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七聖の王と悪戯好きな魔王  作者: 秋野 紅葉
七聖の王と滅ぼされた魔王
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プロローグ ~クロード~

「暇だ」


そう呟きながら、彼は廃墟の様な室内でうなだれる。

ここは山々に囲まれたクロード大陸の中心、人々が『ゲーテ城』と呼ぶ城の庭にある(元)温室である。


この世界『グリモワール』には確認されている限り、大きな騎士の盾の様な大陸『ラケシス大陸』と、小さな短剣の形をした大陸『クロード大陸』の2つがある。

ラケシス大陸は6つの国に分断されている。太陽の国『リオス』、叡智の国『アスティア』、剣の国『ディーチェ』、常夜の国『セレネ』、詩の国『オルフェ』、天空都市『ディオーネ』の6つだ。

それぞれの国には『聖王』と呼ばれる英雄がいる。王と呼ばれているが全員女性である。


彼女達が聖王と呼ばれている理由。それはグリモワールを支配しようとしていた『魔王』を討ち滅ぼすことに成功したからだ。魔王は魔物を従え、各国において侵略を繰り返し、民を脅かす存在であった。

それに抗い、対抗する7人の勇者が集結し、クロード大陸にて魔王を滅ぼした。

重要なことなのでもう一度、『滅ぼしたが故に王となった』


そして、ここで怠け呆けている彼の名は『クロノス・ヨルムンガンド』

かつてグリモワールを闇で覆い尽くそうとした魔王『ゲーテ』と呼ばれている者である。


腰元まである長い艶やかな黒髪を縛り、170cm程の高くはない身長に対してスラッと長い手足、キリッと吊り上がった大きな目の中で赤く光る瞳で彼はいつも空を仰いでいる。親の顔すら見たことはない。友と杯を交わしたこともない。

気づけば彼はここにいて、多くの魔物に慕われていた。

魔物が人間を襲うと言えば彼は快く承諾し、国を滅ぼそうとするなら類まれなる知性で手を貸した。

初めて人間がここまで辿り着いたのは5年ほど前。辿り着いた兵隊を上位魔法によって一瞬で塵とし、残した3人は国へ返した。

返した理由は死にたくない、故郷へ帰りたいと言ったから。

そこで初めてクロノスは死にたくないという感情を知った。

その3人が国へ帰るなり、事の顛末を全て国民に説明したことにより魔王ゲーテの存在はグリモワールに響き渡った。


その4年後に彼は7人の王により滅ぼされた。

勿論、滅ぼされたのは影武者である知性を持った魔物『ヴァンパイア』である。

彼は人間の感情を知っていくうちに本に興味を持った。その日も城の地下で『急いで、ポッター!』シリーズの分厚い辞書の様な本を読んでいた。

忠義深い魔物がヴァンパイアを王の変わりとし、その場を凌いだのであった。


本を全て読み終え地上に出たのが先程、1年後である。

食事はいつも傍に仕えている魔物『夜叉』こと『ジン』が用意してくれていたため、地上に出ることもなかった。

ジンは夜叉と呼ばれる着物に羽衣を纏った鬼の魔物の女性種である。

見た目は人間とは対して差はなく、しいて言うなれば凄まじい美貌が男性種、女性種共に備わっていることだ。

中でもジンは特に美しい。腰元まである艶やかな黒髪、椿の花飾りを頭につけ、小さな顔に光る大きな青い瞳は見る者の時さえ止めてしまいそうなほどに……

その上クロノスに仕える同種族の中では一番強かった。

華奢な体からは想像できない刀さばき、腰から下げている2本の赤と白の脇差で戦場を駆け抜ける姿は修羅の様であった。


クロノスが地上に出た時、見たことのない下級の魔物しかそこにはいなかった。

ジンにその光景の理由を聞いた時彼は

「言ってくれればよかったのに」

と遊びに誘ってもらえなかった子供の様に寂しそうに呟いた。


それから彼は毎日を退屈に過ごした。本は持ってくる魔物がもういないので読み終わり、報告や相談をしてくる魔物ももういない。

やることもなく時は過ぎ、今に至る。


「ジン、ちょっと来てくれ」

ジンはニヤニヤと笑うクロノスの傍へ近寄る

すると、クロノスは古びた棺桶から腰を上げ1つ、大きな伸びをして言った


「よし、旅をしよう」

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