『重い』姫様と監視される魔王
「いらっしゃいませ~」
アストラルゲートをくぐり、たどり着いた場所は
塔の中なのだろう、窓からは赤い月と美しい街並みが見える
部屋の中には屋上に抜けるであろう螺旋階段、本棚には大量の本
魔女の部屋だと言われたら納得ができる部屋だ
「こっちねぇ~」
言われるがままに後をついて行き、扉を抜けると景色が変わる
ちぐはぐなヌイグルミが散らばり、紫のレースであしらった天蓋付きのベッド
読みかけの本が散らかり、なんだか甘い匂いがする
「そんなに見ちゃ……やぁ……」
少女は恥じらう
好きなところに座るよう言われたので、丁度いい高さのベッドに腰掛ける
「そんな……すぐに?でも……嫌いじゃない」
そういって少女は潤んだ目でにじり寄ってくる
「はいはーい。レヴィアちゃんそこまでです」
「なんでレヴィの時だけジンちゃんもいるの~?」
少し膨れる
「あぁ!膨れたレヴィアちゃんも可愛い!」
「お前らいいかげんにしろよ?」
クロノスは不機嫌だ
「クロちゃんに一度来てほしかったの~」
「それは構わないんだが、何故手に鎖をつけられなきゃいけないんだ」
「クロノス様がベルゼに手を出したからです」
ピクッとレヴィアが揺れた
「また、そうやって……どうして他の女の子ばかり相手にするのかな~?」
「いや、違う。不可抗力だ」
「クロノス様、言い訳になっていません。先日もせっかく夜伽をしようと部屋に行けば、マーモを連れ込んでいましたし」
「へぇ~、マーちゃんもおしおきが必要だね~」
「いや、あれは勝手にマーモが潜り込んできたんだ」
「ちょっと待って~?ジンちゃんも敵……?」
「いくらレヴィアちゃんでもクロノス様は渡せません」
空間からレヴィアが大きな黒い鎌を取り出し、クロノスの首に当てる
「いっそ……死ねばレヴィだけのものだよ……ね?」
「まった!話し合おう!その物騒なものをしまってくれ……え?」
クロノスが鎌をまじまじと見つめ、取り上げる
「それレヴィの~」
少し泣きそうだ
「なんでこれをレヴィアが持ってるの……?」
「レヴィの宝剣だもん」
「クロノス様、それは?」
「エリュシオン、相当珍しい宝剣だ。傷から魔力を送り込み死に至らせる」
「まさか……即死系の宝剣が実在するとは」
「驚いた。しかもこれは人間じゃ扱えないはずだ」
「え?レヴィは人間じゃないよ?」
『は?』
二人はレヴィアを見つめる
「どうみても人間だよな?」
「えぇ、可憐な幼女です」
「レヴィはね~、魔女の血族なの~」
「魔女ってあれか?太古に存在したアンブロシアってやつか?」
「そう~。マナが高すぎて神々に生贄にされていた種族だよ~」
何かが音を立てて結びつく
「だからレヴィアはエレメンタル使えないのか!」
「ぴんぽ~ん。ちなみにアーカイブも光系統は使えないの~」
そう言ってにじり寄る
「クロちゃん正解したから、ご褒美のちゅっ」
クロノスは口を塞がれる
「なっ——」
ジンが立ち上がる
「おいレヴィア、年を考えなさい。やっと二桁いったぐらいだろ?」
「え~、マーちゃんより年上だよ?」
時が……止まったかのように思えた
「ん~とね~?下からベルゼ、サーシャ、ベルフェとマーモが同じで~、レヴィ、ルシフ、アルスの順番~」
「ちょっと待て、ジンとマーモが同じだから……俺と同じ……?」
「そうだよ~、今更~?」
「いや、そういう話しなかったし」
「そんな……レヴィアちゃんが年上なんて……レヴィア……お姉ちゃん……」
ジンは呟きながらニヤニヤしている
「で、俺をこの部屋に呼んだ理由は?」
「交わって~、子供をつくるため~」
「こらこら」
「クロちゃんを誘惑するため~?」
「いや、同じだから」
「じゃあ……ジンちゃん!まじわろ~」
「え、そんな!女同士で……でもレヴィアちゃんなら……」
「おーいジン、かえってこーい」
レヴィアは機嫌よさそうに笑っている
「ん~とね、クロちゃんが楽しそうなことしてるから~」
「なんのことだ?」
「聖王攻略げーむ?」
「まてまて、そんなことはしてない」
「だって~、マーちゃんは前より素直になったし~、ベルゼは人に優しくなったし~」
「俺は何もしてないぞ?」
「ジンちゃ~ん、殴ってい~い?」
「えぇ、今なら目を瞑ります」
「なんでだよ」
「次はレヴィかベルフェだね~」
「鋭いな」
「でも~心配しないで~?レヴィはもう攻略されてるから~」
そう言ってクロノスの膝に乗る
「クロノス様は魔王改め、淫王ですね」
「お願いだからやめて」
「アルスみた~い」
「アルス?」
「歩く性遺物?」
