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17/22

光と、闇と

 由梨が泣きながら電話してきたその夜は、一人残すのが心配で。

「今夜、泊めてくれるか?」

「明日、時間は大丈夫?」

「明日は……うん。大丈夫」

 朝一番は、まずバイトだし。

 ただ。由梨が忙しいのに無理やり泊まったら、逆効果だから。

「由梨のほうは、大丈夫か?」

「うん。ごめんね、まっくん。心配かけて」

「いいって。お礼に、明日オムレツ食わしてくれたら、それでOK」

「まっくんが、ご飯のリクエストするなんて」

 目を丸くして、コロコロ笑う。

 母さんに教えてもらって、自分で作ってみたけど。あんなにフワフワしてない。由梨が作ってくれたのがやっぱり格別。


「まっくん、ありがとう」

 小さな声でそう呟いて眠りに落ちる由梨が、小学生の頃みたいに消え去らないように。

 その夜、俺は大事に由梨を抱え込んで眠りについた。



 俺たちも無事にデビューを果たし。

 由梨も”一人前”に、三交代のシフトに組み込まれるようになった。


 デビューしてすぐに人気爆発、なんてことになるのはごく限られた一握り。それは十分、分かっていたので、バイトで食い扶持を稼ぎながら俺たちは活動を続ける。

 由梨とは、互いの仕事が不規則なので、彼女の勤務表をコピーさせてもらって、予定を合わせながらの付き合いを続ける。 

 大泣きしたあの夜は、由梨にとって特別な”厄日”だったらしくって、あれ以来、大きなトラブルもなく日々を過ごしている。



 そして、学生時代と変わらず、、俺の食事と飲み物の心配をしてくれる由梨と、食事を中心にしたようなデートを重ねる。


 ひとつ、変わったことは、互いに合鍵を持つようになったこと。 

「もう、泣きながら電話するようなことはしないようにするけど。また、まっくんがドアぶっ叩いたら手を怪我するから」

 由梨はそう言って、スペアキーをくれた。

「俺が泣きながら電話することはないだろうけど」

 俺のほうのスペアキーを渡すと、

「まっくんは、栄養失調で倒れてそう」

「ちゃんと、食ってるよ」

「どうだか」

 憎まれ口を叩きながらも、いそいそとキーホルダーに鍵をつけている。

 

 互いに、この鍵を使うのは緊急事態。

 使う機会が永遠に来なければ、それでいい。



 デビューから一年程が経ち、地元ローカルのラジオ局で時折、俺たちの情報を流してくれるようになった。JINの大学の先輩に当たる人が、小さいながらも自分の番組を持つようになったのがきっかけだった。彼は、『俺の後輩たち』って、織音籠(オリオンケージ)のことを呼び、ライブのたびに宣伝してくれた。

 その頃には、由梨も仕事の波に乗れるようになったらしく、ライブにも顔を出すようになった。



 じわじわと売れるようになってきていた五年目。

 年が明けて、そろそろ正月気分も抜けたかと思われた頃。

 YUKIの故郷を大きな地震が襲った。

 幸い、YUKIの実家や家族に被害はなかったものの、救援物資を担いで帰省したYUKIは、抜け殻のようになって俺達のところに戻ってきた。

 そんなYUKIを、はじめに見つけたのがRYO。リーダーとして打ち合わせの仕事が入っていたRYOからバトンを受け取るように、SAKUとJINが一晩、話し相手をしたらしい。

