20.原点回帰もたまには必要だよ?
気絶させられるのもなかなか乙なモノですねっと。
さてさて、何やら気絶させられたわけだけれど、移動する毎に気絶させられているって現実を受け入れている自分が居る。
最近気絶癖が付いてるからかなー、でも殴る蹴るの暴行を受けてからの気絶だから癖じゃないか。
あり? もしかして俺、訴えたら勝てるんじゃね?
結構理不尽な理由で暴力を受けているわけだからよ。
傷害罪とかそこら辺りの罪に問えるはず……!!
あ、でも裁判するための金がねぇや、残念。
とりあえず、俺は今を考えて今を生きていこうかね。
俺格好良くね、輝いてね? いや、そうでもない? スイマセン。
さてと、それじゃあそろそろ現実と向き合うかね。
と、目を開けると。
燃えたぎる炎が目の前にありました。
そして何やらイノシシのような物体が丸焼きにされてました。
あー、コレはアレですね、今まで貯まっていた死亡フラグが今になって降り注いだとか、そういうヤツですね、分かります。
まさか丸焼きにされて殺されるなんて思っていなかったが。
死亡フラグが解放されたってか死刑って感じなのはどういうことですかねー。
考えても仕方ないか、もう死んでしまう事には変わりないし。
「コノ世界二、ノシ」
(※ノシとは手を振っているように見えることから、サヨウナラの事を差します)
「……ノシ?」
「うぉ!?」
誰もいないと思ったから痛い発言しちゃったじゃねぇかよ!!
って死ぬからどうでもいいのか、そうだな。
辺りが暗くてどういうヤツなのかがあまり分からないが、とりあえず、この死刑執行人に言うべき言葉は……。
「せめて、大変上手に焼いてくれよ?」
焼かれるんだったら、せめてこんがり肉にして欲しい。
生焼け肉とかコゲ肉とかは勘弁です、あんな使い道のない肉にはなりたくない。
食べてもらう方にスタミナを、こんがり肉の提供でお送りしております(?)
「……もう焼けた」
は?
焼けてない焼けてないって、焼かれてたんだったら既にこの世からフライアウェイだって。
じゃあ他に何があるってんだ。
焼ける焼ける焼ける焼ける……もしかして肌が焼かれているのか!?
もしかして俺は北京ダッグ状態なのか、もう既に大変美味しく頂きましたってか!?
「殺すなら早く殺してくれよぉ……」
ただただ痛いだけじゃないかよ……どこまで苦しめたら気が済むんですか、このヤロー。
「……たけやぶやけた」
「何故そこで回文!?」
「……joke,joke」
ん?
もしかして俺はとんでもない勘違いをしていたんじゃないのか?
俺は、場面移動のために気絶させられていたんだ。
それだったら急に死刑執行とかあるわけないじゃないか。
って事は……。
「凛世、なのか……!?」
「……I can't understand your language」
やっぱり凛世だ。
そりゃあ凛世に気絶させられてココに来たんだから当たり前か。
「つまり焼けたってのはイノシシの方か?」
「……イエス、マム」
良かった良かった、これで俺が殺される心配も既に被害を受けてるかもしれないという心配はしなくても良くなったな。
となると気になるのは……。
「それで、ココにはどういった理由で?」
イノシシを焼いているって事は、考えるまでもなくそうなのだろうが、一応聞いてみる。
「……晩御飯」
ですよねー、イノシシ丸ごと食べるなんて原始人かと思うけど、やっぱりそうですよねー。
晩御飯って事はご馳走でもしてくれるのか、イノシシ丸ごと渡されても困るけど。
「じゃあ飯食ったら帰るからな」
帰らないと色々問題があるしな。
「……ちょっと待って」
ん? これ以上に何かあるのか?
それは予想だにしていなかったぞ?
すると凛世は急に立ち上がり、息を大きく吸って、
「あおぉー―――――――――――ん」
大きく、強く、遠吠えをした。
え、コレはまさか、いつぞやのキングオオカミの再来ですか?
