24.たまには子供心を思い出しましょう。
神様って、スゴいよな。
何だかんだ言って、俺の運命を言い当てちゃうんだもんな。
まあ3択だったから、ただの当てずっぽうかもしれないが。
ていうか今まで、一度も俺にプラスとなる選択肢を考えてくれていないような……。
その時は仕方無い状況だったんだろう、強制ルートだったんだ。
選択肢が出るまでに既に俺の運命が決まっていたということだ。
待てよ。じゃあ今、選択肢を神様にお尋ねしたら、起きた時の対処法を伝授してくれるんじゃないか?
おっしゃあ!! 神様、俺に選択肢をプリーズ!!
1.甘んじて状況を受け入れる
2.流れに身を任せる
3.泣く
……1と2って同じだし、今までと変わってなくね?
3なんて泣くだぞ!? 泣いたところで誰が救ってくれるんだよ、小学生か!!
……いや、もしかしたら、もしかするとだ。
今までの選択肢で、こんなにもシンプルでかつ簡単な選択肢は無かったんじゃないか?
ひょっとすると、神様が俺を見直して、慈悲の手を差し伸べてくれたんじゃないか?
今までずっとその場の空気に合わせてきたが、これでもうおしまいだ。
目が覚めたら、いの一番に大声で泣こう。
そうすれば、俺はこの気絶フラグ乱立ルートを抜け出せるはずだ。
そう信じて、俺は大声を上げて泣いた。
「バブゥーーーーーーーー!!」
……もう一度。
「バブゥーーーーーーーー!!」
え、ええ、ええっ!?
「バァブ、バァブ、バブバブバブゥー!!」
…………一旦落ち着こうか。
確かに俺は子供のように大声を上げてワンワン泣こうとしたよ。
だが、赤ちゃんにまで戻ろうなどと思ったことは無い。断じて。
だったら、何故俺は赤ちゃんのように泣いたんだ?
……もしかして、神様が救ってくれるってのは、生まれ変われるって事だったのか!?
冗談じゃないって、救ってもらおうとしたのは俺だが、そこまでのセルフサービスを頼んだつもりはねえぞ、オイ。
仕方無い、いつものヤツを。
「バェブィーーーークペッ!?」
叫び終わった瞬間に、口で何かくわえていたのだろう、何かが外に飛び出した。
目を開けて、それが何だったのかを確認すると、プラスチックで出来た、口にくわえるためだけに製造されている物質が胸の上に鎮座していた。
俗に、おしゃぶりと呼ばれる物である。
しかし、肝心の体は縮んでおらず、至って普通の高校生の大きさだった。
…………それはそれで可笑しくないか!?
仮にも高校生がだぞ!? おしゃぶりをくわえながら泣き叫ぶなんて、そんな、そんな……!!
バ、バブバブ言っていたのはこのおしゃぶりのせいでもあると思うが、口の中にはまだ別の物質が入っているし。
おしゃぶりはダミーかもしれない、そう願って口の中から異物を取り除くと。
白い布切れが塊となって出てきました。
クシャクシャになった白い布切れを広げると、女性の足を2本ほど入れる穴と、腰の近くで維持しておくための穴を発見した。
つまり、パンティーである。
……なあ、一体いつ俺が悪いことをしたって言うよ?
口の中に純白のパンティーを突っ込まれて、それをおしゃぶりで蓋されて……何が何だか分かんねえよ!!
そもそも晴美の家に居たはずなのに、また場所変わってるし。
ココはどこだろうか、と辺りを見渡し始める。
俺が寝ていたベッドは東側に設置されていたらしく、起き上がる朝日が目に突き刺さった。
勉強机は西側の隅に設置されており、部屋は淡いピンク色で統一されている。
……見たことがある気がするなあ。
と、勉強机の上に置いてある2個の写真立てを良く見てみると、家族4人で撮ったのと俺たち兄妹2人だけで撮ったのだった。
そう、ここは紛れもなく、まひるの部屋なのである。
その時ちょうど扉が開き、まひるがプレートを持って現れた。
「兄様赤ちゃん、ご飯ですよでちゅ」
「まひる、とりあえずお兄ちゃんの近くで正座して?」
「少しだけですよでちゅ」
「赤ちゃん言葉止めてから正座してね?」
「はい、分かりました」
まひるはプレートを勉強机の上におき、俺が座っているベッドの目の前で律儀に正座をする。
「不束者ですが……優しくして下さいね?」
「とりあえず一回殴ってもいいか?」
「DVはダメ、絶対ですよ?」
どの口で言うんだろうな、妹め。
まあ、闘いを仕掛けても負けるのは俺なのだが。
「聞きたいんだけどさ、このおしゃぶりは何?」
「赤ちゃんプレイの準備です」
……赤ちゃんプレイ?
「因みにパンティーは?」
「それはまひるの使用済みパンティーをノリで突っ込んだだけです」
汚いな、クソ野郎!! 本当の意味でクソ野郎だな、まひる!!
……まあいいとしよう、行動の理由を聞いてもどうせマトモな返答は返ってこないしな。
むしろ聞きたいのはココからだ。
「置いたプレートに乗っかってる、あれらは何?」
「そんなの、ほ乳瓶と離乳食に決まってるじゃないですか」
「だいぶ本格的な赤ちゃんプレイだな!!」
そんなに赤ちゃんプレイがやりたいのかよ!?
「まひる、妹だから自分より小さい兄弟を見たことが無いんです。この機会だから兄様に赤ちゃんをやって頂ければな、と思いまして」
……なるほどな、確かに俺は兄だからまひるが赤ちゃんの時から知ってるが、良く考えたら、まひるは周りが年上ばっかりだったんだな。
それだったら可愛い妹の頼みだ、甘んじて受け入れようじゃないか。
もう気絶しそうなイベントは起こらなさそうだし。
「うん、まひるの言い分も分からなくもないし、まひるがしたいってなら、やってあげても良いよ」
「本当ですか!? だったらパンティーを」
「それは違うからな?」
ニコニコ笑いながら軽くまひるを窘める。
「分かってますよー、じゃあリクエスト良いですか?」
「何でもどうぞ」
「もう一度寝て下さいませんか?」
…………うん、なるほどなるほど。
「俺のここ数日の活動時間、1日平均何時間だと思う?」
ずっと気絶してるんだぞ、そんなの簡単に寝れるわけが……。
「じゃあ気絶します?」
……あれ、ルート間違ったかな!?
今まで平穏な世の中だったはずなのに!! どう考えても暴力沙汰になんてなるはずがなかったのに!!
「ね、寝るからさ、寝る寝る寝る寝。だから止めてね?」
「3秒で寝れたら良いですよ?」
そんな殺生な!!
「3・2・1……」
「グーッ、グーッ、グボフバへバヒャ!!」
立て続けに腹と首元へラリアットっぽい何かを食らわされ。
スーッと視界から色が無くなり、最後には暗闇だけが残った。