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七聖の王と悪戯好きな魔王  作者: 秋野 紅葉
眠り姫と『お菓子』な姫
20/71

『お菓子』な姫と優しすぎる魔王

「で、今日はベルの番だねー!」

ベルゼが振り向き微笑む


「あぁ、そうだな」

「で、なんでここなの?ピクニック?」


二人はアスティア山脈付近の森を歩く

「そうだなー、しいて言うなら街を見下ろせるからかな」

「いい景色だよねー!お菓子も沢山持ってきたし!」


ベルゼは荷台に沢山のお菓子を積んで引っ張ってきた


「ベルゼはなんでお菓子を作るんだ?」

クロノスは岩に腰掛ける


「んー、お腹がすくから?」

ベルゼは荷台に腰掛ける


「単純だなー。でもベルゼのそういうところ嫌いじゃない」

「クロノスさんはすぐにそういう事言うよねー。でもベルはそんなに簡単に攻略できないよ?」

そう言って笑う


「攻略ってなんだよ」

クロノスも笑う


「でもクロノスさんが魔王って信じられないなー」

「何故?」

「んー、優しいし、かっこいいし、頭いいし!」

「そうか?俺が魔王だったのは本当だけどなー」

「でも、アスティア攻めてきた魔王軍の牛鬼は屑みたいな奴だったよ?」

「牛鬼?そんなのいたっけな……」

「ゲーテ様のーとか言ってたよ?女の子ばっかり殺してた」

「確かに屑だ」

「クロノスさんが言っちゃうの?それ」

ベルゼが苦笑いする


「俺はさ、頼られたら力になって、困っていたら手を差し伸べて、泣いてる奴がいたら話を聞いて、楽しそうにしてる奴がいたら共に笑いたいんだ」

そう言って空を見上げる


「クロノスさんって人間より人間してるよね」

「そうか?」

「理想の人間かな。誰もがそう思うけど、そう上手くはいかない」

そう言って悲しそうな目をする


「ならベルゼはどうなんだ?」

「ベルは一度きりの人生だし、好きなように生きれたらいいかなー」

「じゃあなんで魔王を倒そうとしたんだ?」


「お姉ちゃんがね、魔王軍が攻めてきても戦わなかったんだ。このままじゃ街がめちゃくちゃになると思って……気が付いたら槍を持って屋敷を飛び出してたんだ」

「でも、お前たちはただの貴族だったんだろ?」

「うん。国王様は殺されちゃって、マーモに連れられて城に行ったら王様にされちゃった」

「相変わらずあいつはめちゃくちゃだな」

「だよねー」

そう言って微笑む


「でも、結局国を見捨てなかったベルゼは優しいな」

「そんなことないよ?自分の身を守れない人は助ける価値がないし」

「きついこと言うなー」

「だって今は助けられても、その人の人生にずっとベルが登場し続けることは出来ないんだから」

「じゃあなんで助けたんだ?」

「街が壊されたらお菓子食べれなくなっちゃう」


「は?」


クロノスは頭を抱えため息をつき

立ち上がる


「なんとなくわかったよ。ベルゼ、勝負をしよう」

「え、なんで?」

「勝ったほうが何でも一つ命令できる。勿論、ベルゼが勝ったらジンを置いて行ってもいいぞ?」


ベルゼの目が輝いた


「何が目的か知らないけどいいよ?ルールは?」


「相手に参ったと言わせれば勝ち」


「参ったって言う前に手足が無くなっても知らないから」


そう言ってトリシューラを構えた


「合図は?」

「そっちに荒れた平野があるだろ?そこに出たら開始だ」

そう言ってクロノスは走り出した


「待っててジン姉!今手に入れるから!」

後を追うように走る


ベルゼが平野に出た瞬間

「レイジングフレア」


火球が空から降り注ぐ

が——


煙が晴れると、ベルゼは無傷だ


「トリシューラでかき消したか……厄介だな」


「相性悪いかもよ?」

そういって赤い槍で斬りかかる


四方から降り注ぐ斬撃をダーインスレイブで受け流しながら

「対策はある」

そういってアイギスの盾を出す


「うわー、厄介だねそれ!でも——」

距離をとり槍を構え、空へ飛び上がる


「ゲイボルグ!」

白銀に変わる槍を投げつける


盾にぶつかり、激しい金属音と共にアイギスの盾が地面に落とされる


「でたらめだな……」

走ってきたベルゼが槍をとると

「デルグ!」

声と共に黒く変わる槍が斬りかかる


「ちょ、おま、それ回復不能だろ!」

「今更何を言ってるの?殺すつもりでやってるんだから当たり前!」

クロノスは後方に開いたアストラルゲートに身を落とし、

氷の鏡がベルゼを包む


「これってレヴィアちゃんの!?どっちがでたらめなんですかクロノスさん。でも——」


「ジャルグ!」

声と共に赤く変わる槍が氷の鏡をかき消す


