冒険者クロノス・ヨルムンガンド
ここは剣の国——
外周を大きな円状に外壁が囲い
更に内側に大きな三つの外壁で区分けされている
一つは聖王ルシフの区画
一つは鍛冶ギルドの区画
そしてここが
「冒険者ギルドかー」
クロノスは大きな館を見上げる
5階建てで大きな正方形の屋敷は
要塞の様だ
ここは本部であり
各国に支部が存在している
「あまり無礼な真似はするなよ?」
ベルフェがクロノスに注意する
「聖王がいれば問題ないだろ?」
「ギルドは国に属してないんだ。冒険者ギルドそのものが国家なんだ」
「ほー、誰が一番偉いんだ?」
「ギルド長、支部長、次いで功績をあげた冒険者だな」
「ふ~ん」
ニヤリと笑いクロノスは入り口をくぐった
「おかえりなさい。あら、初めての方ですか?」
受付の女性が話す
「あぁ、初めてだ」
「お隣の方は……あぁ、アスティアの聖王様ですね。おかえりなさい」
ベルフェは腕輪を見せていた
「あぁ、僕はそこの広間にいるよ」
「かしこまりました。では、お兄さんは説明から」
「あぁ、頼む」
「ここ冒険者ギルドでは、魔物に対する依頼を扱っています。依頼には難易度がありますが、腕に自信があれば難しいものに挑戦していただいてもかまいません。」
「へー、おもしろい」
「しかし、条件付きのものは満たしている方限定です。それと身の保証はしませんので、判断を誤らないように気を付けてください」
「意外と手厳しいな」
「報酬は通貨や道具ですね。依頼をこなしていくと、冒険者の腕輪のランクが上がっていきます。初めは1、最大が10ですね」
「何か変わるのか?」
「報酬や受けられる依頼、ギルドの各施設がご利用いただけます」
「聖王は皆どれくらいだ?」
「登録されている聖王様は、皆様8ですね。全ての施設がご利用いただけます」
「10はいるのか?」
「いますよ」
ニコリと笑う
「施設についての説明なんですが、1階が宿と酒場、2階が取引場と商店、3階が専用の倉庫と宝物庫、4階が会議場と文献図書館、5階が専用の部屋でございます。2つ上がるごとに上の階が使えます」
「なるほどな。聖王は文献図書館が使いたかったと」
「何故ですか?」
「だから8で止めてるんだろ?あいつらより強いのは、そうそういないだろ」
「強くなくてもひたすら依頼をこなしていれば、いつかは10に上がります」
「そういうもんなんだ」
「そういうものです」
ニコリと笑う
「では、こちらが腕輪です。何か依頼は受けられますか?」
「んー、ベルフェに聞いてみる」
「受けられる場合は、そちらの掲示板からお願いします」
掲示板にはびっしりと紙が貼られていた
「あぁ、ありがとう」
腕輪をはめて、広間へ向かう
「終わったかい?」
「あぁ、待たせたな」
「魔王が冒険者とはおもしろいな」
「そうか?ところで、試しに依頼をこなしてみようかと思うんだが」
「いいんじゃないか?僕も同行しよう」
二人は掲示板へと歩く
と——
——ガガガガッ
と音を立て、クロノスは掲示板から沢山の紙をはがした
「まさか……」
「これ、全部受けたい」
受付の女性が青ざめる
「死にたいのですか……?」
「いや、ベルフェと行くから問題ないだろう」
「いや、それでも……」
「条件に合わないやつだけ省いてくれ」
女性は依頼書の山を整理する
「40件ありますが……」
「期限が近いものから並べてくれ」
「は、はい」
「おいおい、本気かい?」
「あぁ、付き合ってくれるんだろ?」
「やれやれ。特に用もないし、とことん付き合うよ」
「では、御武運を」
震えながら紙束を渡した
「おぅ、ありがとう」
屈託のない笑顔を見せた
二人はギルドを出る
「まずはなんだい?」
「んー」
クロノスは依頼書を見る
討伐:ゴブリン×10
報酬:金貨1枚
場所:南の森
「お使いみたいなものだね」
ベルフェは笑う
「んー、初仕事がこれか」
「しかし、移動が面倒だ」
「行ったことない場所はアストラルゲート使えないからな……そうだ」
「わっ」
クロノスはベルフェを抱えた
「ばかっ、何をするんだ」
「タラリアを使って空を翔る。しっかり捕まれよ!」
「え、えぇ~」
クロノスは大地を強く蹴った
——
「ここかな。ほら」
「あぁ、ありがとう」
クロノスはベルフェをおろす
「ま、まったく君は無茶をする」
ベルフェは少し振るえている
「ごめん、まさか高いところが苦手だったとは」
ベルフェに顔を近づけ頭を撫でた
「むぅ……」
頬を赤く染め涙ぐむ
「俺はこういう弱い部分を見せるベルフェの方が好きだな」
「っ——」
