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Alice in excitric world

作者: 音無

その日アリスは木陰で難しい歴史の本を読んでいました。

挿絵のない退屈な本に飽きてうとうとしていた時、アリスの側を誰かが大慌てで通りすぎていきました。


「遅刻だ遅刻だ!急がなければ!」


赤いチョッキを着て懐中時計を持ったその人物は、どうやらウサミミを着けたおじさんの様です。


(大変!あれは明らかに変質者だわ。捕まえて警察に連れて行かなきゃ…)


怖いもの知らずのアリスはウサミミおじさんの後を追跡し始めました。


「待ちなさい!そこの変質者!」


ですがおじさんは勿論待ったりしてくれません。

それどころか後ろを振り向きもせずに洞窟の中へと入って行ってしまいました。おじさんを追い掛けているアリスも、慌てて後に続きます。



「…きゃあ!?」


洞窟に入った途端、アリスは大きな落とし穴らしきものに落ちてしまいました。

その落とし穴は意外に深く、アリスはどこまでも落ちていきます。

このまま落ち続けたら地球の反対側に出るのではないかと思い始めた頃、ようやく足が地面に着く感触がしました。



「…一体ここはどこなのかしら?」


アリスの前には果てしなく続く廊下がります。


「地面の下にこんな広い場所があるなんて…N○SAの秘密基地に違いないわ!」


好奇心旺盛なアリスはNAS○の秘密を暴いてやるわ、と廊下を駆け出しました。


どこまでも続く廊下の先には小さな部屋がありました。

そこには宇宙人の標本が…あるわけではなく、可愛らしいテーブルが一つぽつんと置いてあり、その奥に小さなドアがあるだけでした。

近付いてノブを回そうとすると、突然ドアノブが喋りだしました。


「あんたは大きすぎるよ。ここは通せないね」


たしかにドアはとても小さく、人が通れるようには見えません。


「どうしても通りたいのならテーブルの上にある瓶の中身を飲みむといい。」


そう言われてテーブルの上を良く見ると、さっきは無かった筈のピンク色の小瓶が置いてあります。

明らかに怪しいその瓶には「私を飲みたまえ」と書いてありました。


「毒じゃないわよね?」


あまりの不審さに思わずアリスは、ドアノブオ(アリス命名)に問い掛けました。


「大丈夫だ」


自信満々のノブオを信用したアリスは瓶の中身を一気飲みしました。



しゅうぅぅっ

瞬きをする間に、アリスの体は15センチ程に縮んでいました。


「これでドアを通れるわ」


アリスはそう言って、再度ドアノブを掴みました。

しかし何故かドアは開きません。


「おお、済まない。鍵が掛っていたのを忘れていた」


ノブオが意地悪な声で言います。


「鍵はテーブルの上だよ。精々頑張って取ってくれ」


アリスはテーブルを見上げました。

どう考えても上れるような高さではありません。


「どうしたんだい?早くここを通らないと、兎が行ってしまうよ」


アリスは心の中で、このサディストめ!と悪態をつきました。

と、その時アリスは良い考えを思い付きました。


「おや?もう諦めたのかい?」


「いいえ、違うわ。要するに扉が開けば良いという事に気付いたのよ」


アリスはエプロンのポケットからドライバーを出してにっこり微笑みました。


「お…おい、まさか…」


「そう、そのまさかよ」


アリスはドライバーでドアの蝶番を外してしまいました。


「や…やめてくれ…ぎゃあ!」


蝶番のネジを外しガン!、とドア蹴るとノブオの断末魔とともに簡単に外れました。

