動き出す
舞踏会へ出席するのに、多大な額がかかるというのは、杞憂に終わった。
私が出席すると知った領土民達が、やれお祝いだ、やれ日頃の礼だ、と資金を集めたり、馬車を出してくれたりしたのだ。
私の気も知らないで...というのはこの際置いといて、領土民達がここまでしてくれたことに、私は心から感謝していた。
負担する額が一気に減ったことにより、着用する予定だった母のドレスをやめ、新調してしまおうということになったのだ。
「どれがいいかな?!やっぱり私的にはこれ!!」
「派手すぎるでしょうが、王子の目に留まったらどうするつもりなの!」
「やっぱり大人っぽく決めないと。このシックかつフォーマルなドレスになさい!」
上から次女、長女、母である。
次女が勧めてくるのは、フリフリの子どもっぽいドレス。勘弁して欲しい。長女は、私を買い被りすぎである。母は、勧めてくる物がもはや15歳が着るべきものではない。
そんな姉達には悪いが、既にドレスは決まっている。
幼馴染がドレスのデザインにはまっていて、それを馴染みの仕立て屋に頼んできた。
そろそろ届くはずなのだけれど...
「失礼します。シンデレラお嬢様、お荷物が届きました」
恭しい態度で一礼した執事が、こちらへ大きめの包みを差し出す。
「ありがとう」
そう言って受け取ると、男は音もなく退室していった。
「レラ、それは...?」
今までやいのやいの騒いでいた3人がそろってこちらを向いている。
「新しいドレスですわ」と言い微笑むと、何故か落胆の声が聞こえる。
...私が決めてはいけないのだろうか。
それでも私が選んだ物に興味はあるらしく、開けて開けてと催促をしてくる。
全く、年上なはずなのに、これでは子どもを相手にしているみたい...
包みを開けて出てきたのは、裾や腕が柔らかく膨らみ、肩から裾にかけてグラデーションのかかった、空色のドレス。私が以前から欲しいと思っていたデザインだ。
しかし、
(ッ、これ、肩とか背中がガッツリ開くじゃないの!)
繊細な刺繍や、ところどころ散りばめられた宝石に目を奪われ気付くのが遅くなったが、私には少し露出が過ぎる。
約束と違うじゃない...
そう思っている私を他所に、
「あらー、素敵!!」
「いいデザインじゃないの!!」
「早く着てみなさいよ!」
いつの間に機嫌直したのよ...
嬉々としてわいわい話し掛けてくる3人に半ば呆れつつ、確かに着てみないと、とは思いそうしようとした。
「シンデレラ様、綺麗ー!!」
「我らが姫よ!!」
「行かないでーー!!」
まさか、領土民にまでお披露目する羽目になるとは。
領土民達は口々に野次を飛ばしてくる。耳が痛い。
まあ、出発前の挨拶も兼ねていたので、仕方ないのかもしれないけど...
それが此処の人達。賑やかで、忙しなくて、いつも楽しい。私の大好きな。
...大好きな。
これが、最後。
紛れもなく、領土民との別れだった。