ずっと、
翌日朝早く。
私は馬車で揺られ、遠ざかってゆく日常をただぼんやりと窓の向こうに眺めていた。
行きたく、ないなあ。
思うことといえば、そればかり。
この溜息は何度目になるのか。
私は、お義姉様やお義母様のようにアグレッシブな訳ではない。
人々がわいわい騒いでいるのを、外側から見ているのが好きだ。
だから、宴の席があっても、極力出ないようにしたり、端の席で静かに過ごすことが多かった。
こういうところは、実母に似ていると、よく言われたものだった。
今回の舞踏会、何より不安なのが、そう、ダンスだ。
舞踏会に出席するのは、何も貴族の息女だけではない。
他の貴族の息子も、この気に乗じて花嫁を探すことになっている。
手っ取り早く間を縮める策として、参加者全員が当たり前にできるダンスをする、というわけだ。
私自身も、貴族の嗜みとして出来ないわけでもないが、人に自慢出来るほど上手なわけでもなく。
言ってしまえば、中の下、それぐらいだろうか。
とにかく、平凡、もしくはそれ以下であるのだ。
(王子はもちろん、高位貴族の息子とは、絶対に踊れない...)
踊ってしまえば、それはもういい笑いものになってしまう。
色々な意味でそれはまずい。
中位、もしくは下位の人に、アタックかけよう。
誘われなければ、意味はないのだけれど...
そこは、私の精一杯でもって、明るく振る舞ってみよう。
一人悶々としているうち、昼時になってしまったのか、馬車が小さな町で止まった。
此処で昼休憩をとり、別の町へ移動し、宿をとり、そういう風にして5日かけて王都まで行く予定だ。
...私からすれば、途中ちょっとした事故なんか起きちゃって、舞踏会に間に合わなければいい、と思う。
そう、
間に合わなければ、
いいんだ。