アリスはさっきのお返しとばかりにドアを踏みつけて先に進みました。


ドアを抜けた先に見えたのは美しいお花畑がありました。

但しどの花もアリスの倍ほどの背丈があります。

『扉の向こうは不思議の街でした…』

アリスの頭に何処かで聞いた事のあるフレーズが浮かんできました。


「…本当にここは何処なのかしら」


アリスが誰にとも無く尋ねると、色々な所からある筈のない返事が返ってきました。


「ここは…」

「此処はエキセ…」

「…ックワー…」

「…ールドよ」


色々な方向から聞こえてくる言葉が重なって、何と言っているのか聞き取れません。

仕方無しにアリスは、手近な所にいる小さなスミレに話しかけました。


「此処はどこなの?」


ところがスミレはキャッと悲鳴を上げて、花びらを閉じてしまいました。


「失礼ね!人を化け物みたいに…いいわ、他の花達に聞くから」


しかしどの花も、アリスが話しかけると花弁を閉じて黙り込んでしまいます。

痺れを切らしたアリスはついに花達を怒鳴りつけました。


「いい加減にして!此処はどこかって聞いてんのよ!さっさと答えなさい!」


その途端、花達は一瞬しん、と静まり返りました。

そして次の瞬間


「何よ!あんたなんか…」

「…のクセに!」

    「さっさと何処か…」

「…偉そうに!」 

    「何処かに行きなさい!」


花達が一斉に文句を言い始めました。

その五月蝿さは、深夜に走っている暴走族でさえ小鳥のさえずりに思える程です。

あまりの五月蝿さに、アリスはその場を逃げ出しました。



「ふぅ、びっくりした。何もあんなに大声で怒鳴らなくても…」


自分の方が先に大声を出した事を棚に上げて、アリスは怒っていました。


「ったく、親の顔が見てみたいものだわ!…あら?」


怒りながら歩いていると、何処からともなく楽しげな声が聞えてきました。


声のする方へ近付いてみると、可愛らしいうさ耳の女の子とシルクハットを被った素敵なおじさまがお茶会をしていました。


(まぁ、何て可愛い女の子なのかしら。この子ならうさ耳でも許せるわ。それにあのおじさまも、帽子が良く似合っているし…合格だわ)


アリスは、超個人的価値基準に合格した二人に話しかけました。


「始めまして。アリスと言います。楽しそうなお茶会ですね」


「あら、はじめまして!ワタシは三月ウサギって言います」


うさ耳少女がにっこり笑ってこたえました。笑顔だけでなく声もとても可愛らしいです。


「はじめまして。可愛いお嬢さん。わたくしは帽子屋と申します。以後、お見知りおきを」


おじさまも帽子を取って丁寧に挨拶をしました。

…そこまでは良かったのですが


「いやぁ、貴女は本当に可愛い。まるで朝日に恥じらう霞草のようだ」


帽子屋はアリスの肩に馴れ馴れしく手を乗せてきました。


「い…いえ…そんな滅相もない(なんなのこのおじさま!人の体に勝手に触ったりして!)」


アリスの腸は煮えくりかえっていましたが、女の子の前で流血沙汰は不味いと思い必死に耐えていました。

しかし調子に乗ったおじさまは、なおもアリスに絡んできます。


「その幼い中にも憂いを帯びた表情。なんて美しいのだ!」


「は…はぁ(…間違いない!このおじさまはロリコンだわ!)」


知りたくもない事実に気付いてしまったアリスは、おじさまから離れて少女に話しかけました。


「ねぇ、三月ウサギちゃん。あのおじさまとはどういう関係なの?」


「え?帽子屋さんの事?あのね、おともだち!よくお菓子とか買ってくれるの」


アリスの不安も知らないうさ耳少女は無邪気に答えました。


(許せないわ、こんな幼い少女をもてあそぶなんて。成敗してやる!)


