27.無情にも、時間はどんどん過ぎていく。
さっきは勢いでお風呂に立て篭もるなんて言ったが、正直なところ無理があるよね。
一応、お風呂という性質上は水を確保するのはたやすいけど、ただそれだけ。
水で空腹を紛らわすのも限界があるだろうし、なによりトイレをどこでするかの問題だってある。
小は大丈夫だが、大ともなると処理だって大変だ。つーか考えたくもない。
何よりコチラには勝ち目がほぼ無い。立て篭もっている犯人と周りを取り囲む警察官。物資のない部屋に駆け込んだ人間と襲いかかるゾンビ。どちらが勝つかを考えてみれば分かることだ。
そもそもお風呂に立て篭もっていることに気付かれないという最悪の可能性だってある。無駄に意地を張って出て行かなかったのに、降参した時には3人が普通に生活してたなんてことも……。
さすがにそれはないか。
立て篭もる時間が長くなれば長くなるほど、心配になって様子を見に来るのが人間として当然の行為じゃないだろうか。湯船で寝てたら大変なことになるしな。
…………にしても、気絶させられないって良いよな。意識があるって、素晴らしいことだよ。いろいろなことを考えることが出来る。吾輩は考える葦である。特に意味はない。
そうだとしても(?)、考えたところで別に何が起こるわけでもない。どんなに大きいことを考えようが、所詮は風呂の中。今の方針を決めてしまえばあとは耐えるだけ。アッチが動いてこないとどうしようもない。
暇だから、とりあえず寝るか。もちろん湯船からは出て。
「まぁあさぁああるぅうううううう!!」
「!?」
外からの大声で目が覚めた。おそらくは晴美だろう。これでようやく俺も行動に移ることができる。
まずは入って来ないように注意するか。
「入ってくるな、入ってくるなよ!!」
「分かってるわ、分かってる。入って欲しくないことくらいは分かってるわ。男の子だものね」
そうして晴美がドアを蹴破って……あれ、予想してた展開と違う。
いつもの晴美ならば、「とりあえず中に入らせてもらうわ!!」みたいなことを言って正面突破してくるのに……病気にでもかかったか?
「大丈夫なの? そっちの……あの、あれの方は」
「大丈夫だが、お前こそ大丈夫か?」
「わ、私は、ちょっと大丈夫じゃないわ、ね。 (脱いじゃったから寒いし) お風呂に入らないと、駄目かもしれない、わ」
お風呂に入らないと病気が治らない? どんな病気だよ。病気なら薬を飲んでろよ。
「なら病院なり薬局にでも行けよ。それからでもいいだろ?」
「薬局……? (あぁ、検査薬とかゴムを買ってくるのね) 分かったわ」
「分かってくれたらいいんだ。じゃあ気をつけてな」
「そのあと、(勝のことを)楽しみにしてるわ」
…………? まあ少し違和感があるが、良いとしよう。
これで晴美を追い返すことに成功したわけだが、いつ凛世やまひるが来るかも分からない。
今のであちら側にも俺の意思が伝わっただろう。入ってくるなとは言っておいてから……。
あ、立て篭もってるって言うの忘れた。
これじゃあ話が進まねえじゃねえかよ!! 何やってんだよ、宣戦布告しなけりゃ始まるもんだって始まらねえよ!! クソが、これが水攻めか……!! お主もやりおるのう……!!
そろそろ一人相撲から脱却して、あちらから勝ちを得なければ、俺に生きる道はない!!
ならば、いつものヤツで呼び出すしかないだろうなあ、嫌だけど。嫌なんだけど。厭々なんだけど!!
よっしゃ行くぞぉおおおお!!
さん! にー! いち!
「メディーーーーック!!」
(死亡フラグ ∞+1=∞)
よし、死亡フラグもちゃんと増えたぞ(?) もうこれ訳が分かんねえな。
ここまですれば、あいつ等もここまでくるに違いない。死亡フラグが増えたってことは聞こえてるってことなんだからな。
さて。次に来るのは誰だろうか。晴美は病院とか薬局に行ってるはずだから来ないとして、凛世かまひるか。2人同時って可能性だってある。
凛世はあまり口数の多い奴じゃないから、こちらとしてはどちらかというとまひるが来てくれると助かる。コチョコチョはできないが、兄であるというアドバンテージは大きい。赤子の手を捻るぐらい簡単だ。さっきは俺が赤子だったんだけども。
「――――ま」
噂をすれば、なんとやら。
「兄様、いつもは気を使って声をかけないのですが、心配になってきてしまいました。大丈夫ですか? 起きてますか?」
「まひるか、心配しなくても良い。ちゃんと起きてるよ」
「そうですか、いつも通りナニとかナニとかナニをしているのであればよいのですが、流石に兄様でもちょっと長すぎじゃないかと思いまして、もしかしたら今まで出来なかった反動が出ているという可能性も加味しましたが、流石にそうだとしても体が持たないような気がしまして、そのまま疲れて倒れて眠ってしまったら、そして湯船に浸かったままだとしたら、気が気でなくてですね」
このパターンに入ってしまったか……よし、ならばコチョコチョ……が出来れば、事は収まるんだけどな。
ヤバい。
いつもコチョコチョで処理してきたせいで、それ以外の対処法が全く思いつかない。
「まひる?」
「妹がいる生活環境は少々やりにくい環境ではあるかもしれませんが、それでも兄様も男ですからしたい時もありますよね、分かりますよ兄様、でもそれはもったいないですよ、せっかく出来るのであれば受け皿を用意するべきだと思います、そうですね、近くに丁度いいような大きさで抱え込むとすっぽりと収まるようなほんのり暖かい物がありますので、それをお使いになると良いんじゃないですか、家でするのが嫌なら外でもまひるは一向に構いませんよ、兄様がいるならそれだけでいいですから」
どうやら俺の耳は壊れているようだ。最近、耳掃除もしてなかったからなー、そういうことだろうなー。
「まーひーるー?」
「そういや前に兄様と手錠でつながれた時がありましたよね、外でするんだったらその時よりもさらに恥ずかしい目にあうかもしれませんが、兄様のしたいことをしたいようにすればいいんです、兄様が冷たかろうが温かろうが、まひるの中では兄様は兄様ですので、まひるの大事な兄様が何もしたくないと言うならナニもすることはありませんが、何も言わないということであれば、まひるはまひるの欲望に従ってナニかを実行することをお許し願いたいのです」
まひるってこんなに喋ったっけ……1回で原稿用紙半分くらいは喋ってるぞ……。
「否定をしないということは兄様はそうされても構わないという事でよろしいですね、分かりました分かってました、兄様の立場上、妹にいろいろ言うのは世間体も悪くなるでしょうし、もし出来たら兄様に迷惑をかけるかもしれませんしね、そうと決まれば早速ナニに使うものを買ってこようかと思います、家の中には凛世さんもいますので、そこで内密に行いましょうか、万が一汚れた場合などにもちゃんと対応できますし、兄様もそこでするのがお得意のようですし、では行ってきます」
「え、まひる。ちょ、ちょっと待てよ、おい!!」
……また言う前にどっか行っちまったよ。
最後の一人はもう名指しで呼んだ方がよさそうだな。
「凛世、凛世?」
…………もう知るか。