第十四話 値段のついた命
その日は、朝から空気が違った。
いつもより、騒がしい。
足音が多く男たちの声が多い。
「今日は当たりの日だ」
「町は人が多いからな」
「ガキも何人か売れるだろ」
売れるその言葉は、もう何度も聞いた。
でも慣れない。
これだけは慣れたくない。
檻の中で、体を縮める。
隣を見るとカイも、同じように座っていた。
何も言わない。
でも手が少しだけ震えていた。
「……」
俺も同じだった。
売られるのが怖い。
どこへ?
誰に?
何をさせられる?
わからない。
わからないことが、一番怖い。
その時足音が近づいてきた。
コツ
コツ
コツ
檻の前で止まる。
奴隷商人の男。
俺を助けた男。
そしてもう一人。
知らない太っている男。
指に、金の指輪。
目が俺たちを見ていた。
まるで物を見るように。
「こいつらか?」
太った男が言う。
「ああ、最近拾ったやつだ」
奴隷商人が答える。
「ほら、見てみろ」
檻が開く。
ギィ……
俺の檻じゃない。
隣のカイの檻だった。
「出ろ」
短く言う。
カイは、動かなかった。
動けなかった。
すると男が首輪の鎖を引いた。
「ぐっ……!」
カイの体が、無理やり引きずられる。
苦しそうな声。
でも逆らえない。
檻から出されると太った男が、近づく。
カイの腕を強く掴む。
「軽いな」
腕を無理やり上げる。
カイは、痛そうに顔を歪めた。
「ちゃんと食わせてるのか?」
「死なねえ程度にはな」
奴隷商人が笑う。
太った男は、カイの顔を覗き込む。
目を見て口を開かせるさらに歯を見る。
まるで家畜だ人間じゃない物のように扱っている。
「……いくらだ?」
太った男が聞く。
奴隷商人が答える。
金額。
それは聞いたことのない単位。
でも理解できた。
カイの値段。
そして命の値段。
太った男は、少し考えて。
「高いな」
と言った。
そしてカイを、突き飛ばした。
ドサッ
地面に倒れるとても痛そうな音。
「こんなガリガリじゃ使えん」
その言葉に胸が締め付けられる。
使えないそれは価値がない、ということ。
「もう少し太らせろ」
太った男は言った。
「また来る」
そして去っていった。
足音が、遠ざかる。
カイは、動かなかった。
地面に倒れたまま。
奴隷商人が、鎖を引く。
「ほら、戻れ」
カイは、ゆっくりとふらつきながら立ち上がった。
檻に戻る。
ギィ……
檻が閉まる。
カイは、座り込んだ。
何も言わない。
何も。
しばらくして。
小さな声がした。
「……怖かった……」
カイの声。
震えている。
「……真人……」
名前を呼ばれる。
「……売られるの……怖い……」
その言葉胸に刺さる。
俺も怖い同じだ。
「……」
何も言えなかった。
大丈夫だなんて。
言えなかった。
嘘になるから。
ロキの試練。
【試練:奴隷から脱却せよ】
【進行状況:0%】
変わらない何も変わらない。
俺は今も檻の中。
カイも檻の中。
値段のついた命。
売られるのを待つだけの存在。
でも拳を強く握った。
爪が食い込むほど。
痛いでも。
それでもこのまま終わりたくない。
絶対に。
絶対に。
終わりたくない。




