プロローグ
新作でふ!
どうぞよろしく(*^^*ゞ
そこに広がるのは永劫の虚無だけ……いや、厳密に言うならば、そこに一人の少女が居た。その少女は、ムクリと起き上がると眠そうな目を擦り、口を開く。
「前回からもう数千年も経つのか……時が経つのは早いものだな」
神々しさを纏った少女はその見た目に似合わず、その声音からは幼さは一切感じられず、年長者の威厳とでも言うべきものが備わっていた。
「さて、今回も早々に始めなくてはな。今回こそは我に届いてくれる者が居ると良いのだが」
少女が腕を一振りすると、何もなかったその空間に少女と全く同じ見た目の少女がさらに5人程現れた。
生み出された少女たち5人は親とも言える少女に対して恭しく跪くと、その言葉を待ち受ける。
「さぁ行け、世界同士の生き残りをかけた殺し合いの始まりだ。お前たちには私の手となり足となり目となって、それぞれの世界を監視してもらおう」
生み出された少女たちはその言葉に頷くと、言い渡された指名を果たすため早々にその場を立ち去り、それぞれ割り当てられた世界へと向かうのだった。
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ーー地球・某県某所・迷宮《金翅の城》最上層ーー
地面から噴き上げる黄金の火柱と火柱との間を俺は駆け抜けて行く。
ようやく近づけたかと思うと、今まで同様に直下から炎を噴き上げられ、俺は後退せざるを得ない。
このままでは不味いな、そう思いつつもこの状況を打破する手を俺は探し出せずにいた。
「仭! 余所見しない!!」
「っと、わりぃ!」
考え事をしていて周りが見えていなかった俺に向かって飛んできた黄金の炎矢を、パーティーメンバーの凜花が自らのスキルで防いでくれる。
「それで? 策は見つかったの?」
「いや、全く……」
「全くもう、どうするのよこの状況」
「そう言われてもなぁ……」
俺と凜花が話している間にも飛来し続ける黄金の炎矢を弾き続けながら、俺はどうしてこうなったのかを思い返していた。
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ーー地球・某県某所・篠宮学園1ーFーー
その日、俺たちは浮かれていた。
終業式も終わり、明日から夏休みだったからだ。
「なぁ、仭。夏休みどっか行こうぜ」
「あー、良いけど、どこ行くよ」
俺が前の席に座っている同じクラスの男子と話ながら夏休みの予定を考えていると、突如として教室に備え付けられたテレビの電源が入った。
教室に響く砂嵐のノイズ音。その音に気付いた俺を含む皆は一斉にテレビに注目する。
そこに映るのは一人の少女。背景は真っ暗でそこに何があるのか窺うことは出来ない。
しばらくして、少女が口を開く。
『見えているか人間共よ、審判の時だ。我は神、貴様らの世界を作り替えた。外を見てみるが良い』
その口から発せられた言葉は、一笑に付しても可笑しくはない妄言。しかし俺は、テレビに映る彼女からただならぬ雰囲気を感じていた。
世界を作り替えた。その言葉が意味するところは、どういう事なのだろうか。額面通りに受け取るならば、今までの俺の常識が通じないことになっていても可笑しくはないだろう。
そう思い、恐る恐る窓から外を覗いてみるとーー
ーーそこに広がっていたのは正しく異世界。
「なっ、なんだこれ……」
体色が緑色の小鬼や、女性の頭を持つ奇怪な鳥。巨大な棍棒を持った丸々と太った醜悪な見た目の鬼に、二足歩行する2メートル程の巨大な豚の怪物などなど、多種多様な魑魅魍魎たちが校庭に出現していた。
「なんだよ……こいつら……」
「どういう事だよっ!!」
「お、落ち着けよお前ら、どうせドッキリだろこんなの……」
何を血迷ったのか、異形の怪物たちのいる校庭へと転がるようにして出てくる一人の男。
俺を含めた全クラスメイトたちは、固唾を飲んでその様子を伺った。
近くに居た小鬼が、男に気付く。小鬼は一声鳴くと、周囲の仲間を呼び寄せ、手に持っていた錆び付いた粗末な剣で大勢で一人の男に襲いかかる。
「や、やめっ、ギャッ、やめでっ、ぐれ、ギャァァァァァァァ」
「ギ、ギギィ」
「ギギギギィ」
「ギィギギィ」
一人の哀れな獲物を狩り終えた緑の小鬼たちは、その戦果を誇るように剣を振り上げる。
それを見て恐怖に戦くクラスメイト一同。
