21.気付いたら、誰得シーンでした。
今回の気絶は無駄だったような気がする。
自分の説明不足により凛世の父親を怒らせたのだから、自業自得だ。
……相手がマトモに話を聞いてくれなかったのもあるが。
弁明したら何とかなったかも……?
じゃあ復活した時に、目の前にオジサンが居たらちゃんと説明しよう。そうしよう。
そうして目を開けると。
地面がありませんでした。
胸の方を見ると、ツタのような物でグルグルと縛りつけられていました。
というか、ここは崖の上みたいです。
落ちたら即死とか、そういうレベルではないようです。
え……と、やっぱり死亡フラグの洗礼ですかね?
最近死亡フラグがあんまり建たなかったとしても、酷い仕打ちを受けて続けて来たというのに、何でその努力は報われないんだ!!
努力は報われるように世界が成り立っているはずだろ!?
…………ああそうですか、努力してようがしてまいが、結局は天から授かった才能か、上司に媚びる能力のどちらかが無ければタダの負け犬でしかないですか。
『努力は報われる』なんて綺麗事にすぎないね、世の中は案外真っ黒なんだよ。
特に何をしたってわけでもないのに暴力を受けるのはそういった世の中の風潮がみんなをそうさせてるのではないかと思うのだ。
…………自分で言っておいて何だが、なんだこの陰謀論。
俺は少しネガティブになりすぎなんだよな、もっとポジティブにイきましょう、ポジティブに。
気絶している間にツタのようなモノで崖の上から吊される原因をポジティブに考えると。
俺には気絶している時に無意識にスリルを求める癖があり、その癖によって今の状態となった。
…………その場合は入院しなければな。
えー、他には……。
ツタがオジサンに襲われている俺を助けて、オジサンにこれ以上攻撃されないように俺を守ってくれた。
その場合、このツタを持ち帰って売らないとな、はっはー。
……なんか、ネガティブに考えるより虚しくなってきた。
やっぱり時代はネガティブだな、ネガティブにイきましょう、ネガティブに。
さて、ネガティブに考えるとだな……。
オジサンが俺をツタに犯させるためにワザと括り付けた。
…………だからファンタジーな考えを捨てろって、俺。
少なくとも、そんな誰が得をするのか分からない事、絶対有り得ないから。
よし、現実的に行くと……。
オジサンが俺を痛めつけるためにツタに括り付け、意識が戻るのを待っている。
…………答えじゃね?
むしろコレ以外の答えがあったら教えて下さいな、宛先はこちらまで! あ、テロップが出ない? 残念。
てなわけで、一刻も早く逃れなければ死に至るだろうから、ツタを解いてしまわないといけないのだが。
ツタを解くのは簡単だ、最悪咬みちぎれば拘束から解放されるのは時間の問題だ。
しかし、良く考えろ。今居る場所がどういったところか、答えてみな。
そう、崖の上だ。
もし今の状態でツタから解放されたとしたら、俺がどういった状態になるか。
そう、奈落の底に真っ逆様だ。
10メートルほどある崖下には木が生い茂っているから、上手くいけば怪我をしなくて済むかもしれないが、下手すりゃ木に串刺しになるかもしれない。
それだったらオジサンと話し合った方が生存確率が高いんじゃないかと思うわけですよ。
…………なんでどちらの選択肢にも死の確率があるんだろうね?
さてさて、ならば早速主役に登場してもらいましょうかね。
やはり、ここはいつも通りに。
「メディーーーーック!!」
……死亡フラグが経たないって事は近くには居ないってことかな。
んじゃ、もう一回言ってみるかね。
「メディーーーーック!!」
(死亡フラグ ∞+1=∞)
お、反応ありでござるの巻。そろそろか……?
その時、草むらがガサガサと音を立てて、オジサンが、
「おぅ目が覚めたのかでゲフッ!!」
凛世に踏み潰されて、地面に沈みました。
「……心配になってきたから来た」
「心配だったんなら最初から助けてくれよ……」
そのせいで俺は崖の上に吊されてるんだぞ? しかもツタで!!
「……生きてるだけマシ」
センセー、凛世さんがとても冷たいです。
って、そんな事言ってる場合じゃねえ。
「なぁ、凛世。そこでボッとしてないで、ツタをはずしてくれないか?」
「……イエス、マム」
そう言うと、凛世は俺の胸に絡まっているツタを一つずつ丁寧にほどいていくのだった。
じゃあついでだし、この時間を使って質問していくとするかね。
「とりあえず、俺が招待された目的を説明してくれ」
さっき聞く予定だったしね。
「……マイダッドに改めて紹介するため」
そういや、父親がオオカミ姿の時に一度会ったんだっけな、誰が父親か分からなかったけど。
「じゃあなんでこんなにバイオレンスなんだ? 誑かしてだとか、俺の身に覚えがないのだが」
「…………酷い」
いやいやいや!? 何もしてないって!! 不可抗力とかはあったかもしれないけど、誑かした事はなかったって。むしろ俺が振り回されて誑かされたって!!
「…………so,Masaru is my husband,OK?」
だから、勝は私の夫、オーケー? だって?
「ノーノー!!」
「……どうして」
「いやいや、理由を聞かれても困るんだが!! 分かれよ!! 俺達は狩り友でしかないんだぞ!? 狩り友って言う関係もよく分からないけども!! それなのになんで俺達が急に結婚だなんて!! ……だだだ、段階ってもんがあるだろ!!」
あれ、着地点がおかしいな。まぁ、誤魔化すにはこれでも大丈夫だろ。
「……分かった」
凛世はコクリと頷いて、
「……まずは彼女から始める」
それと同時に最後のツタをほどき終えた。
俺の体が自由落下してゆくのが良く分かる。
ん?
「落ちてるぅぅぅぅうううう!? まだツッコミすべきところがあるのにぃぃぃぃいいいい!!」
結局こうなるのかよぉぉぉぉおおおおおおおおお!!
その後、木の枝に頭をぶつけ、背中をぶつけ、極めつけには地面に叩きつけられた。
いまにも気を失いそうな所に、近づいてくる人影がいる事に気がついたが、誰なのかは全く分からない。
「……る、…………ら」
何を言ってるかもよく分からないまま、俺は意識を途絶えさせてしまうのだった。