 俺に連絡があったのが、その夜。JINからの電話だった。

〔MASA?〕

〔ああ、どうした?〕

〔お前、ここ一週間ほどの間に、時間ある?〕

〔まとまった時間か?〕

〔まとまっても、細切れでも。実は、YUKIがかなりヤバイ感じでな〕

 目の当たりにした壊れた街に、アイデンティティを根こそぎ掘り返されたようになっているYUKIを、一人にしておけない、ってことらしい。   

〔それぞれ、バイトとかあるから、交代で誰かがついてた方がいいんじゃないかって、思うんだけど〕

〔悦子さんは?〕

〔市役所は忙しいんじゃないかな?〕

〔ああ、そうか〕  

 災害対策とか復興支援とか、色々と。

〔今、SAKUに相手を任せて、俺は買出し中だから。あとでRYOにバイトの予定、連絡しておいて〕

〔了解〕


 世間的に音楽活動が自粛ムードで、新しい仕事が止まっている間。俺たちはバイトで食いつなぎながら、YUKIを見守った。本人にも生活があるから、少しずつバイトを続けて。合間を誰かの部屋での”打ち合わせ”で埋める。


 様子見、て感じで、仕事がぽつぽつと戻ってきたころに、何とかYUKIが笑うようになった。

 そしてYUKIは、心のリハビリのように一篇の詩を書き上げた。

 俺とRYOの二人で、曲に仕立て上げる。

 音域は、いつもの織音籠の歌より、高めのメロディーで。


 こうして、一つの曲が完成した。

 一月のライブ限定の曲。歌うのは……YUKI。

 限られた人間だけが耳にする、幻といわれるレクイエム。



 この年、と、その翌年。は、とにかく色々と有った年で


 まず、由梨が外科病棟に異動になった。

 仕事の内容に細かい変化はあるらしいけど、

「患者さんのケアって意味では、変わりないし。新人で覚えるのよりは遥かに楽」

 って、笑っている。勤務形態も大きく変わりはないらしい。


 そして、俺たちは、かろうじて音楽の収入だけで生活が成り立ち始めた。 

 冬の、”自粛”の件があるので、完全にバイトをやめるのは、まだ心もとないけれど。それでも、生計の軸足は、完全に音楽に立っている。



「げ、音が出ねぇ」

 RYOが、驚いた声を出したのは音楽スタジオでの練習中のことだった。

 あっちこっちとスイッチをいじってみてはいるものの。ウンともスンとも言わない。

 メーカーサポートに連絡を入れたRYOは、

「サービスが出払ってて、しばらくかかりそうだから、先に飯、行って来る。その間、練習進めておいてくれるか」 

 って、部屋から出て行った。

 音が出ない楽器を待っていても仕方ないし、ってことで、四人で練習を再開したけど。

 あっという間に、RYOが食べ終えて戻ってきた。


「まだ、メーカーさん、来てへんで」

「さっき、一階の事務室に『今から出る』って連絡が有ったらしいからよ。もうちょっと時間がかかるんじゃねぇの。お前らも今の間に、昼飯行ってこいよ」

 RYOの言葉に、腹減ったーって、SAKUが一番に楽器を下ろす。

 それに合わせて、俺たちも昼飯に向かう準備をする。



 昼飯を終えた俺たちが、スタジオの防音のドアを開けたとき。

 室内では、驚くような光景が繰り広げられていた。

 スタジオの片隅で、おかっぱの女性が椅子に腰を下ろして缶コーヒーを飲んでいる。作業着姿の彼女は多分、メーカーのサービススタッフ。その髪を愛おしそうな表情でRYOが、弄んでいる。

 おい、鏡見てみろよ。今までの彼女といるときにそんな顔、して見せたことあるのか?