「流石に甘いか」

そう言って距離をとり、クロノスが姿を現す


「ジン姉が言う通り強いよ。クロノスさん」

「ありがとう、ベルゼも強いよ。でも——」

クロノスが宝石を取り出し剣に変える


とても美しい宝飾であしらわれ、どの国の有名な美術品でも霞むような

武器ではなく芸術の類の剣を遥か上空の空間に投げ、突き刺した


「喰らう名はトリシューラ!」

そう言い放つと、トリシューラは元の三又戟の姿に戻る


「何をしたの!?」


「宝剣フラガラッハ。指定した宝剣を1つ使用不可にできるんだ」

「どこまででたらめなの!」


そう言うと斬りかかる


「形成逆転かな?」

ダーインスレイブで受け流しながらクロノスが笑う


「まだまだぁ!」

絶えず斬りつけるベルゼ


しかし、クロノスがダーインスレイブで弾き飛ばした


「——っ」


「もうスタミナ切れだろ?」


「うるさい!そこまでしてクロノスさんはベルに何をさせるつもりなの!?」


クロノスは一息つき、屈託のない笑顔で言った

「自分の分の菓子を減らして、国民にもっと菓子を作れ」


「はぁ!?何を言ってるの?そんなことの為に戦ってるの!?」


「重要なことだ。お前が作った菓子を食べて小さい子が笑ってたんだ。凄いことじゃないか。俺には誰かを殺せても、笑顔にする術はない」


「その為にベルに我慢しろって言うの?」


「我慢はしなくていい。その日、その時食べる分だけでいいじゃないか」

「なんでそこまでしなきゃいけないの」

「王なんだから民を笑顔にするのが仕事だろ?それに人間3食普通に食ってたら死にはしないんだから」


「それでも——」

「なぜ、そこまで食にこだわる?世界はもっと素敵なもので溢れているんだ」

「食べてると幸せだから」

「お前なら他にも手を伸ばせる幸せは沢山ある」

「国民もそうでしょ!?」

「そんな力はないさ。力ある者が力ない者を助けずに、どこでその力を使うんだ?」

「力ない物は甘えに驕るよ?」

「その時は叱ってやればいい。それも王の役目だ。まずは手をさし伸ばさなければ始まらない」


「クロノスさんは甘すぎるよ」

「そうか?これでも魔王軍からは非道の限り文句言われたぞ?」


「ふっ、あはははは」

ベルゼが笑う


「わかったよ!だけど、完璧に力の差を感じないと降参はできない!」

「いいよ、そうしよう。お前の欲を完膚なきまでに消し去ってやるよ」

「え?」


クロノスは地面に手をつくと

「ヘカトンケイル」

詠唱と共に地面が崩壊し、地表を飲み込まんと溢れ出るマグマに二人が落ちる


「こんな魔法見たことないよ。降参だよ」

落ちながら言うベルゼをクロノスが捕まえ、抱える

「俺の勝ちだな」

そう言って微笑むと、そのまま崩落する岩から岩を飛び移り地上へ上がる


「この穴どうしよう」

お姫様抱っこされたままベルゼが言う


「あとで山を切り崩して塞いでおくよ」

「ほんとでたらめ」

二人で顔を見合わせて笑う


「食べること以外に幸せなこと見つかるかなー?」

「遊ぶとか、お洒落するとか、恋愛とか?あ、本はいいぞー?」


少し考え恥ずかしそうに笑うと、クロノスの頬に口づけをした


「え?」

「恋愛ならちょっといいかなーって思えた」

そう言って照れながら笑った


「俺を選ぶと敵は多いぞ?」

「いいもーん、こうやってしてもらってる分ベルが一歩リードなはず!」

「お姫様は皆こうなのかな?」

クロノスは少し困ったように笑う


「さ、着いたぞ」

先程の街が見える高台に着くと、ベルゼをおろした


「何をするの?」

「こうするのさ!」


そういってクロノスは荷台をぶん回し、菓子を街へ放り投げた

「ディレイ」

詠唱すると、街へゆっくりと菓子が降り注ぐ


受け取った人々は皆笑顔になっている


「皆喜んでくれたかな?」

「あぁ、王様からの最高のプレゼントだ」


「でも、ベルの分は?」

少しむくれてベルゼが言う


「勿論、1つとってある」

そう言ってベルゼに1袋渡した


「これじゃあクロノスさんの分がないね」

ベルゼは1つ咥えてクロノスの方を向く


「んっ」


「あぁ、半分くれるのか?ありがとう」

躊躇なく咥えたものをかじった


「!?」


「やっぱ美味いなー。ベルゼのクッキー」


「冗談のつもりだったのに……唇が当たった気がする……」

「え?なんだって?」


「なんでもないー!」

ベルゼは顔を真っ赤にした


こうして魔王は『お菓子』な姫を攻略した


そして『重い』少女の反撃が始まる



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