9.どうしてこうなった!?
あ~、ここで一旦状況を整理してみよう。
今俺は両手を手錠で繋がれている。
正確には、右手は晴美に、左手はまひるにだ。
……なんだこの状況。
そして流れとしては昼食を3人で食べに行くことになっている。
「で?ドコで食べるんだ?」
「レストランがいいです」
とまひる。
「ファーストフードがいいわ」
と晴美。
「へぇ、まひるちゃんはレストランに行ってお兄ちゃんを破産させたいんだ?身勝手な妹ね」
「晴美さんだって兄様に体に悪いモノを食べさせて弱らせてから兄様を食べようとしてるんじゃないですか?とんでもないビッチですね」
「ストーップ」
「何を言っているのかしら?まひるちゃんの思考回路は全く理解できないわね」
「晴美さんが変な思考回路をしているから分からないんじゃないですか?頭に行くべき栄養が全部胸に行ったんじゃないですか?」
あれ?聞こえてないのか?
「ストーップ!」
「胸に全く行っていないまひるちゃんよりはマシよ。頭にばっかり行き過ぎてつまんない人間になるよりはね」
「まひるは体中にまんべんなく栄養が行き届いているので大丈夫です。むしろまひるは、晴美さんがその頭でこの先社会で生きていけるか心配です」
つーか聞いてないのか?
「ストーップ!!」
「私は勝に幸せにしてもらうからいいわよ。私は誰にも貰ってもらえないまひるちゃんの方が心配よ」
「何を言い出すかと思えば幻想を語り出すとは思いませんでした。やっぱり頭がイかれているんですね。兄様はまひると結婚するんです!!」
聞こえろ聞いてくれ頼むから聞いて下さい!!
「ストーップ!!!!」
「ナニをーー!!」
と左手でまひるに掴みかかる晴美。
「やる気ですかーー!!」
それに応えて同じように右手で晴美に掴みかかるまひる。
これがどういう状況かお分かりだろうか?
つまり……
「頼むから道端でケンカするの止めろ手錠で繋がっている方を使うな手がクロスして両肩が脱臼するううぅぅ!!」
「私は左利きなんだから仕方ないじゃない」
「まひるは右利きなんですよ。晴美さんを倒すには右じゃないと」
やっと聞いてくれたか……。
「別に倒さなくても良いからねまひる。というか争うな。ここは公共の場だ」
「「はい…」」
「今の話を総括するとリーズナブルかつ健康にいい物って事だな?」
「まぁね」
「そういう事になりますね」
「じゃあ俺に任せろ、心当たりがある」
俺達がやって来たのはさっきの服屋から5分ほど行ったところにある喫茶『カナカナ』。
喫茶の割に500円から800円までとリーズナブルでモチロン手作りなんで健康面もバッチリ。
「へぇ、こんな場所にこんなお店があったんだ」
「全く見ずに通り過ぎてました」
「…………」
「あれどうしたの勝」
「…………」
「本当にどうしたんですか兄様」
「どうしたもこうしたもねぇよ!!」
だってさぁ…今の状態っていわば『両手に花』状態じゃん?
それに晴美もまひるも一般的に見たら可愛い部類に入るのだ。
となるとすんごく目立つ。
つまり『なんだあのリア充、爆発しろ』といったような憎しみの籠もった視線が俺に突き刺さるわけだ。
ほんとはそうではないのにね。
「もういい……中に入るぞ」
(カランコロンカランコロン)
「お帰りなさいませご主人様、お嬢様」
目の前にメイドさんが立っていた。
「スイマセン間違えました」
(カランコロンカランコロン)
「あれ?ここ本当に『カナカナ』だよな……」
もう一度入ってみる。
(カランコロンカランコロン)
「お帰りなさいませご主人様、お嬢様」
やはりメイドさんが立っていた。
「あれ?ここ『カナカナ』ですよね?」
「はい、当店は『カナカナ』でございます」
「前に来た時はメイド喫茶ではなかったのですが」
「それはですね、カクカクシカジカなんですよ」
「へぇ…、って分かりませんよ!!」
カクカクシカジカで分かり合えるのなら言葉なんて要らない。
「つまりは経営難になって、思い切ってメイド喫茶に模様替えしたっていう事ですね」
「その通りでございます」
「何故に分かったまひる!?」
読心術でも身に付けてるのか!?