「あー。メーカーの人に、RYOがセクハラしとう」

 切り込んだのは、YUKI。

「人聞きの悪い。これは幼馴染同士のスキンシップ」

「んー、そうか? 手つきがやらしいだろうが」

 JINが咽喉声で笑いながら、突っ込む。RYOの眼鏡越しの視線が、一瞬さまよう。

 SAKUが俺の横で

「うわ、おもしれぇ。RYOが動揺するところ、初めて見たぜ」

 って呟く。チラッと見たSAKUと目が合って。奴の目じりに笑いジワが寄る。

 これは、冷やかさないと。

 相手も目の前にいるし、多分、まだ”始まってない恋路”だろうから、RYOの許容範囲内。

 二人で、『飯が、異様に早食いだった』だの『俺たちを追い出そうと必死だった』だの、言ってみる。

 面白いくらい、慌てたそぶりで

「こいつが来るって、俺に判るわけ無いだろうが」

 彼女の顔を指差す。


 そんな俺たちのやり取りを、首を傾げるようにして微笑みながら聞いていた彼女が、飲み終えたらしいコーヒー缶を足元において。

「山岸。作業終了のサイン、貰っていい?」

 かばんからゴソゴソと書類とペンを取り出す。

 今までの彼女と比べるのがおかしいのかもしれないけど。『山岸』って呼び方が、清々しく聞こえる。

 渡されたボールペンを手に、RYOが尋ねる。

「織音籠のサインがいい?」

「普通に、”山岸”でいいわよ」

「じゃ、作業服の背中にでも書いてやろうか」

「私を、広告塔にするな!」

 ゲラゲラ笑いながら、書類にサインするRYOを見ながら

「ゆり以上に、遠慮がないな」

「ああ。見事なほど彼女、RYOを”男”扱いしてないよな」

 JINと二人、そんな事をボソボソと言い合っている向こうで、子どものような言葉をやり取りするRYOと彼女。


 辞去の挨拶をして荷物を手にした彼女に、RYOは

「たむら、入り口まで送る」

 とか言いながら、エスコートするようにドアを開けてやって、二人が部屋から出て行った。

 なんとなく四人で顔を見合わせて。

 誰からともなく、笑いが起きる。

「久しぶりに、”亮”を見た気がする」

 咽喉声で笑いながら、JINが言う。

 デビュー以来、RYOは自ら”色気担当”と称して、中性的な顔立ちを強調するように髪を伸ばし、俺たち以外に対しては言葉遣いも柔らかくしていた。

 それが、さっきはまるっきり高校時代の姿に戻っていた。

「なに、あれ。めっちゃ、大事そうに触っとうし」

 見とって、照れるわー、ってYUKIが顔を手で扇ぐ。


「おい。始めるぞ」

「うわっ。いつの間に戻ってたんだよ。びびるじゃねぇか」

 突然、背後に現れたRYOに、 SAKUが本気で驚く。

「下まで行って戻って、に何時間かかるって言うんだよ」

「それでも、早かったな」

 ギターに手を伸ばしながら、言ってみる。

「まあな。アイツの足、速いからな」 

「足、速いって。階段で、競走でもしてきたのかよ」

 SAKUもストラップを肩にかけながら、笑う。 

「ま、そんなところだな」

「そんなわけ、ないやん」

 軽く突っ込んだYUKIが、みんなの状態を確認して、カウントを取る。


 少々、ムダにした時間の分。昼からの練習に熱が入る。


その後、RYOの楽器のメンテナンスには、必ず彼女、田村 綾子さんが来るようになる。



 年が明けて。一月。

 俺たちは地元のライブで、あの”レクイエム”を初めて人前で演奏した。

〈 去年。たくさんの涙が流れました。今日、ここに集まってくれたみんなにも、もし。会えなくなった人、しばらく会えていない人がいるなら。その人を思い出しながら聞いてください 〉

 JINが言って、YUKIにマイクを譲る。


 JINとは違うトーンの歌声がライブハウスに広がる。

 方言交じりのやわらかい言葉を使うYUKIから産まれたとは思えない、涙を吸い込んだ重い言葉が空間を支配する。

 最後の一音が、溶けたとき。

 客席に、沈黙が落ちる。

〈 喋るのは、ホンマはJINの仕事やねんけど。今日は、これだけ言わせてな。明日の朝が来る保証なんか、誰にも無いから。俺、この前の震災で、ホンマ身にしみたから。先延ばしにしていることが何かあったら、ためらわずに行動しよな。後悔だけはせんように、お互いガンバロな 〉

