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第十話  与えられた温もり

柔らかい最初に感じたのは、それだった。

背中に、硬い地面の感触がない冷たい岩の感触もない代わりに、少し硬いが、それでも確かに「敷かれたもの」の上に寝かされている感覚があった。

 

「……ん……」

 

声が漏れるまぶたが重い体が動かない。

でも寒くない。

それだけで、ここが森ではないことがわかった。

ゆっくりと目を開けるとぼやけた視界で天井が見えた。

木でできた天井組まれた梁、隙間から、光が差し込んでいる。

 

「……え……」

 

理解が追いつかない俺は、生きているのか?

あのまま、死んだんじゃなかったのか?

体を動かそうとする。

 

「っ……」

 

弱い力が入らない。

でも動く少しだけ。

その時。

 

「――起きたか」

 

男の声。

反射的に、体が固まる。

視線を向ける。

そこにいたのは人間だ。

大人の男。

幻覚じゃない。

背が高く肩幅が広い。

茶色の髪。

革の服。

腰には――剣。

 

「……」

 

怖いでもゴブリンじゃない魔物じゃない。

人間だそれだけで、胸の奥が熱くなった。

 

「安心しろ。すぐには死なん」

 

男は、淡々と言った。

すぐには

その言葉の意味はよくわからなかった。

でも男は、敵意を向けていなかった。

少なくとも、今は。

男は、何かを持ってきた。

木の器。

そこから、湯気が立っている。

 

「……飲め」

 

俺の前に置かれる。

匂いがした食べ物の匂いだ。

 

「……」

 

信じられなかった。

手が震える。

本当に、食べていいのか?

罠じゃないのか?

でも腹が、鳴った。

 

ぐうう……

 

男は、何も言わなかった。

ただ、見ているだけ。

俺は、器を持った。

温かいそれだけで、涙が出そうになった。

口に運び飲む。

 

「……!」

 

味がした塩の味だ。

薄いスープでも温かい。

 

「……あ……」

 

止まらなかった。

 

飲む。

飲む。

飲む。

 

喉を通るたびに体の奥に、何かが戻ってくるのがわかった。

死んでいた部分が少しずつ、生き返る。

全部飲み干した。

空になった器を見つめる。

 

「……」

 

もっと欲しいでも言えなかった。

男は、それを見ていた。

 

「……運が良かったな、小僧」

 

男は言った。

 

「あと半日遅れてたら、死んでた」

 

「……」

 

何も言えなかった。

本当に、そうだと思った。

虫を食べて倒れて。

俺は、死ぬ寸前だった。

 

「名前は?」

 

男が聞いた。

少し迷ってから、答える。

 

「……真人……」

 

男は、少しだけ眉を動かした。

 

「変わった名前だな」

 

「……」

 

否定しなかった。

もう、どうでもよかった。

生きているそれだけでとても嬉しかった。

男は、パンのようなものもくれた。

固いでも食べ物だ虫じゃない。

噛むと顎が痛くなった。

でも美味しい。

涙が出た止まらなかった。

生きている。

俺は生きている。

助かった。

助けられた。

俺は、一人じゃなかった。

もう、森で死ぬことはない。

もう、虫を食べなくていい。

もう、奪われない。

希望がそこにあった。

その時。

 

ガチャ、と音がした。

男が立ち上がり外に出る。

扉が開く。

光が差し込む。

そして見えた外の光景は地獄だった

木の柵荷車そして鉄の檻。

 

「……え……」

 

目を疑った檻の中に人がいたしかも子供だ。

俺と同じくらいの年齢。

腕に鉄の輪、首にも輪。

鎖で繋がれている。

動かない目が死んでいる。

その時外から、別の男の声が聞こえた。

 

「おい、そいつ生きてたか?」

 

「ああ」

 

俺を助けた男が答える。

 

「使えそうか?」

 

「ガリガリだが……まあ、育てりゃ売れるだろ」

 

売れるその言葉。

意味が、わからなかった。

いやわかりたくなかっただけかもしれない。

 

「最近は子供の値が上がってるからな。いい拾い物だ」

 

拾い物俺が?

 

「首輪は後で付ける」

 

首輪に檻に鎖。

そして売る。

全部が、繋がった。

 

「……」

 

体が冷たくなる。

さっきまでの温かさが。

全部嘘だったみたいになくなる。

男が、戻ってきて俺を見る。

さっきと同じ顔、優しそうにも見える顔。

でももう今は違って見えた。

その目は俺を人間として見ていなかった。

ただの商品として見ていた。

 

「安心しろ」

 

男は言った。

 

「しばらくは、ちゃんと飯を食わせてやる」

 

しばらくはその言葉が。

胸に刺さった。

助かったんじゃなかった。

俺はただ拾われただけだった。

奴隷として。

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