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楽園の日常  作者: 林目凌治
Episode1 楽園の日常
2/6

楽園の住人


 ギラギラと頭上に燃える太陽が、まるでオーブンに入れたローストチキンのように私の身体を焦がす。


 「暑い……」


 なんだこの馬鹿げた暑さは。

 北方育ちの私にはこのナサ国の温暖な気候は何年経っても慣れることはない。

 そもそも、我がチームオアシスの拠点はナサ国北部に存在しており、ある程度気候においては涼しい方だとは言うのだが。


 やはり暑い。

 これで南部はさらに厳しい暑さだというから驚きだ。



 小さな小屋が数個立ち並ぶ事務所、そこから少し離れた場所に整備ドックがある。

 その間数十メートル

 私のヤル気を削ぐには十分な距離だ。

 むわっとする南風がユラユラと吹き込む中、ろくに舗装もされていない地面をザリザリと歩いて行く。

 目の前を一匹の黄色い蝶が優雅に横切っていった。

 その様子が暑さ程度で参っている私を馬鹿にしているように見えて、私は曲がり気味だった背筋を伸ばした。




―――チームオアシス拠点内、整備ドック


「うっ……」


ここの暑さは更に馬鹿げてる。

開くだけで1分程かかる大きなシャッターの空いた穴を通ると、外がクーラーでもかかっているのではないかと思える程の熱風が全身を包み込んだ。

 至るところに設置されている大きな扇風機は決して冷風など送るはずもなく、熱湯をかき混ぜるようだった。


 ドック内には窓はあるものの薄暗く、クレーンや発電機などの大型機材と共に、小型機材などの大小様々な機材が置かれていた。

その奥に一際大きな影があった。


"標準二足人型機動兵器"


私の愛機"ワットエヴァー"だ。


脚部は細長くそれでいてガッチリとしており、それに比べて胴体が短いことが"人型"の大きな特長の一つだ。

待機中の今は、両腕をダラリとぶら下げ、片膝をついているが、それにしても小さな住宅程の大きはある。光の無い単眼のクスんだ瞳が、漠然と床のコンクリートを見つめていた。


 「旦那!旦那じゃないですか!」


 来た、私が妻のドックへの報告を拒んだ原因が。

 白いタオルを頭に巻き、作業着にタンクトップの細身の男がこちらへ駆け寄って来た。


 「私が来たらマズイか?」


 私は赤ら様に自分の機嫌が悪くなるのを感じたが、それを隠すつもりもなかった。

 

「やだなぁ旦那、そんなこと言ってないじゃないですか」


 「ところで、今日は物品調達の話で奥さんが来るもんだと思ってたのですが、まさか旦那が来るとは」


 当たり前だ、私がそれを止めたのだからな。


 「いやぁ残念だなぁ、こっちにいると中々奥さんにお目にかかる機会も少なくて。ほんと奥さんはチームオアシスのまさにオアシスですよ」


 その旦那に対してなんてことをいうのだコイツは……コイツなどと言っては幾らなんでも失礼だな、彼こそが我がチームオアシスの機械整備の責任者である整備長だ。


 「あの歳を一切感じさせない美しさ、今日会えないのが実に残念です」


 だからそれを何故私に言うのか。

 彼を雇い始めてもう二年になろうとしているが、この女癖の悪さは日に日に増している気すらする。

 前の職場では女性が多かったらしく、女性の少ないチームオアシスでは、彼も辛いのだといつも嘆いていた。


 「あの眼鏡の奥の冷たい視線、目を合わせなくてもゾクゾクしますよね、旦那もそこに惚れたんでしょ?」


 本当に何を言っているのだコイツは?


 「それで今日はどんなオーダーでいきますか?」


 「ん?」


 急に別の事を効かれたので反応が遅れてしまった。


 「装備の話ですよ、もうボケっとしないで下さいよ。旦那、さては寝不足ですか?まさか奥さんとッ!」


もういい、もう、いい。


 「……B装備でいく、それと追加型暗視スコープ、肩部を熱噴出型ジャマーに付け替えておいてくれ。作戦内容はもう確認したな?」


 「無視ですか……たった今メールで確認したところですよ。夜間戦闘ですか、作戦開始まではもう四時間もありませんね」


 整備長は手元に持ったボードにいそいそと走り書きをしながら言った。

 ついさっきまで見せていたニヤケ顔は陰りを見せていた。


 「二時間後に輸送機が到着する。大丈夫か?」


 作戦に使う"人型"用の輸送機は国が用意してくれる、そしてその到着までには搬送準備を終えていなければならない。


 「舐めないで下さい、一時間で終わりますよ」


整備長は得意げにボールペンで手元のボードをトントンと叩いた。

 こんな性格をしているが腕は確かだ、彼が整備長になってからというものの私は機体の不具合を一度も見た事がない。歳も比較的に若く技術的には信頼の置ける男だった。

 まぁ、腕が悪ければ今すぐにでも切っているのだが、そこがもどかしいところでもある。


 「では任せた」


 「えぇ、大丈夫ですよ。ところで、"ライラ"とは話していきますか?」


 「いや、いい」


 「ここにいては作業の邪魔だろう、また後で来る」


 そう言って事務所に戻ろうとした時、手元に大事に抱えたあの署類を思い出した。


 「すまない、忘れるところだった」


 物忘れが始まるには若すぎるとは思うのだが。

 私は妻に手渡された整備長宛の書類を渡した。


 「あ、そうでした。いやぁすっかり忘れてましたよ、物忘れが始まるには若すぎると思うんですけどねぇ」

 

妙なところで、気が合うな……





『楽園の食卓』


To be continue……


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