きゅーっと音を立て俯いた
「ここで待っててくれ」
「え……?」
クロノスは森へと入っていった
ベルフェは依頼書の束を持って切り株に座った
「はぁ、本当に彼には困らされてばかりだ……でも、悪くないな」
空を見上げる
「何か言ったか?」
ビクッっと身体を揺らし、振り向くとクロノスがいた
手には結晶を握っていた
「は、早いな」
「まぁな、次は」
「えーっと」
採取:鈴音の花×3
報酬:銀貨1枚
場所:南の森
「これだね。わかるかい?」
「あぁ、行ってくる」
クロノスはベルフェの傍に大きな麻袋を置き、中に結晶を入れた
「これじゃあただの荷物番じゃないか」
ベルフェは少しむくれた
その後もクロノスはサクサク依頼をこなす
「次が南の森最後だね」
ベルフェが依頼書を見る
討伐:ケルベロス
報酬:金貨20枚
場所:南の森
「馬鹿か……新米にやらせるものじゃないぞ……」
「ん?ケルベロスか」
クロノスは懐から大きな結晶を出す
「それは?」
「さっき襲い掛かってきたからついでに、な」
「まったくもって、でたらめだ」
ベルフェは頭に手をやる
「残りは?」
「10枚だ」
「一度戻るか」
「そうだね」
二人はゲートをくぐる
「ひっ!?」
受付の女性が奇怪な声を上げる
「これ、依頼の品」
ドサッと音を立てて大きな麻袋が置かれる
「しょ、少々お待ちください」
「あぁ、広間で待ってるよ」
女性は大慌てで裏へ駆けて行った
「あれでは計算に時間がかかりそうだね」
「そうなのか?悪いことしたな」
二人は広間に宅配の紅茶を注文して飲んでいた
「お待たせいたしましたっ!」
受付の女性が走ってきた
「いや、一時間もたってないぞ?」
「申し訳ありません。まず、腕輪をお借りします」
腕輪を受け取ると走っていった
「何をしてるんだ?」
「腕輪を魔高炉という道具に入れるんだ。そこに、こなした依頼の経験値を入力すると腕輪が進化するらしい」
「すごいな、宝具か?」
「あぁ、名称も伏せられている謎多き道具だがな」
また受付の女性が走ってきた
手には絹の袋を持っている
「お待たせいたしました!こちらが腕輪です。ランクが3になりました!あと、報酬の金貨です。道具は言われた通り通貨に換金しました」
クロノスは受け取る
「何枚だ?」
「金貨58枚です。で、でわ、失礼します」
走って戻っていった
「大金だな」
「あぁ、いい商売だ。そうだ、今日の礼に何か欲しいものはあるか?」
ベルフェが赤くなる
「ぼ、僕は特に何もしていないし、君から何かをもらうなど」
「いや、おかげで捗ったよ。遠慮するな」
「じゃ、じゃあ……君がくれるものなら、何でも喜んで受け取ろうじゃないか」
もじもじしている
「そうか、なら少し待っててくれ」
クロノスはゲートを開き、消えた
「彼が……僕に……嬉しくて顔がにやけてしまうじゃないか」
落ち着きを払おうと紅茶を含む
なんだろう……ドレスだろうか……
いや、言ってて悲しくなるが似合う体型ではない
ではネックレスか?腕輪か?
まさか……指輪か?
僕も何かお返しをした方がいいだろうな
「ただいま」
「ひゃうっ!」
「変な声上げてどうした?」
「急に現れるな!」
「ごめん、それよりこれ」
クロノスは本を差し出す
本か!それも悪くない
素敵な物語なんだろうな
『これで君も最高の体を手に入れる!』
ベルフェの瞳から光が消える
「いや、ベルフェの年齢を聞いてから、気にしてるだろうなーって思っててさ」
「は……?」
ものすごい勢いで震えだす
「君ってやつは……どうしていつもこうなんだー!」
両手を上にあげて、クロノスをポカポカ殴りだす
すると腕を引き寄せクロノスが抱きしめる
「えっ?」
耳元で囁く
「悪ふざけがすぎたな、ごめん。ほんとに感謝してるよ?いつもありがとう」
クロノスが離れると
小気味のいい金属音が胸元からした
「これは……?」
胸元には白金の台座に、煌びやかな宝飾が施されたネックレスがかかっていた
よく見ると開かれた本の形だ
「ベルフェのイメージにぴったりだったからな」
「あ……ありがとう」
ベルフェは俯く
「さ、そろそろ宿へ戻ろうか」
クロノスが歩き出すと
ベルフェが前に立ちはだかる
「どうした?」
すると、胸倉を掴み引っ張ると
口づけを交わした
「これが礼だ。ありがたく思いたまえ」
ベルフェはさっさと歩き出す
「ほら、はやくしないと置いて行くぞ!」
「あ、あぁ」
クロノスは急いで追いかける
もしかしてベルフェって結構可愛い?
そんなことを考えながら
そして魔王は聖王と対峙する




