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錯覚

「それは……どういうことだい?」

ベルフェはジンに問う


「あの日、魔王城陥落の日。あなた達が戦った魔物の種族を教えてください」


「ん~とぉ、ゴブリン、オーク、オーガ、コカトリス、ウェアウルフ?」

「ガーゴイル、ハルピュイア、ミノタウロス、夜叉、ケルベロス」

「あ、あと偽物魔王のヴァンパイア~」

「覚えているのはこのくらいだ。混戦だったからね」

ベルフェとレヴィアの答えを聞いてクロノスは固まる


「ジン……本当か……?」

「えぇ、私が確認したものと相違はないです」

「どうしたの~?」


クロノスは遠くを見つめて答える

「俺が知らない魔物がいる」


ベルフェは立ち上がる

「なっ、君は魔王だろ!?知らない魔物なんて!」


「ベルフェ待って~?嫌な予感がする……」

レヴィアがゲートを開くと

大量の書類に囲まれたマーモがいた


「な、なんですの!?」

「マーちゃん、聞きたいことがあるの~」

「いきなりですわね。なんですの?」

マーモがゲートを通り、椅子に腰かけた


「各国を襲った魔王軍の指揮官覚えてる?」

「確か……牛鬼、ワルキューレ、デュラハン、エキドナ、セイレーンと……アルスの所はなんでしたっけ」

「アヌビスだね」

「そうそう、そうですわ。で、それが?」

「マーちゃんありがと~。また説明する……ね?」


そう言うとゲートを開いてマーモを突き飛ばした

「な、なんですの!?説明を——」

ゲートは閉まり、言葉は途切れた


「で、指揮官に覚えはあるのかい?」


「いや、ない。ジンは?」


「ないですね。種族名すら……」


「どういうことだい……?」


ジンが立ち上がる

「つまり、こういうことです。クロノス様が承諾していた進行は以前の小規模のもの。落日は他の者による差し金ということです。」


呆気にとられる三人をしり目に続ける

「この世界を壊そうとしていた者がクロノス様に罪をかぶせた……落日を大罪とするなら、クロノス様の命令は幼稚な悪戯ですからね」


ジンはクロノスの横に立つ

「ジンは知っていたのか?」

「薄々感づいていた程度です。確信がないのでクロノス様に伏せていました。申し訳ございません」


「レヴィ……アルスと会うよ」

レヴィアは静かに呟いた


「あぁ、そのほうがいい。ジンの仮説が正しいなら悪はまだ根絶えていない。マーモには僕が話す。どうするか決まるまで他の聖王には伏せておいてくれたまえ」

「わかった~」


レヴィアはクロノスに近づき

口づけを交わす


「クロちゃん……ちょっとだけお別れ……また……ね?」

レヴィアは去り際に冷たい笑顔でゲートに消えた


「私はまだなのに私はまだなのに私はまだなのに」

「何もこんなときに……」

二人は呟く


「どうかしたか?」


『なんでもない!』


ベルフェは軽く咳払いをする

「この件はこちらに任せてくれ。気にせず旅を続けてくれたまえ」

「一応俺も関係者なんだがな」

「私も」


「では、こうしよう。どうにもならなくなった時に応援を頼んでもいいかい?」

「あぁ、友として応じよう」

「そうはっきり友と言われると癪に障るな」

「え?なんだって?」


ベルフェはため息をつき、ひらひらと手を振った

「いや、いい。それより、そこにいる者を呼んでやろう」

「あぁ、そうだな。入ってくれ」


扉を開け

隻眼、長い赤髪を後ろに流し、長身の着物を着崩した男が入ってきた

「ずっと気づいたのか?」


「勿論、お前は?」

クロノスが問う


「俺はヘファイストスだ」


クロノスが音を立て、立ち上がる

「おぉ!お前がそうなのか!」


二人はワイワイと話し出した


「彼は何者ですか?」

ジンがベルフェに耳打ちをした


「君が知らないなんて珍しいね。彼は鍛冶ギルドの長、ヘファイストスの名を継ぐ者だよ」

「なるほど、それでクロノス様が興奮してらっしゃるんですね」


鍛冶ギルド——

冒険者の武器や防具、農夫の耕具から、主婦の包丁に至るまで

全てを作り上げる巨大な組織だ

長を務める者は初代の長、ヘファイストスの名を継いでいる

そして代々、長が宝剣を作り続けている


「いやー、ゲーテがこんな気さくな奴だったとはな!」

「こっちこそ!ただの鍛冶馬鹿かと思ってたよ。で、お前の宝剣は?」


ヘファイストスは頭を掻き毟る

「いやー、どうにも制作意欲が湧かなくてね。恥ずかしい話がまだなんだ」

「なら、出来たら俺にも試させてくれ」

「もちろんだ!そうだ、よかったらギルドに来てみるか?」

「いいのか?なら、今すぐ行こう!」


クロノスは意気揚々と向かう


「行きますか」

ジンは立ち上がる


「いや、僕はルシフの所に行ってくるよ。例の件を話さなければ」

「では、後ほど」

「あぁ、またな」


——


「と、いうことなんだが」

ベルフェは道場で剣を振る赤髪、ポニーテールの女に話す


「そうか」


「他に言うことはないのかい?」


「剣の修行に忙しくてな」

ひたすら長く重そうな剣を振る


「相変わらず脳まで筋肉で凝り固まった女だな」