帽子屋ロリコン説を確信したアリスは、悪は罰せねばと決意しました。

そして「あ、UFO!」と叫び二人がよそ見をした隙に、帽子屋に力一杯得意の回し蹴りを食らわしました。


「…ぐぼりぁっ!」


帽子屋は不思議な叫び声を上げて遥か遠くの山へと飛んで行きます。

アリスは三月ウサギを振りかえると、にっこり笑って言いました。


「帽子屋さんは山へ、煩悩を捨てる旅に出るそうよ。だからしばらく帰って来ないけど心配しないでね。」


「まぁ!ずいぶん突然だね。どうしたんだろう?」


「きっと自分の悪事を深く反省したのよ。お姉ちゃんは用事があるから、もう行くね」


ロリコンの魔の手から無垢な少女を守ったアリスは、三月ウサギから変態うさ耳おじさんの向かった方向を聞き、先に進みました。



「…ここが三月ウサギちゃんの言っていたお城ね」


あれから20分程歩いたアリスは、巨大なお城の入り口に立っていました。

三月ウサギの話では、うさ耳おじさんはここに勤めている時計兎なる人物だそうです。


「まってなさいよ、時計兎!このアリス様が捕まえてやるんだから!」


アリスは意気込んでお城の中へと足を踏み入れました。



「それにしても広いお城ね。これじゃ奴がどこにいるか、皆目検討がつかないわ」


予想外の広大な敷地に、アリスはすっかり困ってしまいました。

そこで近くを歩いていたトランプ兵に尋ねてみることにしました。


「ちょっと、そこの貴方。時計兎という男がどこにいるか知らない?」


「時計兎ですか?彼なら女王陛下のお部屋にいるはずですよ。」


ぞんざいな口調のアリスに対して、トランプ兵の対応は丁寧なものでした。

気を良くしたアリスはさらにトランプ兵に尋ねます。


「その女王陛下の部屋はどこなの?」


「それならば、この廊下を真っ直ぐ行って14番目の部屋です。」


「ありがとう。」


アリスは遂に見付けた変態の居場所に向かうべく、廊下走りだしました。


「ろ…廊下は走らないでくださーい」


その後ろには、生真面目なトランプ兵の叫びが虚しく廊下にこだましました。



「はぁ…はぁ…やっと着いたわ。なんて長い廊下なのかしら!」


アリスは怒りながら力一杯目の前の扉を開きました。


「見付けたわよ!変態うさ耳おじさん!ふふふ…もう逃がさないわ!」


叫びつつ時計兎に飛び掛ります。


「う…うわぁ、何デスか君は!」


「しらばっくれても駄目よ!言い分は取り調べ室でたっぷり聞かせてもらうわ!」


アリスが時計兎に何処からか取り出した手錠をかけようとしたその時、


「わらわのかしんをいじめるな!」


愛らしい舌っ足らずの声が聴こえてきました。

アリスが声のした方を見ると、豪奢なドレスを着た6才くらいの女の子がぷーと頬を膨らませて立っていました。


(か…可愛い…)


ピロリン♪

アリスのMP(萌えポイント)が10上がった。


「貴女が女王様?お姉ちゃんはこの人をいじめてるんじゃないのよ。」


「じゃあ、なにをしておるのじゃ?」


女王は外見に似合わない、中々に古めかしい喋り方です。


ピロリン♪

アリスのMPが20上がった。


どうやらこの口調はアリスのツボにはまったようです。


「この人が変な人だから、警察に連れて行こうとしているのよ」


「けいさつ…?それはなんじゃ?」


警察が何か分からない様子の女王はきょとんとして首を傾げました。


ピロリロリロリン♪

アリスのMPが100上がった。

アリスは幼女萌に目覚めた。


新たな嗜好に目覚めたアリスはポケットの中から飴玉を取り出しました。

「ねえ女王様、これあげるから私と一緒に来ない?」


「おかしをくれるのか?ならばいってもよい…」


「ちょーっと待ったぁ!」


先程まで完全に存在を忘れられていた時計兎が、アリスと女王の前に立ちはだかりました。


「無礼者!我等が陛下に近付くナ!」


「無礼者はどっちよ。陛下が私についてきそうだから焼きもち焼いただけのクセに」


「う…失敬な!断ジテそんな事は…」


「いい年してみっともない。くす…そんなんじゃ陛下に嫌われるわよ」


「な!?…誰かこいつを引っ捕えヨ!」


その声にトランプ兵達が四方から飛び出してきました。

しかしそんな物に怯むアリスではありません。


「貴方達なんてたかがトランプじゃない!それ以上近付いたら燃やすわよ!」


そう言いつつポッケからライターを取りだします。

それを見たトランプ兵達は一斉に動きが止まりました。


「ええい!敵は小娘一人ダ、かかれ!」


完全に悪代官化した時計兎が叫びます。


「いいわ、やってやろうじゃないの。何人でもかかっていらっしゃい!」


こちらも完全に悪の大王と化したアリスがライターを構えました。

しかし次の瞬間―



「―っ!?あれ、夢…?」


アリスは元いた木の根元に戻っていました。

「そ…そんな!?もっと女王様を愛でていたかったのに!」


しばらくの間アリスは落ち込んで木の下に座り込んでいました。


「・・・!?そうだわ!」


しかし矢張り腹ぐろ・・・げふん、いえ頭の良いアリス、何か良い案を思い付いたようです。


「あれが私の夢だったのなら、寝ればもう一度あの世界に行けるはず。

それに夢なら全てが私の思いのままになるはずだわ」


黒い微笑を浮かべ、アリスは再び夢の中へと落ちて行きました。



―その後のエキセントリックワールドでは毎日、時計兎とアリスの壮絶な女王争奪戦が行われたとか。


「陛下は私の方が好きですよねー」


「何ヲ言う!陛下は我輩ヲ…」


「…わらわはチョコくれるほうがすきじゃ」

「「今すぐ買って来ます!」」


そして二人はトランプ兵達に、陛下にお菓子を与え過ぎるなと怒られるのでした。


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