プロローグ~リオス~
ここは太陽の国リオス公国。ラケシス大陸の中で一番人口の多い国だ。
民は畑を耕し、市場で取引をし、決して裕福ではないが豊かな暮らしを送っている。今日も市場は活気と喧騒で……喧騒?
「だから、言ってんだろ!この酒は俺が銀貨2枚で買ったんだ!」
「俺の方が先に銀貨3枚で買ったよ!」
この手の争いは、ほぼ毎日のようにある。それもそうだろう、魔物に襲われない平和が彼らを虚栄で覆ってしまっているのだから。
——ドンッ
取り合いの末、勢いあまって男は後ろにいた少女にぶつかる
「いってーな、何処見て歩い——」
「あら、こちらの台詞よ?」
艶やかな黒髪のサイドテールが揺れ、共に組んだ腕の上で大きな双丘を揺らしながら、美しいヒスイ色の瞳で彼女は睨みつけて言い放つ。
「せ、聖王様……申し訳ございませんでした!その酒は譲ってやるよ」
もう一人の男に言い放つと人込みをかき分けながら男は走っていった。
彼女の名前は『マーモ・フォクシー』ここ、リオス公国が誇る聖王『七聖』の一人だ。身長は150程、華奢な体に似合わない立派な双丘は黒の豪華なドレスさえ着こなしている。伏目がちな目、影を落とす程の長い睫毛から垣間見えるヒスイの瞳は『美しい』という言葉だけでは表現できない。
彼女は王宮に生まれ、王宮で育った姫でありながら、魔法と銃を重ね合わせて使う『魔銃』の天才である。魔物の群れが押し寄せた際には、使用していた銃を空に投げると共に空を裂き、万の弾丸を打ち込んだ伝説も持っている。
『銃姫のマーモ』聖王と呼ばれるまで彼女はそう呼ばれていた。
「まったく、元気なのはいいけど程々にしてくれないかしら」
そう呟きながら彼女は市場を城へ向けて歩き出す。
民からかけられる挨拶には笑顔で手を振り、差し出されたものは後ろを歩く近衛兵に持たせ、悩んでいる民や困っている民には手を差し伸べる。
立派な王の姿である。国民の前では……
「まったく、私ほどの美貌を目の前にしながら称える言葉が『美しい』とか『麗しい』とか……もう少し言葉を探して欲しいものだわ」
城へ戻り、部屋でカップの紅茶を一口飲んだ後に言い放つ
「先日の宴に来てらした方々も、貴族という割にはあまりにも貧相で。これでは私に相応しい方はグリモワールでは見つかりそうもないわね。それなのにお父様は世継ぎ世継ぎうるさいし」
彼女はサイドテールに手を伸ばし、髪をとかしながら言う
「最近体を動かしていないせいで少しなまった気がしますわ。この二つの悩みを解消できる様な方法は……」
窓へ向かい、外を見る。城下町にある今は祭典等にしか使われない半月型の闘技場を見てニヤリと笑う
「私との婚儀を賭けて闘技大会などおもしろいですわね」
彼女のほほ笑みは遠い空へと向けられた