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29.飢えてても、舌には全く逆らえない。

 なんやかんやで凛世とトイレに引きこもることになってしまったのだが……。



 おなかへった。



 腹が減っては何とやらで、俺は凛世と一緒にいることよりも、この余りある食欲をどうにかせねば、これから先を耐えしのぐのは不可能なように思われる。



 ここで一つ確認してほしいのは、俺はここ一週間かそこら、何も食べていないということだ。



 一番最後に食べたのはメイドの肉汁たっぷりカレー(肉汁抜き)だった。それ以降は目前まで迫ったことはあるものの、全く食べ物にはありつけていない。



 もしかしたら、気絶するようになったのは食べてなかったからなのかもしれない。



 さて、じゃあトイレの中で、食べられる物、それは一体なんでしょうか?








 カレー色のものを思い浮かべたら、あなたは相当なチャレンジャーでしょう。



 うすだいだい色のものを思い浮かべたら、あなたはカニバリズムの気があるでしょう。



 白色のものを思い浮かべたら、あなたはまともにトイレで座れなくなるでしょう。








 ……心理テストにすらなってねえ!!



 そんなことはどうでもいいんだが、コレは困った。お風呂以上に食べられそうなものがない。トイレの水も流すことはできないし、トイレットペーパーだって使えないし……あっ。



 トイレットペーパー!! その手があったか!!








 さあさあ始まりました、10秒クッキングのお時間です。



 今日はトイレットペーパーの刺身の作り方をご紹介します。



 まず、沸き上がった興奮を抑えつつ、カラカラとトイレットペーパーを出していき、ちょうどいい長さでカット。



 後はそこからビリビリと破っていくだけで完成となります。



 材料はこちら、トイレットペーパー1ロール。お好みで塩コショウを振って、ご賞味下さい。



 来週はトイレットペーパーのたたきを作ります。お楽しみに!!









 一つ一つ長いわ!! 疲れてるのかな……俺。



 とりあえず、トイレットペーパーの刺身を作ってみた。これを本当に食べるのか……さっきのセッケンは失敗だったが、今回は体に悪い物など全く入ってないであろうものだし、食べても害はないよな……。



 少しだけ、口の中に……ん?



 うんまい。



 なんか良く分からないが、うんまい。何だこの食べ出したら止まらない食べ物は。これがあのトイレットペーパー? いつも汚いところを拭いて水に流されるだけのトイレットペーパーだってのか!?



 気が付けば、あんなにあった刺身が全て無くなっていた。もう食べきったのか、おかしいな。



 って、俺の頭も相当おかしいわ!! 冷静になれよ、生きている人間としてモラルをもって行動しろよ、自分!!



 しかもその姿を凛世に見られていたわけで。



「……Are you OK?」



 凛世に心配されてしまった。一応、俺は常識人で通ってたはずなんだけどなあ……。常識があったら風呂に立て篭もろうなんて思わないな。どれもこれも空腹のせいだ。そういうことにしよう。



「大丈夫だ……忘れてくれ」



「……イエス、マム」



 となるとだ。トイレの中には食べるものが一切ないということになる。あるのは便器の中の水のみ。それも流すとバレるから、これ以上は見込めない。……ちょっと待て。



 俺がトイレに入ったときには既に凛世が入っていた。ということは凛世はトイレを済ませている可能性があるんじゃないか? つまり、この水は既に……。



「えー、凛世さん? つかのことをお伺いいたしますが……した?」



「……ベー?」



 そうすると、凛世は口の中の飴を舌に乗せてみせた。



 うん、確かにしただね。でも品詞が違うんだよな!!



「そうじゃなくってさ、その……下から液体を出したのかっていう話をだねえ……」



「……べー?」



 そうすると、凛世は舌に唾液を溜めてみせた。



 こいつ、したは全部舌って聞こえるのかよ、面倒だな!! 既に恥ずかしいのに、直接言わないといけないのかよ……クソッ、もういい。



「だからさ、シャーってしたかってことだ!!」



「……西(シャー)は後ろ」



 どういう解釈をしたらそういう答えになるんだよ、擬音まで使ったのに全く伝わんねえじゃねえか!!



 こうなったら最終手段しかないよな。あくまで水の心配をしてるだけで、変態的なことが趣味とかそういうわけじゃないからさ、仕方ないよな。大丈夫、大丈夫。父と子と聖霊の御名によってアーメン。南無阿弥陀仏。何無妙法蓮華経。よし。



「オシッコ……した?」



「……イエス、マム」



 その答えは聞きたくなかった。こんだけ苦労して、思考錯誤して、得た結果がこれだよぉ!! 笑えない、あぁ笑えない。



 当の凛世は、さっき出した飴を舌でコロコロと転がして遊んでいる。こいつ、羞恥心というものが無いのか?







 ……飴?



「その口に入ってるのは、あ、ああ、あ、飴なのか!?」



「……ストロベリー&トウガラシ味」



 後半いらーん!! ストロベリーだけでいい!! 何で交ぜちゃったんだよ、その二つを!!



「そ、それは、おいしいのか?」



「……イエス、マム」



 聞いた後で悪いけど、それ絶対まずいからな!! ただ赤いのと赤いのを混ぜただけだろ!?



 だが、背に腹は代えられない。やっとまともな食べ物に出会えたんだ、何としてでもゲットしなければならない。結果的に変態になろうが、気にすることはない。



「その飴を、俺にくれないか?」



「……this?」



「ディスディス、俺はそれを食べたくて仕方ない。食べないと死んでしまう。オーケー?」



「……べー」



 すると凛世はさっきと同様に舌の上に飴を乗せてみせた。



「く、くれるのか?」



「……べー」



 どうやら交渉成立のようだ。よし、飴を舌に当たらないように、右手でそおっと摘まんで……口の中に放り込む!!



 ほうほう、イチゴの甘酸っぱさとトウガラシの辛さと強烈な刺激が複層的なハーモニーを醸し出していて、とてつもなく辛い。






 辛っ!! 辛い、うえっ!! 水、水をくれ!! そうだ、便器の中!!



「ちょっと、そこ退いて退いて!!」



「……イエス、マム」



 ちょうど場所を入れ替わるようにして便器の前に立ち、便器の中にある水を手ですくって口を潤す!!



 ん? 少ししょっぱい……あっ。



 ワナワナとしつつ、俺は無言で凛世の方を向いた。






「……オレンジ&マスタード味、食べる?」



「要らねえよ!!」



 そうして時間は過ぎていく。

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