 YUKIが、そう言って、一礼をしてドラムセットに戻る。

 客席から、『YUKIー、泣かないでー』って声が上がって。それにきっかけを貰ったように、拍手が起きた。

 鳴り止まない拍手に、YUKIが一度立ち上がって。軽く一礼する。


 JINが、マイクに戻って。

 いつものステージへと、会場の空気も戻った。




 音楽の収入がもう少し安定してきて、さらにバイトの比重が下がってきた。

 となると、どうしても。音楽以外のことが、一種の束縛みたいに感じられるようになってしまった。

 由梨と会うための時間と、体力を維持するためのトレーニングの時間以外は全て、曲を作って演奏するためだけに使えたらたらいいのに、なんて思いながらバイトに行く。半分、ギターに後ろ髪を引かれながら。

 そして。着るものが無尽蔵なわけじゃないから洗濯はやるけど、掃除は時々って、感じで家事が手抜きになってきた、そんな頃。


 俺は悪魔の囁く声を聞いてしまった。


 『飯、食わなかったら……バイトしなくて、済むんじゃないか?』って。


 一瞬、心を惹かれた”ヤバイ考え”は、見なかったことにする。

 俺にとっては魅力的過ぎて、正に、悪魔との契約を意味しそうで。


 けど、時々。ほんの時々。

 『昨日はちゃんと三食食ったから』『今朝は、ちゃんと朝飯食ったし』って言い訳をしながら、食事がいい加減になることがあった。



 関東地方の各地では、数日前からの猛暑が連日のニュースになっていた夏のある日だった。

 翌週のライブに備えた練習のために、午後からスタジオに集まっていたとき。

「MASA? 顔色悪いぞ。大丈夫か?」

 アレンジの相談をSAKUとしていて、横からJINに声をかけられた。


 そこまでは、記憶にあった。



 俺が目を開けたのは、ベッドの上だった。

「気がついたか?」

 聞こえてきた声のほうに顔を向けると、ベッドの横で腰掛けに座っているRYOに睨まれた。

「過労と、脱水と栄養不足ってよ。お前、摂生って言葉知ってるか?」

 ヤベ。由梨だけじゃなくって、RYOにまで。

 左腕に、点滴針が刺さっている。

「病院?」

「当たり前だろうが。あのスタジオに医務室なんかねぇよ」

 救急車なんか乗りたくなかったぜ、ってRYOがまた睨む。

 そして

「ゆりに、連絡したからな。仕事中なのか、留守電だったけど」

 壁の時計は、午後四時半過ぎ。今日は確か日勤って言ってた。

「何で、由梨に」

「実家が良かったか?」

 いや、それもどうかと思うけど。

「お前の携帯。ゆりと仕事関係しか連絡先、入ってなかったし」

「見たのか」

「見られてまずけりゃ、きちんと生活しやがれ」

「まぁ。まずいことは無いけど……」

「とりあえず、点滴が終わるまで帰れねぇんだからよ。その間寝とけ。ゆりと連絡がついたら、俺もスタジオに戻るから」

「うん。ごめん」

「お前、今日は休み、な」

「うん」

 ポトン。ポトン。ポトン。

 アダージョのリズムで落ちる点滴を眺めていると、まぶたが重くなる。あー、さっきSAKUと話してた、あの部分。少しテンポを落として……。


「RYO!」

「うわ。なんだよ」

「俺のギターは?」

「ああ。SAKUとJINがとっさに支えたから、下敷きにはなってないし、SAKUがざっとチェックして、多分大丈夫だろって」

 ああ、良かった。

「本当に、『音楽馬鹿』だな」

「うん。由梨にも……」

 呆れられるな。きっと。


 次に目を覚ましたら、RYOの代わりに由梨がいた。 

「あれ? 由梨?」

 決まりが悪くって、ごまかすように名前を呼ぶ。

「『あれ? 由梨』じゃないでしょ? ご飯ちゃんと食べないさいって。何度言わせるの!!」

 うわ。怒ってる。これは、RYOに事情聞いてるな。

