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七聖の王と悪戯好きな魔王  作者: 秋野 紅葉
眠り姫と『お菓子』な姫
28/71

剣の国

「ふぁ~」

レヴィアは森の湖畔で欠伸をする


「早く顔を洗って準備しないか」

ベルフェは準備を済ませ本を読んでいる


「う~ん、眠いの~。クロちゃんは~?」

「ジンの朝稽古に行ったよ」

「え~、ずるい~」

「なら早く準備したまえ」

レヴィアは湖に顔を突っ込んだ


——


「このくらいにしておくか」


「はい、ありがとうございます」

ジンは刀を納める


「体は大丈夫か?」

「気怠さは残っていますが、大丈夫です」

「そうか、ならよかった」

「ご心配ありがとうございます」

「いや、当たり前のことだ。でも天狐の力に反動があるのは勿体ないな」

「何故ですか?」

「いや、あまりにも綺麗だからな」

「そ、それならば常に」

ジンの髪の色が変わろうとする


「よせよせ!負担が大きいんだから無理するな」

「でも~……」

ジンはしょんぼりとする


「いつものジンも充分綺麗だから心配するな」

クロノスはジンの頭に手を置く


「んんっ」

気づけばベルフェが木にもたれかかっている


「邪魔だったかい?」

「いや、もう稽古は終わったよ」

「そっちの意味ではなかったんだがね」

「え?なんだって?」


「もういい、さっさと出発しようじゃないか」

ベルフェは手をひらひら振った


一行が出発すると、実に順調に旅路が進む


レヴィアは時折ふらっと迷子になりそうになり

ベルフェは見たことのない草花に夢中に

ジンは香草を摘みはじめる


「お前ら、いい加減にしろ」


クロノスは疲れ切っている


『ごめんなさい』

三人は申し訳なさそうに後をついていく


「ところで君は来たことあるみたいにスラスラ進むな」

「あぁ、地図が部屋に貼ってあったからな」

「君は吟遊詩人にでもなりたかったのかい?」


「いや、憧れてはいたけど、そんなつもりはなかったよ」

「憧れ?」

「クロノス様はクロード大陸から出たことがありませんでしたので」

「なるほどね」

「箱入り息子~?」

「んー、出ようとすれば出れたけど……本を読み終わってからにしようと」

「まったく君は呆れた奴だ」


森に光が差し込む


「もうすぐ出口だな」

「あぁ、森を抜けるとすぐに街だね」


森の出口に屈強な冒険者が立っている


「何かあったのか?」

「僕は嫌な予感がしてならない……」

「レヴィも~」


すると冒険者が話しかけてきた


「聖王様御一行ですね、お待ちしてました。どうぞこちらへ」


冒険者は森から出てすぐにある、四角い石材で出来た舞台へ案内する


「やはりか……」

「だね~」

「どうしたんだ?」


「聖王様と共に行動している男に——」


「勝った者には褒美を与える。男が全員倒した場合入国許可する。だろ?」

ベルフェが言葉を遮った


「その通りです」


「今回集まったのは何人だい?」


「20人です」


「僕たちの時の半分か」

「なら問題ないね~」

「いや、あるだろ!なんだこれは!」


ベルフェはため息をつく

「この国の聖王ルシフの悪い癖だね」


「やらなきゃだめか?」

「穏便に済ませたいならね」


クロノスはため息をつく


「わかったよ、やればいいんだろ」

クロノスは舞台に上がる


「ちなみに君たちは、この男が何者か知っているのかい?」

「いいえ、聖王様のどなたかの旦那様としか」


『!?』

三人は驚き、そして気品のある振る舞いを始める


「なら、存分に腕試しをしたまえ。僕が許そう」


「レヴィの旦那に勝てるものなら勝ってみたまえ~」


「聖王の旦那ではなく、聖王を従える者である。失礼のないようにな」


「は、はぁ」


無駄話をしているとクロノスがどんどん試合を進めて行く


いくら屈強でも一国の冒険者

クロノスは武器を使うことなく千切っては投げていく


「見ているこっちが申し訳なくなるな」

「そだね~」

「クロノス様……」

ジンだけが見惚れていた


「あと何人だ?」

クロノスが辺りを見渡す


「私で最後だ……」

着物を着て顔を布で包んだ女が大きな剣を片手に舞台に上がる


「最後は女?でも、お前強いな」

クロノスが構える


「はじめよう……」

呟くように女が話す


「なぁ、あれって……」

「う~ん、そうだよね~……」

二人は布から靡く綺麗な赤髪を見つめて呟く


「どうかしましたか?」


「いや、あの馬鹿は強いぞ?」

「うん、きっとあの馬鹿は強いと思う~」


「知っているのですか?」


「いや、知っているも何も……」


クロノスが斬りかかる剣を掴んだ

「すごいな……腕がバッサリいかれるかと思ったぞ」

「掴む貴様もな……唸れ……レーヴァティン……」


大剣は炎の渦に包まれ、咄嗟にクロノスは手を離した

