダル』無敵とも言える強度を誇る鞘に、光系統の命を吹き込み、剣には神聖な力がエンチャントされている。」
「あの速さは?」
「アスカロンを所持してるって聞いたんでなぁ、軽くて強度のあるミスリル鉱石で作ったんだ。神聖な力で元々持っている能力が倍加してるんだろう」
「倍なんてスピードじゃないぞっ!?あれは」
「あぁ、ダーインスレイブって重いからなぁ。そのせいだろ。そうだろ?姉ちゃん」
「はい。クロノス様はそれほど腕力はございませんので」
三人が話している間に
仰向けに倒れた傷だらけのルシフに
クロノスが剣先を向けている
「俺の勝ちだ」
「あぁ、降参だ」
ベルフェが近寄り
アスクレピオスの杖で癒す
「まったく無茶を」
「すまんな。しかし兄上も余計な物を作ってくれた」
「ヘファイストスー。これ最高だよ」
クロノスが戻ってくる
「大事にしてやってくれよ?なにせ俺の初めての宝剣だ」
「勿論、こういう使い勝手がいい剣を探してたんだ」
「まずは基礎の腕力をつけろよな」
「俺は元々魔法専門だ」
「それにしても、まさかお前の妹が聖王ルシフだと——」
ジンがピクッと動くと
クロノスの横を風が駆け抜けた
「ベルフェ!どけっ」
ルシフがベルフェを突き飛ばすと
斬りかかってきたジンの刀を
宝石から出したレーヴァティンで防ぐ
「お前……どういうつもりだ」
「ぬしが……ぬしが兄上を殺したのかぁっ!」
ジンは髪を白く染め、4本の尻尾を出していた
「まさか、お前はあの夜叉の……?」
「そうじゃ!わっちはぬしを許さんっ!」
レーヴァティンから炎が巻き起こると
ジンは後ろに飛び退いた
「そうか……お前も私が殺してやろう!」
捻じれた運命が重なり
歪な音を立て歯車が回る
そして鬼の少女は我を忘れる




