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楽園の日常  作者: 林目凌治
Episode1 楽園の日常
1/6

楽園の日常

人型機動兵器


人を乗せ、戦場を駆る鋼鉄の塊

鉄壁の防御力、多彩な武装を自在に操る鋼鉄の塊

各国の派遣争いが絶えないこの世界で、もっとも高い戦闘能力をもつ兵器



―――チームオアシス拠点内、事務室

「これは非常に緊急性を要する作戦です。作戦開始は四時間後、それまでに準備をお願いします」

 

こんな強引な依頼を押し付けられたにもかかわらず、妻の口調は相変わらず冷静そのものだった。

 傭兵というものはいつもこうだ。

 五時間後に出撃だと?馬鹿げてる。

 私は歩兵ではないのだ、身支度を済ませれば

 さあ、出撃

 というわけにも行かないことくらい作戦部とてわかっているはずだろう。


 にもかかわらずまたこれだ、チームオアシスを結成して十五年になるが数日前から作戦内容がわかっていた依頼など半分にも満たない。


 ん、今思い出したが妻と仕事を始めてからもう十五年だ、丁度節目の年ではないか。何か祝いでもしたほうがいいのではないか?


 「以上です、何か質問はありますか?」


 書類の入った戸棚と簡易ベッド、机と椅子といった必要最低限の家具だけが揃った簡素な事務室で、依頼内容が表示されたノートパソコンをこちらへ向けながら説明をしていた妻が、手元の書類から目を離し言った。


 「毎回同じような質問をして悪いのだが、今回もなぜこう急なのだ?」


 「敵側に作戦内容が漏れた可能性があるようです。そのため急遽“人型”が必要になり、いつもながら正規軍を出す時間も余裕も度胸もないとのことで我々に出てもらいたいそうです。」


 馬鹿げてる、情報漏洩を見つけられるなら最初から漏洩させるな。


 「一応クレームは入れておきますが、期待は薄いでしょうね。」


 眼鏡の位置を直しながら、こちらの気持ちを知ってか妻はそんなことを言った。


 「確か初めての依頼もこんなもんだっただろう、はなっから期待していないよ。」


 「それより、いい加減クレームも止めたらどうだ、作戦部の対応係のため息一つ増やす程度がせいぜいだろう?」


 「私も同じように思っているのですが、どうにも日課になってしまいまして。これをせずにはいられないのです」


 後に聞いた話だが、妻は作戦部の対応係に向けて平均一時間以上の長いクレームをグチグチ入れているらしい。


たまに彼女の事務室の前を通ると聞こえる大きな文句がそれだという。


 我ながら恐ろしい妻を持ったものだ。


 この話を聞いて、連れ添って十五年も経つにもかかわらずそんなことも知らないのかと落ち込んでいると、この妻の奇業は私がいない時に限って起こるとの事だ。


 知らないならばそれでもよかった気もするが……


 「他に質問はありますか?」


 「いや、大丈夫だ。」


 「兵装は?」


 「Bでいこう、それと追加型暗視スコープと熱噴出型ジャマー、肩のハードポイントから切り替えて……」


 「どうしました?」


 手帳に走り書きをする手を止めて妻が聞いた。


 「整備長への報告は君が直接行くのか?」


長い後ろ髪を掻き揚げ、妻が首を傾けた。


 「えぇ、今日は他にも報告がありますし。それが何か?」


 「では、私が行こう」


 通常雑務、任務、資金の管理、そして戦場ではオペレータと多忙な妻の負担を減らそうと意気込んで言ったつもりだったのだが。


 「結構です」


 即答されてしまった。


 「さっきも言いましたが、整備長には別件での話もありますので。」


 「それも私がやろう、どうせ後で私も行くのだから君の手間も省けて一石二鳥だろう」


 ここで折れてしまっては男が廃るというものだ、私は少し意地になって言った。


 「いえ、これは私の仕事ですからあなたは……」


 「いいから!私に任せなさい」


 狭い事務室に私の声が響いた、少し声を出しすぎたとすぐに冷や汗をかいた。

 妻の眼が心なしか丸くなったような気がした。

 

「そこまで言うなら、わかりました。整備長へはこちらの書類を渡しておいてください」


 そう言って机の書類の一枚に線や走り書きをして私に渡した。


「わかった」


 私は妻が折れてくれたことにそっと胸をなでおろし、手元の作戦内容が記された書類とともにそれを受け取った。

 席を立ち事務室の出口へ向かう、妻から受け取った整備長への書類がどこか誇らしげだった。

 扉を閉めるその時、妻が私を呼び止めた。


 「あなた」


 「食事は何時間後に?」


 出撃前に妻と食事を取ることは、連れそるようになってからの習慣だった。


 「そうだな、一時間後に取ろう」


 「では、一時間後」


 「あぁ」


 扉を閉める隙間から見えた妻の口元が、いつもより優しく見えたのは気のせいだろうか。







『楽園の日常』


To be continue……

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