銃・槍・刀
『はぁ~』
3人は肩を並べて館の入り口でため息をついた
「なんなんですの?あの三人」
「クロノス様はいつにも増してですね」
「お姉ちゃんが活発に動いているの初めて見たかも……」
ベルゼは髪をいじりながら何かを考え、思いついた
「なら、私たちもいいところにいこー」
そう言うとジンとマーモを引きずって街の北へ向かった
「で、ここで何をしますの?」
「軽く汗を流そうかと」
たどり着いたのは山から見えた四角い箱のような建物だ
「見たこともないものばかりですね」
「お姉ちゃんが作ってくれたんだよー?」
「相変わらずなんでも玩具みたいに作りますわね」
ここは演習場。空間の中では冒険者がモンスターを倒して手に入れるマナの結晶を元に、『召喚魔法』を行うベルゼ専用のトレーニング場である。
魔導書には収められたモンスターの結晶が宝石展示会の如く輝いている。
この中から選んだものを魔導書が召喚し、ほぼ実践のようなトレーニングが積めるとベルゼは説明をした。
「また種類増えてませんこと?」
「たまーにお姉ちゃんがレヴィアちゃんと収集に行ってるよー」
「すごいですね……これも宝剣ですか?」
「そうだよー!『セラフの写本』っていう魔法をコピーする魔導書をお姉ちゃんが改造したの」
「ベルフェ様を見ているとマーモが不憫に感じますわね……」
「そんなことないですわ!」
「そうだよー!マーモは聖王のまとめ役なんだからー」
ジンは残念そうにベルゼを見た
「なんですの?その目は」
「いえ、よく聖王軍は生き残れたなーと」
「マーモは一人で戦うより仲間がいた方が強いもんねー」
「一人でも戦えますわ!丁度いい機会ですしここを使って証明しますわ!」
「ベルもやるー!」
二人は魔導書を覗き込んでいる
「どうする?何と戦うー?」
「そうですわね、まずは肩慣らしにオーガにしますわ」
「じゃあ召喚するよ!」
空間を隔てる鉄格子の反対側に、オーガと呼ばれる巨大な筋骨隆々とした鬼が現れる
「1匹ですの?」
「足りない?」
「10匹でお願いしますわ!」
次々と召喚される
「スタート!」
掛け声と共にベルゼがボタンを押すと鉄格子が上がる
それと同時にオーガが銃口に囲まれた
「カラミティフレアッ」
一斉射撃で致命を負ったオーガが次々消えてゆく
残りは2匹。その隙間を縫うようにティソーナを抜きマーモが駆け抜けた
そしてオーガは消え去った
「どうですの?」
「流石だね!マーモは」
ベルゼが褒める
「じゃあベルも行くね!」
ベルゼはオーガの上位種である一つ目鬼のサイクロプスを選んだ
開始と共にベルゼが叫ぶ
「デルグ!」
すると手に持った三又戟が黒くまっすぐな槍に変わる
そして回しながら斬りつける
「マーモ、サイクロプスの再生能力が発動しませんが故障ですか?」
「あれは、ベルゼの宝剣『トリシューラ』の能力ですわ。黒い槍は再生させず、赤い槍は魔法を封じ、白銀の槍は破壊をもたらすそうですわ」
「クロノス様が言う通り、やはり宝剣は便利ですね」
「ジンとクロノスの宝剣ほどではありませんわ」
「というと、欠点でもあるんですか?」
「トリシューラは強靭な力がないと扱えないってことですわね。つまり、スタミナ切れがあるってことですわ」
「魔法とおなじですね」
「そうですわね」
話しているうちに戦いは終盤のようだ
「ゲイボルグ!」
そうベルゼが叫ぶと槍が大きな白金の槍に変わる
刃先が鋭いアックスのようにも見える刃の根元には長い鎖が巻かれている
「いってこーい」
ベルゼは大きく飛び上がり、そう叫びながら槍を投げた
無残な音を立ててサイクロプスの頭からむごく突き刺さると、
サイクロプスは消え去った
「どうだったー?」
「相変わらず迫力のある戦いでしたわ」
「ありがとー!」
ベルゼはにっこり笑う
「ねぇ、ジンさん?だっけ。やってみてくださいよ」
「別に構いませんが」
「同じ土俵にあげないでくださるかしら……」
そう言うとマーモは頭に手をやる
「では、サイクロプス10体で」
