先
三題噺もどき―はっぴゃくろくじゅうきゅう。
玄関の鍵を開け、少々重たい扉を開く。
ノブを引っ張りながら、手前に引くと、中から冷えた空気が流れ出てくる。
回りに家があるおかげで、我が家のリビングには陽が入りにくい。
そのおかげで、夏場は多少得をしているが、冬は少し厄介だ。
「……」
流れに沿ってしまってくる扉に、リュックをひっかけないよう気を付けながら、玄関の中に入り込む。
ガチャン、と扉が閉まったことを確認し、鍵を閉める。
上下2か所に設置されたうち、下の方だけ。上の鍵はいつからか壊れていて、外から開けることが出来ないので、夜しか閉めない。
「……」
今はまだ、明るい昼間だ。
まだ三者面談は全員分終わっていないので、今週いっぱいは午前授業だから。
私はすでに終わったので、単に早く帰れるだけの一週間と言うだけだ。
「……」
せめて昼食くらいは食べて帰らせてくれればいいのにと思うが、親からしたら家で食べてもらった方が楽なんだろうか。
学校には学食なんてものはないから、大抵は弁当持参だし、購買はあるがそのお金も親が出しているわけだし……それなら家の非常食でも食べてくれた方がいいのかもしれない。
私はインスタント食べられないから、食べないけれど。
「……」
まぁ、おかげで毎日一緒にあの子と帰れているのだけど。
今日は別だった。
あの子は今日が三者面談で、親が迎えに来たらしい。時間はもう少し後だが、外で昼食を食べてから一緒に学校に戻ってくるのだと言っていた。まぁ、その方が楽だよな。
「……」
私は何を食べようかな。
そんなことを考えながら、靴を脱ぎ捨て、かまちを上がり、リビングへと向かう。
鞄をソファの上に投げ捨て、靴下を脱ぎ、脱衣所に置かれた洗濯カゴの中に入れる。
ついでに、制服も脱いでいき、楽な格好に着替えていく。
スカートなんて着たくもないし、制服というのはほんとに暑い。何でこれで夏が過ごせると思っているのかと不思議に思う、夏服なのに。
「……」
パジャマのような格好になり、冷蔵庫へと向かう。
今週は家で食べると伝えているから、特に弁当などを作ってもらったりはしていない。
炊飯器に朝炊いてあったご飯が残っているようだが、そんな気分でもない。
「……」
空腹でもないわけではないが、どうにも食欲というモノはわかない。
なんというか、なんだろう……腹は減っているけれど、身体が食事を受け付けないと言うかんじだ。なら食べなければいいと言う感じだが、そうなると夕食が物足りなくなる。
面倒なことだとは分かっているんだけど。
「……」
何か食べ物をと冷蔵庫を眺めていると、チーズケーキが置かれていた。
先日誕生日を迎えた妹の為に母が作ったものだ。
あの妹は母の作ったこのチーズケーキしか食べないので、毎年誕生日にはこれが出てくる。
「……」
1ホール分しっかりと作るので、さすがに一日では食べきれない。
その残りがあったようだ……まぁ、コレなら、チーズケーキといつも飲んでるスティックのカフェオレと一緒に食べられるだろう。
全部食べると怒られるので、ほどほどに。
「……」
電気ケトルの中に水を入れ、スイッチを入れる。
お湯が沸くのを待ちながら、ぼうっと考え事をする。
三者面談って、嫌でも先の事を考えさせられて嫌になってくる。
「……」
やりたいことがある人が羨ましい。
盲目的に何かを追いかけることができる人が羨ましい。
嫉妬すら覚えてしまう。
どうしたらそんなに先を見据えていられるのだろう。
「……」
私は、何もしたいことなんてないのに。
どうして、私ばかりこんな苦しんでいるんだろう。
何が私をこんなに苦しめているんだろう。
なんで私はやりたいことがないんだろう。
先が見えないんだろう。
「……」
考えたところで答えが出るわけでもないのに。
ぐるぐると余計なことばかりが頭の中を巡っていく。
ただひたすらに視界が真っ暗になるだけで、何も見えなくなるだけなのに。
「……、」
カチ、と、ケトルのスイッチが元に戻る。
なんかもう、食べなくていいか。
お題:嫉妬・盲目・チーズケーキ




