1.学校で会ったのはオオカミ系美少女!?
死亡フラグが立ったのは2日前――春も深まりだした時の事だ。
俺は純然たる16歳の高校2年生で、真面目というわけではないが、不良だったりひきこもりだったりという特殊なキャラではないので、普段同様学校に向かった。
そう、普段同様学校に向かったのだ。
しかし、いつもと違う事が1つあった。
いつも一緒に登校している、幼なじみというより腐れ縁と言った方が良いだろう関係である長宗我部晴美の姿が見えないのだ。
いつもなら食パンを口に加えながら、後ろからイノシシばりの勢いで突っ込んできて、躊躇なく俺の背中に飛び蹴りをいれてくるので、身構えていたのだが……
待っていても全く来る気配がないので先に行くことにしよう。どうせ遅刻だろうと思い、大して気にしなかった。
この時は、このミスであんな事になるとは思いもよらなかった。
所変わって学校。
「ガルルルルウゥゥ」
「なんでこうなるんだー―っ!!」
いきなりオオカミに追いかけられてます。
(死亡フラグ 0+1=1)
そのオオカミはまるで縄張りに入ってくるなといわんばかりの勢いで吠えながら俺に向かって突っ込んできた。
その攻撃を直前で走る向きを90度変えてひらりとかわす俺。
毎日晴美で鍛えていた反射神経がまさかこんなところで役に立つとは……
と今ここにいない晴美に感謝しつつ、目の前のオオカミに目を向ける。
「あおぉー―――――――――――ん」
するとオオカミが地面をも唸らすような大きく透き通った声で遠吠えを始めた。
「これぞまさしく負け犬の遠吠えかな」
まだ1回攻撃を避けただけだけど。
と、感心していると、ふと周りから俺を凍らせるような、かつ俺をロックオンしている視線を感じた。
それも1個ではない。
もしかしたら10匹以上いるかもしれないオオカミの群れ。
その大群が俺を取り囲んでいるのだった。
「「「「「「「「ガルルルルウゥ!!」」」」」」」」
「スラ〇ムじゃないんだから仲間増やすのは反則だろー――っ!!」
あれか?
8匹揃ってキングオオカミになるのか!?
何だその生き物!?
…乗り突っ込みしてる場合じゃねえぞ俺!!
ともかく今は!!
「逃げろー―――――――っ!!」
しかし回り込まれた!!
「うがー――――――――っ!!」
この状況で俺はどうすれば良いんだ!?
選択肢はだな…
1.勇敢に立ち向かう。
2.土下座する。
3.近くの木に登る。
まともな選択肢が3しかねぇー――っ!!
いや待て俺、3を選んだ場合どうなるか考えてからにしよう。
(ここからは中崎勝の脳内妄想です。ドラ〇エ風になっているのは中崎勝の趣味です。)
if・3を選んだら
中崎勝は木に登ろうとした!!
しかしMPが足りなかった!!
中崎勝はもう一度木に登ろうとした!!
しかし中崎勝はそもそも特技『木に登る』を覚えていなかった!!
オオカミ達の攻撃!!
1208のダメージ!!
中崎勝は死んでしまった!!
DEAD END
(以上、中崎勝の脳内妄想でした。)
おぅ…危ねぇ、死ぬところだった。
なら1か2のどちらを選べばいいんだろうか?
……そういやオオカミって頭良かったよな……、誠意を持って謝ればなんとかなるんじゃないか?
(ここからは中崎勝の脳内妄想です。ドラ〇エ風になっているのはやっぱり中崎勝の趣味です。)
中崎勝はナチュラル土下座を繰り出した!!
しかしオオカミ達は見向きもしなかった!!
中崎勝はスライディング土下座を繰り出した!!
オオカミ達は怒りだした!!
オオカミ達のテンションが200上がった!!
オオカミ達はスーパーハイテンションになった!!
オオカミ達の攻撃!!
12080のダメージ!!
中崎勝は死んでしまった!!
DEAD END
(以上、中崎勝の脳内妄想でした。)
ですよねー。
オオカミに土下座の意味なんて分かるはずないな。
よっしゃ、なら1を選んだら…
(シツコいようですが、ここからは中崎勝の脳内妄想です。ドラ〇エ風になっているのは中崎勝の趣味なんでどうしようもないです。)
中崎勝の攻撃!!
オオカミ達はひらりと身をかわした!!
オオカミ達の反撃!!
1208のダメージ!!
中崎勝は死んでしまった!!
