【銃姫】マーモ・フォクシー
『銃姫』いつから彼女がそう呼ばれ始めたのか誰も覚えていない。
背中に宝剣『ティソーナ』という黄金があしらわれたガンソードを背負い、『ブリューナク』というリオス公国の由緒正しき継承者に託される赤と黒のマスケット銃をもち、黒いドレスで戦場を駆ける姿はあまりにも美しいと言われている。
ブリューナクには魔法耐性がある為、魔法をエンチャントした弾丸が使用できる。この『魔銃』とよばれるものを駆使できるものは少なく、中でも彼女は上位魔法さえ弾丸として使いこなしてしまう。
「それでは、聖王様の親善試合を開始します!はじめっ!」
マーモ、クロノス共に動かない。
「あら?仕掛けてくれてもよろしくてよ?」
「隙があればとっくにやってる。同時展開されてる魔法陣が見えないとでも?」
「あら、流石ね。先程先手を打たせていただきましたわ」
「聖王ともあろう人が汚い真似を」
「ほぼ全属性の魔法を駆使する得体も知れない輩に言われたくないわ」
「おっと、そういえば上位魔法使っていいんだよな?」
「えぇ、かまいませんわ」
「なら——」
——パチンッと指を鳴らす
魔法陣が消え去った
「何をしたの!?」
「お前と初めて出会った時に使った魔法だ。『アストラルゲート』で魔方陣を別次元に移した」
「空間系上位魔法!?そんなでたらめな!?」
「続いては……」
右手を空へかざし、左手で掴み詠唱を始める
『レイジングフレア』爆炎系上位魔法。隕石のような火球が天から降り注ぐ。
「なっ!?」
マーモは咄嗟に空に向かい『ブリューナク』を打つ。
遥か上空で何かが弾ける音がした。
「前ががら空きだよ?お姫様」
右手を前に伸ばすと詠唱する
『ライトニングノヴァ』閃光系上位魔法。魔方陣から数多の雷の弾丸が発射される。
「——っ」
マーモは背中の『ティソーナ』をとり、トリガーを引きながら爆撃で薙ぎ払う。
「やるなー。それが全力か?」
「んなわけないですわ!」
ブリューナクを天に投げると共に魔方陣から数多の銃口がクロノスに向けられる
「は!?そんなのありかよ!」
マーモはニッコリ微笑んだ後に叫んだ
「喰らいなさい!『カラミティフレア』」
数多の銃口から爆炎系の弾丸が撃ちだされる。
——ダッ
打ち終わり、爆撃がやんだ後煙が晴れるとそこには……クロノスはいない
「あっぶねー。俺じゃなきゃ死んでるぞ?あれ」
耳元でクロノスが囁く
ビクッと体を仰け反らせ、すぐさま距離をとった
「どんな魔法を使えばあれを避けられるのよ!」
「ディレイで弾丸遅らせて、アストラルゲートで別次元通ってきた」
「はぁ!?そんなレヴィアちゃんみたいなこと出来る筈ないでしょ!?」
「レヴィア?」
「セレネの聖王でグリモワール最強の魔法使いよ!」
「何をもってグリモワール最強?」
「それは私たち『七王』の中で一番魔法を使いこなせるからよ」
「くだらない。もっと世界に目を向けたほうがいいぞ?なんなら俺と一緒に旅するか?」
「くだらないですって!?それに、貴方なんかとどうして旅を——」
「なぁ」
「なんですの!?」
「確か、即死及び重傷でなければなんでもありだよな?」
「え、えぇ。そうよ」
「決勝まで上位魔法は禁止だったよな?」
「な、何が言いたいのよ!」
「じゃあ、最上位魔法は使ってもいいんだな」
「なっ——」
「ヒュプノス」
氷系最上位魔法でマーモは凍り付く
すぐさまクロノスは指を鳴らすと
——パリンッと音を立て氷が割れ、中からマーモが出てきた。
綺麗な瞳から光を失くしたままマーモが問いかける。
「あ、貴方は一体何者なの……?最上位魔法なんて私ですら数回しか見たことないもの……」
「だから、言っただろ?ただの旅人だって」
マーモは俯き呟き始めた
「み、認めませんわ認めませんわ認めませんわ認めませんわ認めませんわーっ」
「欲張りなお姫様はその小さな手でどこまで力を欲するんだ?」
「王である私が負けることなどあってはなりませぬの!」
「そんな事になんの意味がある。正義さえ負けることがなければ正しくあり続けることが出来ない世界で」
「え?」
「生きているんだから欲があるのはいいことだ。でもな、姫様。欲張るとでかいものは手に入れても些細な、本当に大事なものを失ってしまうぞ?」
クロノスは光のない遠い目をしていた
「貴方はどれだけの痛みを……?」
「痛み……?俺にあるのは楽しさと大事な仲間だけだよ」
そう言うとクロノスは屈託のない笑顔を見せた。
「でも……それでも今、目の前で起きている現実と向き合えないなら手を貸してあげるよ」
「え?」
「一回だ。一回に全力を注いで撃ちこんで来い。俺がお前のくだらない欲を消し去ってやるよ」
