16.マジで修羅場る5秒前!?
俺たち4人は、途中何者にも遭遇することなく、俺の家にたどり着く事が出来た。
みんなでリビングに入り、くつろぐ。
「にしても相変わらず勝の家って感じね」
天井を見上げていた晴美が感嘆の声を上げる。
「そりゃあ俺の家なんだからそうだろうよ」
「でも、まひるちゃんも居るじゃない? けど、まひるちゃんの家ーって言うよりかは、勝の家ーって感じなのよ」
意味が分からない。
「この家はまひると兄様の愛の巣ですよ、何を言っているんですか?」
トンチンカンな事を言いつつ、冷蔵庫から麦茶を取り出すまひる。
「少なくとも愛の巣ではないと思うけど」
「そうでした、もうまひる達は愛の巣から飛び出して、大空を飛び回ってるんでしたね」
「日本語に略してから言ってくれないか?」
「いわば、まひると兄様は結婚したも同然。ならば大空という自由に飛び込んでいるんじゃないでしょうか」
「前提から間違ってるし!!」
そもそも巣立つのはヒナであって、メスとオスでは無いはずだが。
「因みにですが、鳥の世界では不倫なんて良くある事らしいですよ」
「ココに来て敢えて不倫を促すのか!?」
「いえ、もし兄様がどこかのメス豚の毒牙に掛かっても、まひるは家で健気に待ってますので。いろいろ準備しながら」
「怖いから止めて!!」
てか愛の巣から飛び出した設定じゃなかったっけ!?
「……お腹減った」
何も聞いていないらしく、ただぼーっとして欲求を呟く凛世。
「そういや、一日間何も食べていない気がするわ」
「まひるも、兄様の愛情で動いているのですけど、空腹には耐えられないみたいです」
聞き捨てならない言葉を聞いた気がするが、ツッコまないツッコまない。
「まあ何はともあれ、お腹は減ったよな。飯にするか」
「……please」
「もしかして勝の手料理かしら?」
「まひるはハンバーグを所望します、兄様の手で捏ねられたハンバーグを所望します」
「待て待て待て、なぜ俺が料理をする前提になっている?」
「……Big Daddy?」
「勝はなんか主夫っぽいのよねー」
「まひるは兄様の愛情を所望します、兄様の手あかを所望します」
あーあー、聞こえない聞こえない、いろんな意味で聞きたくない。
「ったく、分かったよ。作ればいいんだろ? 作ればーっと」
冷蔵庫には何が残っているのかなー?
中身内訳、ソーセージ3本、以上。
んんー?
ああ、そういや買い物してなかったなー、そりゃそうだわー、ハッハー。
飢え死にするわああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!
今から買い物に行くとかは論外だしな……。
一応取り出して、三人の元へ持っていく。
「ええと、こんなものしかなかったのだが……」
「……H」
「私たちに入れようってことなのね破廉恥甚だしいわ」
「どうせヤるなら兄様の立派なモノがあるじゃないですか」
「ソーセージだけでそんなに妄想が膨らむお前らの方が破廉恥甚だしいわ!!」
ただでさえ世間の目が厳しいんだからそういうのは控えろ!!
「とりあえず、食料はこのソーセージ3本しかない。この意味、分かるな?」
「「「…………」」」
この沈黙はYESと取っていい。
そう、つまり。
1人だけが食べ物にあり付けないという事だ!!
「……(ゴクリ」
「……(ジュルリ」
「……(モンモン」
「……(ハァハァ」
全員が一斉に拳を構える。
「じゃあ、行くぞ……」
皆の呼吸が整った瞬間、手を動かし始める。
「「「「最初はグー、ジャンケン……」」」」
「結局俺が食べれないのかよ……」
「……Yes」
「汁が飛び出て美味しかったわ、ありがとう」
「兄様は自分のソーセージを食べたらよかったんですよ」
何故だ、下ネタにしか聞こえない。
「まあいいさ、気絶させられるよりかは耐えられるしな」
じゃんけんの時に殴られるかもと思っていたのは内緒の話である。
「そういや兄様、最近鍛えてらっしゃいます?」
「なんでだ?」
「いえ、何でもないんですが、ちょっと気になったことがありまして……」
急になんだろうか、鍛えるって言ってもな……。
凛世と二回ほど狩りに行って、晴美との特訓も最近はきつくなってきているからなあ。
おまけに殴るどつく蹴るの暴行を受けているわけだから……スイマセン、おまわりさんどこですかー?
「まあ最近動くことが多くなっただけだよ」
「そうですか……やはりそうなのですか」
まひるはリビングの椅子から立ち上がると、立っている俺の前まで歩み寄ってきた。
「な、なにかな、まひる」
「スイマセン、先に謝っておきますが、命の保証は致しません」
「え?」
するとまひるがその場で回転を始め、右足をあげて俺の顔にめがけてえええええぇぇぇぇぇ!?
回し蹴りかよぐぺがぼはっ!!
気がつけば2メートルほど横に飛んで壁にぶつかるぶほっ!!
まさかの2COMBOを食らった!!
なぜだ、なぜ俺は今蹴られた!?
「なにするんだよまひる!!」
まひるの方を見ると、見事なまで目が点になっていた。
「気絶、しないのですか!?」
「しないよ!! 急に何を言ってるのさ!?」
確かに前までは気絶させられ続けてきたけども!!
させられて続けてきたけども!!
けども……あれ、なんで気絶しないんだ?
「やっぱり思った通りでしょ? まひるちゃん」
「みたいですね」
「……もっと試してみないと」
「そうね、それがいいわ」
「限界を知るのも大切ですしね」
あれ? なんか不吉な予感が。
「というわけで勝」
「なんだ?」
「……勝には」
「気絶するまで」
「殴られてもらいます」
なぜ三人でセリフを分けた!?
「嫌だと言ったら?」
「全力で気絶させるわ」
……同じじゃん。
「もう、どうにでも、してくれ」
この中でヒエラルキーにおいて最下位にいる俺は、そのまま殴られ、地面で死の淵を彷徨うしかなかった。