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第三話 夜は味方じゃない

気づいたとき、空は赤くなっていた。

どれくらい時間が経ったのか、真人にはわからなかった。

腕はまだ痛む。

肩も痛い。

頭も重い。 

体を起こそうとして、すぐに諦めた。

少し動くだけで、全身に鈍い痛みが広がる。


 (……寒い)


風が変わっていた。

昼間より冷たい。

皮膚を刺すような冷気。

日本の冬とは違う。

もっと直接的で、もっと容赦がない。 

太陽が沈み始めている。

赤い光が、草原を長く引き伸ばす。

自分の影が、異様に細く長い。


(夜になる)


その事実が、理由もなく怖かった。


視界に文字が浮かぶ。


【ロキの試練】

・恐怖から逃げるな

 

「逃げ場なんて……ねえだろ」 

声はかすれていた。

水がない。

食べ物もない。

家もない。

あるのは、痛みと草原だけ。

 

ガサッ。

 

真人の心臓が跳ねる。

音が遠くから。

草が揺れる。

何かが動いている。

 

(また……?)

 

呼吸が浅くなる。

暗くなるにつれて、音は増えていく。

 

サラサラ。

 

カサカサ。

 

ギャッ。

 

遠くで、何かの鳴き声。

人間ではない。

聞いたことのない音。

 

(来るな)

(来るな)

(来るな)

 

体が震える。

止まらない。

視界が暗くなる。

太陽が消えた。

 

 

完全な夜

 

月は出ている。

だが、弱い。

 

草原は黒い海のように揺れている。

何がどこにいるのか、わからない。

真人は、地面に体を縮めた。

少しでも小さく。

少しでも見つからないように。

 

情けない。 

だが、それしかできない。

そのとき。

 

グルル……

 

すぐ近く。


真人の呼吸が止まる。 

音がする方向を見る勇気がない。

見たら、終わる気がした。


グルル……

 

何かが、いる 

すぐ近くに

匂いを嗅いでいる。

真人の匂いを

 

(やめろ)


涙が出る。

 

(助けて)

 

頭の奥に、声が響く。

 

『命乞いをするな』

 

ロキ。

 

「……ふざけんな」

 

小さな声。

 

だが、それすら怖い。

 

音で、位置がバレるかもしれない。

 

グルル……

 

音が遠ざかる。

しばらくして、完全に消えた。

真人は、動けなかった。

助かったのかどうかもわからない。

ただ、まだ生きている。

それだけだった。

 

寒い。

歯が鳴る。

体温が奪われていく。

 

(家に帰りたい)

 

思ってしまう。

暖かい布団。

スマホ。

電気。

 

母の声。

父の声。

そのとき。

 

『本当に父か?』

 

ロキの声。

 

心臓が止まりそうになる。

 

『血は繋がっていないぞ』

 

「やめろ……」

 

『愛されていたと思うか?』

 

「やめろ」

 

『偽物の息子を?』

 

「やめろ!!」

 

叫んだ瞬間。

草が揺れる。

しまった、と思ったときには遅かった。

遠くで、何かが反応する音。

 

ギャッ。

 

真人は口を押さえた。

遅い。

涙が止まらない。

 

『嘘をつくな』

 

文字が浮かぶ。

 

『お前はずっと、偽物だった』

 

違う。

違う。

違う。

 

そう思いたい。

だが。

証明できない。

真人は、地面に額を押しつけた。

冷たい。

現実は冷たい。

夜は長い。

誰も助けてくれない。

神すら、敵だ。

真人は、その夜、一睡もできなかった。

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