「炎の剣、宝剣レーヴァティンか。お前ただの冒険者じゃないな」

「流離の冒険者だ……」


「うわぁ~、相変わらず馬鹿だねぇ~」

「あぁ、馬鹿だな。宝剣持った冒険者がいるわけないだろ」


「あの阿呆とはお知り合いなのですか?」


『知り合いじゃなければよかったと思ってる』


クロノスはダーインスレイブを手に剣戟を受け流す

女は大剣と思わせない速度で斬り続け

クロノスを舞台端まで追い込む


「いや、お前強いわ」

「貴様もな……」

布からのぞく顔に合わせてクロノスも笑う


クロノスは飛び上がり女の背後に回り、距離をとる


「ジン、借りるぞ!」

クロノスは笑いながら叫ぶ


「は、はい?」


クロノスは地面を強くけり、女に背を向けて飛びかかり

外套で女の視界を覆うと、身を翻す勢いで斬りつけた


「ジンちゃんの技だ~」

レヴィアが指をさす


「でたらめだ……」

「闇撫……クロノス様、いつの間に」


女は剣を正面に向けていたが、刃が横から襲ってきたため

反応が遅れた


が——


刃が女の肩すれすれで止まった

「俺の勝ちかな?」

「力試しだ……調子に乗るな……」


女は立ち上がり街へと去っていった


「なんだあいつ、強がりやがって」

クロノスが戻ってくる


「強がってなどいないさ、あの馬鹿は手加減していたからな」

「40ぱーせんとくらい~?」


「知り合いなのか?」


「君もそのうち知り合うさ」

ベルフェは静かに笑った


「入国許可がおりましたので、街の中へどうぞ」

冒険者が案内する


「こちらが宿泊施設です」


大きな宿に通された

20組は平気で寛げそうな宿だ


「ほかに客はいないのか?」

「はい、ここはルシフ様の所有する宿ですので、関係者のみ利用されてます」

「なんかずれてるな」


「あぁ、ここの聖王は馬鹿なんだ」


四人は広間の椅子に腰かけ寛ぐ


「しかし、君とは敵でなくてよかったよ本当に」

「どうした?急に」

「先程の技を見て……ね」

「あぁ、言ってなかったっけ?俺は一度見た技なら習得出来るぞ?」

「はぁ!?」

「魔法も本を読んで覚えたんだ。練習しないとそこまで応用利かないがな」

「先程の技はジンのそれと遜色なかったぞ?」

「ジンがあれを俺相手に使ったからな。余計に覚えやすかった」

「ほんとでたらめだ……」

ベルフェは手をひらひら振った


「ですがベルフェ様?私達が敵対することなど元からないですよ?」

「どういうことだい?」

「お飾りの王とその側近は聖王軍との戦いに赴く理由などありませんから」


——?


ジンは何を言っているんだ?


「ベルフェ様は何故魔王軍と戦いを?」


「国民を守る為か?」


「レヴィアちゃんは?」


「国を壊されない為……?」


いや、当たり前のことだろう


国を滅ぼされたら誰だって……


「私はクロノス様の命で、船を破壊させたり、薬品や食料。書物を奪わせたりはしました。あとは宝剣を自ら出向き、集めていました」


「宝剣を漁る夜叉……どこかで」


「もしかして『天夜叉』?」


「まさか、ジンが天夜叉なのかい!?」


「天夜叉?」


「聖王軍が仲間に引き入れようとしていた者の名だよ。宝剣の所持者に戦いを挑み、勝ちとり、死を与えずして闇に消える夜叉。相当有名だよ」


「私にもそのような呼称がつけられていたとは……」

ジンはクロノスを見て少し微笑む


「話を戻しても?」


「あぁ、すまない」


「そのような命しか下さない魔王……配下の者が街を襲いたいと言えば、ろくに話も聞かず『いいよ』と答えていた者に責任があると?」


ベルフェはため息をつく

「友人が人を殺したいと相談してきた。どうでもよかったので勝手にしろと答えた者は咎人か……?難しい問題だな」


レヴィアはずっと?を浮かべている


「秩序や常識の範疇で人は生きているんだ。止めなかった王に責任がある」


そうだ、ベルフェの言う通りだ


「私達魔物にそんなルールはないんですよ。いい加減、仲間に向かってその発言はやめていただきたいのです」


「仲間か……そうだな。ジンの言うとおりだ。すまなかった」


おい、やめろ


「いえ、こちらこそ失礼しました」


やめてくれ


「だが、僕たちは君たちを受け入れたが、他の聖王はそうとは限らないから発言には気を付けてくれ」

「はい、ありがとうございます」


それでは俺が


「悪くないみたいじゃないか……とでも?」


「なっ——」


「表情に出ています。何年傍に仕えていると思ってるのですか?」


「だけど」


「クロノス様は部屋に閉じこもっていたので知らないこともありますね。最後にお二人に問います」


ベルフェとレヴィアがジンを見つめる


「皆さんは一体『何』と戦っていたのですか?」


空間が軋む音がした


こうして魔王と王達との


本当の邂逅が幕を開ける


旅はまだまだ続く

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