懐かしいねー、一週間かそこらしか経ってないのに一年ぐらい経った気がする。
いや、なんかね、体感的にそれだけ経った気がするんだよ。
まぁそれはどうでもいいとして。
「ガルルルルウゥゥ」
やっぱり来たかキングオオカ、ミじゃない!?
来たのはオオカミ一匹のみ……だと?
あぁそうか、あれが既に最終形態のキングオオカミなのか、今まで見たオオカミより、どことなく大きい感じするもんねー。
……自分で言うのも何だけど、それはないだろ。
まさかスラ○ムのように合体するわけじゃあるまいし。
これは現実なんだ、有り得ない事を言っているんじゃない、俺。
「このオオカミは一体、何なんだ?」
凛世の一族の右腕か何かか?
でもそれだったら理由が良く分からないな。
じゃあ何だろ、とそのオオカミを凝視していると。
突然オオカミの背中にミシミシという音と共に亀裂が入った。
そうか、オオカミって脱皮する生き物なんだー知らなかったー。
って違うだろ!! オオカミは哺乳類だろ!! 現実から目を逸らすな!!
じゃあ亀裂が入る理由って……。
その時、オオカミの中から産まれたままの姿のオジサンが産まれました。オオカミ太郎です。
じゃねぇよ!! 何がオオカミ太郎だよ!!
どちらかというと赤ずきんオジサンだよ!!
……両方違うな、うん。
さてさて、素っ裸のオジサンが急に目の前に現れて気が動転したが、落ち着きを取り戻したので、冷静に答えを探ろうじゃないか。
えっとー、このオジサンに見覚えは……。
裸のオジサンだろ? えーとね、うぅん……。
見たことあるね、鮮明に覚えてるね、顔にあるホクロの数までバッチリ合わせられるね。
確か晴美とまひるに両手の自由を手錠で奪われていた時に俺を引きずってまで倒したオジサンだ。
まさかこんなところにフラグが建っていただなんて思ってもみなかったがな。
それで、凛世によると裸のオジサンは父親であるとかなんとか……。
はっはー、なるほどなるほど。
「いきなり蹴りかかって申し訳ございませんっしたああああぁぁぁぁ!!」
ヤバいよヤバいよ、絶対殺されるよ、結局丸焼きにされて凛世家の晩食のメインになるよ!!
あちらの反応はどうだ……?
「いやいや、その件については、もう謝る必要性は無いのだよ」
その件については?
「だがな……君。私のスイートマイドーターを誑かして、ただで済むとでも……」
「私のスイートマイドーターって『私の』が被ってますよ?」
あ、いつものクセでツッコんでしまった。
「……君は私を怒らせたようだね」
(死亡フラグ ∞+1=∞)
はいキター、死亡フラグー。
それで、なんか指をポキポキ言わせながらコッチに向かって来てるんだが……。
とにかく、なんとかしないと。
「落ち着いて下さい、お父さん」
「お前にお父さんと呼ばれる筋合いは無いわ!!」
その言葉と同時に、オジサンから右の鋭いストレートが俺のアゴにクリーンヒットした。
頭が揺れて、足は一瞬にしてガクガクとし、気絶一歩手前でなんとか耐えた状態だ。
……ここは気絶しようよ、俺。
だって。
「一発食らって倒れないってのはケンカを売ってるって事でよいのだな?」
メタメタのボッコボコにされる未来が見えていたからね。
「ちょ、それは勘弁して下さ……」
「知らぬ!!」
いやいや待とうよ誤解を解いてからにね、てか凛世はどうしたんだ早くオジサンを止めろよ!!
と、凛世の方を見やると。
「……good luck」
オワタァァァァアアアア!!
その瞬間、オジサンから飛んできた蹴りが顔に直撃し。
俺は空を飛んでいるうちに気を失ったのだった。