終焉の王と—の従者【番外編】
——な従者は王の民を救う心で救われる。暴食の——は王の——で守られた。
人は皆、自分以外を妬み、羨み、全ての毒を吐ききった後に自分を蔑む
誰もが痛みを抱え、苦しみを、欲望を押さえ込んで生きている
だが、心の深淵では感じてしまう
これは私だけが負っている業なのではないか?
——な従者は王の力に屈服する。傲慢な——は王の片腕に納められる
人は皆、生きることを止めない。死と対峙する勇気がないから
人は皆、愛することを止めない。誰かに愛される為に
人は皆、怯えることを止めない。欺瞞と正義が同価値に降り注ぐから
では——
『人』とは何か
——世界を紡ぐピースに過ぎない
存在意義は
——自分自身と向き合い、自分自身を赦す為
なら——
「『俺』は誰だ?」
クロノスのは湖のほとりで木にもたれ掛かり、思い更ける
手には『英雄忌憚』という童話が開かれている
初めは読書に集中していた。だが、童話に出てくる終焉の王を見ていると
解らなくなった
自分が何者なのか
「なんの為に旅をしているの?」
「世界を滅ぼすことに飽きたから」
「新しい『世界』は楽しい?」
「あぁ、そこそこな」
「そう。『世界』の形は人それぞれ……農夫には広大な畑が世界、学者には本の中にある知識と事象が世界、子供たちには光と愛情が世界なのかもね?」
「じゃあ、俺にとっての世界は皆で笑いあえる世界だな」
「聖人君子みたい。嫌いじゃないけどね、神の御心のままにとか」
「宗教は確かに立派だ。他人が見れば否定されるかもしれないが、当の本人たちは幸せに満ち溢れている」
「あながち間違ってはいないね」
「頭良さそうな事言ってるけど、下着くらい着けたらどうだ?」
「なんか落ち着かないから、好きじゃない」
湖の中に腰までつかり、銀色の髪を水面に落とした少女がそこにいる
儚げな顔立ちと消えてしまいそうな白い肌
薄いローブに陽が差し込むと透ける肌は陶器のようだ
「よく俺がいるのに水浴びを始めたな」
「私綺麗でしょ?見られるのは嫌いじゃないよ」
「変わった奴だ」
「旅人さんもね」
笑顔を交わす二人はまるで旧友のようだ
「お前、名前は?」
少女は空を見て笑った
「エコー、エコーって呼んで?旅人さんは?」
「俺は、クロノスだ。クロノス・ヨルムンガンド」
「ヨルムンガンド……か」
「どうした?」
「ううん、なんでもないよ」
少女は人差し指を顎の下に当て笑った
「——っ。エコーは綺麗だな」
「知ってる。でも改めて言われると少し照れる」
「照れてるようには見えないぞ?」
「体の一部分が赤くなってるけど……見る?」
「なんか嫌な予感がするからやめておくよ」
「ところでユニコーンって知ってるか?」
「うん。天空都市にいるって聞いたことある」
「ほんとか!?」
「うん、クロは面白いリアクションするね」
「クロ?」
「クロノスのことだよ。」
「友人にも同じような呼び方をする奴がいるな」
「その女の子は友人とは思ってないと思うよ?」
「そうか?」
春を告げる青空、我は思う。どのような新しい息吹を恵んでくれるのか。
夏を歌う声、我は感じる。数多の魂の燻ぶる熱を
秋を運ぶ風、我は愛する。些細な衝突に憂う声を
冬が眠りに誘えば、我はまた新しい出会いに心を躍らすのだろう
「英雄忌憚か?」
「そう。もう読んだ?」
「その部分は」
「クロはそのまま流れに身を委ねればいいよ。誰かが作った道しるべじゃない。例え流されたとしても、それは君の意思だから。既に君の物語だ」
「どういうことだ?」
「探さなくても、会わなきゃいけない理由があるなら、いつか会えるってこと」
「そういうもんかな?」
「そういうものだよ」
ニコリと笑う顔は、今にも誰かが奪い去りそうなくらい美しい
「俺、エコーのこと好きかも」
「あら、嬉しい。でも……」
「なんだ?」
「次に会えたとしても同じ言葉を聞けないかもね」
残念そうに笑う
「そうか?また会えたなら言ってやるよ」
「そう……なら、おまじないをするね」
少女は湖から上がると、クロノスの額に口づける
「ほら、クロも」
そう言って濡れた美しい髪を耳にかけた
「あ、あぁ」
クロノスも口づける
「ふふ、運命に引き裂かれる恋人みたいね」
「それは童話のようだな」
二人して笑った
「じゃあ、そろそろ行くね」
「あぁ、気をつけてな。また、どこかで」
「うん。きっと……そう遠くないうちに会えるよ」
少女は森の奥に消えて行った
さて、この本も擦れてしまって、これ以上読めるページがない。
と、いうことはだ、次の国に行かなきゃな
とりあえず『仲間』の元へ帰るか
クロノスは森の入口へと向かってゆく
白銀の馬に見送られながら
そして、旅立ちの朝が来る




