第十二話 檻の中の朝
目が覚めた時最初に感じたのは重さだった。
首にある、冷たくて重い鉄の感触。
そして外れない。
「……」
夢じゃなかった昨日のことは、全部現実だった。
奴隷その言葉が、頭の中でゆっくりと沈んでいく。
体を起こす
ギシ
と音がした。
下を見る。
汚れている藁がおかれている。
おそらく誰かが使っていたもの。
俺は、その上で寝ていたらしい。
周囲を見る。
木の柵。
鉄の棒。
狭い空間。
檻だった。
「……」
理解するまで、少し時間がかかった。
俺は檻の中にいる。
完全に閉じ込められている。
喉が、ひゅっと鳴った。
立ち上がるふらつく。
でも、立てた。
檻の外を見る。
同じような檻が、並んでいた。
そして中に、人がいる。
子供や少年や少女様々人がいた。
みんな首輪を付けている。
俺と同じ誰も、何も言わない。
目が合ってもすぐに逸らされる。
まるで何も期待していない目。
その目を見て胸の奥が、冷たくなった。
ああこれが奴隷。
これが現実。
その時足音が聞こえた。
コツ
コツ
コツ
硬い靴の音だ。
昨日の男だった。
手に、木の桶を持っている。
檻の前で止まる。
そして中に、何かを投げた。
ガサッ
パン。
硬いパン。
「食え」
それだけ言って、次の檻へ行く。
俺は、パンを見た。
昨日も食べた食べ物だ。
温かいスープと一緒に。
あの時は希望だった。
でも今は違う。
これは餌だ。
俺を、生かしておくための餌。
売るための餌。
「……」
それでも手は、伸びた。
腹が、鳴ってしまったから。
ぐうう……
食べることを止められない。
固いでも飲み込む。
味なんて、わからない。
ただ体が求めてしまってるから。
食べる食べる食べる。
全部、食べた。
何も残らない。
もっと欲しい。
でもない。
それだけ隣の檻を見る。
少年がいた。
俺より、少し年上に見えた。
痩せていて目が死んでいる。
パンを、見ているだけ。
食べていない。
「……食べないのか……?」
思わず、聞いた。
声が出たことに、自分でも驚いた。
少年は少しだけ俺を見た。
そして何も言わずに。
ゆっくりと、パンを食べ始めた。
それだけで会話は終わった。
誰も話さない。
話す意味がないことをわかっているからだ。
希望がないから。
頭の中に、文字が浮かぶ。
【ロキの試練】
【試練:奴隷から脱却せよ】
【進行状況:0%】
ゼロのまま変わらない。
「……」
どうすればいい。
檻の中にいて首輪がついていて見張りもいる
何もできない。
何も。
その時外から、笑い声が聞こえた。
「今日は町に出るぞ」
「何人か売れるといいな」
「ガキは高く売れるからな」
ガキそれは俺たちのこと。
完全に商品を売りに行く気分だ。
値段のついた存在。
手を見ると細くて弱い何もできない手だった。
でも強く握った。
爪が食い込むくらい。
痛いでも。
それでも。
このまま終わりたくない。
まだ終わりたくない。
首輪に触れる。
冷たい。
重い。
でも壊れないとはいえない。
つまり壊れる可能性がある。
今は無理でもいつか。
その時まで生きる。
ただ、生きる。
それしか今の俺にできることはなかった。