「ふっ、なんとでも言え。だが——」


ズシンッと音を立て剣が床に刺さる

「ゲーテは強いから興味がある。ここへ連れてきてくれないか?」


「言われなくても、そのつもりだ。明日にでも連れてくるよ」


「あぁ、頼む」

また剣を手に取り素振りを始めた


「まったく、これだから戦闘狂いの馬鹿は」

手をひらひらさせ、道場を出て行った


——


「へー、ここがギルドか」


打ち付けられる鉄の音、延々と並ぶ露店、工房

ここが剣の国ディーチェの最大区画

鍛冶ギルドである


「すごいな。全部見て回るには何時間かかる?」

「まさか……見て回るとでも……?」

ジンはあからさまに嫌がる

「ざっと5日だそうだ」

ヘファイストスは答える


「悪くないな。よし、一週間は滞在するか」

「本気ですか!?」

「あぁ、急ぐ理由もないしな」

ジンは頭に手をやった


通りを延々と歩くと

大きな左右対称で出来た館があった


「ここが俺の鍛冶場であり、家だ」

「おぉ!お邪魔します」

「お邪魔します」


入り口をくぐり、右側にある大きな鉄の扉を開ける

男たちの声と熱気が吹き上がる


「そのまま作業を続けろ!俺は錬成室に入る」


『はいっ!』


熱気の凄まじい鍛冶場を抜け、更に大きな扉を抜ける

綺麗な白銀の鍛冶場がそこにあった


「ここだけ綺麗だな」

「あぁ、いい素材を使うとそんなに汚れないもんなんだ」

「それはわかります」

ジンが頷く


「そう言えばお前も打てるよな」

「なにっ!?このべっぴんさんも打てるのかい?」

「えぇ」

そう言ってジンは赤椿を見せる


「触っても?」

「駄目だ」

「ジン?」

「クロノス様の命とあらば。汚すなよ?」

「あぁ、ありがとう」


ヘファイストスはまじまじと刀を見て

高らかに笑い出す

「こりゃ素晴らしい。元の童子斬よりよっぽどいい刀だ」

「それは、ありがとうございます」

ジンは刀を受け取る

少し嬉しそうだ


「こりゃ創作意欲が湧くな……クロノス!何か打ってやろうか?」

クロノスが目をキラキラさせる

「本当か!?」


「あぁ、何がいい?」

「うーん、剣かな……能力が歪過ぎて、まともに振るえるけんがないんだ」

「なら……材料はエコーの血、フェンリルの牙、天狐の髪、聖女の衣が必要だ」

「難しい内容だな」

「あぁ。でも、いい剣が打てるぞ?」

クロノスは考える


「あのクロノス様、髪なら私が」

「いいのか?」

「はい、これも従者の務めです」

ジンはニッコリ笑うと髪を白く染める


「なっ、姉ちゃん天狐か!?」

「いや、違うでありんす。訳あってな。ぬし、どれほど必要じゃ?」

「10本ほどあれば……」

ヘファイストスは呆気にとられる


「かしこまった」

そう言うと懐から小刀を出して髪を切った

「これでよかろう?大事に使ってくりゃれ?」

そして元に戻る


「おぉ!切られた髪は天狐の髪のままだ!これならいける!姉ちゃんありがとな」

「いえ、クロノス様の為ですので」

「本当にありがとう。今度何か礼をするよ」

「いえ、そんな!……でも、楽しみにしてます」

ジンは屈託のない笑顔で言った


「クロノスー、お前も隅におけねぇなー」

ヘファイストスが肘でこついてくる


「何がだよ」

「髪は女の命だ。それをこうして捧げるなんて、お前さんに身を捧げたも当然だ」

「あぁ、ジンは俺のだからな」

屈託のない笑顔を見せる


ジンは遠くを見つめ、うっとりしていた


「残りはどうしよう……」

「エコーはアスティア帝国に、フェンリルなら先日、レヴィアちゃんが倒したものを、問題は衣ですね」

「ベルフェに頼むか。レヴィアが牙持ってなかったら?」

「希少品なので残してるかと」

「それなら妹も持ってるかもしれないから、一応聞いておくよ」

「お前妹いるのか?」

「あぁ、いい身体したべっぴんな妹だ!今度紹介するが惚れるなよ?」

ヘファイストスは自慢げに言った


「ほぉ、そんなにか。いや、惚れたりはしないよ」

「そうですね。クロノス様は本を愛してるので」

「どういうことだよ」

ヘファイストスはまた、高笑いをした


「残りは衣だな」

「おぉ、それなら冒険者ギルドに行くといい。アイテムやマナの結晶の取引もやっているし、情報もあるだろ」

「おぉ!ちょうど行ってみたかったんだ」

「なら僕が共に行こう」


音もなくベルフェが入ってきた

「いいのか?」

「あぁ、ジンは夜叉だからリスクが高いだろ?」

「確かにそうだな……」

「では、私は宿に……」

ヘファイストスがジンの肩をたたく


「姉ちゃん、暇ならクロノスの剣を打つの手伝ってくれよ」

「私が……ですか?素人ですよ?」

「刀を見ればわかるさ、どうだ?頼めねぇか?」

「クロノス様の剣が打てるなら是非」

「決まりだ!クロノス、姉ちゃん借りるな!」

「おぉ、あんまりこき使うなよ?」

「大丈夫、心配するな!」


クロノスとベルフェは二人に見送られて


冒険者ギルドへ向かった


そして、レヴィアとアルスの対決が始まる






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