「いつから、食べてないわけ?」

 って、上から覗き込むように問い詰められる。

 俺、逃げられないんだから。そんなに……。

「天井見たって、答え、書いてないからね」

 いや、答えを探してたんじゃないんだけど。

「えーっと。昨日、SAKUと昼飯食った」

「ふうん。その後は?」

 家に帰ってからの行動を思い出す。

「晩は、ビールと冷奴」

「……へぇ?」

 なんか、由梨の声が冷えた。なるほど、トーンが半オクターブ下がった相槌って、冷たく聞こえるのか。

 じゃ無くって。

 由梨の目が『それから? ほら、何食べたのか言いなさい』って、ものすごい威力で問いかけてくる。

 うぅ……

「今朝はきゅうり」

「だけ?」

 はぁって、ため息をつかれてしまった。 

 自分でも、やばいかなとは思ったんだ、昨日は。何か買って帰ったほうがいいよなって。

 でもさ。ちょっといい感じでフレーズが浮かんで。それに合わせるコード進行なんかを考えてたら、部屋についてたんだよ。

 冷蔵庫のぞいたら、食えそうなモンが有ったから、とりあえずそれ食べて。少しだけ、って楽譜取り出して……気づいたら夜中だったんだよな。

「それで、お昼は完全に抜いたわけ?」

「仕事の前にどっかで食べようと思ってて、忘れた」

 久しぶりに、今日は遅刻しかけた。あれは、焦った。


「まっくん」

 目をぎゅっと閉じて、こめかみを押さえていた由梨が、そのままの姿勢で俺を呼ぶ。

「はい」

「水分は?」

「だから、ビール……」

 って、答えたとたん。般若のお面のように、カッと目が見開かれた。

「アルコールはね、代謝に体内の水分を使うから、水分補給には、な・り・ま・せ・ん!」

 はい。ごめんなさい。


 どうしてこんなことになったのかって、二人で原因分析なんかをして。

「そろそろ点滴も終わりそうね。晩御飯、どうする?」

 椅子から立ち上がって、点滴を眺めた由梨が尋ねてくる。

「明日も仕事だろ? 自分でなんとか」

「できないでしょうが、何とかなんて!」

 俺の言葉に被せるように、叱り付けられた。その声が廊下まで響いていたのか、部屋に入ってきた看護婦さんに『うるさい』と、二人して叱られる。


 会計を済ませて、二人で買い物をして俺の部屋で夕食を作る由梨。

 冷蔵庫を開けるなり、

「卵も、牛乳もあるのに……なにやってるのよ」 

 それはその……料理しないと、食えなかったから、って言ったら怒り倍増だよな。

 黙って、言われたとおりに米を研ぐ。

「お米だってあるのに」

 由梨はブツブツ言いながら、魚の下処理をしている。


 出来上がった夕食を、二人で向い合って食べる。

 食べながら、由梨がRYOの”彼女”の心配をしている。

「さっき病院で、『追いかけたい人がいる』とか言ってたけど」

 ”追いかけたい人”なぁ。現状、考えられるのは、楽器メーカーの田村さん、なんだけど。

 部屋に入るなり、まず最初に由梨が作った麦茶は、まだ少し温くって。その麦茶を飲みながら、俺が目にしたRYOと田村さんのやり取りを話して聞かせる。

「亮くんらしくない」

 クスクス笑いながら、由梨が煮魚の身をほぐして、口に運ぶ。

「だろ? でも、『追いかけたい』んだな」

「捕まえられたらいいね」

「足速いからなーって、言ってた」

 この前から一つ思っていることがある。

 高校生の頃。夕暮れの道で見かけた、”Track&Field”の文字。

 田村さんは、あの時の女の子、じゃないのかなって。


 俺と由梨が再会して、こうして居られるように。

 RYOもあの子と再会して、新しい関係を築いてたらいいのにな。

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