「推測すれば分かる事じゃないですか。それに…」
「それに?」
「推理力を鍛えないと兄様をいじめられ……いえ、何でもないです」
「今いじめられないって言おうとしたよね!?」
「いえ、いじめられたいと言おうとしたんです」
「うん、それ全く言い訳になってないから。マゾって主張してるだけだから」
「マゾですが何か悪いですか?」
「全面肯定!?」
「ねぇ、身内で漫才しなくていいから早く席に行かない?」
とウンザリした様子で言う晴美。
「あぁ、すまんすまん。えーっと、メイドさん、席まで案内してもらえますか?」
「かしこまりましたご主人様」
というわけで俺達は奥の方の、客にあまり注目されない席に案内された。
歩いている間、まひるがずっと手をつねってきたが理由は分からない。
「じゃあ注文が決まりましたらお呼び下さい」
「は~い………さて何にする?」
「私は『メイドの愛情たっぷり☆萌え萌えオムライス』を頼もっかな」
「まひるは『ワタシのキモチを受け取って♪メイド特製ハンバーグ』がいいです」
「……よくもそんな恥ずかしい名前を平然と言えるな」
「こういうのは割り切りよ、割り切り。割り切らないとやっていけないわよ、このご時世」
「そういうもんかな……なら俺は『メイドのラブパワーが染み込む★メイドの肉汁たっぷりカレー』……なんだこれ!罰ゲームか!?つーかメイドの肉汁カレーってメイドの肉汁で作ったカレーなのか!?メイドが作った肉汁なのか!?でもハンバーグの時は特製って言ってたよな!?つーことはメイドの肉汁で作ったカレーなんだな!?」
「勝、うるさい。殴るよ?」
「怖い怖い怖い怖い!!殴らないで下さいお願いします!!」
「よし」
はぁ…、弄ばれているような気がする…クソ。
「じゃあメイドさ~ん」
「はいは~い♪何に致しましょうか」
「オムライスとハンバーグとカレーお願いします」
「勝、ちゃんと言いなさい」
「何でさ、言わなくても分かるだろ?」
被ってる商品なんて無いし、つーか昼食メニューは5品ぐらいしか無いしな。
「こんな事も言えないようじゃ男失格ですよ」
「まひるもそう言うのか?」
う~ん。
「当店では正式名称をおっしゃてもらえないと注文を承れない事になっております」
「メイドさんまで!?」
絶対メイドさん面白がってるでしょ!?
そんなルールのあるメイド喫茶なんてあるわけないじゃん!!
ていうかメイドさん笑ってるし!!
「……言えば良いんでしょ言えば!…………」
「早く言いなさいよ」
「言って下さい、兄様」
「注文をお願いします、ご主人様」
「あーーーーーっ!!『メイドの愛情たっぷり☆萌え萌えオムライス』と『ワタシのキモチを受け取って♪メイド特製ハンバーグ』と『メイドのラブパワーが染み込む★メイドの肉汁たっぷりカレー』下さいっ!!!!」
「はいっ承りましたしばしお待ちを」
するとメイドさんは一段と笑った顔を隠しながらそそくさと厨房に走っていった。
「何だろう、この叫んだ後の達成感は…」
「一枚剥けたのよ、男として」
良く分からない、全く良く分からない。
「まあ良いじゃないですか、過去の事は」
「過去の事って、また壮大になったなぁ」
「世の中には過去と現在と未来しか無くて今喋った事も全て過去になるんです。過去になれば後の祭りなので慎重に行動を起こしますが、失敗してしまう時もありまして、自分だけが被害を受けるのだったらまだしも、他の人に迷惑をかけてしまった時はその埋め合わせをしなくていけません。いけないのですがまひるはまだ兄様に対して埋め合わせが出来ていません。まひるが兄様を好きであるばかりに兄様に要らない事をしてしまったのに、してしまったのに…」
「まひる落ち着いて、別に気にしてないから」
「かくなる上はまひるの初めてを兄様にあげます」
「うん、近親相姦is犯罪」
「中華人民共和国、ロシア、トルコ、スペイン、オランダ、イスラエル、コートジボワールでは合法化されているらしいですよ?というか日本に近親相姦罪というのは無いんです」
「え?そうなの?」
つーかコートジボワールってどこ?