DEAD END
(以上、中崎勝の脳内妄想でした。)
全部DEAD ENDじゃねぇか!!
なんのための選択肢だよ!!
ああ、もうどうしようもない!!
「俺…、この戦いが終わったら結婚するんだ…」
(死亡フラグ 1+1=2)
自ら死亡フラグ立てちまったーっ!!
「メディーック!!(メディーックとはもうどうしようもないに使います。)」
(死亡フラグ 2+1=3)
あぁああああ!!
「終わった…、俺の人生…。そんなに、悪くなかったぜ…」
「……どういう事?」
「どういう事ってそりゃあ、なんだかんだいって晴美っていう幼なじみにも恵まれて、楽しい生活を過ごせた……って」
誰だ独り言に乱入してきた新手のジンオ〇ガは!!
声の主の方を見るとオオカミ達の中に1匹だけ、いや1人だけ、四つん這いの女子高生がいた。
騎士のように凛々しい目を持ち、スラッとしたモデル体型で我が校の可愛いと評判の制服をより一層際立たせているが、腰まで伸びているであろう銀髪がボサボサとなっていて、体にも所々に傷があるので、オオカミ系野生児という言い表し方が一番しっくりくる。
というか耳が生えていた。
そんな美少女がオオカミの群れに紛れ込んでいたのだ。
しかもこの美少女がボスであるらしく、彼女が1吠えするとオオカミ達はどこかに行ってしまった。
その後、彼女は四つん這いのままで勝を警戒しながら、襲った経緯について説明してきた。
最初に発せられた言葉は俺には全く意味が理解できないものであった。
「……縄張り」
「いや何の事かさっぱり分からないんだけど」
「……侵入者」
「いや、侵入者はむしろ君達だけれども」
「……私はこの高校の生徒」
オオカミ系野生児(美少女)は自らの制服を俺に見せつけながら、コイツ馬鹿なんじゃないだろうかという目で睨んできた。
「だ、だろうね。でで、でもね、俺もなんだよ」
勝はその迫力に負けそうになったが、なんとか言い返した。
「……侵略者」
「何故そうなる!!ただ俺は1生徒として授業を受けに学校に来ただけだ!!」
「……今日は学校ない」
はい?
「な、何を言ってるんだ?が、学校ならここにあるじゃないか」
「……授業ない」
え~~~っと?
「もも、もしかして今日はずっと自習なのかな?」
「……建立記念日」
待て待て、もしかして晴美が来てなかった理由って…
やっと言葉の意味を理解した勝は
「メ、メディーック!!」
と叫ぶしかなかった。
(死亡フラグ 3+1=4)
いつの間にか死亡フラグが増えてるぅううううう!!
「……覚悟は出来たか」
「いやいやいや!!今日間違って来ちゃったのは認めるけど、なんで襲われなければいけないんだ!!」
「……縄張り」
1周した。
「だからそれがどういう事か分からないんだよ」
「……侵入者」
「ループする気がするからここらで止めようか」
「……私はここの守護者」
ええと?また変な方向に話が傾いたぞ?
「守護者って警備員ってこと?」
「……それでいい」
生徒兼警備員ってどういう事なんだ…?
「んで、生徒兼警備員さんはなんでまたこんなところにいるの?」
「……山主=ウルフ=凛世」
「え?」
「……私の名前」
なるほど、山主はクォーターであるらしい。
どおりで日本人離れしたモデル体型であるわけだ。
「ええと、じゃあ山主」
「……凛世でいい」
凛世はムッとした表情で犬歯を出しながら主張した。
「あぁ…うん、分かった、凛世。なんでここにいるの?」
「……ここは私の家」
……は?
「……ディスイズマイホーム」
「いや、英語にしなくても分かるから。ええと、つまり凛世は学校に住んでいるって事?」
「……イェス、マム」
「なんか違う気がするけど……、えっとつまり凛世は家出少女って事かな」
そう問うと、凛世は首を大きく横に振った。
「じゃあ学校に住んでるってどういう事だよ」
「…………」
「おいおい、俺は殺されかけたんだぞ、それぐらい教えてもらっても別に罰は当たらないはすだ」
「…………」
しばらくの沈黙の後、ようやく凛世は重たい口を開いた。
「……家、ない」
あれ、コレ聴いたら駄目なヤツ?
