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七聖の王と悪戯好きな魔王  作者: 秋野 紅葉
眠り姫と『お菓子』な姫
27/71

それぞれの夜

「まったくもう、法令遵守もへったくれもありませんわ!」


マーモは机に並ぶ大量の本と書類に埋もれかけている


「どれもこれも子供の落書きじゃあるまいし、整理すら追いつきませんわ!」


「申し訳ございません……わがアスティア帝国にはリオス公国のように政務官を据えておりませんので……」

大臣は汗を拭う


「あなたも何の為の大臣か解りませんわね。伝言や呼びたてなら鳩にでも頼んだほうがマシですわ」


「言い返す言葉も……」


「はい」

マーモは大臣の前に薄い本と羽ペンを置く


「これは?」


「必要のない法令を無くしてまとめましたの。私がいる内に解らない事は聞いてくださいます?そしてメモをとること!」


「は、はい!」


「政務官をリオスから派遣します。代わりに……アスティア山脈の坑道に農夫を送ってくださるかしら。整備をさせますわ」


「謹んでお受けいたします」


「重要な物は終わりましたわ。残りは三日ほどで片づけます」


「急を要することはございますか?」


「そうですわね……どこかの姉妹のせいでアスティアは魔法学と農作物に偏りすぎですわ。商業区を拡大して商人をもっと受け入れないと通貨が回りませんわ」


「すると……?」


「魔法学用の倉庫を一つ潰して、外からの商人に開放してくださるかしら?物資の流通の偏りが緩和出来ますわ。薬品と食物しかない商業区では国民も満足出来ないでしょう」


「ですが……」


「ベルフェには私から話しておきますわ」


「では、そのように」


「私はもう休みますわ。もっといい国にしないと、魔物を使って襲わせた魔王に笑われますわよー?あの頃の方が危機感がありましたし」


「な、何を仰いますか。死人に口なしと言うではないですか」


「さぁ?死人なら私も苦労しませんわー」

マーモは執務室を手をひらひらさせながら出て行った


「まさかリオス公国の王がここまでしてくださるとは……恩義に報いなくては!」

大臣は本を開き黙々と読み続けた


——


軽口叩いたものの、実際魔物がうろついていた頃の方が引き締まっていましたわね……平和になったらなったで問題も出てきましたし……

魔王軍に街の半分を占拠された時、どれほどの怒りで団結されていたか……


マーモは思いだす

積み重なる死体の山、玩具を与えられたかの様にはしゃぐ魔物

鳴き声、怒号、高笑いが耳を劈いたあの夜を

聖王軍の始まりの日を


怒りも悲しみでさえも薄れゆく……平和ボケとは、このことですわね

でも……やっぱりクロノスが魔王と言うのが引っかかりますわね……

あの時——


『女子供を連れて行けー!全てを奪い尽くせ!ゲーテ様の命であり、ゲーテ様の為だ!』


魔物の言葉が妙に引っかかる……


マーモは窓から夜空を見上げると、思考を巡る意識が立ち止まる

「綺麗な空ですわ……」


——


「はぁー、疲れた。今日はこんなところでいーい?」


「はい、ベルゼ様!」

リオスの鎧を着た兵士がマナの結晶を拾い集めている


「でも、ラッキーだよなー」

「あぁ、まさか聖王様とパーティーが組めるなんてな!」

冒険者たちが騒いでいる


「おーい、騒ぐのはいいけど森の中では止めた方がいいよー?」

ベルゼが注意する


「聖王様がいればどんな魔物がきても怖くないでーす!」

「だよなー」


ベルゼはため息をつき

「森の中から生き延びた魔王が出てきてもしらないよー?」


「まっさかー、聖王軍が滅ぼしたのに出てくるわけないですよ」

「出てきてもまた滅ぼされるだけだしな」

皆が笑う


「実際ベルよりもよっぽど強いんだけどな……」

苦笑いをする


「何か言いましたか?」

「いや、なんでもないよ」

ニコリと笑う


でも、統率をとる魔王軍が滅びたのに魔物が一向に減らないなー

種族ごとに暮らすとこんなに増えるの速いのかな……

自然災害に見えてくるよ……


「じゃあベルは城に戻るから!明日も同じ時間に集まってねー」


『はーい』


リオスはこんなにも冒険者がいるのに、街が半分占拠されたって

未だに信じられないなー


ベルゼは部屋に戻る道すがら、記憶の糸を紡ぐ


アスティアに無数の火球が突如降りかかり

空に浮かぶ魔物の群れの一匹が手に国王の首をもてあそび

