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22.頑張って説明しようが理解してもらえないから無駄。

災難だった。



まさか、あのタイミングで崖から落ちるとは思っていなかったから、今度こそ死んだかもしれないと覚悟していたが、当たりどころが良かったのか、何とか生き長らえている。



だからとしても油断は禁物である。



何せ、気絶する前に誰かが俺の近くに居たみたいだからな。



知り合いだったらまだ良いのだが、知り合いじゃなければ命の保証は無いわけだ。



……今、知り合いにワザトでは無いとはいえ、命を奪われかけた事には目をつぶっておこう。



今の出来事に目をつぶったとしても、実は俺には知り合いに殺されかけた経験はあるにはあるのだが。



相手というのは晴美の父親、長宗我部帝剛だ。



帝剛さんは古くからの由緒正しい家の主で、奥さんと共に武道の道場を開いている、スゴい方だ。



晴美をココまで強くなったのも帝剛さんのおかげ……いや、せいと言った方が正しいか。



晴美と幼なじみだって事もあり、古くから交流がある人の1人だ。



さて、何故このような人に殺されかけたのかというと。



晴美と放課後のトレーニングをしていた時のことだ。



この日はあまり時間が無かったので、準備運動を疎かにしてしまったのだ。



これが起因したのか、俺と乱取りをしていた晴美が急に地面に崩れた。



診断は肉離れ、そのせいで晴美はその年の県大会を断念せざるを得なくなったんだ。



当然俺は周りから非難を浴びる事になるのだが、そこで最もキレた人ってのが帝剛さんである。



事故が起こってから3日間ほど軟禁され、夕方には愛のご指導を頂いた。



今思えば犯罪なのだが、その時は俺も仕方ないと感じていたから別に変だとは思わなかった。



しかし、その3日目の夕方、俺は帝剛さんの乱暴な扱きによって、全治2ヶ月の大怪我をした。



本当はただの足の骨折で済んだはずだったのだが、無理に立たされ、制裁を食らっている内に地面に沈み、気付いたらベッドの上、アーメン。



あれが人生初の気絶だったね。



流石に帝剛さんも悪いと思ったのか、それ以降は手加減してくれるようになったけど、今でも事故について根に持っているから、出会い頭にラリアットされるのは当たり前と化している。



だから、俺が出会いたくない人物No.1である。



例えば、今目を開けて、目の前に帝剛さんが居たならば、即座に逃げ出して、逃げ出して、逃げ出して……捕まる。



まぁ、そんな有り得ない事を考えたって無駄だし、サッサと先ほどの人影の正体でも確認しときますかね。



と、ゆっくり目を開けると。









「(ピー)。此奴が意識を取り戻したら(ピー)して(ピー)」



あのー、スイマセン。拒絶しているのか、脳が理解しようとしないんですが……。



てか、あの立派な顎髭や後ろ姿を見るに……帝剛さんだな。



そうか……。



オーマイ、ガッ!!



なんで最悪の状況になってるわけなんですか、仏様! もしかして、さっきアーメンって言ったからそっぽを向いたんですか、仏様! 南無阿弥陀仏ですよね仏様! え? 宗派が違う? ……知るか。



「目覚めたようだな、小童」



仏様!! 俺がいったい何をしたと言うんですか!! あなたのせいで逃げ出せなくなったじゃないですか!!



……自分で対処しろと、なるほど。



えー、じゃあ改めまして、今の状況を確認しときますかね。



帝剛さんに見つかった。



はい終わったー。



「えーと、その様です、はい。では俺はこれで」



「待てや小童。そこに座れ」



…………。



座ったとしても座らなかったとしても殺される気しかしないんですが……。



どうすればいいんだ……!!



そうだ、仏様が居なくても俺には神様が居るじゃないか!!



神様ーっ、俺に選択肢を!!



1.闘いを挑んで死ね

2.土下座して死ね

3.とりあえず死ね



神様ーっ!? 仏様に媚びを売ったからそっぽを向いたんですかーっ!? ったく、どこまで面倒くさい人達なんだ……いえ、何でもありません。



こんな事だから日本人は無宗教になったんじゃないかね、俺限定だけど。



さて、とりあえずは帝剛さんの指示通り座るかね。



「えー、それで何で帝剛さんがココに居るんでしょうか?」



「ウチに居て悪いか?」



おっとー、ココは長宗我部家だったかー。



ガッデム!! 完全アウェイだよ!! 目にレーザー光線とかピッチ上に爆弾とか五寸釘とかが落ちているよ!! そんな事を言うって事は間違いなくサッカーでございます。時事ネタスイマセン。



「いえいえ滅相も御座いません、それで俺は何でココに?」



そう問うたところ、帝剛さんはみるみるうちに顔を険しくして、大声で怒鳴った。



「儂の娘を傷物にしたってのは本当か小童!!」



「な、何、意味分からない事を口走ってるんですか!! そんな事有り得ませんよ!!」



「言い訳は結構だ!!」



「言い訳じゃないです!! 間違いを正してるんです!! 誰からそんな嘘情報を聞いたんですか!!」



「本人から聞いたんだから確かな情報であろうて!!」



オウチ、晴美から聞いたのかよ。それは嘘っぱちですよ。痴漢されたと嘘をついてお小遣いを奪いとった女子高生と同じですよ。痴漢はいけない事だけど、痴漢痴漢詐欺はもっと良くないよ、電車乗れなくなるよ!! ……脱線スイマセン。電車だけに。



「嘘を真に受けてはダメですよ!! 俺は何もしてません!!」



「じゃあ小童。お前は娘の裸を見てないのだな?」



…………えー、見たか見てなかったと言えばー、見ましたね。ついでに2人ほどの裸も見ましたし、同じベッドで寝ましたね。



「無言という事は肯定だな小童。よしお前は(ピー)で(ピー)して(ピー)だ」



「いや、裸を見たからって傷物にしたという証拠は無いんじゃないんですかねそもそも昔から晴美の裸を見ているわけなんで別に襲おうだとかそういう気分になんてならないんで!! え、そっちの方が問題だなんて理不尽じゃないですか何で構えをしてるんですか止めて下さいよこの前死にかけたじゃないですかだから止めてもらえると助かるんですがちょっと呼吸を整えて何をしようとしてるんですか気が集まってるように見えるんですがあっ」



プロの突きって悲鳴も出ないんだなーと痛感しつつ、抗う事が出来ないまま、地面に沈んだ。

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