「あぁ…、あの、その、なんだ。スマン」
「…………」
「…………」
また沈黙が俺達を包む。
(ぐぅ~~~~~~~~っ)
その沈黙を破ったのは凛世のお腹の音であった。
「えっと、お腹減ってるの?」
「……減ってない」
「いや確実に減ってるよね、お腹鳴ったよ」
「……鳴ってない」
「いや大きな音が鳴ってたよね」
「……オナラ」
「自分を汚してまで嘘をつく必要性はないと思うんだが」
「……嘘ではない」
「あーっ!!分かったよ、俺はウッカリここに今日の昼ご飯になるはずの弁当を落とした。凛世はそれを拾った。OK?」
「……占有離脱物横領罪」
説明しよう!
占有離脱物横領罪とは横領罪の一種で、遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領する罪である!
法定刑は、1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料である!
(ウィキ〇ディア調べ)
「あぁ、もうどうしたらいいんだ!!」
「……、(バタッ)」
「え!!ち、ちょっと大丈夫!?凛世!!」
返事がない、ただの屍のようだ。
なんだ、ただの屍か……。
「って駄目だろ!!今すぐ保健室に運ばないと!!」
と思って、凛世を持ち上げようとしたが、そこで問題が発生した。
どこ持てばいいの?
お察しの通り、凛世は四つん這いだったので、当然前のめりになっている。
そのため、持ち上げようとすると、あの、いろいろ必然的に触ってしまうのだ。
(落ち着け中崎勝!!相手は気絶している!!触ってしまうのは不可抗力だ!!)
こうして、中崎勝は理性をギリギリ保ちつつ、凛世を保健室に運ぶのだった。
さてさて、日も次第に落ちてきた頃…
「……んっ」
「あぁ、目が覚めた?」
「……ここは?」
「保健室。幸い、鍵は開いていたからね」
開いているのはむしろ問題があるが。
「……何故?」
「何故って?」
「……助けた理由」
「あぁ…、そりゃあ目の前で人が倒れたら、介抱ぐらいするでしょ」
「……襲ったのに?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして俺を覗き込む凛世。
「そんなの関係ないって。まぁ、襲われるとは思ってなかったけど…」
「……ゴメン」
「いや、ケガ一つ無いからいいんだけどね」
精神的ダメージと死亡フラグ4つ食らったがな。
「……責任、とる」
何この展開!?
もしかして命令したらあんなコトやこんなコト、更にはそんなコトまでしてくれるのか!?
これなんてエロゲ!?
「……群れに入れ」
ん?何か不穏な空気が流れてるような…
「えっと、それはどういう意味でしょうか?」
「……一緒に暮らせ」
えっと、これはもしや噂のプロポーズというものだろうか!?
えっ!?俺、保健室に運んだだけですよ!?特別なこと全然してないですよ!?
こんな美味しい話があるだろうか!?いやない!!(反語)
よし、ここはやんわり断ろう。
「でも、俺にも家があって、家族とかが心配するだろうし」
あ、因みに俺は2才下の妹と2人で暮らしている。
両親については伏せておこう、つーか喋りたくない。
「……なら夜だけ」
状況が更に悪くなったよ!?
「えーっと、つまり夜のお供をしろと、そう言いたいわけですね?」
「……そう」
超絶展開キターーー!!
「宜しくお願いします!!!!」
こ、これは罠であろうと、はまらざるを得ないっ!!
コンピューターウイルスに感染するかもしれないのにエロサイトを巡回するみたいなものだ。
「……なら」
すると、凛世は俺の胸ぐらを両手でぐっと掴んで、そのまま俺の顔を凄まじい膂力で引き寄せたかと思うと、
「……狩りに行くぞ」
と言って俺を引きずり出した。
――俺の唇に凛世のソレを―って展開じゃねぇのかよ!!
とちょっとキレつつ、いきなりキスされなかったことに少し安堵していた。
って、狩り?
てことは…
「やっぱりこうなるのかぁあああああああああああああ!!」
熊に追われている自分がいました。
自分でも馬鹿だったと思います。
狩りは朝まで続いた。
死ぬかと思った。
熊に襲われたかと思ったら、蛇に絡みつかれるわ、コウモリに噛みつかれるわで大変だった。
凛世はというと……
「……♪」
その熊と蛇とコウモリを丸焼きにしていた。
化け物かよ…。
明日からもこんな心臓に悪いことが続くのか?
「……明日来なかったら」
「来なかったら?」
「……この熊のようになる」
と言って、木の棒に刺した熊の丸焼きを俺に向かって突き出す。
こうして俺に死亡フラグが立ったのだった……トホホ…。