音をたて『それ』がザクロの様に潰れた刹那

再び無数の魔法が降り注いだ日


ベルは聞いただけだけど見なくてよかったな……

戦えなくなってたかも

お姉ちゃんと喧嘩して、街に加勢に行って……

火の渦の中で銃を振り回してるマーモを見たときは魔物かと思ったなー


「——っ」

ベルゼは思い出し笑う


あんなに強情だったお姫様が随分と優しくなったなー……

クロノスさんのおかげかな……

だったら、ベルも変われるといいな……


「元……魔王かぁ……」


ベルゼは空を見上げた


——


「レヴィア、早くしてくれないか?」


「ん~、もうちょいっ!」


二人はレヴィアの家に居た


「風呂を借りたこと、アストラルゲートを送り迎えしてくれたことは感謝する。だが、服ぐらいさっさと決めてくれないか?」


「似合……う?」


レヴィアは色っぽいワンピースをぶかぶかに着こなしている


「姉の物を着て遊ぶ子供にしか見えない」


「ベルフェも人のこと言えない体型だからぁ~」

少しむくれる


「はいはい、わかったから早くしてくれ」


ふと、レヴィアの机に置いてある短剣が目に入る


懐かしいな。各国の代表が所持する聖王の証

なんて言えば聞こえはいいが、剣の国で買った土産物とはな

都合よく六本同じ物があったから買ったとマーモは言っていたが

国民には言えたもんじゃないな


世界各地を襲った魔王軍の被害

最大でリオスの占拠及び半壊、最小で空中都市の城の占拠

初めは、ちまちまとした攻撃だったのにな……

あの日突然世界が崩壊するとは……

ベルをなんとか行かせまいとしたのをよく覚えている……


その首謀者と僕が今では旅仲間とは……世の中何があるかわからないね

僕とベル、マーモにレヴィアは彼を受け入れたが

他の奴らはどうだろうな……

ひとまず国民に魔王の健在を知られぬようにしなければいけないな


「本当に彼は厄介ごとしか抱えていないな」

窓から赤い月を眺めた


「ん~、迷うよぉ~」


——


「遅いなー、あいつら」


「そうですね」


二人はパチパチと音を立て燃える火を見つめる


「レヴィアが戻ってこないと風呂に行けない」


「アストラルゲートも万能ではないんですね」


「あぁ、こんな入り組んだ森に空間を繋げるのは難しいからな。どちらか滞在してれば造作もないがな」


クロノスは草の上に寝転がる


「クロノス様、布などお持ちしましょうか?」


「どこからだよ、ここは城じゃないぞ?」


「つい、癖とは恐ろしいものですね」


二人は顔を見合わせ笑う


「でも、あの頃は魔王なんて言われて、食べ物盗ませたり、船壊させたり……色々悪いことしたよな……」


「人間も魔物を好き勝手殺しているのでお互い様です」


「そんなものかなー。マーモも魔王軍に酷い目にあわされたって言ってたし」


「あの子の酷いというものは、たかがしれてます」

ジンは新しい刀の手入れを始める


「それ手入れ必要ないぞ?」


「はい?」


「聖典によれば、その刀『獅子王』は生きた刀らしい」


「なるほど……何処がどのようにかは解りませんが」


「だよなー、それじゃあ使い物にならないもんな」

クロノスは鎖で雁字搦めにされた刀を見る


「では、せめて柄の部分ぐらいは」

ジンは手入れを始める


「マーモが何か気になること言ってた気がするんだけどな……」


「忘れるならその程度のことですよ」


「忘れていた、ジンと夜の営みを……」


「忘れる程度にしないでください!しかも言葉が俗世っぽくて厭らしい……」

ジンは顔を真っ赤にする


「うん、その反応を見て大体の『男』と『女』というものが理解できた。ありがとう」

屈託のない笑顔だ


「またからかいましたね!?」


「でも……普段凛々しいジンの可愛い部分が見れて俺は嬉しいけどな」


「なっ——」


「これが『ちょろい』というものらしい」


「クロノス様!」

ジンが怒るとクロノスは笑った


そして笑顔に影が落ちる


「また、皆で暮らして笑いあえる日が来たらいいな」


「……そうですね」

ジンは無理して笑って見せた


二人は空を見上げる


——


それぞれが抱えた想い


それぞれの過去


それぞれの夢が


交錯するまで


そう遠くはない


そして剣の国が魔王を迎え撃つ



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