「本気で言ってるの!?もし、直撃すれば——」
「大丈夫、心配はいらない」
ゆっくりとマーモは立ち上がる。
「どうなっても知らないからっ!」
ブリューナクを天に投げティソーナを掲げる。
空に現れた魔法陣から数多の銃口が現れると共に詠唱を始める
「百の誓いと千の加護を受けた万の軍勢よ、わが前に立ちはだかる悪を蹂躙し我に勝利をもたらしたまえ」
マーモは涙を流していた
「貴方の名前は?」
「何回も聞いてるだろ?」
「貴方の言葉で聞きたいの」
「クロノス……クロノス・ヨルムンガンドだ。マーモ、これからよろしくな」
「クロノス……?」
「ん?」
「ありがとう」
涙を流したまま笑顔で彼女はそう言うと、ティソーナを振り下ろす。
「エンシェントフレアーッ」
最上位の爆撃が波状攻撃で押し寄せる。
とてもとても時間が長く感じるほどに……
マーモは爆音が鳴りやまぬ中ただただ泣いた。
誰も気づかなかった……
——ダッ
銃撃音が鳴りやみ、爆撃の煙が晴れようとした時
マーモは祈った。
「何をいるはずもない神に祈ってるんだ?」
声の先を見るとクロノスが立っている。
「ク、クロノスー」
マーモは立ち上がり駆けよろうとした。が、
「まぁ待て。願いが叶い嬉しいのはわかるが、やるべきことが残っている」
クロノスは大きく息を吸い込む
「みんな、聞いてくれ!姫様はこの戦いでまた一歩大きく、強くなられた!これからも公国の民を想い、そして自分の為に戦い続けてくれるだろう!そして最初の一歩として、姫は自らの望みを皆に打ち明ける。その望みを今まで支えられた民が王の為に叶えてやってくれ!」
クロノスはマーモに近づき、耳元で何かを囁いた
「皆の者、聞いてくれ!私はこの男に負けてしまった。それでもこの戦いで多くを学べた!私は間違っていた。これからは更に多くの民の声を聞き、どんな些細な事でも尽力することを約束しよう!だから、私の願いを聞いてくれ!」
大きく息を吸い込む
「人間同士皆仲良くせよーっ!」
会場は静かだ。何かを間違えたように……
——ぷっ
ドッと会場に笑い声が広がる
「我らの王の望みなら喜んで」「王様があんなに可愛らしいなんて知らなかった。もっと怖いのかと」「姫様ー!いいぞー!」「王様のためならなんとでもー!」
「ほらな、こっちの方がいい」
クロノスはマーモの頭にぽんっと手を置く
「じゃあ、祝いの大砲でも打ちあげますか!もうもたないし」
「え?」
クロノスは空に向かって手を伸ばす
「いっけー!」
マーモがクロノスに向けて放った筈の銃撃が空に向かい打ちあげられる
「こ、これは?」
「アンチマジックのリフレクトレーションだ」
「え!?アンチマジックまで使えますの!?」
「あぁ」
「本当に参りましたわ」
そう言ってマーモは肩を落とす。
「でも——」
マーモは空に向かい銃撃を放つ無防備なクロノスに抱き着き
頬に口づけをした。
「本当にありがとう。クロノス」
そう言って屈託のない笑顔を見せた。
「で、この女子は殺してもいいのですか?なんなら国も滅ぼしましょうか?」
ジンが光を失った目をして現れた。
それと共に銃撃はやんだが、まだ歓声は鳴りやまない
「クロノス?このぶしつけな女とはどのような関係なのかしら?」
「身を捧げた関係でございます」
と、ジンが少し恥じらう
「な、本当ですの?」
「んー、あながち間違ってはいないかな?」
ジンが少し勝ち誇る
「このあと宿で契るつもりだ」
マーモが赤く煮だった
「ち、ちっちちち契るですって!?させませんわそんなこと」
「お前には関係ないだろ?」
勝ち誇って言っているはずが顔を真っ赤にしているジン
「私の夫になる男にそのような事させますか!」
「夫?つがいのことか?」
「えぇ、そうです。ですが今はどいてください、そいつ殺せない」
「まぁ落ちつけ。どうしてそうなる?」
「この闘技会で私に勝利した者は私の夫になるのですわ」
勝ち誇った顔でマーモが言った
「はぁ!?書いてなかったぞ?そんな事」
「えぇ、城の者しか知りませんわ。私と結ばれるのに拒む者など——」
「悪い、断る」
「は?え、あの……今なんとおっしゃいましたの?」
「確かにマーモは可愛いし、スタイルもいいし、上品でしかも王様だ。でも俺は旅をしなければならない」
「っ——」
「それにお前は俺でいいのか?俺は元魔王だぞ?」
「理解が追いつきませんわ。そこまで褒めておきながら旅の為だなんて……今なんておっしゃいました?」
「元魔王」
「んー、言っている意味が……」
「お前達が倒した魔王は偽物。俺が元ゲーテこと、クロノス・ヨルムンガンドだ」
マーモはその場に座り込んだ……
そして3人の愉快なお茶会がお城で始まる




