19.オオカミ系美少女宅にて。
さて、気絶慣れした俺だ、気を失ってから何時間で意識が戻るのかは体で覚えてしまっている。
そしてそれが、どこかに運ばれる時間には十分だって事も分かってる。
だが、また密室に閉じこめられて変な事をされる事はないはずだ。
同じネタを続けてくるほど、あちらも幼稚ではないだろう。
と、すると、だ。
もうコレは、アイツらの言っていた通り、見てからのお楽しみって事になるな……。
出来れば、命に別状がない場所であって欲しいな……。
聴力も戻ってきたし、そろそろ目を開ける頃合いだろう。
早速、この目で確かめる事にしよう。
目を開け、辺りを見渡すと――――
周りは岩の壁で囲まれていた。
…………おいおい、皆目見当が付かないぞ?
大きさは直径約5メートルくらいの円で、2.5メートルほどの高さの天井は空いており、月の光らしき光が中を照らしている。
出口は天井だけ。
何らかの穴か何かか?
穴だとしたら、また1人1人で襲ってくるタイプのヤツだな、はっはー。
…………本当にそうなのか?
それだったら、別に前の、良く分からない家でも良いじゃないか。
わざわざこの場所に舞台を移す意味が無い。
しかも俺じゃあ逃げ出せないくらいの高さである。
さてさて、ここからどうしようか。
久しぶりに選択肢が役に立つ時が来たか……。
よし、神よ! 俺に選択肢を!!
1.壁を走って外に出る
2.壁を壊して外に出る
3.何事も挑戦、脚力を鍛えて外に出る
……おいおい神よ、レベルが高すぎないか?
俺には不可能なモノだらけじゃねぇか!!
まぁ、アイツらだったら出来るかもしれないが……。
一応、選択肢を試してみるかね。
(お久しぶりです☆ここから先は中崎勝の脳内妄想にお付き合い下さい)
if・1を選んだら
勝は壁に足をかけた!!
しかし足は引っかからない!!
勝は助走を始めた!!
勝は足を壁に突っ張った!!
しかし足は引っかからない!!
勝はその場で回転してしまい、地面に頭を打った!!
勝に318のダメージ!!
勝は気絶してしまった!!
STUN END
(以上、久しぶりの脳内妄想でござった)
…………?
STUN ENDって何だ?
いつもと同じようにDEAD ENDになるかと思ったのに。
気絶した後、どうなるかが知りたいんだ俺は!!
脳内妄想、仕事しろ!!
くそ、この調子だったら全部こんな感じだ、試すまでもない。
これは大人しく、アイツらを待つことにするかね。
と、その時。
足音が聞こえた。
それも複数。
なんだ、全員で来るんだったらそう言ってくれよ……。
しかし、3人にしては足音が多い気がする。
じゃあ何なんだと、耳をすますと。
小刻みにドスドスと、まるでイノシシのような……。
と思った時には遅かった。
次の瞬間、三頭のイノシシが天井から落ちてきた。
って、ちょ、そんなトラップ聞いてないんですけど!?
イノシシ達は地面に頭を打ったのか、その場に倒れこんだ。
ん? これは戦わずして勝利したのか?
しゃっしゃっしゃっしゃ!!
もしかしてこれは人生で初めての勝利か……?
期せずして勝利を手にするとはな……フフフ。
と、その時。
「……無事?」
上から声が聞こえた。
この声は、もしかして……
「……肉食べたい」
どう考えても凛世ですね、分かります。
「おい凛世、これは一体どういう事だ」
すると凛世は、天井の穴からひょこっと顔を出して、
「……イノシシ狩り?」
「そういう事を聞いているんじゃない!!」
俺が何故そのイノシシ狩りに使われる穴に放置されているかを聞きたいんだ!!
「……ノリ?」
ノリで俺の命が奪われかけただと……!?
まあいい、そんな事よりも現状打破の方がよっぽど大事だ。
「早くここから出してくれ」
「……イエス、マム」
すると、上からロープが下ろされてきた。
「これに掴まれと?」
「……Yeah」
いや、どー考えても穴付近で体を擦ると思うんですが……
「……10、9、8」
「掴まるからちょっと待て!!」
短気過ぎるだろ!!
確かにこれ以外に方法は無いかもしれないが。
……仕方ない、擦られるの覚悟で掴まるか。
「……3、2、1、ファイヤー」
「ファイヤーってお前、俺の事擦る気満々じゃねぇぎゃ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
誰か、凛世を止めてええええぇぇぇぇ!!
ようやく引き上げられ、今度こそ事情を説明してもらう。
「何故俺はこんなところに連れ去られていた?」
「……自宅」
「は?」
確か最初にあった時、家が無いって言ってなかったか?
「……イエス自宅、ノー家」
えーと、家は無いけど自宅はあるって事か?
…………どゆ事?
「……There is my home in this forest.」
凛世の英語がレベルアップした!!
つまりは森の中に自宅があるってか?
まぁオオカミだしな、そんな事もあるだろう。
「それで、件の自宅はどこにあるんだ?」
「……ここらへん一帯」
これまた大きく出ましたなー。
「多分それって何らかの罪になるんじゃ……」
「……オオカミはノーカウント」
……そういうものか?
こんな事、気にしていたら負けな気がしてきた。
「それで、俺は何故こんなところに連れ去られたんだ!?」
ちゃんと答えてくれ、頼むから!!
「……招待」
今までの状況を整理するとだな。
俺は凛世の自宅に招待された、って事で良いのか?
うん、一つ言わせてもらっていい?
…………こんな招待のされ方、ある?
「招待してもらったのは嬉しいけどさぁ……何が目的なんだ?」
「……じゃあ一旦」
と言って、凛世は拳を構えた。
「えーと、何をしようとしているのかな、凛世さん?」
「……場面変え?」
気絶させるんですね、分かります。
「もう、心置きなく、やってくれ」
それで円滑に人生を歩む事が出来るんだったらな。
「……イエス、マム」
いったい、気絶しなくて済むのが何時になるのかが心配になりつつ、顎へのストレートがクリーンヒットした事により、楽に気絶させられる事が出来たのだった。