まっ、いっか。
「まぁ、撤廃されたと言うのが正しいですかね。詳しくはググッて下さい。ウィキ〇ディアに載ってますから」
帰った時調べたらビッシリ書いてあってビビった。
「あーーーーっ!!だから何2人で喋ってるの!!私も入れなさいよ!!というかまひるはなんで愛の告白してるのよ!!」
あ、晴美。いたんだ。
「何か失礼な事を言われた気がするわ」
「そ、そんな事ナイヨ」
「殴るわよ」
「すみません、存在感がないと思ってしまいました」
(ゴスッ)
「痛っ……結局殴ってるじゃん!!」
「イラついたからよ」
「しかも理由がザツ!!」
「うるさい勝、大体ね、私だって胸が大きいんだからそれだけ存在感は大きいって何言わせてんのよ!!」
(ドカボキバコ)
「理不尽だ…」
「何か言った!?」
「いえ気のせいです晴美さん」
もう殴られたくないしな。
するとタイミングよく、メイドさんがオムライスとハンバーグとカレーとバケツ(?)を持ってきた。
「お待たせしました。オムライスとハンバーグとカレーをお持ちしました」
「あれ?正式名称で言わないのですか?」
さっきあんな事言ってたのに。
「いえいえまだ完成じゃないのでございます」
すると、メイドさんは懐からケチャップを取り出して
「おいしくな~れ、萌え萌えキュン☆」
と言いながらハートをオムライスに書き留めた。
「はい、これで完成です」
「そういうことですか…ケチャップはいつも懐に?」
「はい、ケチャップはメイドの七つ道具です」
なんか違う。つーか違う。というか絶対違う。
「……続けて下さい」
「はい」
次に、やはり
「おいしくな~れ、萌え萌えキュン☆」
と言いながらケチャップをそのまま使ってハンバーグにハートを書き留めた。
最後にバケツを持ち出して……
「って何するんです?」
「勿論私の肉汁を作るのです」
え?
「『メイドのラブパワーが染み込む★メイドの肉汁たっぷりカレー』って本当にメイドの肉汁が入るの?」
「メニューの通りじゃないですか」
うわーっ…、やっべえ食べたくない。
「キャンセルも出来ますが、キャンセル料として1000円頂きます」
「微妙な額…」
キャンセルするか悩むレベルだコレは…。
いやらしい設定金額だな…。
でも肉汁は食べたくないしな…。
「……キャンセルします」
「(チッ、キャンセルするのかよ)分かりました、ではごゆっくり」
今黒いメイドさんが見えた気がする。
「じゃあ食べようか」
「頂きます」
「「いただきま~す」」
と、その時不測の事態が起きた。
よし、説明しよう。
まひる、俺は右利きで晴美は左利きである。
そして俺が手錠で繋がっているのは晴美の左手とまひるの右手である。
Could you understand?
つまり…
「ちょっと勝のせいで食べれないじゃない、どうしてくれるのよ!」
「まひるもです!どうしてくれるのですか!」
「2人とも自分でやったんでしょ!」
てな具合で結局食べれなかったのでした……。
毎度毎度こういうオチばっかりだな…。