「なんだそれは」
「ディオーネの聖王だよ~。ただの変態だけど~」
「痴女ってやつですね」
「ジンさん、やめなさい」
クロノスはレヴィアをクルッと回して、向き合う
「んっ」
レヴィアは目を閉じて顎をあげる
「いや、違うから。本題の続きを」
「むぅ~、ベルフェは怒らせないほうがいいと思うの~」
「どうしてだ?」
「クロちゃんとは相性悪いから~」
「姉妹揃ってかよ」
頭に手をやる
「理由は?」
——
「なるほどな」
「レヴィアちゃんはベルフェ様より強いですか?」
「うぅん?レヴィのが強いー」
「レヴィア!俺を守ってくれ」
「やぁ~。レヴィは守られる方が好きぃ~」
「聖王トップクラスの人がなんか言ってますよ?ジンさん」
「可愛いので許します」
クロノスは頭を抱える
「クロノス様なら案外余裕なのでは?」
「ジン、お前は俺をどんだけ買いかぶってるんだよ」
「霊長類最強かと」
「やめてくれ」
——ィイイイイイイ
「もぅ、またぁ?」
「なんだこの声!?」
「トランぺッターっていう天使族~。ちょっとまってて~?」
「あいきゃんふら~い」
レヴィアは窓から飛び出した
「おい!レヴィ——」
クロノスは窓に駆け寄る
「よんだ~?」
逆さ吊りにレヴィアが顔を出す
窓から上を見ると塔に鎌が刺さり
レヴィアがぶら下がってる
「驚かすなよ……ってか、パンツ見えてるぞ」
スカートが逆さになっている
「ぃ……やぁ……見つめない……で?」
目隠しをつけ、白く美しい翼を広げ、体中に鎖を巻きつけた天使が
空から姿を現す。美しいと言うよりも悍ましいがピッタリな見た目だ
「あれがトランぺッターか」
「麻痺させる鳴き声と~力の強さが特徴~」
トランぺッターの周りに光の刃が浮かび上がる
「おいおい、魔法も使うのかよ」
「ちょっと待っててねぇ?」
そう言ってクロノスの口を塞ぐ
「ちょ、また!」
ジンが言うや否やレヴィアが飛び上がった
「俺たちも行くか」
「ちょ、え?」
そう言うとジンを抱え、空へ飛び出す
タラリアの浮力で浮きあがり、塔から距離をとった
空に飛び上がったレヴィアに光の刃が降り注ぐ
「アイスレイド」
氷の鏡が変わり身をする
トランぺッターが周囲を伺うとレヴィアは塔で手招きをしている
「おいでおいで~」
トランぺッターはむき出しの牙をガチリと鳴らし、
無数の閃光の弾丸を撃ちこむと共に突進する
が——
レヴィアの周囲を黒い霧が包み込む
弾丸と共に塔の上に降り立ったトランぺッターは霧に囲まれる
「タナトスか」
「タナトス?」
「闇系統最上位魔法だ。自身を闇で包み込み姿をくらます……対象が誘い込まれたなら闇に呑まれ抜け出せない」
「だから間抜けにきょろきょろしてるんですね」
「まぁ、対策もあるけどあれには無理だろ」
「そのようですね」
レヴィアを見失い動揺したトランぺッターが叫ぶ
——ィイイイイイイイイ
「あぁ、もうっ!うるさいのっ!はじけちゃえっ!」
空気が震える
振動が大きくなり、トランぺッターが小刻みに震えだした
「終わったな」
「あれは?」
「アトモスフィア。無系統最上位魔法だ。空間の座標にある空気を振動、圧縮して爆発——」
——ッァアアアン
クロノスが言い終わる前にトランぺッターは弾け飛んだ
無残にも肉片が地面へ向かい落下してゆく
「醜い天使も散り方は綺麗だねぇ~」
顔をほんのり赤く染め、レヴィアは赤い月の下微笑んでいた
「あぁ~あ、ここまで飛んできたか。早く洗わないと」
「ですね」
二人の服も少し血で濡れていた
「あぁ~、ジンちゃんずるい!レヴィもお姫様だっこされたい~」
「ちょっと待ってろ」
クロノスはジンを抱え、窓から部屋に降ろすと
レヴィアの元へいく
「お待たせ、ほら。そろそろ帰ろう」
「ありがと~」
クロノスに抱かれ、窓から部屋に戻った
そして三人は夜が更ける前にアスティアに戻った
「ったく、お姫様は人の風呂を邪魔する習性でも?」
「ジンちゃん髪洗ってくれてありがと~」
「いえ、毎日でも洗います」
「二人だけで入ってくれよ」
『やだ』
「こっちが嫌だよ……たまにはひとりでゆっくりさせてくれ」
風呂上がりに話をする三人の前をベルフェが通り過ぎる
「おい、ベルフェ」
「なんだい?」
眼鏡を外し振り返る
「明日工業区の案内頼む。それと、遅くなってごめん」
「あぁ、気にするな。僕がけしかけたことだからな」
静かに微笑んだ
「じゃあ、明日な」
「あぁ、寝坊するんじゃないぞ?」
「俺の台詞だ」
こうして待ちに待った邂逅が訪れる
夜が更け、朝が来て
眠り姫と魔王の戦いが始まる