「なんなのよコレ……」
「いや、いやよ、いやぁぁぁぁぁ」
「なんだってんだよ! 俺たちが何したってんだよ!!」
一気に伝染する恐怖。クラスメイトたちはパニック状態となり、有事の際には率先して生徒を落ち着かせるべき教師でさえ、泣き出し蹲ってしまっていた。
俺は、目の前の状況に舌打ちしながらこれからどうするかを考えていた。
と、既に消えたと思っていたテレビから今一度声が響く。
『さて、状況を認識出来たところで次に行こうか。《ステータス》と念じるか呟くかしてみるが良い』
果たしてその言葉を聞いている者がその場にどれだけ居ただろうか。しかしまぁ、自分が聞こえたので良しとしようか。
「《ステータス》」
ほ他に出来ることもなければすることもなかったので、少女の言うとりに呟いてみる。すると不思議なことに俺の目の前に半透明のウィンドウが現れた。
「なるほど、これが《ステータス》か。正しくステータスだな」
そこに記されていたのは、自分の名前とレベル。そして筋力値などの数値にスキル、と書かれた欄があった。
『スキルの詳細はタップしてみれば分かる。さて、チュートリアルはここまでだ。頑張って生き残り、私の下まで来てくれる事を祈っているよ、人間諸君』
そう言い残し、彼女は消える。
さて、これからどうするかと言えば生き残る以外にすることは無いわけだが、一先ずは自分が使えるスキル位は確認しておくとしよう。
俺が使えるスキルは、《虚ろなる剣の創主》と言って剣を造り出せるスキルらしい。いや、よく見てみればスキルではなく【ユニークスキル】と書かれていた。
普通のスキルと【ユニークスキル】の違いは分からないが、一先ずは試してみる他ないだろう。幸い、外には殺しても構わない怪物たちがごまんといる。練習相手には事欠かないだろう。
そう考え、いい加減五月蝿すぎる教室から退出する。
俺が教室を出るのと同時に隣のクラスからも一人の少女が現れる。
「ん……?」
「あら、私の他にもパニック起こしてない人居たのね」
「そう言うお前は?」
「人に名前を聞くときはまず自分から名乗りなさいって教わらなかった? ……まぁ良いわ、私の名前は流納 凜花。流れるに納めるって書いて流納よ」
「すまんな。俺は、鶴来 仭だ。鶴が来るって書いて鶴来だな」
「そう、よろしくお願いするわ」
「お、おう。よろしく……?」
なぜよろしくするのか分かっていない俺に対し、呆れたような顔をして溜め息を吐く凜花。
「はぁ、全く貴方はバカかしら? 外を見たのなら分かるでしょうけど、あの数を一人でどうにか出来るとでも?」
「ぐっ、いやしかしな、そう言うお前はどうなんだ。見るところ、一人で出てきたようだが?」
「そっ、それは……」
「まぁ別に何でも良いか、とりあえずこれからよろしく?」
「えぇそうね、よろしくお願いするわ」
差し出した俺の右手を握る彼女の目には、絶望など一片も見ることは出来なかった。彼女は信じているのだろう、生き残る事が出来ると。覚悟しているのだろう、この世界で生き抜くと。
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真っ白な空間の中、小さな白い丸テーブルとこれまた白いイスに、またまた白いティーセットを出現させた少女は、イスを引いてそこに座ると、ティーポットに向けて円を描くように指を動かす。
すると不思議なことに、ティーポットが独りでに動き出し、カップへと紅茶を注いでいる。
「さて、審判が始まった訳だが……どう見る? セレス」
いつの間にかそこに居た、燕尾服の老年の執事へと語りかける少女。
「まだ始まったばかりですから、なんとも言えませぬが……始まって早々にしてユニークホルダーが出会うとは。しかも、虚ろと災禍ですか……何か、因果のような物を感じずにはいられませんね」
「ふふふっ、そうだな。しかし、そうでなくてはつまらない。虚ろと災禍はいつの審判の時もそうであった……」
「そうでございますね。虚ろと災禍はいつの審判の時も手を取り合い、必ずどちらかがどちらかを手に掛けて、そのあと決まって泣き叫んでおりましたな」
遠い遠い、過去の話を思い返す謎の少女と謎の執事。
しかしその声音からは、不思議と優しさと懐かしんでいるのが感じられた。
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