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31.妥協するのは、事を先に進めるのに重要。

「やっぱり運動後のアイスは最高ね」

「まひるはあんまり運動してないですけど、やっぱりアイスはいつ食べてもいいですね」



 俺達4人は、凛世と俺、それと向かい合うようにまひると晴美が座るようにしてダイニングテーブルに座り、とりあえず一息ついていた。



 偶然にもアイス作戦は功を奏したようで、気絶させられることなく、九死に一生を得た形だ。



 しかしこの状況もいつまで続くか分からない、話題が俺のことにならないように話を逸らし続けるしかないようだ。



「皆はアイスってどの味が好き?」



 やはり無難なのはアイスの話だろう。



「まひるは断然バニラですね、バニラ以外考えられません」



 確かにいつも常備しているのはバニラだった気がする。それはまひるの好みだったとは知らなかったけども。



「私は、どれかって言われると困るけど……抹茶かしら、あずきとの相性もバッチリよね」



 晴美の家は純和風の家ということもあってか、味も和風の味を好むらしい。アイスは和風ではないというのは気にしてはならんのだ。



 それに反応したのか、まひるは声を荒げて、



「アイスって言ったらバニラに決まってるじゃないですか、バニラこそ至高、バニラこそ正義ですよ!!」



 晴美もそれに対抗してか、



「まひるちゃん、抹茶の凄さをなめてもらっては困るわね。抹茶はエレガントでエキセントリックなのよ!!」



「バニラ!!」

「抹茶!!」



 こうして晴美とまひるのアイス論争が始まった。晴美は英語を使いたかったんだろうが、意味を分かって使ってるかどうかは定かではない。あ、因みに俺はチョコが好きです。



 掴みあいのけんかになると俺では止められなくなるが、今となればそれは好都合っちゃあ好都合なので、前の二人は放っておいて凛世に話しかける。



「凛世は何が好きだ?」



「……雪なら食べたことが」



 そうだった、コイツは根っからの野性児なんだっけか。あと雪はばっちいからぺーっしなさい、ぺーっ。



「だったら買ってやるよ。今回のお礼も兼ねてな」



「……3倍返し?」



 ホワイトデーにはバレンタインデーの3倍返しをしないとダメとか聞くけども!! そんな時期じゃないし、高校生にそんな期待されても困るんだが!?



「アイス3個で手を打ってくれないか」



「……イエス、マム」



「じゃあ買ってくるから、待ってろよ」



 この間に俺も食べ物を買って食べたら、死を心配する必要性がなくなるわけだし、そのついでだと考えたら安いモノだ。俺もキュウリだけじゃあ無理があるって思ってたし、何よりアイスが食べたくなってきたしな。



 そうと決まれば、まひるや晴美に気付かれないように、静かに外へと歩を進めよう。



「それだったら色んな味を確かめて決めようじゃありませんか!!」

「そうと決まればコンビニにアイスを買いに行くわよ!!」



 と思った矢先にこれである。



「アイスくらいだったら俺が買ってきてやるから、お前らは家でゆっくりしてろ!!」



 付いて来られると俺が困るんだよ、察しろよ!!



「どんな味があるか見に行くがてらですよ、兄様」

「自分で選んだほうが良いに決まってるしね」



 だからそれをされると、俺が自分の食べ物を買う前に気絶させられる可能性があるから困るって言ってるのに何を……。



 待てよ。



 こいつら二人で行かせれば、この家から脱出することが出来るんじゃないのか? そうすれば近所のスーパーなり商店街なりに行って食べ物を調達することもできるし。



 さあ、そうと決まれば早速(2回目)



「分かった分かった、2人で勝手に買いに行けよ。俺たちはテレビでも見てるから」



「何を言ってるんですか、兄様も一緒ですよ?」

「まひるの言うとおり、勝も行くに決まってるじゃない、バカなこと言ってるんじゃないわよ」



 こいつら、どうしても俺を死に至らしめたいらしい。その事実に気付いてないあたり、連続殺人犯よりよっぽど質が悪いんだが……。



 ともかく、計画を狂わすわけにはいかない。



「別に俺が行かなくても良いだろ、そっちこそ何言ってんだよ」



「とか言って、また兄様も逃げるじゃないですか」

「それに、凛世と2人だけにしておくとロクなことがなさそうよね」



 はて、なんのことですかな? ま、まさかそんな事、あああ、あるわけないじゃないですか、あはは。



 こうなってしまったら、抵抗すると気絶させられるオチが見えるので、ここは降参することにする。別に権力に屈したというわけではない、戦略的撤退という。晴美と違って賢い選択をするのだよ、ふはははは!!



「こぶしを自分の正面にいる敵のアゴに向かって突き出す運動ーっ!!」



「うわっ」



 何を言ってるんですか、晴美の方が賢いに決まってるじゃないですか、やだなー。……なんで心の声まで伝わるんですか、油断するとすぐこれだから困るんですけど。



 ったく、間一髪で避けたから良かったものの、当たってたら天に召されてたところだぞ。これでキュウリ一本分くらいのエネルギーは消費したぞ、エネルギー返せよ。



「分かったから、俺も行くから、な?」



 これ以降のエネルギー消費は死活問題になるので、早急に話を進める方針に切り替える。こう言うと地球のエネルギー問題っぽいと思うのは俺が錯乱してるからだろうか。



 すると晴美はラジオ体操っぽい謎の準備運動を止め、急に立ち上がったかと思うと、俺の隣に回り込んで。



「それじゃあ行くわよ!!」



 俺の右腕にしがみついて立たせたかと思うと、玄関の方向へと引っ張り始めた。



「晴美さんがそうするのなら、まひるはこちらを」



 まひるはそう言って、晴美と対称となるように左腕にしがみついて、晴美と同様に玄関の方向へと俺を誘おうと力を込めてきた。



 ……大丈夫大丈夫、こいつらの目を盗んで食べ物を買うとか、そもそも何食わぬ顔で食べ物を買ってその場で食べるとか、いろいろ方法はあるはずなんだ。手錠で繋がれるよりかはマシだし、生存確率もそこまで低くはない、はず。



 そうなると、この2人の注意を引く、いわゆるオトリ役が必要となるわけなんだが……。



「2人とも、ちょっと待ってくれ」



「なんですか、コンビニは待ってくれても、アイスは待ってくれないんですよ?」

「そう、コンビニエンスは待ってくれても、アイスクリームは待ってくれないのよ?」



 2人は玄関前で立ち止まり、まひるの言葉に賛同するように晴美もそれを復唱する。ちょっと賢く言ったつもりなんだろうが、コンビニはコンビニエンスストアの略で、決してコンビニエンスなどではなく、コンビニエンスのみだと便利という意味しか残ってないので何がなんだかよく分からなくなるのが……。



「手が滑って関節技が」



 あー、晴美は賢いなー。晴美みたいになりたかったなー。



「入らないわね、そんなことありえないわよ」



 ふう、心の中でなんで嘘をつかないといけないのか……。なにこれデジャブ。



「で、話はなんですか? 兄様」



「あぁ、そのことな。どうせだったら凛世も一緒に行くべきじゃないかと思って。なあ凛世もそう思うだろ?」



「……イエス、マム」



 やはり会話を聞いていたようで、凛世は俺に呼ばれるや否やすぐに俺たちの目の前まで来て、問いかけに回答した。良かった、本人も乗り気のようだ。



「兄様の言うことなら逆らえませんね」

「別に一緒に行かない理由もないし、そうするとしましょうか」



 割と強引だった気もするが、2人の合意が得られたところで、俺達4人は近くのコンビニへと歩を進めるのだった。

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