「本気!?一般兵士なら50人、腕の立つ冒険者でも1匹殺すのに10人は必要なんだよ!?」
「かまいません、はじめてください」
「危なくなったら止めるからね」
そう言ってボタンを押した
「赤椿」
刀を鳴らすと共に、空間中が水場になるのではないかという血しぶきをあげ、
サイクロプスは消え去った
「そうなりますわよねー」
「え……?マ、マーモ?何が起きたの?」
「彼女は宝剣使いの夜叉ですわ」
「ジンさん魔物なの!?しかも夜叉なんだ!」
「相変わらず貴女は強ければ種族関係なく好きなのですわね」
「勿論!しかもジンさん美人だし、凛々しくてカッコいい上に強いなんて!」
ジンはポカンと口を開けてこっちを見ていた
「ジン?どうかしましたの?」
「いえ、夜叉ということに嫌悪を抱かず、その上ここまで褒めちぎられることがあるとは……」
ぷっ——
ベルゼとマーモは笑い出した
「ジンさん可愛いー」
「見ました?ジンの間抜けな顔。クロノスに見せて差し上げたかったですわ」
「ベルゼ様、マーモ。怒りますよ」
「やーやー、ごめんごめん。それに、マーモと同じがいいな!」
「同じ?」
「『様』はつけないで欲しいな!もっと仲良くなりたいし、ダメ……かな?」
ジンは両手を頬にあて悦に入っていた
「お望みならそうします。ところで早速ベルゼ、頭を撫でてもいいですか?」
ベルゼの頭を撫でながら言った
「もう撫でてるし。いいなぁー、ジンさんみたいなお姉ちゃんが欲しかったなー」
「なりましょうか?今すぐにでも」
「こらこら、立派なお姉さまがいるのに何を言っているのかしら。ジンもおふざけがすぎますわ」
「私は至って真剣です」
「ぐっ……余計怖いですわ」
「ところで、ベルゼはベルフェ様と仲が悪いんですか?」
「悪くはないんだけど……お姉ちゃん意地悪だし、だらしないし、寝てばっかだし、胸ないし、尊敬は出来ないなー」
「そのようには見えませんでしたが、そこそこ強いようでしたし」
「お姉ちゃんをそこそこってジンさんどれだけ強いの」
ベルゼは苦笑した
「一番強いのと戦わせてみたらいいんでわないですのー」
不機嫌そうにマーモが言う
「うーん、妖狐か夜叉かヴァンパイアロードですかね」
「夜叉は同種ですし、ヴァンパイアロードは従えてたこともあるらしいので、妖孤でいかがでしょう?」
ジンが怪訝な顔をしている
「どうかしまして?」
「いえ、始めましょうか」
ジンは白梅と呼ばれる三日月のように綺麗に反った刀を抜いた
「ジン、それって……」
ベルゼがボタンを押す
「今から見るものはクロノス様にはご内密に」
「え?」
ジンは舞を舞うように刀をかざすと艶やかな黒髪が白く染まりゆく
そして——
「これでいいですか?」
髪色が戻り、白梅を収めたジンが戻ってきた
「こんなことありえますの?」
「マ、マーモ……?こんな一方的に……短時間で、一人で妖孤を殺せますか……?」
「い、いえ……無理ですわ。理解が追いつきませんわ……それに先程の姿はまるで——」
「うん……ジンさんとクロノスさんってどっちが強いの?」
「はい?クロノス様ですよ?」
「謙遜ではありませんの?」
「いいえ、一度本気で合い見えております。不甲斐ないですが……その時は白梅も使用しましたが、負けました」
「クロノスも底が見えませんわね……」
「うん、ベルたちが戦ってた相手がジンさんや、クロノスさんじゃなくてよかったよ」
「ですわね……」
「そうですね。こうやって手を取り合えることを私は嬉しく思います」
そう言ってジンは二人の手を握った
「それと、ベルゼ?」
「ジンさんじゃなくて、しっかりとお姉さんと呼んでくれてかまいませんよ?」
ベルゼが笑い出し、釣られるようにジンとマーモも笑い出した
「うん!わかったよジン姉!」
「ジン姉……」
ジンはうっとりしている
「はいはい、そのぐらいにいたしませんこと?日が落ちますし、屋敷にもどりません?」
「だねー!」
「ですね」
そして三人は帰路につき
魔法マニアの宴が始まる




